推理整頓⁇

 寝室に入るとマキ・エリス・菜奈・ノアがおり、四人の視線が一斉にエマに向けられた。


 四人はそれぞれマキとエリス、菜奈とノアと二卓に分かれ寛いでいる最中だったようだ。


 四人に軽く笑顔を向けながら中に入る。その後を菜緒をお姫様抱っこをした執事さんが続いて入る。

 すると気を失っている菜緒が見えた瞬間、菜奈が勢いよく立ち上がり駆け寄ってきた。


 同時に三人の動きも止まる。


「菜緒‼」


 真顔で駆け寄る菜奈。


「大丈夫。気持ち良く寝てるだけだから」


 間を空けずに答え安心させる。


「ホント……に?」

「ふふ、ね?」


 菜奈の肩に手を置き、執事さんに目配せをする。


「はい」


 執事さんが菜奈に対して笑顔を向けそのままベッドへと運び寝かせてくれた。


「それではごゆっくりとお休み下さい」


 扉前で一礼してから出て行く。


 扉が閉まったのを確認してから菜緒に布団を掛けてあげる。

 菜緒はというと幸せそうに眠っていた。

 髪が乱れていたので手櫛で軽く直してあげる。


「何の話しやったん?」


 後ろからマキの声。


「ん? まあ色々と……ね」


 最後に頬を軽く撫でてから皆が座っている席へと歩いて行く。

 見るとマキとエリスが同席で、ノアが一人で座っていた。


 あれ? ラン達は? と思ったがまだテラスにいるようだ。


「大した用事じゃないと思うヨー」


 関係無いネーといった感じのエリス。

 テーブルに肘を付き横目で菜緒を見ながら茶菓子をボリボリと食べていた。


「そうなん?」


 エリスではなくエマに聞くマキ。


「はは」


 返答に困りながらもノアの隣の席へと腰掛け、テーブルの上にあったアルコールをグラスに注ぎ一口飲む。


 そこに隣の席に菜奈が来て腰掛けた。

 菜奈にもグラスを勧める。


「明日、出発ね」


 菜緒が寝ている今は不確かな事は言えない。

 ましてや倒れてしまった以降の話しの内容をどう理解したら良いのか……


 なので決定事項だけ伝えた。


「了解。それで帰るんか?」



 そうよね〜


 やっぱりそうくるわよね〜


 って言うか、そこが一番の問題なのよね〜


 いっそのこと、一度基地ホームに帰ってから再編し直し、それから出掛けるか?


 でもどっちにしても行かなければならないのなら、帰りに寄って行っても損はない。


 さっきアリスが言ってた言葉


 後悔する、だったか?


 忠告?


 ただの脅し?



 うーーーーん




「あ、そう言えばマリとは連絡取らないの?」

「あ? あーそれこそ明日でええ」


 顔の前で手を振り面倒臭そうに笑いながらハッキリ言う。


「何で?」

「無事師匠に乗り込んだとこまでは確認出来とる。ちゅーことは基地ホームに着いたのは間違いないやろ。顔見て元気なの分かってからは気、抜けてしもたってのが正直なところやな」


