再会‼︎  八人目!

 ・・・・・・




 エマ達が帰路に付いた頃のCエリア基地内の作戦会議室ブリーフィングルーム。


 広さや造りはBエリア基地と全く同じ。


 椅子の並べ方まで中央を向いた円陣と同じなのだが数は四脚少ない十四脚。そこに十二人の探索者が中央にいるないすばでぃ―な女性に向いて座っていた。


 更にその外側には基地職員が同じ様に中央にいる女性を向いて同じく真剣な面持ちで緊張しながら座っていた。


 ここCエリアの普段の作戦会議ブリーフィングは緊張感などは感じさせない和やかな雰囲気で始まり、途中であっても遠慮せず意見交換が行われるほどの「節度ある自由」の範囲内で終始進む。


 これは全てのエリアと比較しても珍しい部類に入る。



 他エリアの作戦会議ブリーフィングはというと、


「Bエリア」ではサラがその場の支配権は自分が握っているといった感じで若干探索者達を威圧しながら進める。

 これは他エリアに比べて「個性が強い者」が多過ぎて放っておくと纏まらないので致し方ない。



「Dエリア」のファンクは淡々と作戦内容の説明をし、細部の行動まで指示をする。

 これは皆、新卒ばかりで経験が浅く、見本となるベテラン探索者がおらず、さらに基本的に受け身の者が大半である為、主任自ら基本的な事を指導しなければならないからだ。



「Aエリア」のアトラスは会議が始まると作戦指示書を空間モニターにて配布し質疑応答と言う形を取っていた。

 これは探索者・職員ともに人数が多いAエリアならではの方法だ。



 ただどこの基地でも同じだが、通常時の作戦会議ブリーフィングには主任と探索者のみで基本的には基地職員は参加はしない。


 これには特に規則があるという訳ではないが、本部から送られてきた調査依頼に対し、作戦内容を立案・検討をする段階で主任と職員が事前打ち合わせが必要となり、それらの行程を経てから探索者に公開する。なので、改めてその場に参加する必要が無いからだ。


 だがここCエリアでは主任代理である菜緒の方針で、作戦会議ブリーフィングには班長も含めた基地勤務職員全員参加をモットーとしていた。


 これにはCエリア特有の事情があり、当初からいきなり主任代行を任された菜緒は、己は右も左も分からない未熟者であると自覚しており、常々自分達が作成した作戦にはどこかしらの穴が合ったりミスがあるのは当然と考え、その穴やミスを限りなくゼロに近づける為の最終確認作業として、作成に協力してもらった班長達にも再度参加してもらい、基地にいる全員を交えた場で内容を詰め直し、遠慮せずに思ったり感じたことを皆平等な立場として発言・指摘し合う場に心掛けていたからだ。


 この方針はCエリア運営開始後から続いていて一度も変わることは無かった。




 そして中央に陣取る説明役は不動の菜緒。


 もう何年も慣れ浸しんだ光景だ・っ・た・のだが……




「お~~~~たまらんの~~この視線♡」

「「「…………」」」


 朝食を取り終え寛いでいる所に思わぬ相手からのメールで全員に緊張が走った。


 基地運営開始時からいる者達にとっては主任から受け取る二度目のメールだ。



 内容は「全員作戦会議室ブリーフィングルームにすぐに集合〜」との事。



 何事かと急いで駆けつけると中央に主任が一人空間モニターを眺めながら立っていた。


 皆が集まり席に着く。

 ここで主任が咳払いを一つする。

 すると全員の視線が主任に向けられた。


 だが視線が集まった瞬間から「例のごとく」幸せそうにクネクネし始め、自分の世界へと旅立ってしまう。



 こ・れ・、どう扱ったら良いの?



