第11話 再会!

 

 昨日は何も起きずにまったりとした時間を過ごせた。

 とは言ったが何もせずにダラけていた訳ではない。


「最優先で基地を復旧させる」という制約が無ければ、それこそ何処かの小惑星帯にでも行って趣味にいそしみ気分転換を図りたかったが、その制約のせいでアルテミスはこの区域から離れられない。

 ましてや中には治療中のサラがいる。余程の事態が起きない限りは艦を移動させられないし見捨てて逃げるといった選択は取れない。

 アルテミスと基地との間で交わされている電波が途切れた時点で、基地の修復やサラの治療が中断してしまうからだ。


 なので周囲の警戒と考察に時間を費やした。


 今回何が起きたか?

 内的によるモノか?

 外的要因なのか?

 ヒントが無い中、外だけでなく基地の中にも気を配らなければならない。


 あとは仲間達の行方。

 私を含めて誰一人、未だに『繋がりリンク』が使えない。


 考察の合間に皆と風呂や食事を共にし気は紛れたが、一人でいる時間の方が多かった。

 気が滅入りそうになった時は様変わりしていく基地を眺めて過ごした。


 復活してゆく姿に心が癒された。

 だが再びループに陥り抜け出せなくなる思考。

 そうこうしていたら激動の二日が過ぎ去り三日目の朝を迎えた。


 今日は基地に戻る日。目覚ましにて目を覚ます。

 目覚めてすぐに、アルテミスから基地の修復状況現状の報告を横になったまま受けた。

 見た目だけでもと外壁関連の修理は最優先でやらせた。これで誰かが戻ってきたら慌ててなくて済むだろう。


 内部だが、基地機能維持に必須な設備を優先に比率が高いモノから順番に修理を行った結果、思いの外早く終えれそうだと。

 残るは優先度が低く、ほぼ壊滅状態で未だ手付かずの福利厚生関連施設をどう構築してゆくかを決めなくてはならない。


 空間モニターには元の「パチンコ玉」へと戻っている基地の姿が添付されていた。外見は元通りとなっている。

 中身だが基地機能維持に必要な二大柱の内の一つ、メイン電源だけは本格稼働まで一週間程度かかるらしいがこれは致し方ない。


 我が基地も例に漏れず、今ではどこでも手軽に使える『核融合方式』を電源として採用しているが、大量に電力を必要とする設備を多く抱えている為、融合炉も大規模になってしまう。


 本来なら試験を行い安全を確かめてから本格稼働に移るが、今はそんな悠長な余裕はない。

 なのでぶっつけ本番にはなるが低出力で様子を見ながら徐々に出力を上げる方針にした。


 もう一方の柱であるメインAI。こちらも明日までにはハード的な部分の再構築が済むとの事。

 だがここで新たな問題が判明する。

その問題とは中身である『基本システム』、つまりは人工知能となるソフトの「予備」が基地内に存在していなかったのだ。

 これは想像だが、そもそもメインAIの故障や損傷が起き、再インストールしなければならないといった事態は想定していなかったので、基地に用意しておかなかった、と思われた。


 今はアルテミスが肩代わりしてくれているから良いが、いつまでもこのままとはいかない。そのせいでアルテミスはここから離れられないでいるのだ。


 出来るだけ早い時期に何処からか「基本システム」を仕入れるか、他の方法を模索しなければ。


 この影響で転送装置系統の電源が入れられない。

 転送装置の制御にはメインAIも絡んでおり、メイン電源とメインAIの両方が正常に動作しなければ稼働はさせれない。

 これは死活問題。早急に復旧させたい。


 もう一つ、備蓄されてあった修理用圧縮原材の在庫が50%を下回ったと報告が入り、新たに優先度は低いが原材料確保の要望が上がってくる。


 基地修復用の原材料に関しては近傍の惑星や恒星にも点在しており、しかも探索艦でも採掘可能とのことなので、そのうち手分けして行くことにする。

 これは原材料を精製・加工・形成してくれる基地機能設備を「優先して」回復させた効果が出た。

我ながら「ぐっどじょふ」と大声で叫びたい。


 なので今のうちにどこに行けばよいのか、リスト作成を指示しておく。


 あとは探索艦関連の在庫は今の所は未使用なので補充の必要無し。というかこれは初めて知ったのだが、基地外壁に使われている流体物質は探索艦と同じ物質が使われているとのことで、特殊すぎて探索部本部経由でないと手に入らないらしい。

