第47話 準備! 密会?

 

 各エリアを回るのは明日からの予定なのでもう一泊しても良かったが、出発前に片付けておかなければならない事があるので早めに戻ってきた。


 一つめは三割ほどまで小さくなってしまったワイズ艦の修理。

 ここまで見事に破壊されると基地での修理は不可能。唯一直せるのは探索艦を新規艦を造る能力を有した探索部本部のドックしかない。

 なので本部にワイズ艦を持って行かなければならないのだが持っていけば無条件で直してくれる、という訳ではない。

 探索艦を修理する際の必須条件としてエリアマスターであるエリアマスターサラの依頼書が必要。逆に依頼書さえあれば、機密に該当する部品を基地に送ってもらい(簡単な修理であれば)基地の設備でも修復は出来る。

 だかここまで酷い壊れ方をしている今回は、調整も含めて基地ではキャパシティーオーバーで手に負えない。


 それらのことから今回は本部での修理一択となるが、探索部の仕組み上、探索艦の「運用」はエリアマスターに一任されているのと同じく「修理」に関しては探索部本部長(男性)の管轄てなっている。

 なのでサラ自ら本部長(男性)と交渉、細やかに事情を説明し納得させなければ修理は受けられない。

 何故この様な仕組みにしたかだが、エリアマスターに権力が集中するのを防ぐため……ではない。全ては探索者のためと「探索部の長」が決めた。


 その上で今現在のBエリア主任はエマである。

 探索部規定でいけばサラが戻った時点で自動的に権限が返上されるのだが、(理由は不明だが)サラが現状維持を望んだために未だにエマが(表面上は)エリアマスターとなっている。

 ただエマはあくまでも「代理扱い」なので、エリアマスターに与えられた多くの権限は制限されている状態なのだが、マスター権限の全容を知らないエマからしてみれば「制限されている」という事実には気付いていない。

 知らないからこそワイズの働き具合によって徐々に元に戻すと安易な発想に至り、修理に行くと言い出したサラ対して「急ぐ必要はないんじゃない?」と言うのだが、サラにその案を切り捨てられた。