 全員困り果ててしまう。

 今まではお目付け役がいて都度適切に対処してくれていたが今は二人ともいない。


 その二人が日頃から対応してくれていた為、自分達の上司と話す機会すら全くと言って良い程無いので、どう接すれば良いのかすら分からない。


「主任、天探女あめのさぐめ主任」


 流石に放置しておくわけにもいかず、意を決して古株の探索者が声を掛けた。


「の~~~~……ん? 何用じゃ?」

「「「…………」」」


 何ようじゃ? ではないだろうに……そう言いたげな全員のジト目が主任に向けられる。


「皆、招集指示で集まったのですが? 何か非常事態で?」


 どんな反応が返ってくるのか心配なので恐る恐る聞いてみた。


「……いやな、ちーとばかし皆の顔が見たくて、じゃな」


 恥ずかしそうに誰とも目を合わせずに答える。

 するとその途端、どこから取り出したのか主任に向け一斉に物がビシバシと飛んでいく。


「い、痛い。皆の者、や、止めぬか」


 合図も無くピタリと収まる。

 これも菜緒の努力の成果の一つで、この行動一つ取ってみても「どこかの自己中的なエリア」と違い、Cエリアが普段から横の連携を重視しているのが良く分かる。


「それで何か用事ですか? もしかして菜緒あの子達に何か起きたのですか?」


 その発言で場の空気が張り詰める。


「ふ、ふーー、全く……。お主、体だけではなく察しも良いの〜。その通りなのじゃ。そろそろ菜緒達、いやCエリア基地ここもじゃが、もう直ぐBエリア基地に未曾有の大危機ピンチが訪れることになる!」


 相変わらず誰とも目を合わせようとはしない。


 ピンチ……と聞き全員に緊張が走る。


「一体何が⁈」

「詳細は後ほど教える。ともかく仲間の危機を救えるのはお主らだけじゃ! 手遅れにならぬ為にも今から体を鍛え直さなければならん!」

「体を?」

「そうじゃ! 艦と基地の改造は既に終えており共に万全! 残すは心身ともに軟弱なお主らだけなのじゃ!」


 全員顔を見合わせる。

 抽象的な物言いだが、顔と声には焦りが感じられた。

 否応なしに皆の緊張感が跳ね上がる。


「わ、我々は何をすれば?」


「そんなことは決まっておる! 先ずは風呂じゃな!」


「「「ふ、風呂?」」」


 得意げに話す主任。

 逆に困惑し出す探索者達。


「そうじゃ! 手っ取り早く鍛えるには先日のように皆で風呂に入り背中でも流し合って仲間の絆を深めて……だな…………皆の者どうした? その死んだような目は?」


「主任」


「な、なんじゃ? その顔は」

「菜緒と菜奈がピンチ?」

「そう! 大ピンチになる筈じゃ!」

間違いなく?」

「わらわは嘘はつかんぞ!」

「分かりました。あの子達がピンチなら仕方ないですね。喜んで入りましょう」

「そうか! 分かってくれたか!」

「それじゃ我々は鍛えて来るので主任はここでお留守番ですね」

「え? ちょ、わ、わらわも行くのじゃ……」


 置いてかないで~といったジェスチャーと切なそうな瞳で周りを見回す。


「冗談ですよ。主任も行きましょう! みんなも行くわよ!」

「ほ、本当かえ?」

「「「おーーーー!」」」


 そのまま主任を囲み中心に添え意気揚々と主任専用風呂へと向かって行く。

 急展開に戸惑いながらも次第に笑顔になっていく天探女。


 既に自ら言い放った「最大級のピンチ」とやらは頭の中から消え去っているようであった。




 そんな事より、菜緒姉妹が不在でも何とか皆と仲良くやっていけれそうな気がして嬉しくなる主任であった。






 ・・・・・・






 同時刻


 Dエリア基地の作戦会議室ブリーフィングルーム


 ここDエリア基地の作戦会議室ブリーフィングルームは長方形をしており、どこか学校の教室を思い起こさせる雰囲気だ。


 そこにDエリア基地主任であるハンクと向き合う形で座っている九人の若い探索者達。

 その後方には普段は参加しない職員の姿がここでも見られた。


 対するハンクは手を後ろに回し胸を張り、直立不動で皆と向き合い、一人ひとりを順に見回していく。


 職員も含め全員が揃っているのを確認し終えると一度頷いてから作戦会議ブリーフィングを始めた。


「よし、全員集まったな。それでは始める。先程Bエリア探索者に随伴しているソニアから連絡が入った」


 静まり返る会議室。


 ハンク同様、全員背筋を伸ばし前を見据えて黙って話を聞く。

 無駄話はおろか、身じろぎ一つする者はいない。


「先程ソニア達一行が無事Aエリア基地を出発、Bエリア基地を目指しているとの報告があった」


 話しながらも探索者一人ひとりの表情に注意しながら順に見回していく。


「よってこれ以降、我が基地では臨戦態勢を敷く。いつでも出撃出来る様、各々心構えと出撃態勢を万全にしておくこと」

「「「はい」」」


「第一に、いつ来るかは不明だが必ず来るであろうDエリア基地ここに押し寄せる敵の殲滅。第二に、敵を殲滅した後、各々のペアで決めた者がBエリア基地に救援へと向かって貰うことになる」