 今回の被害で「若干減った」が元々基地を分厚く覆っていたらしく、相対的にみれば基地の直径が1m程減っただけで、機能的には変わりはないと。


 ただ探索艦に使われている流体物質は巨大ブラックホールも貫ける硬度を有している。

 それを移動しない基地に使うのには理解が及ばなかったが、何かしらの理由があっての事と今は考えずにおく。



 尚、基地帰還時間は当初10時頃と予想していたが、基地内の気密が保たれているかの最終チェックに多少手間取っているとのことで、若干遅れての11時に変更となった。



 さて、今朝の朝食のために「寛ぎスペース」を八時丁度に予約してある。だが約束の時間までまだ一時間以上ある。


「とりあえず朝風呂だね」


 ゆっくりとベットから起き上がる。

 昨夜も裸で寝た。

 髪も結わかず下ろしたまま。


 そのまま浴室へ直行。

 今日は基地自室と同じユニットバスにした。理由は……今朝だけは一人で入りたかったから。


 見れば浴槽にお湯が並々と溜まっている。

 体も洗わずつま先からそーっと波を立てず静かに入り、そのまま口元まで沈む。

 髪が水面でゆらゆら広がりながら視界に入ると脚を曲げ両手で抱え込む。


 これから基地へ戻る。

 外壁は行動に支障のない範囲の修理は完了しているが、それ以外の見えていない箇所は道半ば。


 いや修理はいい。

 備蓄と自動修復機能が尽きない限り、時間が解決してくれる。


 問題は他。

 そう「消失」だ。


 何故起きた? どういう理屈? 自然現象?

 だとしたら我々には対応は不可能かもしれない。


 人為的?

 それは有り得ない。

 常にAIに完全管理・監視されている状況でそんな暴挙が。



 ──いや、有りえる……かも。



 それなら基地の最高責任者であるサラは何故負傷した?

 サラも巻き込まれた?



 ──みんなはどこ? なぜ連絡が取れないの?



 ドックの流体ハッチは壊れていなかった。

 つまり外に出る「時間」はあったということ。

 基地AIが停止した後だと基地を覆っている流体物質は硬化してしまう。その場合、物理的に破壊しないと外には出れない。つまり外に出た後に「何かが起きた」と。


 現時点で転送装置が使えないのも不安材料の一つ。

 艦から離れている時にもし同じ現象が起きたら……逃げる暇もないかも。


 でも……


 基地あそこに行かないと何も始まらないし前にも進めない……気がする。


 そう、もう開き直ると決めたんだ。


 だから行く。


 みんなで戻る。


 宇宙で待機させる班と基地帰還をする班に分けることも考えた。


 だが「行った・残った」で後悔が生まれるなら、みんな一緒に行って後悔したほうがいい。


 昨日のみんなの笑顔。


 みんなも私と同じで不安な筈。


 そう、私だけじゃない。


 だから先輩の私が不安な顔をしてちゃダメ。私が道を示さないと。


 みんな一緒。



 大きく息を吸込み、お湯の中に顔を突っ込む。



「ああああああああ」



 大声で叫んだ。

 そのまま立ち上がり正面を見据えながら呟く。


「私、行くね。エリ姉」


 チョットだけ気合が入った、気がした。






 現在「寛ぎスペース」にて皆で朝食を食べている。


 今朝のシチュエーションは森林の中。

 木製のガーデンテーブルと二人掛けの椅子のセット。

 私の右隣はノア、正面にはラン、ランの右隣にはマキ。

 テーブルの中央にはクロワッサンの山。

 各自の前にスクランブルエッグ、サラダ、オニオンスープ。

 私の飲み物は定番であるぬるめのレモンティー。


「11:00にドック入りとします」


 自然と真面目な口調で話を始める。


「ドックは規定いつもの所に、で?」

「それだと集まるのに時間が掛るので、今回は習慣を無視して固まって止めます。待機室までの距離は変わらない一〜四番ドックに。急ぐ必要はありません。移動を考慮して通路は無重力にしておきます。集合次第、サラ達に会いに行く」