 その時サラは「あいつと取引きすると痛い目をみるぞ」と、忠告みた発言をして。


 この言い回しはサラなりの配慮から。

 知らぬが故の発言だし、一時的に貸し与えている権限なのだから詳しく教える必要もない。仮に教えたとしても、今のエマにはマイナスにしかならないと思ってのこと。

 そんな配慮を悟られずに済ます為の方便。

 ただ方便ながらもエマには効果的な文言だったので、文句も言わずに素直に引き下がった。


 手続きが順調に進めばワイズ艦を預けた上で、往復二時間程で二人一緒に帰ってくるとのこと。

 早速改造偵察艦に跳躍能力を喪失しているワイズ艦を「くっつけて」からワイズと共に本部へと向かった。



 捜索組のマキとランも今日は基地内待機。捜索活動は明日以降となる。

 対象惑星も選考してあるので後は向かうだけ。こちらは継続した活動で特に変更は加えない。



 次は二つめの課題。

 残る選択をしたクレアも訓練相手となるワイズが不在なので取り敢えずは基地内待機。なのでワイズが戻るまでの間に訓練環境の整備をしておく。


 訓練場は保養地。これは決定事項。

 どのような内容にするかだが話し合いの結果、先ずはワイズとの実戦形式とした。

 クレアは元々情報部で一通り戦闘訓練を受けているし、今は生体強化も施されている。

 ならば限られた時間内でレベルを上げるなら実戦形式が一番だろうと。


 ワイズの動きにある程度慣れたら防衛兵器と一対一でのサバイバル形式にし、徐々に難度と敵を増してゆく。

 その試練を乗り越えられたら仕上げとして再度ワイズと対戦、総仕上げを行うこととした。


 対戦相手はお喋り戦車タンクと太い眉毛のスナイパーアンドロイドの二種類。

 愛嬌たっぷりのお喋り戦車タンクは近接・中距離タイプで、太い眉毛は長距離専門。

 あくまでも訓練なので殺傷兵器は取り外し全てマーカー弾に取り換え、さらに迷彩はかけないで対戦とする。

 勿論運動性能もクレアに合わせたレベルに落とす。

 逆にクレアにはノアに作って貰った武器と、さらに各種お助け装備品を供与し、戦力差を減らす。


 またノアと話し合った結果「精神鍛錬イメージトレーニング」を訓練メニューに追加した。

 これは先日クレアの脳内チップに細工した件とも関わりがあり、今のうちから慣れさせておけば、で慌てなくて済むからと取り入れた。

 ワイズ艦にて実証済みなので、エマやノアからしてみれば、陸戦を前提とした戦闘訓練よりもこちらを重視していた。


 それは何かと言えば、ノアが基地自衛目的で作り、結果的に味方であるワイズ艦を破壊したシステム。

 その兵器システムとはDエリアのソフィア艦の外装の残骸を数個に纏め、その塊にノアが改造を施した小型の反重力推進装置を搭載した「質量兵器」を指す。

 この兵器は自身の運動エネルギーによる対象物の物理突撃破壊を目的とした電磁波や化学反応といった作用を一切伴わない攻撃。物質を目標に向け最高出力で打ち出し破壊する、反物質すら弾く世界最高の強度を誇る物質を用いた単純な兵器。


 このシステムは「ビームを出さない自立型ファン◯ル」と言えば分かり易い。

 操縦者であるクレアが命令を与えれば後は勝手に攻撃するといった代物。

 ただこの兵器はクレア同様、今現在は完璧とは程遠い。

 現時点では「直線運動」しか出来ないという弱点を抱えている。

 以前サラが「初弾を躱わされると……」と発言していたが、動き回る相手に当てるにはかなりの難易度であり、努力や根性ではカバーしきれない問題。

 この問題を解決に導いてくれる救世主が一人だけいた。


 作成者であるノアの専門はハード開発でソフトには疎い。いや疎いと言ってかなりのレベルではあるが。

 ノアの姉である「ミア」はその逆でソフトなどのプログラム関連では右に出る者はいないほど実力の持ち主。ただしハード的にはズブの素人。どのくらいズブかといえば「動かなきゃ叩いて直す」と言ったレベル。

 つまりミアが帰ってきたら質量兵器に命を吹き込んで貰い、思うがまま自由自在に、それこそ燃料が尽きるまで追っ掛け回せられるようにしてもらう。

 完璧となった時点でクレアが乗り込むアルテミスへと引き渡し、最終的にはアルテミスの補助を受けたクレアが操ることとなる。


 ノアは「精神鍛錬イメージトレーニング」用機材を約一時間程で作り上げ、それを地上の保養施設の駐機場の端にセッティングをした。


 さらに基地にいる医務担当アンドロイドの「アンリちゃん」もリラクゼーションのアンドロイドと一緒に保養施設にて待機とさせた。

 リラクゼーションのアンドロイドはクレアの訓練の疲れを癒すため、アンリちゃんは二人の不足の事態に即応できる様にと。なので、医療設備一式も地上に下ろしておく。



 残る課題はエマが温泉でクレアに対して大見得を切った件のみ。

 クレアを引き連れ、頼れるノア先生にギフトを持って相談に行く。

 ギフトはラングの「出雲」で自分用に買っておいた最高級品の抹茶。ノアに渡したお土産とは銘柄が違うが同じく最高級品。


 先生は生体管理課の片隅にある研究室にいた。

 ご愛用の眼鏡、そして普段着である学生服の上に何故か白衣を着込み、どこから持ち出したのか高級そうなフカフカの黒色重役椅子に埋もれていた。


 入ると声を掛けたが返事がない。

 椅子の後方から回り込み、二人で両脇から覗き込みながら声をかけると目を瞑り何かに集中しているようだった。

 多分アシ2号経由で何かの研究開発でもしているのだろう。

 それならここじゃなくても済みそうだが、彼女は「お約束」をとても大事にするタイプ。

 そこにツッコミを入れてはいけない。



「ノア先生。ご相談があります」


 かしこまりながら呼び掛けだが返事はない。聞こえている筈なのだが全く反応がない。


「ノ~ア~ちゃ~ん♪」


 今度は甘い声で呼び掛けてみたがピクリとも動かない。


(邪魔しちゃ悪いからまた今度にしない?)


 クレアが脳内通話で言ってきた。邪魔しちゃ悪いだろうからとの配慮から出た言葉。

 うーーんクレアは優しいね。でもねまだまだノアの性格を分かっちゃいない。

 口に人差し指を添えながらクレアに話しかける。


(ノアをよく見てて)

(何で?)