 そう言われると帰ってきてからの仕草になんだか余裕が感じられる。


 なんかちょっと羨ましい。


 ……そう言えばランもリンが帰って来てから、あまり私のそばにいない。


「……一度帰ってもいいんだ、ぞ?」

「私も帰った方が……ノアと同意見」


 帰宅を勧めるノアと菜奈を見る、がそれ以上は何も言わない。

 ノアは目を合わせずお茶を飲んで、菜奈は酔っているのか頬を赤らめながらこちらを見ていた。


「……帰るか、一度」

「その方がええって。帰ってエリーに元気な姿、見せて安心させるのが先決やと思う」

「うん。そだね」



 安心させる……か



 マキらしい気の利かせた言い方だ。


「じゃあ帰ろ。みんなも帰ってると思うし、サラが帰ってたら報告もしとかないとね」

「よし! 決まりやで! もう変えたらあかんよ? もし変えたらウチ暴れるで?」


 私に人差し指を向けて何度も念を押す。


「マキどした〜? そんなに帰りたかったのカネー?」


 マキの対面に座っているエリスがニヤけながら弄り始めた。


「そや! 実はマリがちゃんと帰ってるか、早よこの目で確認しときたいんよ」


 と顔の向きを変えエリスにだけ解る様に「ウインク」して見せた。


「……おーなるほど!マリは迷子の達人さんデスからねー」


 それを見て瞬時に察して相槌を打つ。


 エマ・ノア・菜奈の三人はその三文芝居を見てクスっと微笑む。


「……でも菜緒ラーはOKするかい、な?」

「そこは……大丈夫。反対はしない……むしろ賛成する」

「流石、妹やな。ウチも菜奈の言う通りやと思う」


 帰るに二票、と。


「エリス、それでいい? 一度帰ってからで」

「ノープロブレム! 昔じゃないんだし、心にモヤモヤ抱えながら行ってもダーメ。それより一回帰ってリフレッシュした方が成果がグーンと上がるはずダヨー」

「そうなの?」

「そうなの。でもでもそれよりももっと大事な事が一つあってネ〜」

「ね〜?」

「本当はねー「遺跡」にはペアとなる姉妹一緒に行くものーなのだナー」

「姉妹……エリ姉?」

「そうなるかノ」

「…………」

「二人で等しく力を高めていかないトネ。あ、でも始めに言っとくカナ。危険は全くナイので安心して下さいな」

「その事も含めて話し合わないとダメか」


 エリーがどの程度まで知っているのか全く分かってはいないし、桜やレベッカの思いや願いに協力してくれると私は信じているが絶対とは言い切れない。


 それに行方不明になってから長期間、椿に囚われていた事を考えれば万が一、自ら「贄」になる、等と言いだす可能性が無いとは言い切れない。


 大事な事だけに出来るだけ早く本人に会って今後の事を決めた方がいいな。


「一度エリーの状態も確かめとかないトナ。エマと差が有り過ぎたら、合わせるの大変ダシ。その逆もあり得ルシー」

「確定、やな」

「……帰る、で〜」


 帰る方向で取り敢えず話が纏まった。


「O〜K〜。それじゃ明日の朝、合流するネー」


 と立ち上がり、キラキラ金髪を靡かせながらエリスが部屋から出て行こうとする。


「どこ行くの?」

「オー私はみんなとは一緒に泊まれないのネー」

「どうして?」

「実は……ネ」

「…………」

「イビキが凄いノ!」


 内緒っといった感じで戯けてみせた。


「ホンマかいな!」

「と言うワケでまた明日〜」


 と言いながら手を振り、振り返る事なく爽やか笑顔を振り撒きながら部屋から出て行った。


「し、知ってた?」

「い、いや知らん」


 マキと二人顔を見合わせる。

 と、突然ベッドから「ふう!」と言う声と共に布団を捲り上げる音が聞こえた。

 見ると菜緒が上半身を起こして扉を横目で見ていた。


「あれ? 起こしちゃった?」

「違う。初めから気を失ってなんか無い」


 本当の様で、顔や声からは寝ていた素振りは微塵も感じられない。


「そうなの? フリ? 何で?」

「色々とね」

「そうなの? なら聞いてたでしょ? どうする明日は」

「Bエリア基地に向かいましょう」


 即答だ。そのままベッドから降りてエリスがいた席に座る。


「いいのね?」

「勿論。ただラーナさんが危惧していた事態に近づきつつあるのかもしれない。だとしたらこのメンバーでの対応はちょっと辛いかも」

「どーゆー意味?」

「それは……具体的には話せない。けど三人とも、今から話すことは心の中に留めておいてね」


 マキ、エマ、菜奈の目を順に見る。

 無言で頷く三人。


「私はあの姉妹を信用はしていない」


 扉をチラリと見て、そのまま部屋のあちこちに視線を一度だけ巡らせた。


「そりゃ確かに胡散臭いところはあるな」

「そう言えばアリスが何度も「椿が決めた事」って言ってるのよね」

「一番はそこ。つまりアリスさんは元よりエリスさんも「椿が決めた事」の内容を知った上で彼女の計画に協力しているってことでしょ?」

「うん」

「そんな人達を信じろって方が無理があると思わない?」

「それは……そうだけど。でもサラがいない今は他に手が無い、よね?」

「手が無いと言う話の前に、椿の目的はエマ姉妹を「贄」としてあちらの世界に送って、引き換えに桜さんを取り戻す、よね?」

「そやな」

「今現在の状況が、どこまでその筋書き通りにいっているのか全く分からないのね。だから打てる手が限られてしまう」

「でもアリスは「椿の力」が私の中ここにあるって知った上で協力してくれるとも言ってたけど?」

「それすらも彼女のストーリー通りだったとしたら?」


「……いや、多分だかその事を「椿」は知らない可能性が高いのではない、かな?」


「根拠は?」

「……椿本人の姿が見えないから、ね」

「姿が見えないと何で可能性が高いの?」

「……それだけ計画に余裕があるってこと、だ。もし彼女にとって不測の事態が起きていたら、他人に頼らず自ら動きだしたり強硬手段に切り替えたりして修正しに乗り出してくると思う、ぜ」