「まだ意識回復してへんよね?」

「うん。でも帰ってきた報告だけでもしておきたいから」

「そうですね。気分的に違いますものね」

「うん。その間に探索艦に物資の補給をさせておくこと。規定以外にも必要と思われる物はガンガン入れといてね」

「「「了解」」」


「……でサラに会ったあと、は?」

「もうすぐ改装が終わる偵察艦を出す」

「……エリス達のところ、だな?」

「うん。向こうで情報を集めて三時間後には戻る予定」

「「「…………」」」


 場(の雰囲気)が暗い。


「よし今決めた! 面会後は自室に一回帰ろう! 色々持ち出したい物とかあるでしょ? あるよね?」


 軽く笑顔でウインクしてみせる。


「エマや」

「なに? マキ」

「似合わんからやめときー」


 ジト目で言われた。


「あはは……」


 気を使った笑いをするラン。


「…………」


 ノアは何故か顔を赤らめながらこちらに熱い眼差しを送っている。


「こほん。それとこれは「命令」です。原因が判明するまで宇宙服を着用。艦内ではいいけど基地内では必ず、ね」


 宇宙服は首から下の全身を覆っているが、普段は頭部は丸出し。

 だがいざという時は首から上である頭部を瞬きするよりも早く、髪の毛を含めた頭部全てを透明なシールドで覆って保護をしてくれる。

(髪は靴底の重力制御装置により本人が予め決めておいた定型の髪型へと纏めてくれる)


 この宇宙服は上から下まで、耐衝撃・耐圧・耐熱・耐電磁波と過剰な性能を有しており、生命維持に必要な装置・通信機器・バッテリー・簡易型反重力装置、さらには生理現象に対応した機能などの必要機材も圧縮搭載。左右の靴底に1セットずつ収納されている。

 この宇宙服を着用さえしていれば、設計上は宇宙空間でも難なく2日は生存が可能となっている。

 逆に『装着者がその状況に耐えられるか?』と精神の方が心配。


 着用義務化は皆の安全確保の為に決めた。

 今後は改造が必要だがサラ達にも着せるのも考慮しとかないと。

 だっていつ何時基地がまた崩壊しないとも限らない。

 もし基地の安全確保の見込みが立たないのであれば、最終手段てして治療用カプセルごと探索艦に乗せて、他エリアにでも連れて行くしかない。

 その時は…行ったことがあるAエリアで良いだろう。

 あそこなら仲間が大勢いる。


「10:50には分離し移動を開始。それまでは自由行動とします。何か質問は?」


 皆無言でコチラを見ている。見れば皆食事を終えている。

 皆と一人ずつ目を合わせ、笑みを浮かべながら力強く言った。


「では解散」




 アルからは何の報告もない。

 報告が無いのは変化が無い証。

 ここに戻って来てからは何も起きていない。

 むしろ静か過ぎるくらい。

 それはそれで有難いが、静か過ぎると期待以上に不安が増してしまう。


 でももういい。

 行ってから考えよう。

 仲間と一緒に。






 10:50 それぞれ探索艦の中。


 空間モニターに全員映し出されているのを確認してから言う。


「それでは移動を開始します」

「「「了解」」」


 短距離なので反重力での移動。

 探索艦は既に卵型に形状変化しており、音も振動もなく基地へ向けて動き出す。

 今回は艦の所々に光を点滅させ基地に近づいている。

 四艦の間隔は現在五十mの等間隔の横並びで基地に接近。

 基地から見てラン、私、マキ、ノア。



 11:00 予定通りドックの流体ハッチに潜り込む。


 久しぶり、とは言ってもたったの二日ぶりの基地我が家

 ドック内を全方位モニターに映し出す。

 四艦が入ったドックは損害が皆無。出迎えのアンドロイドも居らず静まり返っていた。


(全艦着艦、完了、補給、開始)


 規定位置で停止するとドックの壁の一部が消え、そこから直径一m程のホースが何本か伸びてきて艦にめり込む。

 これは補給用物資を原子レベルまで分解・圧縮した流体物質を、艦に積み込みを行うためのホース。

 ここで起きたこと、そしてこれからのことを考え、考えられる範囲の物を積めるだけ積み込むことにした。


(アル、後お願いね)

(ぐっどらっ〜く)



