第12話 未来?過去?

 医務室を後にし、そのまま居住エリアへ。

 幾つか角を上下左右に曲がると左右に部屋が並ぶ通路へと出た。


 このエリアは主任や探索者は勿論の事、ドリーに住居が有る無しに関わらず全班長の部屋まで用意されている。

 広くは無いが全室個室で二十畳ほどの広さのリビングとリビングの半分の広さの寝室。さらにトイレと風呂、必要家具が完備されている。

 リビングや寝室で使う家具の類いは国からの支給品として初めから一式備えられているが、自分好みの家具やインテリアを自腹で揃えても構わない。


 私はここに住み始めてから今まで部屋に手を加えた記憶は無い。基本的に部屋にお金を掛けるといった趣味は無いので、現在も家具は初期装備であるソファーセットとベットがそのままの状態で置いてある。

 そもそも部屋に招くのはエリーのみ。姉相手に気を遣う必要も無し、着飾る気もない。

 そのエリーには『女の子の部屋とは思えない』と招く度に揶揄されるが……気にしないことにしている。


「いってらっしゃーい」


 笑顔で皆を見送る。マキとランは飛んで自室へ。

 ノアは「……原稿、〆切、原稿、〆切」を繰り返しながらトコトコと駆け足で向かってゆく。

 〆切? との言葉を聞き疑問が浮かぶ。


 ……原稿どうやって送るの? それとも回収に来てくれる? 


 確か巷の噂では「作家や漫画家の担当」なる者は、先生が何処に逃げようが隠れようが地の果てまで追いかけて無理やりにでも書かせるのが使命なのだから隠密スキルが非常に高レベルでないと務まらない、と聞いたような?


 私は部屋には普段着くらいで大した物は置いていない。大事なものは艦に保管しているのでこの部屋自体には特に愛着も無ければ未練もない。なので見張り役として通路で待つことにした。


 ただ集合を一時間後としたのでかなりの待ち時間が。

 なので空いた時間を有効に活用しようと『エリア権限』について少し調べてみることに。

 アルに聞けば早いだろうが、暇つぶしと気晴らしを兼ねて自分で調べることにした。


 居住エリア内にある、二人掛けのベンチが二つと観葉植物が置かれただけの休憩スペースに移動し腰掛ける。

 ここなら廊下の奥まで見通せる。逆に私がここにいるのを気付いてくれるだろう。

 早速空間モニターを呼び出す。


「え〜とエリア権限についてっと」


 該当一覧が出てきた。



 ──うひゃ……二千項目以上? って多すぎる! やっぱり聞くべき? ん?



 と迷っていると私宛に二通のボイスメールが届く。

 差出人は……ローナとサラ?

 二人共差出日は二日前。時刻は作戦中。

 何故今頃? と思ったが、兎にも角にも先ずは開かないと。


 まずはサラから……




 『エマ、おめでとう。これからお前が選ぶ先には幾多の困難が待ち受けているだろう。だがどの道を選ぼうがその先には必ず「未来」が待ち受けている。どの「未来」を選ぶかはお前次第。「過去」を変えるか、それとも「未来」を変えるかはお前が選ぶんだ。願わくは「過去」を変えて欲しい』



 選ばれた?

 もしかしてあの星での事?

 何に選ばれた?

 未来? 過去?

 なんのこっちゃ〜?




 次、次、次はローナ。




 『エマ〜ガンバレ~♪ 以上♪』




 はい⁇ 何を?


 全くどいつもこいつもちっとも役に立たない! 落ち着いたら転職すっか!


 でもこれでハッキリした。

 サラは「何かを知っている」し「何かを隠して」いる。ローナも同様に。

 二人共今回何が起きたかを知っているに違いない。

 それを知っていて防げなかったか防がなかったのどちらか。


 可能性が一番高いのは……いや証拠がある訳ではない。

 を疑うのはやめよう。


 一旦モニターを消した……



(偵察艦、準備完了)


 モニターを消すとアルから連絡艦を改造した偵察艦の出発準備が整ったとの報告。

 ここで目を閉じてアルテミスとの会話に集中する。


(分かった。少し作戦内容を変更)

(どこを?)

