レイアとリン!
「く、クレア?」
どちらか見分けがつかなかったので声を掛けてみた。
すると怒っている方が返事をしてきた。
「ごめんなさい。レイアが迷惑を掛けて」
立ち止まり深々と頭を下げた、が隣でシクシクと泣いていたレイアの頭に手を回し同じ様に無理矢理頭を下げさせる。
「うう……クレアに……ここで会わせてくれて……しかもこんなに……いい笑顔でよ……あんがとよ……感謝するぜ……」
終いには大粒の涙を流し「男泣き」をしなが礼を言うレイア。
「お、おはようございます。気分はどうですか?」
「ん? お、アンタもいたのか……スッカリ迷惑かけたようだな」
アリスを見るなり行き成り泣き止む。
「いえいえ。それで体調はいかがです?」
「体調? そう言えば……何か動き辛いっていうか、変だな」
「貴方なら直ぐに慣れますよ」
「一体俺の身体に何が起きたんだ? アンタ知ってそうだな?」
「はい。まあ取り敢えずお座り下さい」
「ん? では遠慮なく」
と言って座っている者達を順に見ていきエマがいることに気が付くと、何故か目を見開いて全身を確認するようにジッと見始めた。
「……アンタもしかして「贄」か?」
「そうですよ。彼女がエマさんです」
「そうかやっと会えたぜ! 俺がクレアの姉ちゃんのレイアだ! 先ずはクレアが色々と世話になったみたいで心の底から感謝する‼」
「え? いやこっちこそ」
とその場で深々と頭を下げてきたのでエマも釣られて頭を軽く下げた、がレイアは直ぐに頭を上げ菜緒達の後ろから回り込み、身構えているエマの右隣に強引に腰掛けた。
見ると既に涙はどこかへ消え去っておりいたずらっ子の笑みを浮かべながら右手をエマに差し出してきた。
その間もエマから一時も目は離さずに。
「え? う、うん」
引き気味のエマが差し出された手を反射的に握り返すと、即座に手を引き寄せながら空いていた左手を背後からエマの頭に回し自分に顔を向けさせると、そのまま一気に激しいキスをしてきた。
「…………」
行き成りの事で全く反応も抵抗も出来ずに為されるがまま口の中を蹂躙されるエマ。
全員目と口を開いたまま呆気にとられ身動き出来ず只々眺める。
結構長い時間、とは言っても十秒にも満たなかったが、やっと時が動き始めた。
顔を離すと満足そうにレイアが一言。
「よし決めた! 今からお前は俺のモンだ!」
「へ?」
とチラッとクレアを見てからエマの体に手を回し、お姫様抱っこをして抱えたまま立ち上がるとソファーを蹴って空中で後方一回転。
菜緒達の頭上を華麗に飛び越えながら部屋の隅の転送装置へと見事着地し、あっという間にどこかへと消え去ってしまった。
「れ、レイア⁈」
「え? 問答無用⁈」
「不味い……連れてかれちゃう‼」
「ランさんはソニアを起こして‼ 二人は付いてきて‼」
菜緒が菜奈とクレアに目で合図しながら転送装置へと向かい三人続けて消えて行く。
「ソニア‼ 起きて‼」
「ふ、ふにゃ? もうご飯の時間……?」
「寝ぼけてないで起きて! お姉様が連れてかれたの‼」
「ののの? 分かったなの! 直ぐ追い掛けるなの!」
「菜緒さん達はレイアさんの艦がいるドックに向かったわよ〜」
ニヤケながら話すアリス。
「分かった! ソニア追いかけるわよ!」
「ラジャーなの!」
二人は転送装置でドックへと向かった。
嵐が過ぎ去り静まり返った部屋に一人残されたアリスはテーブルに目を移し、そこに置いてあった昨日マキが食べ残した酒のつまみアテに手を伸ばし、一つ取って口の中へ。
味を確かめながらゆっくりと咀嚼しゴックンと飲み込むと嬉しそうに独り言をつぶやいた。
「うまいタイミングで彼女が起きてくれたからなんとか誤魔化せたわー! 全くエマちゃんたら別にどうでもいい事に気が付くんだからー。そのおかげで話さなくてもいい事まで喋っちゃたしー。でもみんなそれどころでは無くなったしーバレることは無さそうだからまーいっか! これ以上色々と予定が狂っても困るしー念の為、レベッカには一言釘を刺しておかねばねー」
先程迄の丁寧な口調ではなく子供じみた口調に変え、よいしょっと軽快にソファーから飛び降りて大きく背伸びをした。