 ……はい? 何が? ……いや気にするのはやめよう。



 艦からドック内へ出る。

 ドック内は空気に満たされているが無重力。

 靴底の反重力装置で制御しながら、通路口まで一気に飛ぶ。


 久しぶりの外。

 頬に当たる空気が心地よい。

 軽く横回転をしながらドック内を見渡す。

 出発前と同じで見慣れた光景。


 いつも思うが明るいけど無機質な空間。

 積み込み作業中だが自ら発する風切り音以外、物音一つしていない、全てが制御された空間。


「よ〜いしょっと」


 体勢を変え基地内通路口扉の前に両手を広げて見事着地。10点満点で自己最高点。

 誰も見ていないにも関わらず少しドヤ顔をしてみた。


 その時、両開きの扉が開く。

 気持ちを切り替え通路を覗き込み左右を確認してみる。

 何も無いのは分かっているが、無意識にそうしてしまう。

 通路は白基調でとても明るい。電力不足を感じさせないほどに。


 まあ、人がいない部屋は全て真っ暗だけどね。


 廊下に一歩踏み出す。

 確かこっち。

 いつもとは違う移動方法で感が狂う。

 因みにいつもは扉脇の転送装置で目的地までひとっ飛び。


 通路は飛びながらの移動。

 歩くよりは余程早い。

 結わいてある髪が後ろでゆらゆらと靡いていた。


 普段であれば、必ず何体かのアンドロイド達とすれ違う。だが今は基地の復旧に駆り出されているので見掛けない。


 曲がり角を何箇所か通り抜け、目的の待機室前に到着。

 床に足を付けて降り立つ。

 扉が開く。すると目立つ位置に置いてある椅子にマキが座っていた。

 周りを見回す、が後の二人はまだ到着していない。

 ついでと待機室の様子も確認したが出発前と全く変わりはなかった。


「へへへ、今回は一番や〜!」


 嬉しそうな顔で腰に手をあて胸を張り、ニヤケ顔でこちらを見て言った。


 あの~別に競争はしてないから……ね?


 隣の椅子に座る。すると私が入ってきた扉が開く。


「……ありゃりゃ。三位だった、ぞ」


 少ししょんぼりしていた。そんなノアちゃんも可愛い♡


「ハア、ハア、ハア、え〜最後〜? ビリビリですか〜」


 違う扉が開き、ランが息を切らせながら入ってくる。

 私達を見つけると、ふにゃふにゃ〜とその場に座り込む。まるでお先真っ暗~てな感じで。


「いやだからね? 競争はしてないよ? ね?」


 立ち上がりランに近づき肩に手を置く。


「それは「おめえおせーぞ」という意味ですね? 分かりました! 次はもっと早く来られる様に精進します!」


 変なスイッチが入ってしまったようだ。

 とりあえず放置しとこ。


 全員揃ったところで「確認。補給指示はしてあるよね?」と聞いたら皆頷いた。


「ここに来るまでに何か気付いたことはある?」


 皆、無反応。


「よし! ではサラ達に会いに行きましょう!」


 皆が一斉に立ち上がると、医務室に向け私を先頭に扉を抜け通路に出て行く。


 待機室と医務室は離れているが一本道で迷わない。

 飛んで行ったので僅かな時間で医務室前の扉に到着。

 この扉の先には治療中のサラ達がいる。

 アルから「命に別状はない」と聞いているだけで、実は詳しい内容は聞いていない。

 聞いたとしても私達に出来ることなんて何も無い。

 ただ祈ることしか出来ないから。


 意を決して一歩前に出て扉を開ける。

 薄暗かった室内がゆっくりと無段階で明るくなっていく。

 医務室内は廊下と同じ白基調でかなりの奥行きがあり中央が通路、左右にカプセル型の治療台が合計三十台ほど並んでいた。

 勝手な想像で治療台にケーブルやチューブの類いがいっぱい繋がっているかと思っていたが、それらは一切見当たらなかった。


 一歩踏み込むと、すぐ脇には医務室担当のアンドロイドが二体、直立不動でこちらを見ていた。その内の一体はあのアンリちゃん。

 目が合ったかとおもったが、彼女たちは一点を見つめたまま身動ぎ一つしないでいた。

 普段は人間と全く変わりない彼女達だが、この様な姿を見ると彼女らが「アンドロイド」だと改めて認識できる。


 これってアルの演出かな?

