第10話 温泉?


「という訳で現時点から明日いっぱい、基地の復旧を見守りながらこの場で待機とします」


 と宣言をしてから箸でネギをつまむ。



 サラ達の治療開始と時を同じく各AIや動力系統が自動修復プログラムにより徐々に復活。初めはゆっくりと、だが確実に前へと進み始めた。今後は最低限の環境が整えば復旧速度が飛躍的に上がってゆくだろう。


 そして一番の懸念であった基地機能の中核を担うメインAIの被害。ここも深刻なダメージを負っていたが、大した時間も掛からず元の姿を取り戻せるとのこと。



「さっきまでとは何や別人やな」


 コイツは肉を摘む。



 一部の問題……それはメインAIに保管されてあった記録。

 この「記録」とは基地創設時から「直近」までの全てでありメインAIのみ保管されていた。

 今回はその部分が「物理的に消失」していたのだ。



「本当に頼もしいですね」


 一旦は野菜に箸が向かうも結局は肉を摘んだ。



 『記録の保存』はメインAIが扱う領域でサブAIは関わっていない。基地のシステム上、メインAIがサブAIを統括しておりサブAIは忠実に命令を熟すだけ。

 つまりは現時点では何処を調べようが「何が起きたか?」を知る手段が存在していないのだ。



「……姉貴と呼んでいい? かなかな?」


 コイツは三度、素早く肉の塊を受け皿へと運んだ。


 グツグツと煮えるすきやきを囲みながら炬燵こたつで寛ぐ4人。背景は当然の如く和室にしている。


「……肉だけじゃなくて野菜も食べなさい……」


 ジト目で威嚇してみる。


「細かいこと気にせんとな」


 また肉を摘む。


「あ、エマさん。ご飯のお代わりお願いします」


 と茶碗を差し出しながら箸で肉を摘む。


「……今度は本物だ、ぞっと」


 肉を口に運んでから「ニホンシュ」をお猪口に注ぐノア。


「ちょっ、私も」


 酒瓶の傾き具合から残りが少ないと思い、慌てて空になったお猪口をノアに突き出した。


 四艦は今「合体」しており外見上は巨大な一つの白色球体となっている。

 これはどの艦も同一素材で成り立っている探索艦だから為せる技。

 四艦で一つの球体を形どり、その中心部に四艦の「寛ぎスペースコックピット」を繋ぎ合せ、より大きな寛ぎスペースを作り上げた。

 そのスペースの中心に置いた炬燵の中心が四艦接合部の中心点となっている。


 この合体の最大の利点は一艦でいる時よりも、真空に面している外装の面積を減らし、その分外装の厚みに回せられるという点。

 外装と言う名の防御に厚みを持たせられるのだ。


 他は我々の心理的安らぎが得られる点。

 今は一人でいるより、皆の顔を直接見ながらそばで過ごしていた方が安心する。


「基地の復旧はどれくらいかかりそうですか?」


 豆腐を器用に摘み口に入れたタイミングでランが聞いてきた。


「明後日の早朝には落ち着くかな」

「了解です!」

「よっしゃー! まずはカンパイしとこ!」


 半分に減っていたビールを注ぎ足しジョッキを前に突き出す。

 ランは焼酎の梅割りグラスを、エマとノアはお猪口をそれぞれの前に突き出して「カン」と合わせた。


「食べながら聞いてね。明後日の多分十時過ぎにはドックに入港。その後は全員で(医務室にいる)サラ達に会いに行きましょう」


 皆、口をモグモグさせながらもこちらを見て頷く。


「アル達はその間、艦の補給と必要なら整備を最優先で。積めるだけ積んで」

「「「了解」」」


 艦達からの返事がハモる。


「あとは現在無傷だった無人連絡艦を偵察艦へと優先改装を施しています」


 我々探索者は専用のがあり何処に行くにも(許可さえ出れば)自由に使えるが、サラや職員にはその手の手段は無い。

 無人連絡艦は彼女ら職員の為に用意された手段で、普段は惑星ドリーとの行き来に使われている。

 船体も探索艦に比べたら二回り程小型でギリギリ「艦」と呼べる程度の大きさ。

 その艦に備え付けられていた機器を取り外し、代わりに備蓄品してあった探索艦搭載用機器と換装している最中で、さらに高性能化について行けるように船体の補強工事も同時進行で進めさせている。