「それよりこの後どうなるか……椿ちゃんの長年の願いが叶うかどうか……「後のお楽しみ!」ってとこかね!」
と言って転送装置を使って皆とは違う場所へと向かって行った。
・・・・・・
「もう直ぐ着くハズ?」
球体内コックピット中央にある座席に座っているエリスがAエリア基地に到着すると教えてくれた。
「なんで疑問形なんや?」
隣の座席に座っているマキが聞き返す。
「んーーなら着いちゃいマスカ?」
「……分かった、着くんならそれでええ、てかエリスはいつもこれ乗っとるの?」
「違ーーーーう‼︎ 今日はパンダ君だけどいつもはウサぴょんなんだからネー!」
「そ、そうだったっんか⁈」
「マキ様、激ツッコミ入れたい気持ちは分かりますけど、今入れたらマキ様の完全敗北確定なのね」
マキとは反対側の座席に座っているステラが冷静な顔で忠告してくれた。
「そ、そやね」
「二人とも素直じゃないヨネ~もっと浮かれてもいいんだヨーー?」
「わ、わーーい」
乗せて貰っている立場上、嬉しそうなエリスの笑顔を無碍にも出来ず、顔を引きつらせながら弱弱しい歓声を上げるマキ。
パフパフ……
マキの声に合わせて、座席の背中に取り付けられた手動のラッパを鳴らすステラ。
「オー? やっと調子出てきたかナ~? でもとっても残念! 野郎ども~閉園の時間デス~」
跳躍中、球体モニターには昔ながらの遊園地内の風景と歓声が流されていたが、エリスの声と同時に全面が外の真っ暗な宇宙空間に切替り、正面にAエリア基地が小さく映し出されていた。
「おー無事帰って来れた。これで一安心やね」
「一時はどうなるかと思いましたね」
「そやな。これもステラやエリスのお蔭なや。二人ともあんがとさん」
「いやーー照れるゾー」
「そやエリス! ハナちゃんと連絡取れるか?」
「お花ちゃんデスねー? ちょっと待ってネー……もしもし? お花ちゃーん?」
「……お花ちゃん? なんやエリスかいな。今忙しゅうて相手しとる暇ないんやけど?」
「そうなのケ~? じゃあまたネー……」
「ってちょい待ち‼︎」
「……お? その声はマキちゃう?」
「そやウチや!」
「なんやもう帰ってきたんか?」
「おう! 無事生還や!」
「そりゃえがったの~そんじゃ早う入って来い」
「……寂くないかいな? もちっと暖かく迎えてくれても……良くないかい?」
「それどころやない! エマはんが行方不明なんよ!」慌て声のハナちゃん
「ど、どないして?」
「例の姉ちゃんがエマはんをエライ気に入ったみたいでな、突然連れ去りおって基地の中を逃げ回っとるんよ!」
「はい?」
「姉ちゃんの艦に乗り込めんよう、菜緒はんとソニアちゃんがドックで見張って、クレアはんと菜奈はんとランちゃんが追っ掛け回しとるとこやけどえらい素早しっこくてな。未だに捕まえられへんよ」
「エマは無事か?」
「今は気失っとるだけ」
「気を?」
「抵抗しようとして、首元あたりを片手でビシっとな」
「へ?」
「そんな事より早う加勢しに来んかい!」
「り、了解や! あ、それとマリ見つけたで!」
「ほ、ホンマか? そんで何処におったの?」
「椿のとこ」
「な、なんやて? さては通じとったんか?」
「マリにそんな芸当出来ると思うか?」
「……マリにはムリか」
「そやろ? 一人でエリーを助けに行ってたらしい」
「ほ、ホンマか?」
「ああ。後でうんと褒めてやってな」
「そうか……マリも成長したのね……うう」
「うん。立派になったわ……」
しんみりするマキとハナちゃん。
「……もういいかいナ?」
「おおスマン! 遠慮せず行ってくれ!」
「もうドックの中ですね」
「へ? あ、そう。そんじゃ先ずはエマを探すか!」
「マキ様」
「なに?」
「私はアリス様の所に戻りますね」
「ステラは一緒に来てくれへんの?」
「基地での行動は制限されてますから大してお役には立てませんのね」
「そうか? それはスマンかった。ここまで色々あんがとな」
「こちらこそマキ様と旅が出来て楽しかったですね」
「よし、エリスと甲? やったな、行くで!」
・・・・・・
