第48話 作戦会議! 発見!

 翌日の9:00の作戦会議室ブリーフィングルーム


「よし、時間だ」


 本日から指揮を執るサラが定位置となる部屋の中心で呟くと、騒動以前の定位置に戻った探索者達の背筋が自然の伸びる。

 それから徐に顔を左右に振り、自分の周りを囲んで座っている探索者達部下達の顔を見てからこちらに向き直った。


 席はまだ半数以上空席。だが久方ぶりの定位置と慣れ親しんだ雰囲気。この「懐かしい空気」はサラを囲む私達の気分に落ち着きを与えてくれる。

 同時に基地に戻ってきた直後のマキ・ラン・ノアの四人だけの時を思えば感慨深くなる。


 クレアは私の隣のエリーの席。今回初参加となるワイズは自分に用意されていた新品同様の椅子に座り、時々私を見て手を振っている。

 出来るだけ目を合わせない様にしているのだが、視界の隅でチラチラ動かれると非常に鬱陶うっとうしく顔を背けたくなるが、背けるとサラから視線を外すことになるのでイチャモンを付けかねられない。

 そしてもう一人、今回から参加予定であったラーナは現在「反動」が起きている真っ最中で治療カプセルから出れない状態。なので残念ながら来ていない。


 しかしラーナには困りものだ。探索者の纏め役であるローナが不在、さらに新たな問題が発生と今後の展開が全く読めない中で彼女が身動きが取れないのはかなりの痛手。

 彼女は容姿や仕草・言動で頼りなさそうに見られがちだが、そこは紛れもないローナの妹。ローナとは手法が異なり他人をさり気なくフォローするのがとても上手。

 現状ではなくてはならないメンバーなので役に立たない「力」は使わずに自制して欲しいのだが……無理か。


 そしてここ数日でヘッポコぶりが露呈し始めたサラだが、このブリーフィングを始める時だけは主任らしく見える。

 この雰囲気を最後まで維持して欲しい。


 皆を見渡す。

 いつもと変わらない服装。そして昨日と同じく和やかな雰囲気……なのだが一人だけ落ち着きがなさそうにソワソワしている者がいた。

 私から見て二時の方向に座っているので、嫌でも目に入る。さらに何故だか肌の露出が増えたような気がする。確か私と同様、服装はあまり気にしないタイプだった気がするが……


 気付かれないように観察していたらその者と目が合ってしまう。するとその者はバツが悪そうに目を背けた。

 一体どうしたんだろう……


「それでは作戦会議ブリーフィングを始める!」


 この声も久しぶり。

 武者震いが起きると自然と背筋が伸びた。


「今回の任務だが、まずマキ・ラン! 昨日言った通り、第一・第二目標を連れてこい!」

「お、おう」「は、はい」


 連れてこいって……

 目標の二人は「個性」が強すぎて素直に従うか……ってその前に巡り合えるかどうか。

 ハッキリ言って今までが「運」が良かっただけの気がする。だから焦らず気長に行かないと。


「見つけだすまで戻るのは許さん!」


 何をそんなに気合入れてるんだか。可哀そうに、二人とも涙目で私を見ているよ。


「はぁ……サラ、気合いはいりすぎじゃない?」

「……そうか? しょうがない、なら帰ってきてもよし。ただしお前達にはノルマを与える。今日から一日最低十箇所調べろ。ノルマを達成したら戻ってよし」


 だが条件が緩和されたにも拘らず二人とも涙は止まらなかった。

 まあ最初は大変だろうが二人には良い経験になるかと。

 お弁当だけは忘れずに持っていくように!


「次、訓練組!」

「はい!」「ん!」

「適当に頑張れ」


「は、はあ」「ん〜〜?」


 素っ気ない態度に戸惑う二人。


「……適当って」

「仕方ないだろ? 正直言うが対人戦闘なんぞ今までの探索部には無縁の世界だったし私も知識として持ち合わせてはいない。寧ろお前らの方が余程詳しいんじゃないか?」

「そう言われても……誰か知ってる?」


 暫しの沈黙……


「仕方ない。クレア、基地AIにアクセス出来るよな? 基地AIから戦闘スキルに関する情報を引き出せ。星系AIからもサポートさせる。使える物は全て使え。ただしこちらも「目標」を持ってやること。せめて、島に展開している全ての対人兵器を二人で三時間以内に沈黙させるくらいにはならんとな」


「はい!」「ん!」


 適当にやれとか言っときながらさりげなく最低ラインを示す。サラらしいやり方だ。しかもクレアのチップを改造した事も既にバレてる。さらにその情報までオープンにしてる。まだまだサラには敵わないわね。


「行き詰ったら


 ……頼れって。本能のまま暴れ回るアレは参考にはならないと思うよ。


「あ、言い忘れるところだった。対人兵器はまだ他にもいるからな。ま、頑張れ」


 ホンマかいな……何処にいるんだろう……


「最後に、我々はいきなりAエリアには行かずにDエリアから順に回る。これはDエリア基地が無事ならば「奴」による被害と目的がある程度絞れるからだ」

「どういうこと?」

「「奴」とロイズは記録上はDエリアに行っていない。これは確かだ」


 Dエリア基地。探索部のエリアの中で一番新しいエリア。


「Dエリアが無事ならば、あの二人が立ち寄った場所だけ警戒すれば済む」


「Cエリアは?」

「あそことは連絡は取れている。アイツらもいるし多分……無事だろう」


 アイツら? 多分?