(いいから)


 ノアの正面にワザと音を立てて移動すると目を瞑っているノアの顔に自分の顔を近づける。

 さらに唇が触れるか触れないかのギリギリの距離まで近づくと、唇の形が変化してゆく。


(あらま!)

(分かった?)

(なるほど……)


 でもここでやめたら可哀想か……と思いながらもおでこに「ちゅー」をする。

 その途端、ノアは目を開け私の首に両手を回してきた。


「……そこじゃない、ぞ~」

「これこれ、クレアが見てるわよ?」

「……ラーちゃんの時は三回もしてた、の~」

「あれはしたんじゃなくてされたの!」

「……なら私もする~~、の~♡」

「ちょ、ちょっと止めなさいって」

「……止めない、ぞっと」

「ん、ん~~」


 勢いに乗ったノアの暴走。すんでのところで顔の間に手を割り込ませ押し戻そうと頑張る。


 ムムム? 相変わらず何て力だ!

 しょうがない。空いてる片手でこちょこちょここちょこちょこ…………


「ぷぷぷぷぷひゃぁぁーーーーーー」


 やっと手を離すと椅子にもたれ掛かりぐったりしてしまう。


「……エマは最近クレアとばかり一緒にいて、ちっとも構ってくれない、ぞ」

「たまたまよ。ノアだってラーたんと一緒にいるじゃん」

「……それは否定しない、よ。ラーちゃんと一緒にいるには深〜い訳があるからで、エマとは深~い愛があるから一緒にいたいのだ、よ!」

「はは、何それ。でも嬉しいな。ところで深~い訳とは?」

「……約束、だぞ」

「ラーたんとの?」

「……そうだ、ぞ。私とミアとラーちゃんとローちゃんとの、だ」

「へ~そうなんだ。で、どんな約束?」

「……え~と……い、今は言えない、ぞ!」

「いつになったら言えるの?」

「……その時がきたら、ね」

「そう。期待して待ってるね。それとここにはお願いがあってきたの」

「……何用、か?」


 クレアの悩み事を打ち明けた。


「……なるほど。動きを読まれなくするにはどうしたらいいか? か……」

「そう。何かいいアイデアない?」

「……って言うか、既に対策済みなんだが、な」

「え? どーゆーこと?」


 クレアと二人して首を傾げる。


「……ただ、漫画家としては……読まれた方が嬉しい、ぜ」

「ははは。ま、そりゃそうよね」

「……ま、今はワイズとの修行? 訓練? に集中した方がいい、かもかも」

「そう分かった。修行……じゃなかった、訓練が終わったら教えてね」

「……すべての条件が揃ったら自分で気が付くでしょう、ね。ま、今は慌てず焦らずに、ね」


 話終えると先生はまたまた目を瞑り何かに集中し始めた。



 ──すべての条件が揃ったらか……確かにそのための訓練だと思えば……それとノアが気付くと言っているのは多分脳内チップを弄った件と関係していると思う。それと約束? 何だろ? ちょっと気になる。