 ただし内部の改造が主であり武装は元々だが防御力も無いに等しい。


「職員移動用の艦ですよね? 行き先は?」


 ランが食べるのを止め、少し真面目な顔で聞いてきた。


「……まずは行き先がはっきりしているシャーリー達の所」

「みんなアッチにおるとええな~」

「うん、ソレを期待してる」


 ゆっくりと力強く頷く。

 是非いて欲しい。最低でもシャーリーとエリスの二人だけでも……


「偵察艦が帰還後、持ち帰った情報を精査してから判断することになるけど……。その結果次第で二班に分けるかも」


 心情としては分けたくない。だが全員一緒に行動はとれない。


「シャーリーさんとエリスの所、ですね。それなら私が行きます」


 ランが箸をゆっくりと置き、笑顔でエマを見ながら宣言した。


「ありがとう。マキもよろしくね」

「任せとき!」


 右手でボリュームのある胸を頼もしく叩いてから、手をグーにして前に突き出す。ランもグーにした腕を突き出す。その突き出された二つのグーに私も合わせる。

 同時にコツンと軽く触れた。心にジーンときて目頭が少しだけ熱くなる。


 本来ならば私が率先して行くべきところだが、今は諸々の事情を考慮しここに残ることにした。

 この四人を分ける場合、必然的にマキとはペアを組めない。

 なぜなら行動の結果が期待している結果になるとは限らないし、ここ以上に悲惨な状況が待ち受けているかもしれないし、その場で苦渋の選択を迫られるかもしれない。


 勤続一年前後の若いノアラン二人に選択や責任を取らせるのは酷というもの。

 その辺りは年長者で先輩である私の役割り。

 私とマキはもう三年にも及ぶ長い付き合いでその辺りは弁えている。

 だからこそマキに任せたし、私の性格を知っているからこそマキは引き受けてくれた。


「エマさん、一人で考え込まないで遠慮なく相談して下さいね」


 笑顔で言われると目頭が熱くなってくる。


「ランやエマ泣かすな」

「うん、もう大丈夫! 二人共ありがとね!」


 どうやら気付かれてしまったらしい。

 二人も不安だろうに、こんな私を気遣ってくれている。


「……ふっ、私は除け者だ、ぞっと」


 不貞腐れたノアがオヤジくさい仕草で自分のお猪口に酒を注ぐ。


「ノアには行って欲しい所があるの」


 勿論忘れてなどない。


「……どこじゃ?」

「それはね……………………」

「……らじゃ〜」


 片眉を上げ口元を緩ますノア。


 この件は「本当に行かせるべきか?」と今でも悩んでいる。

 ただ「あの時こうしておけば」と後に後悔する気がしたし、少しでも不安要素は減らしておきたかったので行かせることに決めた。

 まあ無駄足に終わったならそれでいい。得られるのは一つの信用。

 向かうノアには身バレ厳禁、さらに安全マージンを充分に確保した上で「ヤバければサッサと引き揚げろ逃げろ」と言ってある。


 ノアの性格は基本は受け身で無口。こちらから話を振らないと積極的に口を開こうとしない大人しい性格をしている。ただそれは表の顔で実は彼女ら姉妹は特殊な『能力スキル』を持っている。

 それらを考慮してノアに決めた。他の二人では無理な任務だがノアなら堪え得ると。



 ローナの言葉を思い出す。



 <仲間を



 どちらにしてもサラが目を覚ませば解決する……と思う。いやしてもしなくても責任は丸投げしよう。


「はい最終確認。明日は当初のスケジュール通りにお休みとします! 艦の中なら何してても構わないけど基地ホームからは離れない事。帰還は明後日。その時にサラ達の様子を見に行く。その次の日にはマキランペアとノアの派遣。その前に偵察艦をシャーリー達がいる領域へ向かわせる」


