軟禁生活? お約束!

 その後、夕食までの間は各々自由時間とした。


 執事さんがジャグジーの説明を終え私達を残し下がった後、菜緒と菜奈は、ジャグジーに一緒に入らないかとエマを誘ったのだが「クレアが起きてからみんなと一緒に入る」と断ってきたので「なら自分達もその時に」と一度は遠慮した。

 だがエマから「今後何が起こるか分からないし、入れる時に入っておいた方がいい」と勧められたので、二人だけで入る事にした。


 ランとソニアは外のプライベート空間の探索を二人でしに行くと決めていたようで、颯爽と出掛けてしまった。

 その時に、一応夕食までには戻る様にと言い付けておいた。


 マキは食ったら取り敢えず寝る!とラン&ソニアと一緒に出て行き中庭のハンモックがある所で二人と別れ一人ハンモックに向かった。


 その様子を二階のテラスから眺めていたら、ハンモックへの乗り込みに大失敗、腰から盛大に落ちたのを目撃してしまう。


 その音で門の付近にいたラン達が驚いて振り向くが、マキがバツが悪そうに手を振ると苦笑いをしながら出発して行った。


 マキはその後は何とか乗れたようで、今では気持ち良さそうに寝ているのが見えた。


 と言う訳で菜緒と菜奈の二人は今、誰にも遠慮する事なく姉妹仲良く入浴中。


 残るはエマだがクレアが寝ているカプセルを横にテラスの芝の上で大の字になり、珍しく空を長閑に流れる雲をボーと見上げ一人考え事をしていた。


 基地AIや艦AIにはアクセス出来ず、特にやれることはなく、今のところ唯一こちらから出来ることと言えば菜奈の特殊能力だけなのだが、彼女の能力ではどうしても「お友達感覚」での接触しか出来ないようで、接触するAIとの相性? 次第で成功出来るか否かが決まってしまうらしい。


 本人曰く、話し相手になってくれるAI友達もいれば全てを受け入れてくれるAI友達もいるし、いきなり会話自体を拒絶してくるAI友達もいて、AIの世界も人と同じく考え方が千差万別となっているのでややこしいとの事。


 まあ人工知能だからね。今じゃ人よりも個性豊かで人間味溢れていてもおかしくないか。

 でも補助AIにまで個性があるとは驚きだった。


 ノアとは結局宇宙服のやり取り以外での反応は全く無く、無事かどうかさえ分からない状態。


 でも考えたらこちらよりは格段に安全な所にいる訳だし、ノアちゃんのことだからアシ2号とくっちゃべりながら好物の「クリーム白玉あんみつ抹茶ソース掛け」を至福顔で食べていると思う。


 ただ連絡がつかないからといって突拍子もないことを始めなければいいけど……


 考えてみたらこういう状態が軟禁状態と言うんだろう。

 基地からは出れないが、行動の自由を束縛されている訳ではない。

 何かを強制されている訳でもない。だからといって何かが出来るわけでもない。


 ハッキリ言ってやる事がない。


 《もしかしたらアリスも今の我々と同じ状態なのかもしれない……》


 そう考えると理由は相変わらず不明なままだが、彼女に対し少しだけ同情心が湧いてきた。


 よし、次に会ったらもっとよく話をしよう!と心の中で強く誓うのであった。


 《でもあのアリスがあの金髪の少女……なのよね。でも何故か……とは容姿が違う》


 先程から何度も考えているのだが答えが全く見えてこない。


 夢に出てきた金髪の少女と仲間であるアリスとが今まで全く結びつかなかった最大の理由は、あの少女とアリスとの容姿が違っていたからだ。


 《司令室の時の様に自らに迷彩を掛けていたのなら、天探女あめのさぐめ主任に触れたあの時の様に、アリスにキスをした時に見抜くことが出来た筈。でも違和感は全く感じなかった》


 浴室からお湯が勢いよく流れ出す音が聞こえる。

 どうやら二人同時にジャグジーに入ったようだ。


 《アリスと天探女主任は知り合いだった……なら同じ技術を使えてもおかしくない……もしかしたらもっと高度な迷彩技術を使っているとか……または顔を整形したとか……はたまたレベッカかアルの記録記憶違いとかのオチだったり……》


 菜緒の可愛らしい叫び声が聞こえる……どうやら菜奈に、先程の説教に対しての報復を受けているようだった。


 でもその叫び声……嫌がってないよね?


