クエスチョン! 三人目のレベル5?

 徐々に顔が強張り動きが無くなるエマとラン。


 二人はあの惨劇を目撃しており当時の、特にサラの状態を思い出してしまったのだろう、複雑そうな表情に変わった。

 その雰囲気の微妙な変化を感じ取った菜緒と菜奈。釣られて表情が強張る。


 対するアリスは、四人の変化に気付いたが敢えて表情や口調を変える事なく話しを続けた。



「一から説明します? それとも端折ります?」

「時間も無いし端折って」

「分かりました! ……と言うわけでめでたしめでたし!」

「端折り過ぎ」

「あはは、では簡単に順を追ってお話しします」



 相変わらずの軽いノリのアリスの話によると


 通常探索班エマ・マキ・ラン・ノアと出現惑星調査班シャーリー・エリスが出発。


 目標区域の関係で惑星班が先に到着。


 そのまま探査を開始するとの連絡。


 この時点までは普段と変わらず。



 続いてエマから座標違いとの報告がエリー経由で入った時点で司令室内、特にサラが慌ただしくなり始めたらしく、その雰囲気が待機中の探索者達にも伝わってきていたが、司令室からの状況説明は一切無かったらしい。


 その後、エマを除く通常探索班の三名から探査開始との報告が入ると、改めてエマが目標に到着、探査を開始したとの報告が入ったのだが今度はエマ&エリー間の繋がりリンクが途絶してしまう。


 それによりエリーが一時パニックになりかけたのだが、妹の中で唯一待機中であった「某妹」が挙動不審な言動を取り始めたのを見て逆に少しだけ落ち着きを取り戻せたようだったと。


 (因みに「某妹」は「某姉」の「咳払い」で黙り込んだそうな)


 ただエリーにとって繋がりリンクが切れるといった事自体が初めての経験であり、妹を心配するあまり今度は自分が見に行くと言い始めた。


 普段は温和で何事にも理性的な考え方をし、妹とは逆の「見守る立場」にいたエリーが言い出したことによりサラが妥協し、他の通常探索三名を各々の探査が終了次第、エマの所に向かわせるようにと指示を変えた。


 ならどうせ向かわせるのであれば、待機中のラーナかルークを向かわせるのが一番手っ取り早く済むと思うが、この二人はあくまでも同時進行中の惑星調査班の不測の事態に対しての待機であり、通常探索班の為に動かす事が出来ない事を全員知っていたからだ。


 ただ動ける者は実際にはまだいた。ワイズ&ロイズ兄弟が。


 だがこの二人は未成年という事で建前上、作戦に参加させる事は出来ないので皆の思考からは完全に抜け落ちていた。


 なのでこの対応に関してはマリが不服そうにしていただけで他の者からは特に異議は上がらなかったようだ。


 このサラの対応についてアリスの私見では、エマには敢えて危険度が限りなく低い任務に向かわせており、偶々たまたま繋がりリンクが切れたとしても探索艦の中にいる限りは安全であり生命の危機などはありえないと判断して、より危険度が高い方を優先した結果、エマのリンク切れ調査を後回しとしてしまったのではないかと。



 ここまでは自分達が知っていた情報と殆ど差異はない。



 だが事態は「その後」に起きた。



 サラが三人を向かわせた直後に待機中の全探索艦が突然動き始め、勝手にドックから外へと出るや否や有無を言わさず一斉跳躍させられてしまったとの事であった。


 結果、アリスもロイズも同じく跳躍したとのことで、その後の詳細はレベッカから教えて貰うまで知らなかったそうだ。


 そのレベッカの話では強制跳躍後に基地AIと機能が一部を除きダウン。その状態のところへ「椿」がBエリア基地に訪れ「力」を行使して直ぐに引き上げていったとのこと。


 因みにアリスにはその後、レベッカ経由で椿からAエリア基地内の自分の家ここで取り敢えず待機していて欲しい、とお願いされたとのことであった。



「仕掛け始めた時期は……まあいいでしょう。ハッキングは基地AIに直接では無く、ある艦AIからゆっくりと時間を掛けてほんの少しずつ、サラ主任にバレない範囲で行われていましたね」