「ハアハア……何でこの程度で息が切れるんだ?」
先程から菜奈・クレア・ランの追撃をなんとか躱し続けているが、気を失っているエマを肩に背負っているため本来の動きが出来ず、体力ばかり消耗していた。
「ま、まさか連携してくるとは……」
エマ略奪後、そのまま自艦へとルンルン気分で向かっている途中、背後から菜緒菜奈クレアの三人がもの凄い勢いで襲い掛かってきた。
それに気が付き、いつも通りに難なく躱そうとしたが我に返ったエマが激しく抵抗した為、止むを得ず一旦脇道へと逸れ逃げることとした。
暴れるエマを抱えながら何とか追っ手を引き離した後、先ずはエマを気絶させ大人しくさせた上で再度自艦へと戻ろうと試みたが、行く先々で誰かしらが待ち構えており、その者達をエマを抱え躱しながらの突破となってしまった為、かなり体力が減っていたのだ。
という訳で、取り敢えず見渡しが効く倉庫の暗がりの一角で休むことにした。
「ま、まあ病み上がりだししょうがないのか……でも予定よりもだいぶ時間がオーバーしてるし、早いとこ戻らないと……」
息を整えるながら対応を考える。
基地内にいる限りは位置情報で居場所は筒抜けだ
艦に戻ろうとすれば直ぐに追っ手がやって来るだろう
その追っ手は自分一人ならいくらでも対応は可能だ
だが今の体調でエマこいつを抱えながらでは正直難しい
どうする? エマこいつだけは連れ戻らなければならない
でないと世界が滅んでしまう
だかもう一つの約束も守らなければならない
最後までエマこいつを守るという約束を
ここまで何の為に頑張ってきたんだ?
クレアがこの世界で生きていくためだ
例え嫌われても……
「おねえさん……」
声がした方を見ると暗がりの奥から純真つぶらで悲しみに満ちた瞳の少女がジッとこちらを覗いていた。
「え? だ、誰だ?」
「ランランのおねえちゃんのリンリンなのだ~」
「そ、そうか、リンリンか」
「どこかであったことない〜?」
「い、いや初めてだと思うけど?」
「そう〜?ん〜でもこの匂い……」
「へ? 匂い?」
「ところでなに悩んでるの~」
「え? まあ色々とな。それよりそんな暗い所で何してるんだ?」
「さんぽしながら考えごと~リンリンはとってもしんぱいなのだ~」
「心配?」
「うん~。たぶんおねえさんの悩みはランランと同じな悩みなのだな~」
「同じ?」
「そうなのだ。じつはリンリンも悩んでるの……」
「…………」
「リンリンはおねえちゃん失格なのかも〜」
「どうして?」
「ランラン一人のこして遠いところに行ってたの……」
「…………」
「その間〜ランランはだれにもそうだん出来なくて悩んでたの」
「…………」
「このままだとランランはかならず泣いちゃう~」
「…………」
「リンリンはランランが泣くところは見たくないの~」
「…………」
「でもね~どうするかはランランが自分で決めないといけないこと~」
「自分で……」
「そう~自分でかんがえて~自分でこたえを出さないとね~」
「…………」
「だからおねえさんといっしょなんだな〜。ところでエマエマはなんで寝てるの~?」
問いには答えず暫く考え込むレイア。
暫らく経つと目線をリンに向けた。
「リンリンだったか?」
「なーにー?」
「こいつを預けてもいいか?」
「エマエマ? いいよ~」
「頼む。エマこいつが起きたら「また必ず会いに来る」って言っといてくれ」
「いいよ~。おねえさん名前は~?」
「レイアだ!」
「レアレアか。悩み……へったみたいでよかったね~」
「ああ! ありがとよ。それとリンリン!」
「なーにー?」
「ランランっていうのは妹か?」
「そうなのだ〜とってもかわいいのだ!」
「ならこんなとこでウジウジ考えてないで妹のそばにいてやれ。お前の場合、それが一番だと思うぞ?」
「そうかな……?」
「ああ、俺もクレアの為に色々考えてやってきたけど、エマこいつを連れていったらまたクレアを悲しませちまう。あいつの泣き顔はもう見たくはないし泣かせたくもない。だから一旦引き上げて頭を冷やしてくる」
「うん……分かった!おねえさんががんばるならリンリンもがんばるぞー」