 《レベッカ……か……彼女は確か探索部本部の工房…………こっちも「運命」なのかね……ん? 「運命」……》


 今度は菜奈の可愛らしい叫び声が聞こえた。どうやら今度は菜緒からの欲望丸出しの容赦のない逆襲を受けているようだ。って菜奈もあんな声出せるんだ……


 それにしても二人ともさっきから楽しそうにナニしてるんだか……


「ん…………」《ん? って声……あ、あれ?》


 クレアの声が聞こえた。

 咄嗟に身を起こし急いでカプセルを覗き込む。


 するとクレアが僅かに身体を動かし軽い寝返りをしている最中であった。


 それを不安と期待の入り混じった気持ちで眺めていたのだが、やはり目を覚ますことは無くまた気持ちよさそうに眠りについてしまう。


 だがクレアが寝返りをしてくれたことにより、自然と笑みがこみ上げてきた。


 と言うのもクレアはここに至るまで呼吸以外で体を動かすこともなく、今の様に寝返りすらせずに唯々眠り続けていたからだ。


 その様子を脇でずっと見守っていたエマからしてみれば「本当に目覚めるのか?」と不安で仕方が無いのは当たり前の事であった。


「どうしたの?」


 菜緒と菜奈がこちらに気付き心配そうに見ていた。


「え? あ、クレアが寝返りをね……」

「本当⁉︎」

「うん」


 二人が素っ裸のままジャグジーから慌てて駆け寄りカプセルの中を覗き込む。


「本当……動いた形跡が……ある」


「良かったね〜」


「うん! もう直ぐっぽいよね。早く起きないかな〜♪」


 待ちきれない子供の様にクレアを見てソワソワし出すエマ。


 そんなエマを微笑ましく眺める二人。

 そのままカプセルから静かに離れて並んでジャグジーへと戻って行く。


「二人ともありがと」


 途中で声が掛かり二人同時に振り向きエマを見たが、エマは笑顔でクレアから目は離さずにいた。


 そして菜緒と菜奈はお互いに見合ってから再びジャグジーへと歩き出す。


「菜奈」前を見据えながら小声で呼んだ

「?」何かを察し横目で菜緒を見る

「決してエマから離れないで」

「……分かった」

「私がもっと上手く立ち回れていれば」

「…………?」

「早くエリーさんかローナさんと合流しないと私じゃ力不足……かも知れない」

「どういう……意味?」

「全く……こんな事なら一度基地に引き返せば良かった」


 悔しそうに両手に力を入れる。


「大丈夫……だよ」

「え?」

「菜緒が……諦めなければ」


 顔だけ菜緒に向け微笑む。


「私が……?」

「うん」

「……そうね。ゴメン、私ちょっと弱気になっちゃったかな」


 俯く菜緒。


「ううん……そんなことない。菜緒はいつも優しい……私の大切なお姉ちゃん」


「お…………⁉︎」


 立ち止まり信じられない物を見たかのような表情で菜奈を見る。


「?」見つめ返す菜奈


「……もう死んでもいい……」


 突然大粒の涙を流し始めたかと思いきや極上の幸福顔で呟き、いきなり菜奈の首に抱き着く。


 ずっと待ち望んでいた言葉。

 何度もお願いしようとしたが恥ずかしくて結局言い出せず、自分の意気地の無さを恨み既にあきらめていた言葉。

 それがこのタイミングで菜奈の口から聞けたのだ。


 生憎と信仰心等は微塵も欠片も持ち合わせてはいなかったのだが、この時ばかりは「偉大な神」に心の中で感謝の言葉を連呼しまくった。


 《我が生涯に一片の悔い無し》と……


 対する菜奈は姉とは逆に、至って冷静。

 姉の態度の急激な変化に頭の中で「?」を抱きながらも幼子をあやすように、頭をよしよしとナデナデしてあげた。


 その様子は青々とした天然芝の上、周りには色鮮やかな花々。

 さらに髪型と目元以外は全く同じ、美人でないすばでーの双子が素っ裸で熱い抱擁を、という部分も加点・吟味された結果、女神同士の抱擁と呼べるほどのとても美しい光景であった。