(当初の予定座標よりも目標から少し遠めに。そう、センサーの探知外ギリギリに跳躍。最高度の隠蔽迷彩を発動させた上で接近すること。更に次に言う状況の場合、それ以上は接近しないで情報収集に努めること)

(その状況と指示)

(いい? …………)

(了解、プログラム、変更、完了、出発しんこ〜)

(よろしく♡)

(……エマ?)

(はい?)

(キモ)

(ナンデスッテ⁈)

(プー、プー、プー)


 ち、切りやがった。しかもちょーアナログ音源。


(あ、そうだ)

(……何?)

(アル、私に隠し事はしてないよね?)

(一つだけ)

(……何?)

(……エマ、2kg、太った……プー、プー、プー)

(…………)


 ま、いいか♪



「……エマ? 何か楽しそう、だぞ」

「へ? あ、ノアか。もういいの?」


 目を開けると、ノアが正面に立って首を傾げながら覗きこんでいる。


「……うん。必要な物は揃った、ぞ」

「フフ、良かったね」

「……で、エマは?」

「わ、私? 何?」

「……何があった、の? 誰との会話、かな?」

「え? あ〜偵察艦の準備が終わったから今出発させた」

「……そう。エマに提案がある、ぞ」

「何? 言ってみそ」

「……ドリーの件、だぞ」

「ドリーってあの惑星の?」

「……そう。あそこには何があった、かな?」


 何って、海、山、街、人々……


「あっ! 私たちの分身!」


「……そう。ドリーは消えた。私達の分身であるバイオロイドも一緒に、だぞ」

「もしかしてかも⁈」

「……かもかも〜。で繋がったら「何か」が分かる、かもかも〜」

「う〜ん、でもまだメインAIがね〜壊れたままなのよね〜」

「……我々の艦AIにサポートさせればいい、ぞ」

「可能なの? でもちょっと考えさせて」


 確か分身体の日頃の管理はドリーにある星系AIと基地AIが担当しておりメンテナンスやフォローをしてくれている。

 私達が実際に遠隔操作で分身体を動かすには自艦、私の場合はアルテミスを介して動かす。

 このノアの提案は「繋がりさえすれば」ドリーが今どこにあるかが分かるし「何が起きたか」も星系AIの記録からはんめいするかもしれない。


 試してみる価値はあるが……今は仲間の行方が気になるので落ち着いたらにしよう。


「……分かった。あともう一個ある、ぞ」

「? 何じゃい?」

「……我々も武装、しよ?」

「ぶそう? 武器のこと?」

「……そうだ、ぞ」

「…………」


 頭の中に「武器を持つ」って発想は全くなかった。

 いやだって敵というか、敵対者は今までいなかったじゃん? それに今回……も?


「武器、通用するかな? そもそも相手? いるのかな? でももしかしたら……」

「……もしかしたら?」


 言葉に詰まる。推測で言って良い内容ではない。


「……あくまでも自衛だ、ぞ」

「どんなの考えてるの?」

「……いくつかある内の一つ、ガンタイプ。これ見て、ね」


 空間モニターが現れ、そこには古代に使われていたサブマシンガンみたいな形状をした銃が。それより一回り小さいサイズ。

 黒色で表面はちゃんとマッド処理してある。


「……トリガーを引くと自動で弾が出る。弾丸は色んな種類がある。例えば……昔ながらの鉛弾、徹甲弾、フルメタル弾、制圧用のゴムスタン弾。更にレーザー、電磁波、反物質、最後はナノブラックホール。極めつけは銃口に聖剣が装着できる、などなど。勿論は無し」

「……何と戦う気?」

「……魔王? などなど」


 顎に人差し指をあてて目をウルウルさせている。


 オイオイ期待してもいないって! どこの世界だ! 君は勇者志望か⁈


「……任せる。好きにしていいよ。基地の整備機能を使っていいから。ただし、セーフティ機能は万全にね」


 ノアには良い気晴らしになるかも。


「……やった〜〜ぜ!」


 両手を上げ飛び上がりながら抱きつかれた。か、可愛い♡

 まさか計算尽く? こんなのがもう一匹いるんでしょ?

 どうしよう……いやいや、私はノーマルだから……ね!


(アル、聴いてた?)

(はい)

(全面協力してあげて。任せた、ぞ?)

