第46話 ワイズvsエマ? 中止!
その後、満天の星空に見守られながら
自分の力不足を痛感しつつ、今はそっとしておくことにした。
──さて、そろそろ仕込みが効いたころかな?
手を繋いで宴会場へ戻る。
あれだけ騒がしかった宴会場。今はひっそりと静まり返っていた。
もしや諦めて自室に? は有り得ないのでまだ中にいる筈。
近付くにつれアルコールの臭いが強くなってくると思わず口角が上がっていく。
作戦の成否を確かめようと宴会場の中を覗き込む。すると四人は折り重なるように、イビキをかいて気持ちよさそうに寝ていた。
作戦成功だに。
バトル開始後に水やソフトドリンク類は全て撤収しアルコール類だけを残しておいた。
酔いが回って気分は高揚している時に声を出せば当然喉が渇く。すると手短な飲み物に手を出すだろうと目立つところに飲み易そうなヤツだけを残しておいた。
結果、皆幸せそうな顔でお休み中。
こういうシチュエーションも新鮮で面白い。
あらあら、みんな高級そうな下着丸出しで。
浴衣が腰紐だけ残して役目を全く果たしてないわ。
そんな普段見ることが出来ない姿に少し心が和む。
う~んノアって改めて見ると意外と胸大きいのね。完全に着痩せするタイプだわ。
小柄だしマキ達みたいに自己主張してなかったから気付かなかったけど、こりゃローナといい勝負だね。
あらあらランちゃん、あんなに涎垂らして……大好物なケーキの夢でも見てるのかな?
ラーナよ……年頃の娘がそんな格好でそんなとこ掻いちゃダメでしょ? 見てるこっちが恥ずかしくなるわ。
シャーリーは……可哀想に。三人の足やら手が身体中に乗っけられて微妙な安らぎ顔。可哀想に。
しかしみんな幸せそうな顔で寝てるね。
これじゃ起こしたら可哀想。
法被姿のアンドロイドさん、出番ですよ!
四人を抱えて各々の部屋へと運んでもらった。
さて邪魔者は消え去った。私も
次の日、宴会場でバトルを繰り広げた四人の内、朝食の場に現れたのはラーナだけだった。
残りの三名はまだ起きていないらしい。
今のところ今日以後の予定はまだ決めていない。
気疲れもあるだろうに、他の三名は無理に起こすこともないだろう。なんならもう一泊、心身のリフレッシュに当てても構わないだろう。
ただそれを決めるのはラーナの隣で朝食を澄まし顔で取っているサラ。
サラにはそろそろ「主任」としての自覚を持って我々を率いて貰わないと。
因みにワイズはサラの隣り。私に笑顔を振り撒きながら食事をしていた。
……てゆーか、何故に横並びで座ってるんだ?
3×3の六人掛け席。スルーする訳にもいかず対面の椅子にクレアと腰掛けた。
ラーナの前がクレア。サラの前に私。
そして食事を始めた時にマキが加わる。
朝食が終わり食後の雑談が始まる。
「サラ、今後の予定は?」
「早急にAエリアに行くぞ」
「あ、連絡取れないってやつ?」
「ああ。ただ……危険かもしれん」
「どの程度?」
「かなり深刻だ。使いに出した連絡艦が帰ってこなかった。もしかしたら我々Bエリアと似たような状況なのかもしれない」
「消失?」
「いや乗っ取りだな」
「つまりハッキングされているかも?」
「状況からしてその可能性が一番高い」
「反乱……は?」
「あそこはありえない」
「本部の探索艦は向かわせなかったの?」
「探索部本部には探索艦も探索者もいない。正確には「本部所属の探索艦・探索者」になるが。あそこには「長」と本部職員、それと探索艦関連の工場、そして艦AIを作っている「工房」のみ」
「本部は大丈夫なの?」
「何が? ……ハッキングか?」
「そう」
「あそこは大丈夫だ」
「何で断言できるの?」
「あそこに手を出したら自分の
「?」
だから奴って誰やねん!