 入浴後二人は待機していたメイドさん達に身体の隅々まで拭いて貰い真っ白な下着とバスローブまで着せて貰う。


 そして寝転んでいたエマの隣へと向かい、三人で川の字で横になり同じ様に空を見上げて夕食まで雑談をしながら過ごした。


 話は少しだけ戻るが、始めに菜緒と菜奈はジャグジーに入ろうとしたところ、スカートの裾がかなり短めのメイドさんが唐突に現れ、着替えやらタオル類を用意してくれたのだが、その時に着ていた宇宙服も整備・クリーニング出来ますと言ってくれたが、菜緒が最後の命綱とも言える宇宙服を渡すことにかなり抵抗があったようで一度は拒んだが、その時にあの執事さんが現れ「クリーニングと消耗品類の補充しか致しませんのでどうかご安心を。特に本日貴方様方は災難に見舞われたご様子、クリーニングは念入りに行いたいと思います」と深々と頭を下げて説明してきた。


 それを見た菜奈が躊躇いもなく自らの宇宙服を渡してしまった為、仕方なく自分の物も渡すことにしたのだ。


 なので折角だからと二人とも用意してくれた下着とその上に真っ白なバスローブを纏っていた。


 因みに渡した宇宙服だか三分も経たずに返してくれた。



 三人はいつの間にか寝てしまった様で、エマがふと目を覚ますと空が赤らんでいるのが目に入った。

 それと共に、遠くからキャッキャと話し声が聞こえてきたので、ムクリと起き上がり声が聞こえている庭を覗き込むとラン&ソニアが髪の毛びしょびしょのワカメ状態で門を潜り抜けるところであった。