「……それも一理あるな」


 マキが頷く。


「その通りだとしたら桜の頼み事やレベッカの計画はまだ知られていないってことだよね?」

「そうなる……かも」

「ノアの言った通りだとしたら、今も傍観しながら事の成り行きを他人に委ねている状態……ん? 委ねる? ……でも……時間が掛かればそれだけ選択肢が……逆?」

「「「…………」」」


 腕を組み、またまた一人問答に入ってしまった菜緒。

 その様子を黙って見ているエマ、マキ、菜奈。


「でもでもそれだとサラ主任やラーナさんが言っていた内容とは違って……でもまさか……いやそれなら辻褄が……ダメだ。情報ピースと時間が足りなさ過ぎる」

「……菜緒ラー、や。一人で悩まず一度帰って関係者で作戦会議でもしようか、ね」


 ボソリと呟くノア。

 その声で悩みのループから我に帰る。


「そ、そうね。三人とも今、ここで話していた内容は他言無用。いいわね?」


 エマ、マキ、菜奈を見て改めて念を押した。


「そりゃ勿論。ただこーゆー事、ウチに話しても良かったんかい?」

「ここにいるメンバーにしか話せない。ハッキリ言って他の人は信用出来ないから」

「そこまで疑い出したらキリないで?」


 マキの言う事も一理ある。

 確かに仲間だと思っていたアリスやエリスが椿側の人間だと分かった今「仲間」と言う言葉の重みが軽く感じてしまう。

 けど私達に協力してくれている仲間がいることも確かな事実。


 だからこそ誰彼を色目で見る事はせず、先ずは信じていたい。


 それに菜緒には申し訳ないが、心の何処かで未だにアリスやエリスの事を信じたいという気持ちが残っているのも確かだ。



 特にエリスとは仲が良かっただけに……



「根拠無く疑っている訳では無いわよ」

「根拠云々言うんやったら疑わしいエリス連れてきたウチなんか姉御の宇宙服並みに真っ黒ちゃう?」

「貴方は大丈夫。完全に利用されたクチ。洗脳やハッキングの心配も絶対ないし」

「そうなん?」

「理由は……マキさんは嘘は付けない人だから」

「な、何やそれ! ま、まぁええ」


 マキは大丈夫という根拠もアリス情報からの判断となっている為、取り敢えず持ち上げる言い方で誤魔化した。


 菜緒にとってみれば、ここにいる大半の者達は最近出会ったばかりの他エリアの仲間。

 その者の記録は簡単に入手出来るが、肝心の思想や性格などは話したり触れ合ったりすることによって理解していくもの。


 この限られた少ない情報の為、直感頼りとなるがマキに関してはこの状況に加担はしていないと、ある程度の自信をもって断言していた。


 対して太鼓判を押されたマキは、若干顔を赤らめて動揺を見せる。


 どうやら未だにことには慣れないようだ。


「今の我々には確認のしようがないってのもあるけど」

「何や意味深げな言い方やな~」

「私もマキの事は信じてるから!」


 すかさずフォローを入れる。


「う、うぇ⁈ そりゃあんがとさん」

「私も……同じ」

「な、菜奈まで……」


 次々と投げ掛けられる信頼の言葉に涙ぐむマキ。


「……私もマキがいないと困る、ぜ」

「ノア……」


 思いもよらない者からの言葉に遂にはマキの目が輝き出した。


「……貴重なお笑い要員だから、な」

「そ、そっちかいな!」

「……相方マリがいれば怖いもんなし、や?」


 ノアちゃんは落とすのが上手だこと。


「でも内緒って言ってもここでの会話は聞かれていない?」

「多分大丈夫。ここでは」

「ここでは? そうなの?」

「ええ。ただ今後は気を付けた方がいいわね。何せ相手はレベル5。やろうと思えば何でも出来る。今は向こうの思惑とおりに進んでいるみたいで癪だけど、どこかで逆転するチャンスは必ずある筈。その時に「預り物」を本人に返して「贄」になる事を阻止する。ここは絶対に譲れない。だから今は「力」を付けて可能な限り椿達がいる土俵まで上り詰めておかないと。その為にも一度基地に戻って状況の整理をしておきたい」