「「「了解!」」」



「いいか! 敵が来るかは分からない! だがどの敵が来ても対処できるようにと、君たちはここ数日間の地獄の訓練を耐え抜いてきたのだ。だから自信を持って戦え! ペア同士連携を取り、探索者仲間同士で助け合い守りぬけ! 誰一人として犠牲者を出すな!」

「「「はい!」」」


「普段から言っているので分かってはいると思うがもう一度言っておく。最優先で守るべきは君達探索者の命。職員や基地なんぞは二の次だ。そこは絶対に履き違えるんじゃないぞ」

「「「は、はい!」」」




「ペア不在のソフィアは飛来した敵の殲滅が終わるまで基地内待機。待機時には念のため全職員をソフィア艦内で待機させる」

「了解!」


「まだ若干だが時間はある筈だ。今の内に休息を取り充分に英気を養っておくこと。それと最悪の事態を考慮し、今のうちに大切な物は艦に積んでおく事。以上、解散!」


 全員一斉に立ち上がり一糸乱れぬ敬礼を披露した。


 作戦会議ブリーフィングの参加者が退出して行く中、その場で動かず見送るハンク。

 全員がいなくなった後、より一層険しい表情へと変わった。




 時は来た


 こちらの準備は何とか間に合った


 あの子らの探索者としての経験値不足と精神力も許容範囲内まで上げることが出来た


 これで全ての体制がようやく整った


 今なら調査艦程度が何隻来ようがビクともしない


 だが問題は「あの艦」の存在だ


 奴等がどこに現れるか……


 何故、採用されること無くになったのか疑問に思っていたが、この時のためだったとは


 更にこのどさくさに紛れて消え去った多くの第五世代艦の行方も気掛かりだ


 しかもあり得んことに誰も搭乗していないにも関わらず独りでに消えてしまった


 仮に第五世代型が襲って来たとしても、基地に施した武装と現行の第七世代なら無傷、とは言わんが何とか迎撃は可能だろう。


 だが運悪く奴等がここに現れたら……


 正直防ぎ切れんかもしれん……


 こればかりはサラの予想が外れることを期待するしか無いな……






 ・・・・・・






「とうちゃく〜情報連結かいし〜」


 陽気なアルの声と共に暗い球体内コックピットへと切り替り、Bエリア基地ホームと直ぐ傍には惑星ドリーの姿が球体モニターに映し出された。


 もう何年にも渡り見慣れた景色。


 いつもなら「さあ飲み会だ!」と気にも留めずにスルーしてサッサと基地に入っていのだが、今では色々と知ってしまったが為にスルーすることは出来なくなってしまった。


 基地は出発前と同じ漆黒色の球体をしていて変わりは無い様に見えるが、改造を施したとのことで心做しか頼もしく見える。


 そして隣に浮いている青々とした惑星ドリー。


 自然と「桜」と会ったあの岬へと目が向いてしまう。


 分身体であったとは言え、私は間違いなくあそこで「桜」と会った。

 彼女の悲しそうな表情は今でも脳裏に焼き付いて離れない。


 アリスの話では「桜」はあちらの世界で生きているとの事。

 という事は今、目の前にあるドリーには「桜」はいないことになる。

 だから再びあの岬に行ったとしても会う事は叶わないだろう。




 でも「桜」の意思は今でも感じられる



 そして彼女の「思い」も伝わってきている。





 顔を戻し左右に振って僚艦を確認する。

 真っ暗な宇宙に主星の光を浴びて浮かび上がる、巨大な白色卵型のノア艦と菜緒艦の姿がすぐ脇に見えた。


 さらに空間モニターが正面に現れ、出発時と変わらぬ位置に全艦揃っているのが表示されていた。


 こうして複数艦で一斉跳躍すると、探索艦こいつらの異常とも思える性能がハッキリよく分かる。


 って言うか一千万光年近くも跳躍してきたってのに九艦とも寸分違わぬ位置で、しかも同着って有り得ないっしょ!



