菜奈艦AI! 宿題の答え!

 ちょうど会話が途切れたところに隣の部屋から聞こえてきた声で、全員の意識が見えない相手へと向けられた。


 だがリンだけは他の「何か」にピクリと反応、ランの腕の中で目だけを動かして何かを探し? 始めるが、再びランの顔を捉えると、誰にも気付かれない内にまた元へと戻った。


「どうやら目覚めた様ですね」


 アリスがクレアに目配せをする。するとクレアが頷き二人一緒に立ち上がった。

 アリスは和かな笑みを浮かべ、クレアは緊張した面持ちで。

 アリスは普段と変わらぬ歩みだがクレアの足取りには躊躇いが感じられた。


 その二人を無言で見送るエマ達。


 二人が寝室へと入ると音もなく自動ドア扉が閉じられた。


「「「…………」」」


 応接室に再び沈黙が訪れる。

 全員、隣の部屋に神経を集中させるが今は何も聞こえてこない。


「ランラン~?」


 沈黙が支配する中、何の前触れも無くリンが突然口を開く。


「は、はい? 何ですか?」

「ここどこ〜?」

「ここ? ここはAエリア基地ですよ」

「そうなのか〜? だから見たことない人がいっぱいいるんだな〜」

「皆さん、ここの人達ではなく他エリアの探索者仲間の方々なんですよ」

「そうなの〜?」

「はい。そちらに座ってらしゃるのは右側からCエリアの菜緒さんと菜奈さん。お姉様の隣に座っているのがDエリアのソニア。そしてアリスと一緒に行かれたのが情報部のクレアさんです」

「そう〜?」

「よろしくね、リンさん」


 挨拶をする菜緒。

 菜奈は頭をペコリと下げる。


「ランランのおねえちゃんのリンリンなのだ。よろしくおねがいしますのね〜」


 首だけ菜緒達に向け軽く頭を下げる。


「ご、ご丁寧に。こちらこそ」

「ところでランラン〜」

「なんですか?」

「何をそんなになやんでるの〜」


 心配そうな眼差しでランの目をジッと見つめる。


「はい?」

「…………」

「……姉様が自分からここを降りてくれないかな、って思っているところです」

「ランランはリンリンのこと……きらいなの?」


 潤んだ瞳でランを見つめる。

 その瞳を見た途端、ランは呆れ顔をするが菜緒菜奈は悲しそうな表情で何故か固まる。


「甘えん坊さんは嫌いです」


「がーーーーーーーーん‼︎」


 ツンとソッポを向いて答えると、先程とは比べ物にならない程、まるでこの世の終わりが訪れたといった感じに真剣に落ち込んでしまう。


 その落ち込みを見て本気でオロオロ心配し出す菜緒菜奈。

 そんな二人を見てクスッと笑うエマ。

 エマが笑うのに気が付き二人は頭に「?」を浮かべる。

 そんな二人を見て声に出して笑い出すエマ。


「アハハ、二人共心配しなくても大丈夫よ!」

「そ、そうなの?」

「うん。いつものことだから!」

「ホント⁈」

「ホントホント! その内慣れるって!」

「で、でも……何か可哀想……」


 二人とも本気で心配しているようだ。



「菜緒様!菜奈様!騙されてはいけません!」



 久々のお調子艦AI者の登場だ。


「あらシャルロット、無事復活出来たみたいね」

「これはこれはお嬢様! ご挨拶が遅れ申し訳けございませんでした! いつの間にか眠らされてしまい、冥界を彷徨っていました。こんな醜態、なんと言ってお詫びすれば良いのか……」