(任された、ぞ)


 会話を終える。その途端、再度声が掛けられる。


「待たせの〜」

「あら、ノアったら自分だけズル~イ」


 荷物を抱えたマキとランが傍まで来ていた。


「……残念でした♡ もう終わった、ぞ」


 両手で頬を押さえ、顔を赤らめながら俯く。


 な、何が終わったの〜?






「みんな何を持ってきたの?」


 廊下を「飛び」ながら何気なく聞いてみた。

 今は転送装置が使えない。なので人力で運ばなければならないので大変だ。

 とは言え持ち出したモノは圧縮保管していたらしくかさ張ってはいない。


「私はとっておきの品々を」


 上機嫌で持っている小袋を大事そうに抱えている。中身は多分だが大好物のケーキだろう。

 圧縮してあるから量までは分からないけど。


「ウチは……秘密や」


 あら珍しい。自慢したがり屋のマキさんらしくない。

 ランと比べたら量はそんなに多くなさそう。

 ま、本人が言いたくないなら聞くのは止めるのが礼儀というもの。


「……なんでツッコまんのや」


 不満そうに呟くマキ。いったいどっちやねん!


「えーとマキさんは何を持ってきたのかな?」


 引きつった笑顔で聞いてみた。


「秘密や」

「「……」」


 もう好きにして。そう言えば……


「ノアは……」


 何を持ってきたのか聞こうとしたが、何かに集中しているようなので聞くのを止めた。

 多分さっき話していた「銃」の件で、早速自艦AIとアルテミスの三者で詳細を詰めているのかも。


 ただね、気を付けないと壁にぶつかるよ?





 待機室に到着。

 各自、持ち出し品を自艦へ積み込み再び待機室に集合した。


「さて本日の予定はクリアした。基地ホームも今のところ問題なさそうだし、夜まで基地ここで過ごしてもいいかもね」


「取り敢えず昼食べへん?」

「……お腹空いた、ぜ」

「基地のレストラン、使えませんかね?」

「ちょっと待ってね」


 娯楽街はまだ手を付けていない筈。


「アル?」

「どこが希望ですか?」

「え? も、もしかして」

「はい。粗方改装を終えてます」


 さ、流石アルテミス。


「軽くがいいですね」

「肉や肉!」

「……くりーむしらたまあんみつー」


「ではスパを利用しながら、では?」


「「「!」」」


「行っとく〜?」


 エマ行っきま〜す。はい!


