交代! 次は私?

 現在20時過ぎ。一階ロビーを挟んだバンケットルーム風食堂の反対側のにあるサロンで食後の平和な一時を過ごしていた。



「アリスはまだ来ていないようですね」

「そう言えば……遅いなの〜」


 レイアの様子を見てから合流すると言っていたアリスだが宇宙服のやり取り以降、全く連絡が無かった。


「うぅ〜〜〜〜」しかめっ面でうめき声を上げるエマ

「ヒリヒリするね〜」愛想笑いを浮かべるクレア

「まだ……治まらない?」心配そうな菜奈


「ご、ゴメンなさい!」菜緒が慌てて頭を下げた



 クレアが目覚めたあの後、早速全員で入浴をしたのだが、エマとクレア以外は既に一度は体を洗い終えていたので「たまには洗ってあげる」と、二人がお願いもしていないのに半ば強制的に全員が二人の体の隅々まで、時間をかけ、とても丁寧に洗い上げてくれたのだ。


 ただ洗い始めは皆、笑顔で大人しく洗っていたのだが、さわやかな笑顔とは裏腹な欲望丸出しのランとソニアが徐々にエスカレートし出すと、二人の雰囲気に当てられた菜緒までもが鼻息を荒くさせ、マキと菜奈が本気で三人を止めに入るまで、二人に対して暴走しまくる事態へとエスカレートしてしまった。


 その時の三人のとても献身的な洗い方のお陰でエマとクレアの二人は因幡の白兎状態に成り果ててしまっていたのだ。


 現在の服装だが、入浴時にエマ・クレア・菜緒・菜奈の「天探女主任特製改造宇宙服」を着用している四人組は暫くの間、クレアとレイアの体調の変化の原因を探るため、敢えて着用はせず様子を見ることとしていた。