「……先生質問、で〜すぅ」


 ノアが気怠けだるそうに手をあげて質問してきた。

 大分酔いが回っているようで目蓋がほぼ閉じられていた。


「はいノア君」


 エマも付き合う。


「……明日……食事……どう……スー、スー」


 炬燵にもたれながら寝てしまう。


「寝ちゃいました……ね」

「明日の食事めしはどないする? ってとこやな」

「皆はどうしたい?」

「夕食だけでもご一緒しませんか?」

「そやな~うちは多分昼ごろまで寝てる思うし」

「なら艦はこのままで「寛ぎスペース」もこのまま。食事は拘りがない限りはそれぞれの判断で。ただし此処で食べる事」

「時間も決めんで、好きな時に食べる」

「それでいきましょう♪」

「夕食は私が声をかけるね」

「はいお願いします」


「で、どないする? コイツ」


 ため息交じりに言いながらマキがノアに近寄る。

 振れる直前にノアの上半身が見えない手に支えられる様に後方へゆっくりと倒れていき、知らぬ間に床に用意されていた枕に頭が沈んだ。


「「「…………」」」


 三人ともその光景を無言で見つめる。

 多分普段から自艦AIをこんな風に使ってるんだだろうな〜と思っている呆れ顔。


 因みにアルテミスなら……間違いなく放置だろう。


「さ、私達も寝ましょう」


 炬燵の上の物を壁面へと片付けながらあくびを一つ。

 みんなのおかげでだいぶ気が楽になれた。

 お酒の力を借りて今日はもう寝るとしよう。


 寝る前にイレギュラーが起きたら無理矢理でも起こすようアルテミスに指示しておく。

 アルコール成分はその時に薬で分解できるので今は何もしない。


「それじゃお休み」

「お休みなさい」

「ふぁ〜また明日な〜」


 挨拶を終えノアを炬燵に残してそれぞれの専用スペースへ帰っていった。




 ・・・・・・




 目の前には白いワンピースを着た金髪の少女が横たわっている。

 突然舞い降りた金髪の少女に瞬きをするのも忘れ見ていると、そのままがいた床へと崩れ落ちていった。


「だ……れ?」


 ではない。そんなことは見ただけで分かる。だが他人とは思えない気配。


 ここで四方から身動ぎせずに「事の成り行き」を見守っていた四人の大人が突然行動を起こす。

 四人の内、二人は金髪の少女へ、残りの二人は黒髪の少女へ。

 唯一の男が金髪の少女を抱き抱えると建物の外へと歩き出す。

 その男を先導をする様に一人の女が男の前を行く。


「ま、待って! そ、その子は?」


 聞こえている筈。だが誰も口を開かない。

 返答の代わりに左右からいきなり腕を掴まれ立たされる。

 両脇には女が二人、黒髪の少女の腕を掴むとそのまま引きずるように先を歩く二人の後をついて行く。


「教えて! その子は……」




 ・・・・・・




 一日目 6:25。

 

 ふと目が覚めた。

 周囲が次第に明るくなっていく。



 ──そうだ。皆と別れた後、寛ぎ空間を作り自室と同じ造りにしてそこで寝たんだった。



 昨夜は珍しく一度も目を覚まさなかった。

 でも……不思議なを見た。

 あの黒髪の少女は何処かで見たような……でも思い出せない。



 ──ま、いいか!



 ベッドから出るなり「ふぁ〜」と大きなあくびをする。

 床には脱ぎっぱなしの宇宙服が普段通りに散らかっている。

 そしていつもと同じく素っ裸。

 昔からの習慣で寝る時は何も身に付けないで寝ることにしている。当然髪も解いてあるのでバサバサ。ここまでは普段と同じ。


 一旦ベッドに腰掛けると気持ちを切り替える。

 アルに基地関連の進捗状況を空間モニターに出させ確認を始めたが……今のところは起きていない。全てが想定通り。


 もう一回大きなあくびをしながら全身伸びをする。


「ん〜朝風呂でも入りますかね」



 ◇


 ここでエマの趣味について。


 エマエリー姉妹の「共通趣味」は紅茶と温泉。特にエマは強く自他共に認める「温泉狂」でそして事もあろうか艦の中に浴槽を持ち込む程の「温泉狂」である。

 ゆったりと入れる大きさの「浴槽」と、湯が「天然温泉」でない風呂には入った気がしないのだ。


 基地の自室には当然のことながらユニットバスしかない。

 また基地の娯楽施設にも有料だが浴場があり「温泉」が使われてはいるのだが中は狭く、しかも有効成分だけを混ぜた人工温泉なので気分的にというか全く好きにはなれないので、一回利用しただけでその後は足を運ぶことは無かった。

 ここアルテミスの湯は気分必要に応じていつでもどこでも入れるように、探索中に自らが発見した「天然温泉」を有害物質を除去した上で成分・種類ごとに採取・圧縮保管しておいたものでBエリアの皆は知っている。