「それはそうと、Aエリアに行く時は私も同行する」
「……保険のため?」
「お、分かってきたな! よしよし」
身を乗り出し嬉しそうに頭を豪快に撫でてきた。
「いや、まてよ……先に他エリアを自分の目で確かめておいた方がいいか……」
「?」
「よし、ハンクに会いに行くぞ! お前達の礼も言いたいしな」
「メンバーは?」
「私と
「主任」
珍しくクレアが真剣な表情で話に割り込んできた。
「ん? どうした?」
「暫くワイズ君をお借りしたいのですが」
「構わんがどうした?」
「少しの間で構いません。訓練の相手を」
「訓練? ……いいぞ気の済むまでやれ! ちょうど(ワイズの)艦も修理しないと使い物にもならない。その間、遊ばせておくのは大変勿体ない」
「はい、では……」
「ただな~情報部のような立派な対人戦闘訓練場も設備も探索部にはないぞ? やれるとしたら近接格闘系となるが……どうする?」
「武器はあるから~設備はノアちゃんにでも~作って貰ったら~」
「そうだな。残るは場所か」
サラは腕を組み考え始めた。あれよあれよと話が進んで行く。
「ちょ、ちょっと待って! クレア訓練って?」
「うん、昨日寝ながら一晩考えたの。で、やっぱりこのままじゃ納得出来ない」
「え?」
「よく言った! レベルアップした暁には昇給交渉に応じてやる!」
サラは嬉しそうに片手でテーブルを叩く。
「それなら~
笑顔で両手いっぱい広げている。多分この島を指している。
「そうだな。ここなら目と鼻の先。寝食の心配もいらんし、周りを気にする必要もない。なんなら展開してある対人兵器を使え」
「あ、ありがとうございます」
「一応聞くが護衛はいいのか?」
「……はい」
「……よし。お前の意思を尊重しよう」
座ったままサラに頭を下げて礼を言う。ここまで話が進んだら反対は出来ない。いや元々反対する理由はない。私が言いたいのは……
「クレア、本当にいいの?」
「ええ」
「違う! 相手がコイツでってこと!」
ワイズを指差して言う。
「願ってもない」
決意は固いみたい。表情に曇りはない。まあ相手がクレアなら心配いらないか。
「……分かった。なんかあったら連絡して。何も無くても連絡は密にするから……あ、エリーがいないから連絡取りようがないか! うん、速攻戻ってくる!」
「心配してくれてありがと」
クレアの手を握ると笑顔で返された。
「ん~~オイラの意見は?」
ワイズが明後日の方を見ながら話に割り込んできた。
「いいこと! クレアをキズものにしたら宇宙服一つでブラックホールに放り込むからね!」
眉間をビクぴくさせながら忠告をする。
「ん~タイプじゃないから大丈夫っす! いやそうじゃないっす。訓練に付き合うのはいいっすけど……」
「けど?」
「……報酬が欲しっす」
「……報酬?」
「ん! ん! そう! 報酬っす!」
エマの方を向く。
「何が欲しいの?」
言い終える前からエマの胸をガン見している。
「そ、それは死んでも嫌‼︎」
急ぎ両手で胸を隠しワイズに背中を向けた。
「んーーーーーじゃあ無しってことっすね。残念なんだナ」
ニヤケている。ここぞとばかりの満面のニヤケ顔。目線は変わらずエマの胸。
こ、こいつーー!
「な、なら私ので……」
呟くクレア。
「ん、いらないっす」
即答だ。クレアを見ずにエマの胸を見続けている。
「私ならどうだ?」
サラは仰け反り殊更強調してみせる。
「ん、お断りするっす」
即答だ。サラを見ずにエマの胸を見続けている。
「私のは~?」
ラーナは訳の分からんポージングをしながらウインクをする。
「ん~~遠慮するっす!」
少し悩んだが断ってきた。一度ラーナの胸をチラ見したが、視線は直ぐにエマに戻した。
「ううう、ウチは?」
流れで言った感じ。マキは恥ずかしそうにモジモジしながら。
「んーOKっす!」
マキの目を見ながら真面目に答えた。
「は〜〜……え⁈ え〜〜〜〜!」
真っ赤になりアタフタし出す。こんなに慌てたマキを見るのは初めてかもしれない。
「ん! 冗談っす!」
どうやら揶揄われたようだ。
マキもクレアと同じくらいに大きいからね。
そのマキは何故だか残念そうに? 落胆していた。
ん~~? なんだその反応は?