 福利厚生施設なんて後回しと思っていたが既に改修を終えていたとは。

 まあ温泉では無いと思うけど、広い空間で風呂に入れるならこの際贅沢は言わない。


 因みに当基地の入浴施設は福利厚生の一環として運営開始時から存在していた。

 男女別の入口を入ると脱衣所兼休憩所があり、扉のない仕切りの先にシャワーブース。その奥に十人くらいが同時に入れる浴槽ととても質素な造りであった。

 なので気が進まず今まで数回程度しか入った記憶が無いし、ここ数年は利用した記憶もない。

 だが今回の改装で食事も出来る『スパ』へと生まれ変わったとのことで期待を膨らませながら歩みを進める。


 娯楽施設が並ぶ通りに来た。

 先日の報告会以来の来訪。

 通りには当然誰もいない。

 こちらも被害を受けていた筈だがもうどこにも痕跡は残っておらず雰囲気や装いは普段通り。


 実は転送を使わないでここに来たのは初めて。

 いつもは店内に直接か娯楽街にある定点の転送装置を利用している。

 皆も同じで新鮮だったらしく終始キョロキョロと周りを見渡してはしゃいでいた。


 そして目的の「スパ」はこの通りの一番奥。施設がある場所だけは変えてない。


「あれ見て下さい!」


 十字路で左右を見回していたランが何かを見つけたらしく、嬉しそうに目を輝かせながら何かを指を指している。


 あれは……


「ぽ、ポロ⁈」

「ですよね‼︎」


 そう、惑星ドリーにあった「ポロ」だ。

 この場所に以前はどんな店があったのか思い出せない。


「ほぼ同じに作ってありますよ。良ければ中へどうぞ」


「で、では遠慮なく~っていうかウチ初めてなんよ」


 何故か挙動不審になるマキ。まるで「おのぼりさん」が初めて大都会に出てきた感じに。

 どうやらマキにはこの手の店に入るには勇気が必要らしい。


「マキさん! 今は私達しかいません! 遠慮せずに入りましょう‼︎」


 マキの手を握ると有無を言わさず引っ張り先頭切って歩き出す。


「さあエマさんとノアも行きますよ!」


 どうやら行くのは決定事項らしい。

 時間もあるし寄っていくかね。


「ノア行こう……ってあれどこ行った?」


 と脇を歩いていたノアが居ない、と思ったら既に店舗の前に。


「今回に限りお代はサービスします」


 アルテミスの粋な宣言。


 店内は先日行ったドリーにある「ポロ」と同じ配置で並んでいる商品も現地で見掛けたモノばかりが並んでいた。

 さらに「ポロ」と同じ制服を着たアンドロイド店員が二体おり、先に入った三人に笑顔で対応していた。

 ただあの時とは異なり広い店内に客は四人だけ。なので人目も気にせず落ち着いて物色できる。


 先ずは目に付いた試食品を一個、口の中に放り込む。

 もぐもぐ……味は……どうかな?


「!」


 う〜ま〜い〜ぞ〜!


 凄い! まんまポロの味。


(アルちゃんや! どーゆーこと?)

(エマの質問には後で答えます。今は三人と同じく楽しい時間を)

(はいはい、ありがと)


 なら遠慮なく、と急ぎ買い物カゴを確保してから店内を見渡す。ランはケーキコーナーで目を輝かせながらトングを握りしめて、いや血走ちばらせている。どうやら既に臨戦態勢に入っているようだ。


 マキはオロオロせわしなく動き回っていたが……急に立ち止り一点を見つめだす。

 何を見ているのか気になるがここは声を掛けずに暖かく見守ることにした。


 そうだ私も選ばなければ……お? こ、これは……前回買えなかったチョコ。

 あの時、エリスに貰った一口タイプで超絶美味しかったから店に戻ったら丁度売り切れで諦めたヤツ。一個食べちゃったからあと1個か2個しか残っていない。



 よしよし先ずは試食から。ぱく……

 ん? ……ちょー美味しいんだけど何か違う……気がする。

 もう一個モグモグ……う〜んやっぱり違う。感動とは程遠い。

 場所や雰囲気? エリスが隣にいないから?


 隣のチョコも一個食べてみる。ぱく……


 う~ま~い~ぞ~!


 ま、完璧にはコピー出来ないこともあるよね?


 その後チョコは二種類、クッキーを二種類、パイ系三種類とマドレーヌ系を五種。最後にドライフルーツ系を各一ダースチョイスした。

 あんまり欲張るとあとでアルに何言われるか分からんからね。二の腕がどうとか腰回りがどうとかお尻がどうのこうのと。

 なのでこのくらいで勘弁してやるかね〜


「……エマ、ちょっと来て」


 ノアがちょいちょいっと手招きをしながら小声で呼んでいる。



 ──目が真剣。何か怪しいモノでも見付けたか?



 さり気なくランとマキの位置を確かめつつ退路を頭の中で組み立てる。それから周囲を警戒しつつ、商品を見るフリをしながらで傍まで行って耳を傾ける。


「……問題が発生した、ぞ」


 口調が真剣だ。私から目を離さない。


「問題? 何?」


 アルからは何も報告がきていない。

 ノアかノアの艦AIが何か見つけたのか?


「……これを見て」


 ノアの目線が棚へと移る。

 そこには色鮮やかな「ダンゴ」が並んでいた。


「ダンゴ……よね?」

「違ーーう! ただの団子ではなーーい!」

「うへ急に大声出して⁈ な、何が違うの?」

「……新作だぞ、っと」

「…………で?」

「こっちの中身はこし餡、こっちは粒餡。この二つは以前からあった。しかし、これは……中に生クリームが入っている! さらにこっちはカカオチョコとイチゴ練乳がコラボしている!」


 凄い早口。初めて見るノアだ。


「……どうしたらいい、かい?」


「……全部貰ったら?」


「‼︎」


 おお神よ! と涙を流して天に祈りを捧げるノアちゃん。


「ミアの分も忘れずにね。外で待ってるからごゆっくり」


 商品を包んで貰い、一足先に店の外へ出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る