 考えてみればAはかなり昔に、そしてDはつい先日行っているので雰囲気くらいは分かっているつもり。だがCエリアは行っておらず、データー以上の情報は持ち合わせていない。

 なのでサラが何を危惧しているのかまでは分からない。


「どちらにしても基地や艦がウイルスに汚染されている可能性は0ではない。ならば汚染対象が少ない方が立ち回り易い」


 これは単純に総数を指している。CもDも探索者の人数は我々よりも少ないと。


「あー(ドリーの)支部から回収したウイルスを元に作ったワクチンを使うのね」

「そうだ。基本システムは基地だろうと支部だろうと同じだからな。間違いなく効くはずだ」

「うん、効くといいよね」

「エマ……お前その言い方は良くないぞ?」 

「……それはになるから、な」

「へ? そんなつもりじゃ⁈」

「ん~もう遅いっす!」

「あーー効果なかったらエマの責任やわ」

「エマさん! 不味いですよ! 着いたら基地崩壊するかも!」

「お姉様……」


 クレアに救いを求めたら「あーやっちまったぜー」てな顔で見ていた。そんな目で私を見ないで……


「だ、だってミアが作ったんじゃない」「それからノア、お前が一番負担が大きいが上手くやってくれ」


 言い訳しようとしたら、サラがワクチン作成者に話を振って邪魔をする。


「……大丈夫だ、よ~ん」


 どこから取り出したのか、お茶を飲んで寛いでいる。ノア先生は今日も平常運転のようだ。


「ラーナ聞いているか?」


 医務室にいるラーナに呼び掛けた。


『は~い』

「あとは任せたぞ。それと本部から順次物資が届くと思う。着いたらノアに引き渡せ」

『りょうか~い。エマちゃん達をよろしくね~』


 音声での返答。


「さて、質問のある者はいるか?」

「サラ主任はどのくらいでお戻りになられるのですか?」


 ランが手を上げて質問した。


「向こうの状況にもよるが早くて明日。もしくは三日後に完成予定のワイズの艦を受け取ってから戻るかも知れん。それまでにはAエリアの件はハッキリさせたい。万が一、それ以上かかりそうな場合には一度伝令を出す」

「了解しました」


「他は?」


「「「…………」」」


「それと、今後を増やす予定だ。には粗相のないように」


 客? 誰だろう……


「よし準備が整い次第、行動を開始しろ!」

「了解!」


(余談だが「客」が来るのはかなり後の話)





 現在、アル艦はドックの流体ハッチから宇宙へ出るところ。


 今回の目的はサラの同行。その付き添いで各エリアを回る探索者は私とシャーリーの二名のみ。そのサラだが流石にシャーリーに押し付けるわけにもいかないので私の艦に乗せている。

 まあDエリアもそうだが各基地は「天の川銀河」のそば。探索艦からしてみれば目と鼻の先といえる距離。大して時間はかからないので我慢しよう。

 サラが乗り込むにあたり、球体空間コックピットを一回り広くし、基地指令席と同じ椅子を用意した。サラは座り慣れたそのシートに深々と腰かけ、短い制服のスカートから伸びた生足を組むと私を見て「何か飲みたい」とドヤ顔で呟いた。

 なので「ぬるま湯」を出そうとしたら「ラングで入手したダージリンがいいな」とか言い出した。


 ……あんたコーヒー党でしょうに。いやそれより何で買ったの知ってるんだい?


 というワケでのダージリンをシレっと出して、跳躍前から二人で紅茶を楽しむ。


「Dエリアを出たら戻らずにCエリアに向かうの?」

「そのつもり。異常が見られなければそのままAに向かう」

「異常……そうそう、Dエリアでも「消失」が起きたみたい」

「……確か残骸を届けた、だったか?」

「そう「ソフィア」っていう名の探索者の艦だったかな」



「…………ソフィアはハンクの娘だ」

「……え?」



 その言葉を聞いて絶句してしまう。


「……自分の娘が……探索者?」

「仕方あるまい。「素質」があったんだから」

「え、いや、だって……もし「適合者」に選ばれていたら……「贄」に」

「だからこそ自分の娘に行かせたんだろう。あいつはそういうやつだ」



 ──あの時「散々悩んだ」と言ったのはそういう意味だったの……



「ただまだ死んだと決まった訳ではない。寧ろドリー同様、どこかで生存している可能性が高いと私は思う」


 何処か確信がありそうな面持ちで言い切ると紅茶を一気に飲み干す。



 ──ドリーのように…………もしかしたら!