「それは貴方のせいではないし、気にしなくていいわ」


 シャルロットと話しながらも猫をあやす様にリンの顎下辺りを撫で撫でしてあげる。


「何とお優しい! このシャルロット、お嬢様の懐の深さに感動致しました!」

「そうだシャルロット! 「とあるスジ」って何の事?」


 顔はリンに、ジロリと目線だけを上に向け尋ねた。


「お……おぉぉオホホ」


 打って変って気まずい雰囲気のシャルロット。


「シャルロット~~?」

「……おおおおお嬢様!」大声のシャルロット

「え⁈ な、何?」ビックリするラン

「シャルロットはいつまでもお嬢様の味方です! (プチ)……」


「えっ? 切れた?」驚く菜緒

「切れたんじゃなくて切ったの」

「えっ? もしかして艦AIが自分から?」

「そう。そう言えば決まった?」

「?」

「あなた達の艦AIの設定」

「ま、まだ……」

「菜奈は?」

「決まった……あとは名前だけ」

「へーーどんな風にしたの?」

「こんな……感じ」


 と言ってエマを見つめる菜奈。


 一瞬の間の後、唐突に菜奈の頭の上に髪と同じ色の細長い動物の「耳」が現れた!


「へ?」

「ひゃっ!」

「‼︎」


 澄まし顔の菜奈。

 三者三様の反応で同時に驚く。


「どう……かな?」


 今度は戸惑い気味の上目使いで三人を順に見回す菜奈。


「?」


 何が起きているのか理解できないエマ。


「それって……」


 ランが質問しようとしたところ隣にいた菜緒がいきなりもの凄い勢いで菜奈に抱き付いた。



「もう無理ぃぃーーーーーー‼︎」



 姉の突然の行動に戸惑う菜奈。

 耳がピーンと強張っているのが良く分かる、というか菜緒のせいで耳しか見えていない。



「イヤーーーー可愛いすぎーーーーー!」



 リミッターが外れてしまったようで、自らの胸を菜奈の顔にグリグリと押し付け力一杯抱き付いて暴走し始めた。


「それって……ウサギの?」


 壊れた姉のせいで本人は見えないが、あの耳なら聞こえるだろうと勝手に推測、構わず聞いてみた。


「う……ん。前々からみんなに……相談してたんだけど……今はこれが一番……だって」

「相談? 誰に?」

「Bエリアの友達

「…………アル、詳細説明」


 菜奈に笑顔を向けたまま、アルテミスを呼び出す。


「菜奈ちゃんもエマに言われてから自分を変えようと頑張ってるんだな〜」

「変える? 何を?」

「いやな、菜奈ちゃんに言葉で伝えろ言うたやろ? でも自分気持ちを伝えるのが下手やからどしたらええん? と相談されてな」

「そうは申されましても直ぐに変える事は一長一短で成せる事ではございません! とお伝えしたところ、ならば何か良い方法は無いかと私わたくし達に尋ねられました」

「ならそれが出来る様になるまで、ちょうどいい機会だしシャルロット誰かさんみたいに艦AIを代弁させる様お節介な設定にしたら~? って提案したらね〜」

「それじゃ今と何も変わらへんってな」

「ですが努力家の菜奈様は閃いたのです! 取り敢えずは感情や思いだけでも伝えられればよいのでは⁈ と。この様な経緯でございます!」


 アル、ハナちゃん、シャルロットが丁寧に教えてくれた。


「それでこの耳に?」

「そう……例えば……」


 ウサ耳が中ほどで力なく折れ曲がった。


「…………なるほど、分かった。菜緒姉、離れてだってさ」

「え? えーーーー」


 体を離し妹の顔を見るとエマの言う通り「離れて」と主張しているのが姉には直ぐ分かった。