「サラが気付かないって……アリスはその事を教えてあげなかったの?」

「椿さんとの約束なんですね」

「……口出しを禁止されていたってこと? 椿に?」


 察しろ、と言いたげに黙したままエマをジッと見つめる。



「前にも言いましたよね? 何においても椿さんとの信頼関係が大事だと。基本的に彼女がやること、やろうとしていることを知っていたとしても手や口は出しませんし他の人に話すことはしません。なので主任には申し訳ありませんが教える事は出来ませんでした」

「…………」


 複雑そうな顔のエマ。

 そんなエマを見てアリスは陽気な口調に変えてきた。


「ハイ、ここでクエスチョン! 今回「消失」が起きた時、基地はどんな状態でしたか?」

「探索者は誰もいない……サラしか残っていなかった」

「正解。探索者は全員追い出されて残っていたのはサラ主任のみ。班長達は主任の転機により事前にドリーに避難させてバイオロイドを操らせていた。つまり実質主任一人だけの状態でした。では椿さん達は何故あのタイミングを選んで基地で「消失」を起こしたと思います?」

「そういえば……何で?」


 ランと二人で頭に「?」を浮かべながら考える。


「椿さんにとって全ての計画を進めるためにはどうしても基地あそこで「消失」を起こす必要があった。これは揺がしようのない前提条件。だからと言って彼女はいつでも良かったと言う訳にもいかなかったんですね。当然、あの時点まで待たなければならなかった理由があったんですよね~」


「それはあの時、私に変化が起きた? から?」


「確かにあの時にエマさんは覚醒を果たしました。それにより椿さんの計画が動き出しました。でも考えてみて下さい。あのタイミングで覚醒しちゃうなんてもの凄い偶然だと思いませんか? さらに覚醒しただけならあの時、あのタイミングで基地で「消失」を起こす必要なんて別に無かったんじゃないかな~? と思いませんか?」


「…………」


 考え込むエマをジッと見つめるアリス。

 周りの者は戸惑い気味にエマを見る。


「では基地で「消失」を起こさなければならなかった理由は今はこっちに置いといて……もし、例えば探索活動がない休日中に基地で「消失」が起きたらどうなったと思います?」

「みんなバラバラに行動してるし、それこそパニックどころか犠牲者が出る程の騒ぎになるんじゃない?」

「はい、その通り。椿さんは「消失」を起こせるというだけで、制御が出来ている訳では無いみたいなので」

「…………」


 更にエマを見つめる。エマも見つめ返す。


「……ではもう一つ。今回、Bエリアに対して上は普段とは違う経緯で指令を出してきました。サラ主任は作戦会議ブリーフィングで機嫌が悪かったのを覚えていますよね?」

「確か上が押し付けてきたみたいな事だったような。それと嫌な予感がしてたとかも言ってた気がする」


 返事を返すと今度は何も言わず、エマに更なる返答を促すような目つきをした。


「…………もしかしてあの調査依頼自体が基地で「消失」を起こす為の?」


 大きく頷くアリス。


「あの調査以降、エマさんにとってはとても辛い思いの連続だったかと思います。それはここで再会した時、以前までの年相応で平和に過ごしていたエマさんとは違って、全くの別人の様に感じられたので容易に想像出来ました。でもそのつらい思いを乗り越え菜緒さんや菜奈さん、そしてクレアさんといった大切な仲間に出会え、サラ主任が不在にも関わらずここまで無事辿り着けました。ですがそれらと引き換えに椿さんに対しては複雑な感情を抱いてしまったのも何となく分かりました。それでも今ここでよく考えてもらいたいのは椿さんが起こした「消失」では「誰も死ななかった」と言う点なんです」


「あれだけの被害だったのに怪我をしたのはサラだけ……」


「そうです。サラ主任以外、犠牲者0というのは偶然にしては出来過ぎだと思いません?」


「……うん」


「この事実をどう思うかはエマさんの判断に任せます。私は基地の「消失」の件に関しては全く関わってはいないので、結果から導き出したこの「想像」に対しての確証はありません。ましてや椿さんがやろうとしていることに対し、傍観者余所者である私は口を挟むようなことはしたくはないし、関係者に対して私情を述べる訳にもいきません。ですからこの「想像」に対し、エマさん自身で答えを導き出して欲しいと思っています。ただどんな答えになろうとも「犠牲者が0」との揺るぎのない事実だけは心の片隅で構わないので下さいね」