「サラかローナが戻って来てれば心強いんだけどね」


「それと、さっきアリスさんが言っていた同行者の件だけど、私的にもアリスさんの意見には賛成」


「何で? 賛成する根拠は?」


「ソニアさんの妹さん、ソフィアさん? だったかしら?」


「そう、ソフィア」


「彼女は何故「消失」に巻き込まれたの?」


「そう言えばレベッカは教えてくれなかったよね?」


「自然現象……ではない?」


「それは無いと思う」


「なら椿?」


「100%間違いなく」


「何で? どうして?」


 全員の視線が菜緒に集まる。




「多分……警告」




 小さな声で答えた。




「警告?」




「そんな気がする」

「何に対して?」




「余計な者は……関わるな?」




 菜奈がポツリと呟く。




「……あ! アリスが「同行者はいらない」「後悔する」って……そーゆーこと?」

「メッチャヤバイやんけ!」

「それについては対抗策もなくはない。なら策を講じればいいのかって思うかもしれないけど、護衛を連れて行くメリットよりもリスクのほうが大きすぎるのも確か。万が一「消失」という我々にとって未知の力を使われた時は何も出来ずに消されてしまうのが目に見えている」

「自力で戻って来るのは不可能みたいだし」

「なら椿にとってと常にそばに一緒にいたら? エマには手、出せんのやろ?」


「そのって言う考え方もちょっと怪しいのかもしれない」


「どういう……意味?」

「とにかく一度戻りましょう。戻ってエリスさんも交えて話し合いましょう」

「エリスも?」

「勿論。アリスさんが頼れないならエリスさんを利用するしかないでしょ?」


 全員頷く。


「他には何かある?」


 全員無言だ。


「では明日朝食後にBエリア基地へと向かいます」


「「「了解」」」


 返事の後、各々椅子から立ち上がり就寝の準備へと入った。


 エマも立ち上がると菜緒が近付いてきて耳元で小声で話し掛けてきた。




「さっきはよくもくすぐってくれたわね~」




 ビクッとするエマ。




「え、え~~とね、あれはね~?」


「覚えてらっしゃい。いつかキッチリお返しするから」


「お、お返し⁈ ひ、ひゃぁぁぁぁ~~」


 と言ってエマの首筋に軽くキスをし、妖艶な笑みを浮かべ直ぐに離れていった。




 しぇー! 菜緒ちゃん怖いわーー!


 不意突かれて背中ゾクゾクきちゃったじゃないのよーー!


 そんであの目つき。初めて見たあの高貴なイメージそのまま肉食系女子に変貌しちゃったてな感じだわさ!


 ちょっとヤリ過ぎて性格変わっちゃったのかな~?




 その後、テラスの三人組がいつまでも入ってこなかったので様子を見に行くと、川の字になって気持ち良さそうに寝ていたので皆で起こさない様そーとベッドへと運んだ。


 それと真夜中にノアがコッソリと私のベットに潜り込んできたけど、特に何もしてこなかったので黙って抱き枕代わりにして一緒に寝ちゃいました。





 翌朝、朝食前にエリスが合流、一階の食堂へと向かい皆で食事を取った。


 ここでもアリスと執事さんは姿を現さなかたった。


 全員準備を終え自艦に乗り込み基地の外で集合、九艦はエマ艦を中心に各々漆黒の円錐形となり横並び一列となった。


 出港前にアリスに連絡をとった。

 姿を現さなかったので通じるか不安だったがすんなり出てくれた。


 そして一度基地ホームに戻る事を伝えると、明るい口調で「私は寄り道してから戻るので心配しないで下さいね♡」と教えてくれた。



 っていうか君の心配って……


 君が危険に遭遇している場面なんて全く想像できないんですけど……




 球体モニターには八人の顔が映し出されている。


 ソニア、リン、ラン、ノア、菜緒、菜奈、マキ、エリス。

 以前と変わりない顔が映し出されていた。


 皆、今か今かと私の出発の合図を待っている。



 何気無く脇を見る。

 そこにいる筈の者は今はいない。

 今は自分一人だけ。



「エマ」



 アルが呼び掛けてきた。



「ん? 何?」

「早く帰ろ〜エリーが首を長くして待ってるぞ〜」


 そうだ。エリ姉にみんなの事、紹介しなくちゃ。


 勿論クレアの事も、ね!



「よし野郎ども! 準備はいいか!」


 皆無言で頷く。


「目標はBエリア基地ホーム。全員寄り道せずに帰投するんだぞ! それでは……GO!」

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