 妹から名残惜しそうに元の位置へと戻っていく姉。


 菜緒からしてみれば耳があろうがなかろうが妹の顔を見れば何が言いたいのかは大体は分かる。


 因みに今は「ちょっと鬱陶しい」と思っている顔だ。


 暴走姉が素直に退いたことで、耳だけ見えていた菜奈の顔が再び現れたので、三人は改めてじっくりと観察してみる。


「こ、こりゃ確かに反則だわ」

「か、完敗です」


 違う方向で納得する二人。


「…………」


 姉は目を輝かせていた。


 ジッと見ていると耳が少し力なさげに前側に折れ曲がってきた。目線を下げているので若干恥ずかしがっているのだろう。


「でも何でその耳にしたの? 他にしようと思わなかったの?」

「初めは……猫耳にしようかなって……でもシャルロットが……」

「ダメです! 菜奈様はその耳が一番似合うとです‼」


 間髪入れず激しくツッコむシャルロット。


「でも黒髪ポニテのないすばでぃーだとヤバくない?」

「はい! しかも自覚なし・色気無しで変な意味で三拍子全て揃ってるオヤジキラーそのまんまです!」

「シャルロットさん?」

「はい、菜緒様何でございましょう?」



「グッジョーーーーブ‼」



 菜緒オヤジの雄叫びが響き渡った直後、突然寝室の扉が開きアリスが血相を変えて駆け込んで来た。


「ち、ちょっと皆さん‼︎ た、助け……い、いや直ぐに来て下さい‼︎」

「な、何⁈」

「クレアさんが! 早く‼︎」

「クレア⁉︎」


 不審な動きで助けを求めるアリス。先程までとはうって変わって慌てていた。

 さらに目は真剣そのもの。額には薄っすらと冷や汗を浮かべながら。


 その尋常でない雰囲気に菜奈菜緒が立ち上がり、エマはソニアを起こさない様に避けて、ランは抱えている姉様を目の前のテーブルに「置いて」から全員血相を変えて寝室へと急ぐ。


 エマが扉の傍で立ち尽くすアリスの脇を抜け寝室に入ると、先に入っていた菜緒菜奈の二人が立ち尽くしていた。


「どうしたの?」


 その脇をすり抜け部屋の奥にあるベッドを見ると……


 クレア? が仰向けで横になっているレイア? の上に跨り、結構な勢いで顔に向けグーパンチをお見舞いしていたのだ。


 一方のレイア? は反撃はしておらず、両腕で顔を隠しなされるがままの状態で耐えていた。


 その様子、宛さながら異種格闘技戦でリングに倒れ込んだ選手にマウントを取ってタコ殴りしている様に見えた。


 因みに「?」なのは二人の外見は瓜二つの為、この状態ではどっちがどっち? と断言出来ないからだ。


「えーーとアリス?」

「は、はい?」

「一つだけ確認。上がクレアで下がレイアでいいのかな?」

「はい! 姉妹二人で話していたんですけど、突然クレアさんが飛び掛かって……って呑気に眺めてないで止めて下さい!」

「え? って……う~~ん」

「止めろって言われてもね~~」

「どう……する?」

「逆に今は止めない方がいいような気がしますぅ」


 皆、同意見のようで止めに入る者はいない。

 よく見ると二人にはエマ達が来たことすら全く気が付かないくらい真剣であった。


「え? な、なんで?」


 オロオロと困惑顔のアリス。

 その顔、なんか新鮮で可愛いぞ!


「アリスさん、良く見てごらんなさいな」

「はい?」


 呼ばれたアリスは扉付近から菜緒の後ろにやって来て二人をそーと覗き込むと、クレアのグーパンチは全てレイアの腕で防がれており、他にいくらでも隙があるのにそこには一切手を出さず、同じ個所に同じタイミングで何度も続けて打ち込んでいた。