「…………」


「でも「消失」が起きてから私達が戻るまでかなりの時間があったわよね。その間の待機とかの命令は誰が出していたの?」


「そんな人を騙す様な姑息な手口を使う人はどこのどなたでしょうかね、シャルロットさん?」


 ランの問い掛けをシャルロットに振った。


「え? アレって姉様達じゃなくてシャルロットだったの?」

「わわわわわたくしではございません‼︎」

「なら誰⁈」

「うううアリス様ぁ~~」泣き声のシャルロット

「よしよし。ランさんあまり苛めちゃダメよ」

「君もね。ところでシャーリー達はどうだったの」


 その問いにピクリと反応するアリス。


「あちらに関しては調査開始の報告以降、強制跳躍時点まで一切の連絡はありませんでした」


 アリスは目を合わせずに答えた。


「シャーリーさんはエリスが行方不明になったって言ってたわよ?」


 詰め寄るラン。

 それに対し目線を下げ軽く頭をポリポリと搔いて見せる。


「それは大正解。あの時から少しの間、私に連絡も寄こさず行方不明になっていました」


 気持ち不機嫌そうに答えるアリス。


「結局どこにいたの?」

「大体は予想がつきますが……。後に私の問い掛けにので、姉の威厳を見せつけるためにその事で問い詰めようとここに呼び出したら逆ギレし始めて……」

「逆ギレ⁈  あのエリスが⁈」

「そのせいでここから出られなくなっちゃったんですよ? 全く信じられない! もう浮かれ過ぎ! プンプン!」


 頬を膨らませるアリス。

 本人は怒っているつもりだろうが何故かそうは見えない。


「浮かれ過ぎ?」

「え? あーー何でもありません」

「でもレベル5のアリスを軟禁出来るってエリスも何気に凄いの?」

「え? えーと相変わらず「凄いの?」の意味が微妙に分からないんですけど……あの子は一応椿さんと同位、私とは違い完全無欠のレベル5なんで」


「「「「レベル5 ⁇」」」」


 四人が盛大にハモった。


「はい? え、あれーー? 何ですかその反応? 私、言わなかったかなーー?」


「「言ってない‼︎」」


 今度はエマとランがハモった。


「……えへへ♡なので喧嘩に僅差で負けちゃいました♪ でも表向きは私と同じくレベル3なので一応、ここだけの秘密ですからね~」

「アリスが負けた……? えっ? でもさっき君はノア……じゃなくてミアに勝ったって言ってたよね?」

「さっき? ……あーーあれはノーカンですね。彼女は本気では無かったみたいだし、私も組んでおいた防壁が攻略されていくのをただ眺めていただけなので」

「そうなの?」

「はい。もしお互い本気を出していたら多分私の……ってこの話はまた後の機会に」

「エリスがレベル5……っていうかこの世界にレベル5って何人いるの?」

「そんな希少生物発見! ってみたいな言い方しなくても……残念ですが私とエリスと椿さんだけで他にはいません」

「ホントに? また隠してるんじゃない?」


「鋭いですね〜。ではあと一人だけ♪」


 ニヤけるアリス。


「い、いるの?」

「いません」

「へ?」

「今は」

「は……はい?」

「今は……」

「今は?」

「はい♡」


「それより今のうちにレイアさんの状態確認だけでもしておいたほうがよくないかしら」


「私も……そう思う」

「そうです! 大人しいうちに!」

「そう言えばまだしていませんでしたね。それでは早速……」


 と言って壁越しに寝室にいるレイアの方を見つめだす。


 十秒程経つと顔前に空間モニターが現れ、それに見入るアリス。

 一通り読み終えるとどちらともつかないため息をついた。


「どう?」


 心配そうに聞く菜緒。


「まず一つ目。やはりレイアさんも生体強化は解除されていました」

「…………」


「二つ目。「覚醒」は……残念ながらしていませんね」

「…………」



『覚醒はしていない』



 その言葉を聞いて正直ホッとした。

 もしレイアまで「覚醒」してしまったらクレア達が私達姉妹の代わりにされかねない。それだけは絶対に耐えられない。


 とここで寝室の扉が開き紫の宇宙服を着た姉妹が入って来た。


 一人は怒りながら。もう一人は泣きながら。

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