 それともここまで手が回らないほど、まだ負荷が掛かっているのかもしれない。


 奥に歩みを進めると、治療用カプセルは手前側から一台置きに蓋が閉じており、作動中のカプセルの通路側には空間モニターにて中に入っている者の治療状況が色々なアイコンや色で表示がなされていた。

 その数、全部で九台。


「アル、サラはどこ?」

「一番右奥です」


 何処からともなく声が静かに響く。

 四人は足音をさせサラの元へと行く。

 途中見掛けたモニターには「整備班長」「生体管理班長」「機材運営班長」「出納班長」等の名前があり、モニター内のアイコンも軽症を示しており全員容体は比較的安定している様であった。

 因みに治療中のカプセルの中の者を目視するためには蓋を開けるか、蓋の「半透明」を消す操作をしないと見れない。

 ただモニターでも状態確認は出来るので、今回は敢えてしなかった。


 サラのカプセルの前に到着。

 エマを先頭に立ち止まり全員モニターを見入る。

 その瞬間、全員が固まる。


 後ろで誰かの息を飲む音がした、と同時に誰かが私の腕を掴んでくる。腕にその手が震えているのが伝わって来た。

 空間モニターには、画面中央に前後の二つの全身のアイコンが表示されており、治療中の箇所は判り易いように点滅、さらに重傷度の割合で赤 〉黄 〉緑と変化する仕組みだ。

 因みに欠損の場合はその部分が消灯となるがサラは右腕が肘から先、両足の太腿中頃から先が消灯していた。

 そして頭部が赤、下腹部と背中と臀部が黄で唯一無事なのは左腕くらい。


 部位の脇には治療内容の詳細が表示されており、損傷が酷く治療の為に既に切断され欠損部扱いとなっている部位は「人工培養」である程度「育って」いるようだった。

 それらはあと一週間くらいで成長・移植出来そう。


 生体強化しているからこそこの状態に耐えられたんだと思う。

 探索者我々なら……即死状態だったと思う。


「こんなに酷い状態だったなんて……」


 後ろで隠れながら見ているランが涙を堪え震える声で話す。


「倒れていた全員の位置、負傷状態、室内の様子から推測するに、サラ主任は全員を先に避難させ、自らは最後に部屋に飛び込もうとしたところで、司令室の一部を巻き込んだ「消失」により重力が喪失、その反動に巻き込まれたのではないかと推測。エマージェンシールーム内には司令室から飛び込んできた機材が散乱していました」


 アルが分かりやすく状況説明をしてくれた。


「反動?」

「「消失」が発生したところは真空状態となるようで、全ての方角から物が圧力差で飛び散り回ります。「消失」自体を回避できても、その後の二次被害は無視出来ないレベルとなります」

「まあ、基地内は真空状態を想定してつくられてへんからな」


「ねえ、サラは……元に……治る?」


 声が掠れている。


「はい、問題なく。ただ脳のダメージは意識が回復してからでないと判断は出来かねます」


 流石に「脳」は交換出来ない。


「みんな……そこにいて」


 意を決して足元側から頭部の方に回り込む。

 足取りが重い。

 マキ、ラン、ノアの三人は通路側から黙ってエマを行動を見守っていた。


「アル、顔を見えるようにして」

「……分かりました」


 頭部がある側の半透明な曇りが消えてゆく。

 ゆっくりとサラの顔を覗きこむ。



「‼︎」



 エマの呼吸が一瞬止まり、瞬きをすることが出来ないでいる目から涙が溢れ出る。


 それでも決して目は背けない。

 自分で決めた事だ。

 涙を拭おうともしない。

 両手に力を込める。

 それからつかえながらも何とか声を捻り出す。



「……サラ……ただいま。……今、帰ったよ……四人とも無事帰還……しました。だから……早く……良くなって……ね」



 頬を伝わり涙が顔から床に滴り落ちていく。

 最後は言葉になっていたか分からなかったが……報告は最後までできた。


 サラの足元側では、マキの両脇からランとノアが抱きつき、マキはその二人を両手で包み込む様にしてエマのことを見守っていた。


「報告……終わったか」


 頃合いを見てマキが涙声で聞いてきた。


「はい……出来ました」


 四人共、涙で顔がクシャクシャだ。


「あとは……アルテミス達に任せよう!」


 ランが泣きながら笑顔で元気付ける。


「……サラなら大丈夫、だぞ。身体が戻ったら……起きる前にイタズラ書き、しとこ」


「そうね、みんなでね」


 ノアが締めてくれた。

 エマを最後に四人は出口へと向かう。



 サラ、先に進むね!



 扉の前で立ち止まり一瞬だけサラのカプセルを見ながら涙を拭い、決意を新たにした。

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