 その為、今は入浴後にメイドさんが用意してくれたお揃いの下着とワンピース型の純白なスリーパーを全員着ていた。


「う、うん。クレアもかなり赤いよね」

「ははは……」

「菜緒……もう一回ちゃんと……謝る」

「ゴメンなさい……私ったらどうしちゃったんだろ」

「何やかなりしの〜。嬉しいことでもあったんか?」

「菜緒さんの本心が垣間見れて、とても良かったです!」

「仲間が増えたなの!」

「仲間って……お前らちっとは自重せえ」

「「えへ♡」」

「はは……でもこれくらいならクレアはもう回復してても良さそうなのにね」

「そう……治りが遅い……と思う」

「宇宙服着たら早く治るかな?」

「そこまでの機能はないと思うけど」

「ま、垢すりやった跡だと思えばいいか!そのうち治るっしょ!」

「それにしてもアリス遅いですよね~」


「おう! ちょっとええか?」


 入口脇で待機していた執事さんを手を上げて呼び寄せる。


「はい、御用でしょうか?」

「おう、スマンな。アリスと連絡取れるか?」

「お嬢様ですか? はい、可能ですが。お呼び致しましょうか?」

「頼むわ」

「少々お待ちを……」


「ねえ今、お嬢様って……」


 ソニアに小声で話しかけるラン。


「言ってたなの!」


 同じ様に小声で返答するソニア。


「はい、お待たせしました」


 マキの前に空間モニターが現れアリス椿が映った。

 モニターから声が聞こえ始めるとすぐさま皆がマキの後方に移動しモニターを覗き込む。

 するとマキ一人のみ見えれば十分な大きさであった空間モニターが、どの位置からでも見易い様に湾曲、サイズも大きく変化した。


「アリスか? レイアの姉ちゃん、どんな塩梅や?」

「御覧の通り今は安らかに寝ていますよ」


 画面が笑顔のアリス椿から脇のベットで寝ているレイアが見えるまで広がり、先ほどまでのクレアと全く同じ状態・表情が映し出された。


「その後そっちは何か分かったんか?」

「いえ、何も。そちらは? クレアさんは起きられたみたいですが?」

「おう、この通りピンピンしとるわ」


 モニターに映っているアリス椿の視線がエマの脇にいるクレアへと移動し静止した。するとアリス椿は立ち上がり深々と頭を下げながら再度謝罪を始めた。


「先程は私の配慮が足りず貴方にご迷惑をお掛け致しました」

「……私はもう大丈夫です。それよりこちらこそご迷惑をお掛けしました。それよりもレイアは?」

「御覧の通り、今は落ち着いています」

「そうですか……」


「それとエマさん、もう一度謝らせて下さい」


 今度はエマに視線を移す。


「その事はもういいよ。君の事はもう一度だけ信じることにしたから」

「そ、そうですか? ありがとう……」

「それよりこっちに来れない?」

「え? 行きたいのは山々なんですが……彼女を一人残しては……」

「ならウチが交代したる」

「え? いいんですか?」

「ええよ。脇にいるだけでええんなら」

「そうですか……お願い出来ます?」

「構わへん。起きたらそいつとも話しもしたいしな」

「それでしたら、そこの館の執事に転送装置の場所まで案内して貰って下さい。マキさんが到着次第、交代しましょう」

「了解や」


「マキさん」


 菜緒が真面目な顔で声を掛けてきた。


「なんや?」

「念のため宇宙服を着て行って」

「……分かった」

「マキ……レイアが起きたら教えて」


 エマも真面目な顔で声を掛けた。


「それはかまへんが……連絡手段はどないする? 未だにどっちもアクセス出来へんよな?」


「連絡が取れればよろしいのでしょうか?」

「何かいい方法はある?」

「それでしたら当方のバイオロイドメイドを同行させましょうか?」

「可能なの?」

「皆様方からのご依頼、という形であれば」

「依頼?」

「はい。初めにご説明致しましたが、この区域は主のプライベートエリア。本来、この地へは主の許可がない限り何人なんぴとたりとも立入ることは出来ない仕組み及び基地側との取り決めが出来ております。逆にこちら側からも我々も含め基地側へと赴く事は主の指示がない限り一切出来ません。ですが主の許可を得ている方はその範疇ではない、つまり皆様に関しましてはこちら側への出入りは自由となっております。さらに皆様は探索者。あちら側での行動の制限はないかと」

「そうなの?」

「はい。その主のお客様のからのご依頼で我々は付き添いを命じられた、ということであれば問題ありません」

「連絡役を買って出てくれるってこと?」

「はい。ただしこちら側のメインAIと基地のメインAIはそれぞれ独立しており相互アクセスは出来ないため、主以外の方は基地あちら側での連絡手段は当方のメイドを通した通常通信による会話のみとなります」

「お願いします」


 菜緒が軽く頭を下げた。


「同行するメイドに関して何かご要望はございますか?」

「要望?」

「外見上のことです」

「見栄えはどうでもええから話し好きな奴にしてくれへんか?」

「かしこまりました。その様に手配を掛けておきます。それでは準備が整いましたら何時でもお声をお掛け下さい」

「あ、あと酒とアテも頼む!」


「マキ……ありがとう」

「なんやクレア、改まって」

「本来なら私が……」

「また倒れられても困るし、会うのは起きてからでも遅くはないやろ。ま、姉妹の感動の再会は後々の楽しみに取っといたらええ!」

「そうする」

「よし! そんじゃ早速着替えてくるわ!」


 マキの準備が終わりサロンに戻ってくると、頭には大きめなホワイトブリムを被り多少控えめなメイド服を着た小柄な女性が、大きめな竹で編まれたバスケットを下げて入ってきた。


「この者が同行致します」

「ステラですね。よろしくお願いしますね」


 執事さんに紹介され一歩前に進み出て自己紹介をする。


「よろしくな!」


 マキが手を上げて挨拶すると再度ペコリと頭を下げた。


「「「あっ!」」」


 下げた頭を見て皆が一斉に声を上げた。


「それ、カチューシャかなんかか?」

「いえ、ホンモノですね」

「ホンモノ?」

「主の趣味なんですね」

「触ってもいいなの?」

「どうぞ。ただし優しくお願いしますね」


「ふかふかのもふもふ〜〜なの~~」


 癒し顔のソニア。


 主の趣味って……しかし良く似合ってるら、あの……


「…………」


 耳を撫でているソニアをジッと見つめる菜奈。


 菜奈もナデナデしたいのかな?


