第23話 初めてのお手伝い

 娘は夕食の準備や後片付けを手伝いたくて、キッチンの周りで遊ぶようになった。

 カウンターの上のハサミを持った娘に、妻が何度も放すように叱ったが、どうしても放さなかったため、最後には驚きの一言とともに手渡した。

「手がザクザクに切れてしまえばいいから、持っていっていいよ」

 そのままでは危ないから、私は娘を近くに呼んだ。

「お父さんと一緒にチョッキンチョッキンしよう」

 一緒にハサミを持って、折り紙を何度か切った。

「上手にできたね。今日はおしまい。ハサミはお父さんがナイナイしとくから、ちょうだい」

 満足した娘の手から、ハサミを受け取った。


 食品ラップをほしがったこともあった。

 妻は「危ないから、だめ!」と叱り、娘は「ちょうだい!」と繰り返す。

 どうにもならなくなった妻は、腹を立てた。

「手が切れてしまうかも分からんよ、どうぞ」

「ありがとう」

 娘は嬉しそうに受け取った。

 私は娘がお手伝いがしたいのだろうと思い、娘の代わりにラップを切り取って手渡すと、娘は妻のそばに行き、朝食用のおにぎりを作るのを手伝った。


 こういう人を母に持った娘を不憫に思う。

 この頃は、それでもいつかは娘の成長とともに、妻も母親として成長していくものと信じていた。

 娘が生まれるまでは、子供が苦手だった私でさえ、娘のおかげで大きく変わった。全然マメじゃなく、人の世話をするなんて想像もつかなかったのに、何の戸惑いもなく、オムツを替え、ウェットシートでウンチをふき取り、汗をかいた娘の体を温かいタオルでぬぐう。父親として、当たり前の作業になっていた。高熱の娘を胸の上に抱いて寝たこともある。この子がいなかったら、想像もつかなかった姿だ。

 娘が私を成長させてくれたのだ。今はまだ、我が子とさえ、どう接していいか分からない妻も、いつか必ず成長するはず、そう心から願っていた。

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