「自分で気づく……か」


 こっちも悩んでいた。クレアは本当真面目で私とは正反対。この点は見習わなければ。

 ここでお腹が鳴る。

 時間を調べるととっくに昼を過ぎていた。

 てなわけでお昼ご飯は何にしよう? ゆっくりのんびり食べたいな。


 クレアを誘ったが用事があるとの事で途中で別れた。

 ならば皆を誘おうと居場所を調べたら……ランが自室、マキとシャーリーはシャーリーの部屋にいた。

 ノアは忙しそうだから除外。マキとシャーリーは部屋にこもって二人で何かしている雰囲気。

 なら一人でいるランでも誘うと二つ返事でOKの返事が。

 準備が必要とかで定番の「ドカッチェ」で待ち合わせとした。


 そのまま店舗前のベンチ移動し、待つこと十五分。


「お、お姉様~お待たせしました~」


 広場にある転送装置から現れたランが息を切らせながら駆け寄ってくる。


「急にごめんね~」


 笑顔で軽く手を振って立ち上がる。

 ランは以前二人で作ったチャイナ服を着てきた。

 さらによほど急いでいたのか、普段は頭のお団子が二つなのに今回に限って凛と同じく髪をつむじ辺りで一纏めにしていた。これだとリンと見分けるのがとても困難。


 ミアノアもそうだが、外見で判断出来るようにしてもらわないとこちらが困る。

 とは言えリンランはミアノアに比べればまだ判別可能なレベル。


「あれ、他の人は?」


 周りを見回すラン。


「ランだけよ。みんな忙しそうだから」

「という事はお姉様独り占め⁈」


 目が輝き出した。


「二人きりは……そうね、久しぶりね」

「やったーーーー!」


 飛び跳ねて喜んでいる。

 ランは人目もはばからず私の腕にしがみついてくる。

 とは言っても周りに人はいないから憚る必要は全くない。


 ランと共にテラス席の椅子に座る。

 Mサイズのペスカトーレピザを注文、二人で半分こにした。飲み物は私はアイスレモンティー、ランはプーアル茶を頼む。あとミニサラダを一個ずつ注文した。


「ラン。明日から暫く出掛けるけどマキ達のこと、よろしくね」

「はい、お姉様! だけど……ちょっと寂しいですぅ~」

「帰ったらまたデートしよかね?」

「はい是非! ただ、デートよりも……」

「デートよりも?」

「……私にも……して欲しい……です」


 急に赤面、俯きながら小声で呟く。


「ん? 何を?」

「……キス……です」

「へ?」

「みんなして貰っているのに……私だけまだ……です」

「みんな? いやいや、してるのは……って誰に聞いたの?」

「シャルロットです」


 あのお調子AIめ……エリアマスター権限使って黙らせるか?

 でもランも頑張ってくれてるし、それくらいのご褒美はあげないとね。


 無言で立ち上がりランに近寄ると私の動きを目で追っていたが、状況を察したようで顔を上げて目を瞑る。

 そのしぐさを微笑ましく思いながらおでこに軽いキスをした。


「ら、ラン? そんな泣かなくても」


 目を閉じたまま涙を流し始める。寸刻前に見かけた娘とは大違い。


「ぐすん……お嬢様おめでとうございます‼︎ このシャルロット、やっと……やっと! お役に立てました!」


 現れたな……お調子AIめ。


「……嬉しいんです。私、最近お姉様に声掛けてもらえなくて……捨てられたんじゃないかって」

「は、はい? 捨てるって⁈ いやいやランは大切な仲間よ?」


「仲間……ですか……そうですよね」


 肩を落とすラン。


「でも私にとってお姉様は「大事な人」です。もしお姉様が私を見捨てても私からは決してお姉様のそばを離れませんし、いつまでもお姉様の味方で居続けます。それだけは覚えておいて下さい」


 冷静に、そして力強く言い切る。


「あ、ありがと……ね。でもね、今後危なくなったら私よりも自分の身の安全を最優先で図ってね?」

「分かりました! お姉様を第一に、自分を第二に考えます!」


 う~ん。ワザとなのか天然なのか……


「それと……お姉様だけには伝えておきますね」

「な~に?」

「実は……ここ数日、姉様が……しているみたいなんです」

「……姉様ってリンよね?」

「はい」

「連絡は? とれた?」

「いえ連絡は一切。あの通りの性格なので「繋がりリンク」とかは気にしていませんし、意義もあまり理解してません。なので漠然と移動している「感じ」がするだけでして」

「そう。なら何で帰ってこないんだろ……」

「分かりません。仕事から解放されて自由気ままな旅にでも行っているつもりなのかもしれません」


「オ~ホホホホそうなんです! あのアホ……もとい、リン様は普段から何も考えていないので、いつもお嬢様が苦労なさるのです!」


 アホって……そういえばリンとランの艦AIシャルロットは何でか仲が悪かった、というよりシャルロットが一方的に目の敵にしていた気がする。姉妹はとても仲が良いのに。


「シャルロット、今後もリンに呼びかけ続けて。何か分かったらに報告すること」

「オ~ホホホホ、了解いたしました!」

「それと覗きは止めること」

「……オホホ」

「お返事は?」

「りょ、了解いたしました! マスター」

「よろしい。それとラン、捜索中にもし「遺跡」が見つけても絶対に近づいちゃダメ。これは命令」

「は、はい。分かりました」

「「遺跡」調査は私がするから。もしマキが暴走して近付こうとしたら抑える役目は貴方よ?」

「り、了解です!」

「マキの性格を考えて上手く誘導してね」

「は、はい!」


 マキは大らかで受け身な性格なので、とっさの判断が必要な場面にはあまり向いていない。なので本来であれば誰かの下について行動させるのが最善なのだが、人手が足らない現状ではそうも言っていられない。