「そんじゃ行くか!」


 そのまま執事さんを先頭に二人は部屋から出て行った。



 そのままサロンで待っていると、三分程で部屋の扉が音もなく開くとそこには毅然とした表情の執事さんが立っていた。


 執事さんはその場で我々全員が揃っているのを確認してからさらに室内へと数歩歩みを進むると直ぐに脇へと移動、体の向きを変えロビーに向け深々と頭を下げ、その体勢のまま微動だにしなくなる。


 彼女の唐突な行動に、今までの和やかな振舞い、表情とは明らかに違う様子に呆気に取られながら見ていたところに、ロビーの暗闇からアリスが姿を現した。


 執事さんの前までアリスが来ると頭を上げ体勢を戻しす。


「お嬢様、先にお食事になさいますか?」

「はい、お願いします」


 一旦立ち止まり耳を傾けるアリス。


「ご入浴はいかがになさいましょうか?」

「食後で」

「かしこまりました」


 アリスが再び歩き出し目の前を通り過ぎると再度深々とお辞儀をし、頭を下げたまま入ってきた扉を自ら閉めて出て行った。



「おおおお嬢様ーー⁈」


 我に帰ったランが大声で叫ぶ。



 その声にビクッと反応、ランを見るが直ぐに平静を取り戻り笑顔を向けた。


「もしかして「主」って……アリスのこと?」

「主? ここの?」

「そう」

「はい正解」

「……あ」

「……あ?」

「あ……アリス……ちゃん?」

「ちゃん?」

「私達……と、友達よね?」


 モジモジし出すラン。


「はい? 改まって一体どうしたの?」

「…………」

「…………」

「ランはね、ここが気に入ったって」でいいんだよね? ラン

「あ……いつでも遊びに来てね。ランさん」

「いいの?」

「勿論。友達だから、ね?」

「私も! なの!」慌てて手をあげるソニア

「はい、ソニアさんも」

「「やったーー‼︎」」抱き合って喜ぶ二人

「はは……でもその前にここから出ないと……」

「そう! なんでエリスに軟禁なんかされてるの?」

「それは……えーと」

「えーと?」

「秘密……です♡」可愛らしく首を傾げた

「…………」ジト目で見つめるエマ

「と言うか私からは話せないんです」

「何故?」

「そういう約束なんです」

「はーー? 訳わからん」

「あはは、先にご飯食べてきますね♪話しはその後で」


 とペコリと頭を下げて笑顔を振りまきながら逃げるように小走りで出て行った。


 その後エマ達はメイドさんに促され寝室へと移動、部屋で思い思いの時間を過ごしていると、ランとソニアは眠くなったのかベッドに潜り込み眠ってしまった。


 残りの四人は椅子に腰掛けメイドさんに用意して貰った飲み物片手に雑談をしながらアリスが来るのを待つことにした。


 と程なくして執事さんを引き連れたアリスがやってきた。


「え~とお待たせしました……と二人は寝ちゃいましたね。でもちょうどいいかな。皆さん場所を変えませんか?」


 と執事さんに目配せをすると、執事さんはお辞儀をしてから一人部屋を退出して行った。


「それではテラスで」


 にこりと笑顔を作り一人テラスへの扉へとゆっくりと向かい始めるとエマ達も立ち上がり引き寄せられる様にその後を付いて行く。


 アリスが扉の前まで来るとなんの前触れもなく独りでに扉が開いた。

 エマは扉の開き方に違和感を覚えた。特に気にすること程の事ではないのだが、ここまで扉を開ける際には必ず誰かしらの手によって開かれていたのだが、今回初めて人の手によってではなく、自動で開くのを目撃した。


 その開き方はとても自然で、扉自身がまるで意思を持っているかの如く動いたのだ。


 アリスに続きエマ達も出て行くと、自分たちが通って来た扉から漏れている光に照らされて先程退出して行った執事さんとさらに10人近くのメイドが一列で並んで待ち構えていたのが見え少しだが驚いてしまう。


 彼女らを気にも留めずごく自然にその前を通過していくアリス。


 全員がテラスに出るとまた扉が音も無く閉まり、テラスが暗闇に包まれた。

 全員が振り返り扉を見ると暗闇の中、気配もさせず一人のメイドさんが扉のそばに立っていたので少し驚いた。


 どうやら扉の意思による自動開閉ではなく彼女が開け閉めをしてくれていたようで感じた違和感が杞憂で終わりホッとした。


 明かりが無くなりテラスが暗闇に包まれると、すぐに足元からごく微量の光が灯り始めたので下を見ると、足元の芝生自体がホンノリと発光しており、すぐに芝生全面が同じ様に発光し出し幻想的な空間へと変貌した。