 対するレイアは両腕で頭部をカバーするだけで抵抗する素振りは見せずジッと耐えていた。


 怯えているアリスの肩に菜緒が手を置く。


「これはただの兄弟喧嘩。本人達にとって何年ぶりかのね」

「そ、そうなんですか?」


 信じられないといった表情のアリス。




「アリスさんはお姉さんと喧嘩は?」

「ありますけど、こんな暴力を振るうなんてことは一度も」

「まあ姉妹の場合はここまで過激なのは少ないわさ」

「兄弟の場合は容赦無いって聞きますよね」

「そ、そうなんですか⁈」

「ええ。攻守が逆なら止めるけど、これなら心配無さそうだし、もう暫く放っておきましょう。その方が後々スッキリするでしょうから」

「は、はあ……」


 と冷静に状況説明を終え応接室へと戻っていく。皆もそれに無言で続く。


 戸惑って動こうとはしない「お邪魔な」アリスはランが無理やり引っ張っていった。



 扉が閉まるとエマが皆に聞こえる様に呟く。


「アル、一応クレアの状態チェックだけしといてね。異常があったら直ぐに教えて」

「りょうか~い」




「あ、あれ? 姉様がいない?」


 真っ先にランが気付く。

 確かにテーブルの上に「置いた」筈のリンの姿が部屋のどこにも見当たらない。勿論テーブルの下にも天井にも。

 いるのはソファーで寝ているソニアだけだ。


「ふふ、相変わらずですね」


 落ち着きを取り戻したアリスが可愛く笑う。


「また逃げられたか」

「へ? 逃げる?」

「うん。ランがいるから基地からは出て行かないと思うけど、っていうか出られないんだったっけ?」

「「すいません……」」


 ランとアリスがすまなそうにハモった。


「まあ今は特に用事もないし放置しとこ。飽きるかランが恋しくなったら戻って来るでしょ。基地内なら位置情報でどこにいるかは分かるしね」

「引き上げる時までに戻って来なかったら?」

「その時はランに呼び出して貰えばいいっしょ、っていうか宇宙外に出たら追いかけて来るって」

「分かりました。その時までには責任をもって連れ戻します!」

「お願いね」


 クレアたちが落ち着くのを待つため、全員ソファーに座り直す。

 この部屋のソファーはテーブルを囲んで四脚置いてあり、三脚分は2~3人掛けのタイプ。


 アリスが座っているソファーだけ一人掛け用のリクライニング仕様で、この部屋にやって来た時から何故かこのソファーに腰掛けている。

 深々と腰掛けアームレストに腕を置き床に付かない足をブラブラさせながら。


 何処かで同じ光景を見たようなと思い起こせば、指令室にいた椿アリスも同じ様に座っていたな……と。


 他の者達は菜緒と菜奈は元の場所に、ソニアはソファー一脚使って寝かせているので、エマはランの隣へと移動した。


 腰を落とすと聞きたい事を思い出した。


「待っている間にアリスに質問してもいい?」

「はいどうぞ」

「レベッカのこと」

「えーーと、昨日の宿題の件ですかね?」

「先ずはそれ」


「はい、では回答をお聞かせください」


「やっぱり繋がりみたいな「何か」を使ってるんじゃない?探索者の繋がりとは違う何かを使って」

「うーーん。やはり難しいですかね。時間もあまり有りませんし、種明かしをしちゃいますね。でもその前に一つだけお話ししておきますが、昨夜見た「私達」は私特製の映像なんです」

「そうなの?」

「そのことについては後ほど。ただ昨日見た「私達」を実際に作り出す時は全て私から生み出す「クローン」となります」

「バイオロイドとは違うのよね?」

「バイオロイドも広域には「クローン」に違いありません。一般的には体の一部の細胞から一部、又は全身を作り上げて出来上がる生体ですから。ですが私が生み出す「クローン」は私の身体の「全ての細胞」を完全な形で分裂させ、その分裂した細胞を元と同じく再構築することによって生まれる完全なるコピー。つまり寸分違わない私自身」


「完全なクローン……」


「はい。この方法だと情報の劣化や変化は起こりえないし、全く同じ人間が誕生することになります。さらにこの技術の凄いところは部位にもよりますが「意識の共有」が可能であると言う点です」

「意識の……? どーゆーこと?」

「例えば今、エマさんは左側から私を見ていますよね」

「うん」

「ソニアさんの位置にもう一人、自分が存在していてそこからも私の事を見ているとします。どちらの状態も同時に自分が行っている行為として頭の中で認識出来るんです」

「? 難しくて分かんない」

「エマさんは左右の手を動かす時、意識して交互に命令している訳ではありませんよね?」

「うん」

「それと同じことです。単純に視野と感覚が倍になる、ということです」


「でもそんなこと普通の頭脳では無理では?」


「流石菜緒さん。入ってくる量が倍になるという事は処理する量も倍になるという事。新しく作られた身体の制御をするのは元となる本人。例え情報にフィルターを掛けたとしても同時に二人分動かすことは出来ずに直ぐに精神が限界に達するでしょう。私なら一人迄なら問題ないし大したアフターも必要無いですが、レベッカの場合は全探索艦とのやり取りが目的なので、システム全体を支えるのに途方もなく高度で膨大で莫大な費用と物資が必要となっています」