「お帰り〜」


 テラスの手摺りにもたれ掛かりながら声を掛けた。


 中庭まで入って来ていた二人はエマに気付くと両手を振って答えた。

 と、その脇のハンモックに目をやるとマキの姿はどこにも無かった。



「どうしたの? その髪は?」

「途中で雨降られたんです」

「あらあら。そのままお風呂入れば?」

「「はい!」」


 と返事をすると二人揃って中庭から空高くジャンプ、二階のテラスにいるエマ達の上を一回転しながら飛び越えてそのまま直接舞い降りた。


 二人揃って見事な着地。

 これは誰が見ても文句のつけようがない10点満点。


 相変わらず反重力シューズの扱いが上手だこと。



 若いって……いいよね〜



「ただいま帰りました〜」

「帰還しましたなの〜」

「お帰り〜」

「お姉様、マキさんの姿が見当たりませんが?」

「おう! ここや、ここ!」


 三人が声がした方を向くと、グラス片手に大の字となり一人巨大なジャグジーを占有、満喫しているマキがいた。


「いつの間に……しかもバカンス状態」

「いや、四人とも良う寝とったし、声掛けたら悪い思ってな」

「四人……?」


 隣を見ると菜緒と菜奈が並んで寝ていた。

 慌ててクレアを見ると、また寝返りを打ったようで先程見た時とは反対側を向いて寝ていた。


 どうやらいつの間にやらみんな寝入ってしまっていたようだ。


「そうだった! お姉様にご報告があります!」

「そうなの! 怪しい物、見つけたなの!」

「へ? どこで?」

「湖の底で何故か転送ルームを」「見つけたなの!」

「へ〜よく見つけれたね」

「潜ったの!」脇のランが頷く

「二人で?」

「初めはソニアだけで」

「なのなの!」

「よく潜れたね」

「頭部保護シールド使ったなの!」

「お! そうか!」

「ソニアったら行く先々で手当たり次第「ここ怪しい! なの!」って」

「はは、じゃあ散策は楽しめたのね?」

「はい。お陰様でほぼ全球散策終了です」

「なの! 牛さんもいたなの! 生は初めて飲んだなの!」

「生? 牛乳のこと?」

「そうです! 取れたてホヤホヤの生乳なまちちです! 飼育担当さんが分けてくれたんですよ」

生乳なまちちって・・」

「これで明日には」「大きくなってるなの!」


「「いえ〜〜い!」」


 お互い向き合い親指立ててグーを突き合わせた。


「それは楽しみね。それじゃ早速お風呂入っといでー」


「「了解!」」


 二人が脱ぎ捨てた宇宙服をメイドさんが片付けるのを横目に元の場所へと戻る。


 そして再度クレアを見ると今度は仰向け状態へと戻っていた。


「早く起きないかな〜♪……そうだ!」


 定番のお約束事を思い出し、早速実行に移してみた。


 ちゅ……


「…………ん……エマ?」

「……クレア?」

「おは……よう。……どうしたの? なんで泣いてるの?」

「ううん……何でもないよ。お寝坊さん」

「……うん、おはよう。空が暗いけど今は夜?」

「うん、そうかもね」

「何故泣いているの?」

「うん……クレアが戻ってきて……くれたから、嬉しい」

「?」

「何でもない……それより起きれそう?」

「ええ……よいしょっと。あれ?ここはどこ?」


 辺りを見回すクレア。


「ん?ここ?ここは……」と言った途端、ついに耐えきれなくなってしまったのかクレアに抱きつき大声で泣き始めてしまう。


「ど、どうしたの?」驚くクレア



「うわーーーーーー」



 答えずそして憚らず泣きじゃくるエマ。


 そんなエマを見て一旦理由を聞くのをやめ頭を優しく何度も撫でることにした。


「な、何⁇」

「エマちゃん⁉︎」

「何や⁈」

「お姉様⁉︎」

「何事? なの⁉︎」


 エマの泣き声に全員が反応、一斉に視線を向けると、クレアが上半身を起こして座っているのが目に入った。



「「「「「あ‼︎」」」」」



 起きているクレアを見た途端、皆、反射的に動いていた。

 そばで寝ていた者は立ち上がり、入浴していた者はそのまま駆け寄り、クレアを囲む様にして集まった。


「良かった……良かった」


 明らかにホッとしている菜奈。


「良う寝れたか?」


 同じく笑顔のマキ。


「え? ええ。バッチリ!」


「そう。身体の方はどう? どこか変な感じとか違和感とかは無い?」


 こちらも安心した表情で問い掛ける菜緒。


「……ううん。特に……変わらず」


 微妙に身体を動かしてみるが、どこにも異常は感じられなかった。

 確認の合間も手は休まずエマを撫で続けた。


「分かった。あともう一つ確認しておきたいのだけど、どこまで覚えてる?」


「覚えてる? …………あ!れ、レイア⁇」

「そう」

「どうして⁉︎」

「事情があって亡くなったと偽装していたらしいの」

「事情? 偽装? 何故?」

「そこまでは……あの人は貴方のお姉さんで間違いないみたい」

「そう……亡霊じゃなかったのね。あ、そうか、あの時に私、気を失っちゃったんだ」

「あれからエマちゃん……片時もクレアから……離れようとはしなかった」

「そうなんだ……ごめんね……エマ」


 謝りながら頭を撫で続けるが泣き止む気配はない。


「起きれそう?」

「ええ、もう大丈夫。でもその前に」


 エマの肩を優しく叩く。

 すると涙と鼻水でクシャクシャの顔をやっと上げてくれた。



「エマ、ありがとう。ずっとそばにいてくれたんだ」


「ゔ、ゔん」


「ありがとう。もう大丈夫。だからもう泣かないで」


「ゔん。ぐれあまで、私の前から、いなぐなるかど、思っだ」


 ポロポロと涙を流すエマ。

 上手く話せず咽びながら答えていた。


「……そんな事にはならない。私は貴方のそばにずっといる。もう決して離れ離れにはならない。だからもう泣かないで」


 指で涙を拭いてあげる。


「……うん」


「よし! これで全員揃ったな?ならエマや、クレアが起きたらどないするんやったか?」

「……お風呂に一緒に入る」

「しかと覚えとったな? なら先に行っとるで〜。ランとソニア、それと菜緒と菜奈も、二人をひん剥いてから連れてきいや!」


 エマの脇で貰い泣きをしていたランとソニアだったが、マキの発言に対して目を血走らせながら敬礼をし叫んだ。


「「了解ラジャー‼︎」」


 威勢の良い声が響き渡った。

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