 ホント相変わらず凄い性能だこと


 まっそんな事よりも



「無事全員いるね! ドックは空いてるとこならどこ使ってもいいぞ。それじゃ一先ず解散!」

「よっしゃーー!」

「ランランとニアニア、きょうそうだーー!」

「あ、姉様待って下さいな!」

「リンには負けないなの!」


 合図と共に雄叫びを上げたマキと三人娘が一斉に移動を開始する。


 あの嬉しそうな顔

 なんだかんだ言ってても、やっぱりマキもマリに会いたかったんだろうね。


「エマちゃん〜おかえり〜」


 空間モニターが現れ、ツヤツヤテカテカ肌で笑顔のラーナが現れた。



 ……笑顔って事はローナはまだ帰って来ていないのかな?



 到着早々ラーナの笑顔が見れたのは素直に嬉しかったのだが、期待が外れてしまい心の中で少しだけ落胆をする。

 当然の事だが表には出さないで。


「うん、ただいま! Aエリア基地攻略してきたぞ!」

「お役目ご苦労様〜みんな無事帰ってこれて良かったわ〜」

「暫くお世話になります」

「なり……ます」

「あらあら~二人ともいらっしゃい……と、あれーー? エリスちゃんも一緒だったのね〜?」


 エリスを見つけた途端、ラーナの中で「何か」が切り替わる。

 口調・表情・雰囲気、表向きは何一つ変化が見られないのだが、今までラーナから感じた事のない緊張感らしきものにエマだけは直ぐに気付いた。


 他の者達には分からない僅かな変化。


「ハーイ、エリスちゃんのご帰還デース。早速ですがお出迎いと歓迎会は全然不要デース! そして〜〜ちょっくら遊びに行ってきまース」


 対照的に明るく返事を返すエリス。


 サッサと漆黒の卵型へと形状変化をし、基地とは違う方へと艦を向け行ってしまう。


「ちょっとエリスったらどこ行くの?」

「久しぶりだから遊びに行くノ〜明日までには戻るカラ心配要らんゼヨ!」


 キラキラ笑顔を振り撒きながら嬉しそうにウインクをしたのを最後に空間モニターが消えた。


 見る見る遠ざかるエリス艦。

 行く先はドリーの様で真っ直ぐ向かっていく。


「ちっ……逃げられたか」


 誰かのドスの効いた低い声。


「はい?」

「追跡は……やっぱり無理よね〜」

「今の……ラーたん?」

「ん〜どうしたの〜みんな入ってらっしゃいな〜」

「う、うん」

「貴方達四人は入ったら作戦会議室ブリーフィングルームに来てね〜」

「分かった」


 残っているメンバーに目配せをして移動を開始する。


 ドックに入るまでの僅かな合間に基地内にいるメンバーの確認をすると、ラーナ以外はシェリー、シャーリー、マリ、そしてエリーが確認出来た。


 どうやらローナ達やサラはまだ帰還していないようだ。




 後は……ん? んーーーー? 


 ……奴がいる。ロイズが! 一体いつ戻ってきたんだ?


 居場所は独房……ではなくて医務室で治療中?


 もしやラーたん必殺技のバーンナッ○ルが炸裂したか⁈


 ……もしそうなら生きていないか!


 まっ、みんなに迷惑を掛けた罰が当たったってことで!


 それと奴と同じく艦は修理中? なんでやねん!


 一体どうなってんの?


 因みに兄貴の方は……まだドリーにいる


 しかも学校? 


 ……お! そういえばアイツらは学生だったな


 ふふふ、まあ残り僅かな時間を有意義に過ごすんだな


 正式に探索者となった暁には指導役として我が手加減抜きの地獄絵図と同じ光景を味合わせて進ぜよう!






 不気味な笑みを浮かべながら待機室で菜緒・菜奈・ノアと合流、そのまま作戦会議室ブリーフィングルームへと向かった。


 到着するとラーナが一人で待っていた。


「ただいま!」

「おかえり〜」

「エリ姉はどこ?」

「今は最終検査中〜」

「検査?」

「そう〜身体に異常がないかのね〜。もう直ぐ終わるから待っててね〜。ところでクレアちゃんは~?」


 その問いに全員の動きが止まる。

 気を利かせて代わりに菜緒が答えようとするが、それを手で制した。


「クレアは……レイアと一緒に行った」


 自分でも驚くほどスンナリと言えた。

 自分の中ではもう折り合いがついているのだろう、胸の中が痛むことも無い。


 逆に返答に対してラーナの方が明らかな動揺が見られた。


「レイア……会ったの?」固まるラーナ

「うん。レイアは生きてた。そんでAエリア基地で私を待っていた。さらに私を連れ去ろうとした。でも理由は分かんないけど連れてかれずに済んだ。代わりにクレアが……レイアと一緒に行った」