「……レベッカはクローン技術を利用して繋がっているということね」

「はい、それで正解です。当のレベッカ本人は探索部本部の工房内に、彼女のクローンに当たる「モノ」は艦AIに収められていますね。どの部分の細胞かはこの場では言いませんが」


「全ての艦に?」

「第一世代艦から漏れなく」


「と言う事はあながち間違いではなかった……」

「何が?」

「姉妹が艦に……いるって」

「…………」


「因みに工房に設置したシステムは、私自ら構築を行いました。勿論、解体や構造解析等は出来ない様に細工してあります。レベッカ本人にも「システムに手を出したら自爆してレベッカ自身跡形もなくなる」と忠告してあるので、未だにこちらの世界では一つしか存在していませんね」


「アリス……って何気に凄い人?」


 ランが目をまんまるにして呟く。


「私が凄いというよりもあちらの世界の最先端技術を使っているだけだから私がどうのこうの、ではないかな」

「アリスはそういうの全部覚えてきたの?」

「はい。私と姉はこちらの世界に来る前に最悪の事態を想定してここを少し改造していますので」


 自らの頭を指差すアリス。


「それで少し残念な性格になったんだな」

「は、はいーーーー?」


「まあアリスはいいとして、ならレベッカは80艦近い艦AIと今でも繋がってるってことでいいのよね?」

「うう……はい。数は厳密にいえばもっと多いですし、四六時中繋がっている訳ではありません。ただ先程も言いましたが普通の人間には絶対に不可能な数と繋がり、さらにその状態を維持するためにはどうしても「人の器」を捨てさらないと対応は出来ません」

「…………」

「ここで最初の話に戻りますが、レベッカと艦の「繋がり」を理解してもらえた事により、私のクローンを作ることは可能だということの説明が出来ました。ですが、クローンを作ったら作ったで後の問題が残ってしまいます」


「目的達成後、そのまま生かすか……処分するか」


「はい。バイオロイドのように「命」がないモノであれば割り切りは出来ますが、私のクローンは流石に必要なくなったからポイ、という事は出来ません。なので明確な目的や決意も無く自分を作ることはしません。なので実際に「私達」をお見せ出来なくて申し訳ありません」


「それはいいけど、意外と言うかちょっと安心したわ」

「何がですか?」

「アリスにも倫理観みたいなものがあったってね」

「当たり前です! 全く、私の事何だと思ってるんだか……プンプン! 他にご質問は?」


「次、基地ホームの「消失」の件について」

「はい」

「あの時基地ホームで何が起きたのか教えてくれる?」

「……いいですよ。ところで「あの時」の状況はどこまで知っていますか?」

「カルミアから、ロイズが基地AIを操って強制跳躍させたってことしか」

「そこは正解です。それで間違いありません」

「アリスはその事は知っていたの?」

「ハッキングの事ですか? 当然」


「そう……サラは?」


「どうでしょう? 細工された事は知らなかったと思います。ですが以前から用心はしていたし、最低限の対策はサラ主任から依頼されていたので私が代わりに行っておきました」


 あっけらかんと答えるアリス。


「アリスはハッキングの事は何で知っていたの?」

「まあ色々と」


「ロイズは何故あんな事を?」

「齟齬があったら困るので本人に直接聞いて下さい。私が言えるのは椿さんの想いに賛同したから、とだけ」


「賛同? そう言えばワイズはサラが自分の駒だって」

「はい。あの兄弟は各々かなり複雑な位置にいるので」

「複雑?」


「エマさん」


「は、はい! 何⁉︎ 急に真面目な顔して」」


「あの二人に対してあまり良い印象は無いかも知れませんが……」

「うん、無い! 全く!」

「で、でも彼らも彼らなりに努力はしているんですよ?」

「何を? セクハラの腕を上げる努力を?」

「はぁ〜今は彼らの話をする時では無いようですね」


「あいつらの事よりも「消失」が起きた時の状況を教えてくれない?」


「分かりました。お話ししましょう……」

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