 エマ達全員、自ら発光する植物なんて見たことも無いし聞いたこともない。なのでどのような原理とかは分からないが、必要に応じて光る様に芝生を改造したのだろう。


 一見、面白いアイデアだとは思うしやろうと思えば今の技術レベルなら簡単なんだろうがこのご時世、こんな趣味に近いことを考える研究者は一部を除き全くいないと思う。


 テラスの中央にある陶器製の円卓の上には五個の蝋燭が灯してありそこへと導かれた。アリスには執事さんとメイドさんが一人、それ以外の者にはメイドさんが二人ずつ付き椅子を引いて皆を座らせてくれた。


 着席するとメイドさんが個々に飲み物のオーダーを確認、執事さんを残しメイド達は一旦下がっていく、が数分後には手に飲み物を携えて一列に並んで戻って来て全員に配っていった。


 準備が済むとアリスの後方2m程の所に執事さんを残し、全員さらに後方の壁際にて一列で並んで待機をした。


 その光景を四人は終始落ち着きなく眺めていた。


「大丈夫ですよ。彼女達が襲いかかってくるなんてことはありませんから」

「ねえ、プライベートエリア

 ここって

 アリスの持ち物なの?」

「持ち物……所有者ということでしょうか?」

「そう」

「そうですね……私で間違いありませんね」

「一体どうやって所有者になったの?」

「説明すると長くなりますよ?」

「二話分くらい?」

「もう少し長い……かな。まあ端的に説明するとすれば協力しているお礼……プレゼントされた物ですね」

「ぷ、プレゼント⁇ 誰から?」

「ふふふ」

「もしかして……椿?」

「ぶぶ〜〜不正解」

「違うの⁈」

「はい全く違います」

「じゃあ誰?」

「その内解るでしょう。でもヒントくらいなら……一応政府の一員?」

「はい?」

「あはは、エマさんその顔とっても素敵です!」

「こ、こいつ……」

「因みに物資やら経費の出所は政府となっていますね。私は費用等は一切払っていませんから」


「ところでクレアさん。その後、体調はどうですか?」

「え? えーと今は何とも……」

「そうですか。突然倒れられたので内心結構慌てていたんですよ?私」

「どうだか……」茶々を入れるエマ

「本当ですって! でなければあんなミス、というか言葉足らずな行動取りませんって!」


「まあ、そういうことにしとこう。そういえばやっと腫れが治まってきたね」


「あ、ホントだ」お互いを見合う


「腫れって何ですか?」


「さっき暴走娘達に私とクレアがご無体な仕打ちを受けてね。全身赤く腫れてたんよ」


 ジト目で菜緒を見る。菜緒は直ぐに目を逸らし赤面し俯いた。


「ご無体な仕打ち?」


 何故かアリスの目が輝き出した。


「なんでそこに興味を示すんだ? 君は」


「え? い、いや~」


 顔を赤らめ明後日の方を見るアリス。


「でも思ったより治るの……時間が掛かったよね」

「うん。クレアなんかもっと早く治っても良さそうだけどね」

「倒れたことと関係あるのかしら」

「どうなんだろ」

「エマさん、クレアさん」

「ん?」「はい?」

「もう一度だけクレアさんの体を調べさせて貰えませんか?」


「…………」


 エマの片眉がピクリと動いた。


「げ、原因、知りたくありませんか?」

「だってさっき調べた時は分からないって」

「あれは基地のアンドロイドだったので。今度は私のバイオロイドを使って調べます」

「どう違うの?」

「こちらのは私自らが手を加えているのでかなり高性能ですよ」

「見るだけ……だよね」

「はい。頭のてっぺんからつま先まで隅々」

「検査の方法は?手をかざすだけ?」

「え~と、説明が難しいので実際にやった方が……」

「どうする? 菜緒姉」

「よし! それならアリスさん、貴方が先に受けて下さい!」

「わ、私がですか⁈」

「そう。クレアに行う検査と同じ内容と結果を皆に分かる様にモニターにでも表示させること」

「え~~別に構いませんけど~~」


 若干ブーたれながらも執事さんに目配せをし、医務担当バイオロイドを呼び寄せさせた。


「それでは始めますね……で、出来ればあまり……ジロジロ見ないで下さい……ね」


「それはフリ?」


「へ?フリって?」


「見ろってこと」


「うーーーーもうどっちでもいいですぅ!」



 アリスは白衣を着た高身長のないすばでぃ―な医療担当バイオロイドの前で背を向けて立ち尽くす。


 するとバイオロイドはアリスの後方から抱きつきアリスが抵抗出来ない様、上腕の上から手を回し、右手は首筋に当て、左手でエマよりは若干標高が低い丘を中心に上半身に手を伸ばしてまさぐり始めた。