 私が最も危惧しているのは、私のように「知らずの内に近づき、気づいたら気を失っていた」といった事態になること。

 ランには一歩引いた立場でフォローしてもらえればあのような場面は回避できる。

 まあ「適合者」になる条件が分からない以上、特に「遺跡」への接触は避けるに越したことはない。


「いい子ね♪」と言ってもう一度おでこにキスをする。

 不意打ちのキスをされたランは目を開いたまま固まってしまうが、数秒して頭から湯気と鼻血を出して倒れてしまった。

 因みに湯気はシャルロットの演出。


「お、お嬢様ぁぁぁーーーーーー!」


 シャルロットの叫び声が響き渡った……



 食事を中止しランを背負い医務室へ向かう。

 小柄で軽いので苦にならない。

 医務室に着くとそのまま空いているカプセルに寝かせ、残っている男性型アンドロイドにランを任せた。

「冷却」すれば直ぐに復帰するだろう。


 よし、と転送装置に向かおうとしたところ、通路を挟んだ反対側のカプセルから気配がしたので見ると、そこには病衣を着たラーナが横になり寝ていた。


「ラーたんどうしたの?」


 目を瞑り静かに寝ているラーナ。


「ん~ちょっとね~」


 口だけ動かして答えた。寝ていたと言うより休んでいたという印象を受ける。

 脇まで行くと目を開けこちらを見る。目には疲労の色が垣間見えた。

 うん、ちょっと辛そうだね。


「あ「反動」か!」

「そう~多分明日かな~」


 再度目を閉じて口だけ動かす。


「大丈夫?」

「大丈夫よ~今回はちょっとしか動いてないし~」

「半日くらいかね? 私達の出発遅らせようか?」

「ノアちゃんもいるし~大丈夫よ~」

「…………」



 ラーナは特殊体質で、見た目に反して成人男性の数倍近い身体能力・反射神経を持っていて、精神状態によってさらに一時的だが数倍の筋力強化を発揮できる。

 ただし、その状態を維持している時間(長さ)によって、翌日~三日内に必ず「反動」が起こり、全く

 特に激昂状態バーサーカーになった場合は意識もなくなり、後日起こる「反動」も数日間にも及び、作戦にも支障を及ぼす。なのでローナからは固く禁止されていた。


 まあ今回は「拳」とワイズを運んだだけなので半日程度で復帰するだろう。


 因みにローナは特異体質などは一切ない「普通」の女性だ。多分。

 多分……ないよね?


 二人きりだしラーナにも聞きたい事は山ほどあるが今は止めておく。




 サラとワイズは16:30過ぎに帰ってきた。

 片道三十分ほどの距離と考えたら本部には三時間程度滞在していたことになる。

 これを早いとみるか遅いと思うかは判断が分かれるところ。

 なんにしても無事に帰還したので一安心。


 帰還後にワイズ艦の修理自体はさほど時間は掛からないのだが、艦AIの調査を「工房」で行うこととなったと教えられた。例のハッキングの内容を調べるために。

 その結果が出るまでは、同様の被害にあったラーナ艦も基地待機処分に決まった。




 ・・・・・・




 皆寝静まった深夜。完全な「密室」になっている、薄暗いとある一室に二人の人影があった。


「結果はどうだ?」

「……やっぱり「黒」だった、ぞ」


 空間モニターには黒い塊が移っている。


「そうか……星系AIの使用許可を出す。どこまで広がっているか徹底的に調べろ」


 黒い塊を苦々しく見つめる女性。


「……調べる行為は多分無意味だ、な。「黒」だったのは一種類だけ、だった」

「構わん。全くこんな手を使っていたとは……だが謎が解けたな。これでこれ以上の拡散は防げる」

「……全艦AIに情報を流す、か?」

「当然だ。私の名で流せ。もし発見したら妨害するか秘密裏に接収するように指示しておけ。ここで止めないと「贄」が増えてしまう。この結果も明日以降、各エリアを回った際に伝えておく。使伝えさせろ」

「……って事は全人類を対象、に?」

「でなければ意味がない」

「……はい、よ。ところで?」

「現状では限りなく0の筈。だがが無いとは言えん」

「……らじゃ〜」


 部屋から出て行こうとしたところ急に立ち止まる。


「全くエマ姉妹以外を覚醒させる手段まで持ち出して……奴らは一体何を企んでいるんだ……」


 独り言のように呟きながら扉から出て行った。

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