第63話 調査報告書の嘘

 家事審判官宛ての調査報告書の日付は、平成二十五年一月二十九日。

 家庭裁判所調査官として中年Hと若造Iの名が並んでいる。

 元妻の申立てが、前年の十二月。家裁での調査が、年明け十日。自宅での訪問調査が、一月二十二日。そこから、たった一週間。

 審判前の保全処分という名目で、子の福祉などは一切無視した上で、拙速に進んで行く。「審判前の」と言いながら、本審判などは一切行われずに、保全処分の内容を支持したまま結審し、高裁も同じ。

 裁判官の顔を見たのは保全処分の審判と、間接強制の審尋のたった二回のみ。コスト削減には最適な超短期の審判だった。


 調査報告書の嘘について記します。

「未成年者監護養育の基本的な部分は申立者が担っており、未成年者との接触時間も申立人の方が長いことが認められる。」

 私が食事の世話をして、お風呂入れて、寝かしつけしたという事実は、一切無視です。申立人の申立てだけが、調査官にとって真実なのだろう。

「年齢やそれまでの監護状況に照らせば、申立人が別居とともに未成年者を同行することはやむを得ない面もあり、相手方の行為に比べると高い違法性はうかがえない。」

 母親による子の連れ去りを、家庭裁判所は容認しています。 「それまでの監護状況」とあるが、母親のみを監護者とし、父親の主張は一切認められない。

 家庭裁判所は、母親による子の連れ去りを「同行」と呼ぶ。まるで、二歳の娘が自分の意思で付いて行ったような言い方です。「相手方の行為」とは父親による子の連れ戻しのことですが、父親による子の自宅への連れ戻しは、違法となります。

 母親による養育状況だけを認め、父親による養育の事実は完全に無視。

 これが、日本の家庭裁判所の現状です。きっと、この現実を知らないあなたも、家事審判の当事者となった時、この国の司法に絶望するに違いありません。

「調査面接時における申立人の態様や聴取した日常生活の様子等からでは、感情統制の困難さはうかがえず、医師による専門的な治療を要するまでの深刻な精神状況にあるとまで言うことはできない。」

 彼女の本当の姿が見抜けないのに、調査官の調査能力が疑われます。

 その次の文章。

「また、今後は、未成年者の監護に協力的な申立人の父母の援助も期待できることから、申立人が未成年者に対し、身体的暴力を伴う粗暴的な言動や育児放棄に走る危険性は極めて少ない。」

 今後、娘に虐待や育児放棄をする可能性が極めて少ないことを、家庭裁判所の調査官が調査報告書で保証しています。もし、間違いが起こった場合は、この調査官二名に賠償請求できるのだろうか。それとも、「極めて少ない」万が一の可能性が実現してしまったと言い訳するのだろうか。

「相手方による安定した監護の状況は、違法性の高い行為によって形成されたものであるから、直ちに肯定的評価はできない上、行為の態様を見ると、監護者適格に疑問を感じる。」

 家裁調査官の判断では、母親による子の連れ去りは容認され、父親による子の自宅への連れ戻しは、違法となります。くれぐれも、ご注意ください。

「未成年者にとって重要な愛着対象者であった申立人と分離されている状態をこのまま継続した場合、将来的に未成年者の正常な発達が損なわれる可能性が大きい。」

 どうやって調査官は、そう判断したのだろうか。その根拠を聴いてみたい。誰に懐いていたかは、すぐ分かるし、それが分からないのなら何のための調査なのだろう。子の福祉を守るための調査ではないのか。

「実際に、相手方の父母は、相手方の元で監護を開始した際、未成年者が『怖い』と言ってよく泣いていたと述べている。こうした未成年者の言動は、相手方の一方的な連れ去り行為が少なからず影響しているものと考えられる上、現在、未成年者は、主たる監護者であった申立人から離れた寄る辺ない身であることなどから、いつ似たような事態が生じるか、分からないという漠然とした不安や恐怖を抱えながら生活していると推察される。」

 私も父母に尋ねたが、娘は家で「怖い」と言って泣いていない。調査官が父母の発言を捏造し、家庭内での娘の恐怖を創作した調査報告書は、身の毛もよだつホラー小説のようだった。

 続く文章。

「このような状態では、将来の人間性を構築するための土台となる基本的な信頼感は十分に育まれないおそれがあることから、現在の状況は急迫の危険性があると考えられる。」

 何の根拠があって言っているのだろう。

 娘は毎日楽しく笑って暮らしている。いったい急迫の危険性は、どこにあるのか。

「よって、保全処分の必要性についても認められることから、本件を認容することが相当である。」

 精神病理学や乳幼児心理学などの専門的知識もないままに、事実を無視した空論を重ねていく。こうやって、冤罪は創作されるのだろう。

 残念ですが、これがこの国の司法の実態です。

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