 特に首筋の方は親指で顎を上に持ち上げ、人差し指は耳の中へ、残りの指は首筋へと伸ばしていた。左手の動きに反して右手は全く動かさずにいた。


「ん……あん……」


 真っ赤に上気させた顔でとても気持ちよさそうに声を漏らすアリス。


「「!」」


 以前どこかで全く同じ光景を目撃したエマと菜奈が驚く


「「…………」」


 初めて見た菜緒とクレアはその光景を真っ赤な顔で何度もチラ見する。


 その光景、下方からの僅かな光のみの薄暗い中、何故か妖艶な笑みを浮かべた女性と必死に何かに耐えている表情の少女とが絡み合っているという一種異様なとても危険な雰囲気が漂っていて、ギャラリーは言葉を発することが出来ず、唯々唾をのみ込む音だけが何度も聞こえていた。



 検査が暫く続いた後

「は~~気持ち良か……こほん!これで終了です」

 と、とてもスッキリとした満足そうな表情でメイドさんに汗を拭いてもらいながら皆に向き直るアリス。


 そんなアリスをエマと菜奈は蔑んだジト目を、菜緒とクレアはキラキラさせた目を向けていた。


「み、みなさんなんですか?その淀んだ目と輝いている目は?」


「……フッ」


「ううう……」


 ま、こいつも紛れもないBエリアの探索者だったってことだな。

 しかしあの検査の方法は……



 程なくして皆の前に空間モニターが現れアリスの検査結果が表示された。


「……別世界人?」

「はい」


「……212歳?」

「はい……え⁉」


「……純潔?」

「はい♡」


「……真性のドM?」

「は……へ?」


「エマちゃん!」


 首だけをエマに向け真顔で聞いてきた。


「なーにー?」

「ドMって……何の事?」

「そいつの事」嫌そうにアリスを指差す

「ワーーーーーー!」



「役に立たん情報ばかりぜよ。こりゃ使えんわ!」

「そんな事ありませんって! 私の可愛らし~い秘密情報が満載じゃありませんか!」

「フッ……自分で「可愛らしい」って言ってるし。それにあんな秘密知りたくもないわ」

「ううう……次はクレアさんの番です!」

「どうする? クレア。止めとく?」

「う〜〜ん」躊躇う? クレア

「ちょっ、ちょっと……それなら次はエマさんが!」

「クレア、頑張れ!」肩を叩く

「……うん」


 頬を赤らめエマをチラチラ見ながら頷いた。


 拒否は……しないのね……



「んん〜〜あっ……ん〜〜」



 全員クレアから目が離せない。アリスなんか遠慮せず限界まで目を見開いて鼻息荒くしてるし。他の者も赤面しながら検査中のクレアを直視したまま視線を離せなかった。


 そう、アリスの時とは違い完全な禁断の香りが漂っていたからだ。


 対するクレアも薄目を開けたまま、エマから視線を離さず身体を微妙に捩りまくっていた。


「なんか……癖になりそう」


 検査後、椅子にもたれ掛かり、流し目をエマに向けながら満足そうに呟く。


「つ、次は私の番……よね?」


 よね? って……おいおい菜緒さんや、アンタはやらんでええねんって。


 てゆーか、クレアに続きアンタまでやったらみんな出血多量で暫く入院になっちゃうでしょうが。



 まったく、右も左もMだらけなんだから……



 急いで菜緒を我に返した直後にクレアの検査結果が表示された空間モニターが各々の前に現れ、それに見入ると誰もが声を失った。


「「「「「!」」」」」


 空間モニターには目立つように赤文字でこう表示されていた。



『警告:重要追加事項・・生体強化強制解除済」と……

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