「サラちょっと寄り道してく!」

「……ん? ……そうか! 許可する!」

「アル!」

「跳躍先座標設定済みだよ~」

「流石はアル! シャーリー聞いてる?」

『はい!』

「もうドック出た? ちょっと寄り道してくから座標をそっちに送るね!」

『そうなんですか? 了解です……同調しました! (出発)タイミング任せます!』

「行くよサラ!」

「行け!」

「アル! GO!」





「やっぱりいた!」


 ランと調査に来た際にへ跳躍してきた。

 すると綺麗なプラチナ色をした小さな球体が一つ、漂っているのを発見する。

 前回引き上げる際に全てを回収していったの、本来であれば何も残っていない筈。つまりここに何かがあれば「あの後」にやって来たことになる。


『エマさん、アレ探索艦?』

「そう「消失」に巻き込まれたDエリアの艦」


 ワイズの艦よりも小さい球体


「そこの艦の搭乗者、応答して」


 こちらが発した電波を受信しているようだが反応が返ってこない。情報連結も始まらない。

 もしかしたら自衛モードに入っているのかも。それならあの艦の管理権限者であるDエリア主任のハンクを連れてこないと、中は確認出来ない。

 因みにここは「Dエリアの管轄」であの艦は「Dエリアの艦」(だと思う)。サラも主任ではあるが、あくまでもBエリア主任であり、あの艦に対しての命令権は無いに等しい。


「サラ、ハンク主任を連れてこないと!」

『私が連れてきましょうか?』


 二人揃ってサラを見る。するといつになく真剣な表情でモニターを見ていた。


「大丈夫だ。二人とも少しの間、静かにしていろ……」


 私達にはお構いなく目を閉じ「何か」を呟き始める。

 十秒程だろうか、言い終えると唐突に目を開け私を見る。それと同時にアルテミスから「対象から接艦許可が出たよ〜」との報告が。

 私もシャーリーも何が起きたのか理解出来ずにお互いとサラを交互に見回していたら……


「二人とも何をボケっとしている。早く乗り込め」


 呆れ顔のサラに叱られた。


「え? ……う、うん、アル接艦して」


 二艦が小さな球体の両脇から接近し一部を接触させる。


「アル、周囲警戒」

「行ってらっしゃ~い」

「うん、行ってくる」


「私も行こう」


 開いた通路に滑り込もうとしたところ、後ろからサラの声が聞こえた。

 移動しながら振り向くと、通路内の壁を手と足を使って起用に「飛んで」追いかけてくるサラの姿が。

 狭い通路だし一歩通行だからと今回は待たずに先へ進むことにした。


 球体内コックピットに着くと、車のシートのようなアームレスト付きの椅子が。

 そのシートの前方には以前データーで見た写真の女の子が漂っていた。


 顔を見る。間違いなくソフィアだ。

 そのまま体を抱え、一度シートに座らせてから改めて様子を伺おうとしたところ、サラとシャーリーが同時に球体内コックピットに入ってきた。


「この人が?」


 シャーリーも私の横からソフィアの状態を確認する。

 あれから随分と時間が経っているがシャーリー同様、外見上は全く問題なさそうに見えた。


「この子はDエリアの探索者。こっちのエリアにも惑星が突然現れたでしょ? その調査に来たら運悪く「消失」に巻き込まれたみたい」

「え? ならどうやってここに戻ったんですか?」

「分かんない」


 それはドリーも同じ。


「ただドリーが戻ってきたんだから、もしかしたらこっちもと思って来たんだけど……ビンゴだった」

「なら運が良かったですよ! 早く仲間の下へ連れていってあげましょうよ!」

「そうね。いいよねサラ?」


 見ればこちらに背を向け空間モニターで何かを調べていた。


「ん? あー何だ?」


 気のない返事だ。しかもこちらを見ないでの生返事。


「早くハンク主任の所に連れてこうよ!」

「…………そうだな。この艦は動けないからアルテミスに取り込んで行け」

「分かった。ソフィアはアルに見させる」

「それでいい。さ、移動するぞ」


 と言いサラはモニターを閉じる。

 それからソフィアを一目見て球体内コックピットをゆっくりと見回してから通路へと潜り込んでしまった。

 先程からどこか違和感があるサラの行動に二人して首を傾げてしまうが何をすべきかを思い出しすと、ソフィアを抱えながらサラの直ぐ後を追っていく。


 サラは先程と同じく手と足を器用に使い「飛んで」いたが、宇宙服の機能をを使っている私は道半ばで追いてしまう。

 その際、出来るだけ意識しない様にしていたが、どうしてもサラのスカートの中がチラチラと見えていた。

 因みに今日は……白のTバックを装着。その手を履くなら黒系のストッキングでも履けばいいのにとため息を一つ。

 女性ばかりの職場の弊害で感覚が麻痺してる?

 しかしサラといい、皆といい、普段から派手な下着を好んで履いているね。周りには見せる相手も居ないのに…………いや見せたい相手、いるのかな?


 コックピットの隣の空間に用意された簡易カプセルにソフィアを宇宙服のまま寝せて蓋を閉じる。

 さらにアルテミスにソフィア艦の取り込み指示を出す。

 その間もサラはシートに座り考え込んでいるようで、話かけても相変わらず気のない返事ばかり。なので放置してDエリア基地へと跳躍を開始した。

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