「…………」


 私を瞬きもせず見つめたまま固まっている。


「ラーたん」

「?」


 名を呼ぶとピクリと反応したのでさらに話を続ける。


「レイアが生きているって知ってたの?」


 ラーナの目をジッと見つめる。

 対するラーナも同じ様に見つめ返す。

 暫くするとやっと口を開いた。


「……可能性としてはね」

「…………」

「彼女の生死に関してはそれこそエマちゃんが疑問に思った様に、隅々まで完全管理されている探索部施設で爆破事故なんて起こりえる訳ない。だから擬装の疑いが高いって。ただ何故そんな不自然な事をしなければならなかったのか、何故そこまでして存在を消さなければならなかったのか、裏で誰が糸を引いているかの背景が全く見えてこなかったの。しかも爆発によって全てが一瞬で蒸発して証拠となる物が何も残っていなかったし、あのサラちゃんまでもが彼女が死んだことを疑ってなかったし。事故があったことを後から知った我々情報部には時既に手遅れで何も分からなかったのよ。でも彼女が現れるとしたらクレアちゃんに会いにくるしかないって思って情報部総出で網を張ってたんだけど、まさかAエリアにいたなんて……」


「それは分かった。でも一つだけ教えて。ラーたんは私に気を遣って「関わっちゃダメ」って言ってくれたんだよね? 他意はこれっぽっちもないよね?」


「……はいありません。エマちゃんはクレアちゃんと出会ったばかりだし、二人の関係を拗らせて欲しくなかったから。ごめんなさい」


 チラチラと上目遣いで謝るラーナ。


「ううん、いい。ラーたんらしくて安心した。それにクレアのお姉ちゃんが生きてたのが分かったしクレアも喜んでた。だから今は私も素直に嬉しい」


 一言一言噛みしめながら言う。

 その表情はとても晴れやかだ。


 ラーナからしてみれば思いもよらぬ反応が返ってきたことにより言葉を失う。

 そして僅かな間、しみじみとエマを見つめていたが徐々に涙がこみ上げてきた様で、目元を抑えながら小さな声で呟いた。


「エマちゃん……僅かな間に……成長したのね」

「おうよ! いっぱい泣いたからね! それよりもAエリア基地にアリスがいたぞ」

「アリスちゃんが? 何で?」


 予想だにしていなかった名が出て驚く。


「ん? もしかして「アリスエリア」の事、知らないの?」

「アリスエリア? 何それ?」

「Aエリア基地の内部の空間」

「…………」


 思考停止に陥っているようだ。


「ならアリスがサラの友人ってところは?」

「ど、どこでその話を? もしかしてアリスちゃんが?」

「そう本人からだぞ! ついでに別世界人ってことも教えてくれた!」

「べ、別世界……人」


 目をまんまるくして呆気に取られるラーナ。

 ちょっと面白くなってきた。


「ついでにアトラス主任の趣味まで判明したぞ」

「それは知ってる。好みの人の前で正座して目をウルウルさせるんでしょ?」


 チッ……知ってたか


 菜緒を見る。

 するとムスッとした顔をしてソッポを向いた。


 反応から推測するにマキ達が言ってたことは間違いなさそう。


「昔あそこにいた時に姉さんの前で事あるごとに拝んでたのね〜その度に足蹴にされて喜んでたから〜」

「あ、足蹴にされて嬉しい⁈ ローナもエリア主任を足蹴に⁇」


「そう〜。ゼロエリア時代から今の今まであそこに在籍したことがある背の低い探索者や職員は姉さんくらいだし〜。アトラス主任は幸せそうだったし〜姉さんも主任で上手にストレス発散出来てたからwin-winの関係だったかな〜。でも知っている人は姉さんと私くらいだったんだけど……そうか〜Bエリアうちにはアトラス主任好みの子がいっぱいいるからね〜」