「ん! エマっち、今回は借りにしとくっす!」
親指立ててぐーを突き出した。
──はーークレアの為とはいえ、嫌な奴に借りを作っちまっただよ……
「でメンバーだが
「何故にシャーリー?」
「今いるメンバーの中で一番使える」
「…………」
「確かに」
「ま、マキ! 納得するな!」
「残りは〜? 待機〜?」
「捜索を続けさせる。マキ」
「?」
「ランと共に捜索だ」
「お? おう」
「第一目標はローナ‼︎ 是が非でも見つけ出せ‼︎」
立ち上がり、握り拳を作って見せる。
「りょ、了解!」
「第二目標はミアだ! アイツがいないと「詰み」になる!」
ミアよりローナなんだ。ラーナがよっぽど怖いのね。
「後は……ついででいい。特にルイスとルークは最後で構わない」
ついでって……まあ確かにあの兄弟はいらんわな。
「私とノアちゃんは〜?」
「ノアは
「ふふふ、流石~サラちゃん」
「マキとクレアもフォローしてやれ」
「了解~。でも〜主任の同行は~二人だけでいいの~?」
「ああ。Dと……Cは連絡が取れている。それとエマ」
「はい?」
「基地AIに調べさせていたアレな」
「アレ? …………あ、毛髪?」
「そうだ。アレは
「なんとなく……」
「発見は称賛に値する、が残念ながら幾ら調べても対象者は見つからない。仮に見つかったら間違いなくフェイクだな」
「…………」
「大体三人の内、
それは黒髪だよね? それとも金髪の方? サラが言っているのがもし金髪だとしたら……知り合いで金髪なのは残り三人。昨日も名を出しそびれたが、あの髪は「アリス」だと私は思っている。
「サラがそう言うなら。
「……お前、もう少しアルテミスのことを信じてやれ。それと仲間もな」
「仲間は信じてる」
「フ、まだまだだ足りないぞ」
「どーゆーこと?」
「お前、ワイズをどう思っている?」
「要らない」
「フ……ワイズが結果的にお前の為に協力してくれているとしてもか?」
「…………」
「まあ
「…………」
ラーナを見ると相変わらずの優しい笑顔で私を見ていた。
そのままクレアを見ると私と同じく傾げていた。
「あとで」って?
サラは小さなため息を一つついてから目の前のコーヒーを飲む。そんなサラとエマのやり取りを見ていたラーナはこちらを見て微笑んでいる。
「さて、昼前には戻るぞ! それまでは英気を養え!」
と言い残し去って行く。
クレアが訓練で残る……暫く会えないのか……ちょっと寂しい。
「ま、クレアの為にも我慢しないと! さてまだ時間はあるよね? クレア、昨日の続きに行かない?」
「……エステ?」
「そう!」
「私も~」
「ウチも行く!」
「んーーおいらも!」
「「「…………」」」
四人の鋭い視線がワイズに向けられる。
「ん? い、いってらしゃいっす……」
クレアの修行が終わるまでは生かしといてやる……
クレア、ラーナ、マキと共に横並びでエステを受けた。
リンパマッサージの際にはマキが耐えきれず笑い出す。どうやらリンパマッサージは初めてらしく、豪快な笑い声につられて笑いの合唱に。
あれ意識しちゃうとくすぐったく感じるのよね。何処の部分が、とかは言えないけどね。
落ち着くまで中断したが予定のコースは無事終了。
そのまま露天風呂に向かうと寝坊助三人が合流。合計七人で仲良く入る。
こういう場合、お約束として泳ぎ出す奴が必ずいる。
今回はなんとクレアが真っ先に泳ぎ出し、次にラーナ、先程の笑いを誤魔化そうとマキが続く。
負けず嫌いのシャーリーが我慢出来なくなり、場に流されたランが最後尾を必死について行く。
どうやら広大な露天風呂を一周してくるつもりだ。
だが水深が浅いので皆、イビツな平泳ぎになっていた。
遠ざかる姿をノアと大笑いしながら見送る。
さて、最終コーナーから最初に現れるのは誰か、それは後のお楽しみ。
「全員揃ったな? では帰るぞ!」
「「「おーーーー!」」」
六つの巨大な卵がタイミングを合わせて、初めはゆっくりと上昇して行く。
すぐに島の外れから一回り小さな卵がその後を急いでついて行く。
上昇するにつれスピードが上がり、直ぐに音速を超えると艦の前方に目に見える衝撃波が発生、遅れてソニックブームが大音響で周辺に轟き渡ると光の粒になった。
彼女達の休暇はこうして無事終わりを告げた。
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