元気が出たリンの前に優しくエマを置き、リンの頭をクシャクシャと撫でてから空間モニターを開き、全員の位置情報を確認すると近くの転送装置へと向かって行った。
「お待たせーー!」
マキ達三人が目の前の転送装置からいきなり現れた。
僅かな間、我を忘れる菜緒とソニア。
「え?マキさん⁈いつの間に戻って来てたの?」
「今や、今!」
「マキさーーーーんなの‼」
ソニアがフライングタックルをしてきた。
「ぐ、ぐへ!お、ソニアか?元気そうやな?」
「心配してたなのーー!」
「そうか、そりゃスマンかった!」
「マキーー?」
「え? あー紹介する。こっちはウチのエリアのエリスや」
「ハイ!エリスちゃんでース!今後ともよろしくなのネー」
「へ?あ、はいよろしく……ってアリスさんの妹さん⁈」
驚く菜緒。
「はい。アリスの妹で間違いない、カナ?」
「かな? ってそっくりで間違いないようがないやろ!」
「外観はね〜。中身は全く違うシー」
「うん! それは言えてるの!」
「はぁ? そうなの?」
「おう! それでレイアは捕まえたんか?」
「いやまだ逃走中」
「ウチらはどうすればええ?」
「その前にそちらは?」
甲をチラリと見た。
「あーウチのボディーガードや」
「そ、そうなの?」
「ああ、実はマリから預かったんや」
「マリってマキさんのお姉さん?」
「そう。でそのマリはどうやらミアから預かったらしい」
「は、はぁ」
「そんで、ミアはノアから借りたらしくてな、ノアに直接返さんといかんのよ」
「……もし良かったらエマ奪還に借りられないかしら」
「だそうや。甲、頼めるか?」
首を横に振る甲。
「ダメなんかい?」
「マスターの命令は貴方を守れとのこと。それ以外のご依頼はお受け出来ません」
「「…………」」
「体だけじゃなくて頭も固いのネー」
「な、ならマキさんはここで待機していて」
「そ、そうか? そう言えばノアはどこ?」
「えーーと……その事は後で。今はここを死守しないと」
「ん? 何かあったんか? まあいい。取り敢えず了解。エリスはどないする?」
「マキと一緒にいるーー」
「分かった」
・・・・・・
菜奈、クレア、ランの三名は菜緒の指示の元、自艦に戻る為には通らざるえない要所で待機し、遭遇した際にはレイアには手を出さずエマのみの確保を目的としていた。
勿論、いつでも他の場所へと移動出来るように自らもレイア達の位置情報を確認しながら。
暫く前から離れた位置でレイアの動きが止まったままとなったので、
休息中なのではないか?
それなら今がチャンスでは?
との意見が出たが逆に、
誘い出す為のワナでは?
突破されドック内に入られたら更に確保が厳しくなる
と思われたので作戦変更はせずにその場で空間モニターと睨めっこをしながら待機をしていた。
だがここで突然リンがレイア達の直ぐそばの転送装置から現れ二人の下へとやってきた。
そして暫く同じ位置にあったレイア・エマ・リンの三つの光点の内、レイアの光点だけが移動を始めたのでエマ確保を優先する為、菜奈とランが一斉に二人の下へと移動を開始した。
二人は一番近い転送装置から同時に現れ、そのまま一緒に通路を進むと、エマを膝枕しているリンの姿が目に飛び込んで来た。
「エマちゃん!」
「あ、姉様!」
菜奈はエマに、ランはリンへと向かって行く。
「姉様‼︎ 怪我はないですか⁈ 一体何でここに?」
「ん〜さんぽだよ〜」
リンの身体に触れながら怪我をしていないかを確認していく。それを嬉しそうに受けるリン。
「お姉様はどうです?」
「気を……失っているだけ」
「そうですか。取り敢えず菜緒さんに判断を仰ぎましょう」
「分かった…………二人でアリス邸に……連れて行ってって」
「了解です。姉様も……」
「ランランといっしょに行く〜」
「当たり前です! ……きゃ!」
いきなりリンがランを背負って歩き出す。
「ちょっ、姉様⁉︎ 一体?」
「さあいくどーー!」
その光景をエマを背負いなが眺める菜奈であった。
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