「胸が大きい人も対象だったんですか⁉」


 菜緒が突っ込んできた。


「そうよ~」


「私が入手していた情報では「胸が小さい人が好み」と聞いていたんですが」


 思わずエマをチラ見してしまう。

 チラ見された本人は一瞬で当時の発言を思い出した。


「…………それであんとき私に「なにも無かった?」って聞いてきたんだな?」


 菜緒を睨む。


「そ、それは……一体何のこと?」


 速攻ソッポを向いて顔を逸らす。

 その隙に菜緒の後ろに回り込み、両手で立派な山脈を鷲掴みにしてプニョプニョし出した。


「どうせ私は小っちゃいですよーーーーだ」

「! あっ……ん~~~~」


 耳まで真っ赤になりながら何故か抵抗せずに成されるがままの菜緒。

 と弄り顔のエマの後方に何故か菜奈が忍び寄り、同じ様にエマの丘をプニョプニョし出す。


「エマちゃん……も」

「! あっ……ん~~~~」


 菜緒と同じ反応を示すエマ。

 こちらも同じく抵抗する素振りすら見せない。


「……お約束だよ、ね~?」

「! あっ……ん~~~~」


 初々しい反応を示す菜奈。前の二人に見習って抵抗する素振りは見せない。

 因みに菜奈に対しては、真顔のノアが手を伸ばしていた。


 すると会議室が桃色花畑へと瞬時に変貌を遂げる。

 これは多分アルテミスかカルミアの仕業だろう。


「貴方達……何してるの~?」


 花畑に感動しながらも、訳も分からぬ痴態に呆れ顔のラーナ。


 醒めた声を聞いて全員一斉に手を離す。

 その途端、菜緒・エマ・菜奈がその場にへたり込んだ。


「……いやーーこれは単なるスキンシップ、かな?」


 ノア先生が眉間にしわを寄せながら推測してくれた。


「そうなの~?」


 床に折り重なるようにヘタリ込んでピクピクしている三人を見下ろすラーナとノア。


「それにしてもいつの間にこんなに仲が良くなってたのかしら~」

「……Aエリアあっちでいろいろあったみたいだから、ね」


 とここでエリーが転送装置から飛び出してきた。


「ハアハア、エマはどこ?」


 二人と目が合い、息を切らせながら近付いてくる。


「エマちゃん?」「……ここだ、ぞ」


 二人して床を指差す。


「え? ど、どうしたの⁈」


 床に転がっている三人を覗き込むと、幸せそうにピクピクしていた……





「エマ、起きなさい」

「ん~~? エリ姉? おはよー」

「やっと起きたわね~」


 目を覚ますと目の前にエリーの顔があった。

 どうやら膝枕をしていてくれていたらしい。

 その状態で私の顔を覗き込んでいた。


「うん……ってエリ姉⁉」

「そう、貴方の優しいお姉さん」



 ゴン



「「痛ッーーーー!」」


 慌てて起き上がる際にエリーの額に自分の額を結構な勢いでぶつけてしまう。

 二人揃って額を抑えてのたうち回る。


 それを見ていたラーナとノアは「またか」という呆れ顔。


 妹は言うまでも無いが、一見しっかり者に見える姉も実は結構おっちょこちょいな性格なのだが、二人ともそんな些細な事は全く気にしない似た者同士。


 そんな二人を見て、逆に周りの者達が呆れてしまう事が多々あるくらいだ。


 一通りのたうち回った後、額を押さえながら同時に起き上がりお互いを見る。

 二人ともライトブラウン髪の毛と栗色の瞳が今ではとても綺麗な黒色へと変貌を遂げていた。


 それ以外は髪型も含めて特に変わった様子は見られない。


 同時に空いている手を相手の頬へと伸ばして感触を確かめ合う。



 この世に生を受けてから23年。


 慣れ親しんだ髪も瞳も色が変わってしまった。


 ただ二人にとって、その変化は些細な事で全く気にも止めていない。


 何故なら今、お互いが確かめたいのは外見などでは無いからだ。



「痛いってことは〜」「夢じゃ無い、よね?」


 見つめ合う双子の姉妹。


「「おかえり‼︎」」


 同時に同じ言葉。


 目をパチクリさせる双子の姉妹。


「「ただいま‼︎」」


 またまた同時。


 驚く双子の姉妹。


「フフフ……」「ははは……」


「「あははははは」」


 終いにはお腹を抱えて笑い出したが、直ぐに笑い涙を浮かべながら大きな声でシッカリと挨拶を交わす。




「エマ、お帰りなさい〜!」


「ただいまエリ姉! そしてお帰り!」


「ただいま戻りました! エマ!」




 座ったまま両手で相手の手を握りしめ、最上級の笑顔でお互いの再会を心の底から喜び合った。

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