 導入当初に一度だけ探索中に入ったことが。あの時はエリーにバレてこっ酷く叱られた。

 その時に『自重しなさい』と言われたので以後探索中は控えていた。

 ここ数年は勤務後のひとっ風呂や休日のまったり入浴が定番化しており、エリーをご招待出来るくらいに種類が増えていた。


 因みに同行している三人の艦にも風呂が搭載されてある。それは三人の新人教育を担当をしたエマの影響せい


 それと上司であるサラはこの件を当然知っている。知った上で黙認している。

 もし始めたのがエマ以外であったなら、遠慮なく怒っていただろうし即刻止めさせていただろう。

 だがサラは黙認した。温泉以外の趣味に関しても黙認せざるを得なかった。

 黙認してしまったが故にそれ以降に真似をする者達を叱れなくなってしまった。


 そして黙認したのには複雑な理由があるからだが……それは後の機会に。


 ◇



 今日は硫黄の香りが漂う「にごり湯」にした。

 朝の入浴は湯温を少し温めの39℃にしている。

 床に転がっている宇宙服には見向きもせず裸のまま直接「入浴空間」へと移動。



 6:40。

 身体を洗って湯船へ。

 入浴空間だが背景を高原にして、浴槽を岩風呂風に変えてある。


「ふにゃ〜」


 朝風呂天然温泉最高デース。


「は〜ぁ」


 何も考えない。

 敢えてボーとする。

 すると少し眠くなり、目がしょぼんとしてくる。


「……しっつれ〜い」


 突然正面の背景に穴が空き、ノアがヒョコッと顔を出した。


「うぉ⁈ ブブ……ハー!」


 溺れかけた。


「の、ノア⁈」


 見れば鼻歌交じりに身体を洗っているではないか。


「入るなら一言声かけて〜って? あっ、君達ーー!」


 今度は後方から声が聞こえたので振り返るとマキとランがこちらに背を向け身体を洗っていたのだ。


「い、いつの間に……」


「……ま、みんなで入った方が楽しいぞ〜と」


 はいはい、負けました。ってゆーかアルテミスは何も言ってこなかったね。


「温泉もええな〜。そや今度はウチの風呂に招待するわ〜」

「マキさんのはどんなお風呂なんですか?」

「サウナと水風呂ー!」

「お、それいいかも!」

「そやろ! よし今晩予約なー!」


 片手を上げてグルグル振り回して喜んでいる。

 前の山脈もブルブルと震えている。


「……マキブクデカすぎブクブクだぞブク


 マキの正面に回り込んだノアが顎まで湯に浸かり上目遣いに立派な山脈を眺めて呟く。

 体のラインがクッキリ出てしまう宇宙服からも分かる通り、マキと姉のマリはとても恵まれた体型をしている。

 ただマリ共々、その恵まれた体型を生かし切れておらず、色気等は感じられない。


 三人の視線が胸に集まる。


 う、浮いてやがる……なんか悔しい。


「ん? そう? サラに比べたらまだまだや〜」


 フン、どうせ私はないですよ〜だ!



 7:30 朝食。


 結局四人揃って食べた。

 サンドウィッチの朝食にはそれぞれに拘りがあるらしく、自艦から好みの具材が入った物を作って食べた。

 その際、飲み物はマキが毎朝牛乳を飲んでいると小耳に挟み、途中からエマ・ラン・ノアの三人は牛乳を飲んでいた。

 しかも何故か涙目で……



 11:12 ランの湯。


 エ「あああああああああ」

 マ「おおおおおおおおお」

 ノ「ううううううううう」

 ラ「喜んで貰えたようで光栄です♡」

 エ「あああああああああ」

 マ「おおおおおおおおお」

 ノ「ううううううううう」

 ラ「皆さん、ほ、他に感想は??」

 エ「ちょちょちょっとととゆるゆるめてめてめて〜」


「初めての方には少し強すぎましたね♡」


 ハア、ハア、なんちゅう水流の泡風呂バブルジェットだ!


「ポチッとな♡」


 エ「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 マ「ぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 ノ「ぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 僅かだが声のトーンが下がった。



 12:30 昼食。


「うちに任せとき〜」


 器用にひっくり返す。


「ほれ、出来上がりや〜」


 目の前に山のように積まれたタコヤーキ。


 熱いうちに食べるのが礼儀らしい。

 しかも必ず一口で食べ、口に入れた物は何があろうと決して吐き出してはダメ……らしい。


「「「いっただ~きま〜す」」」


「あちゃー!」

「あちっ!」

「ハフー!」


 三人同時に口から飛び出した!


「あんたら食材に失礼やわ」と言いながらタコヤーキを口に放り込む。


「あ、あ、ブッ」


 同じく飛び出た。

 因みにマキが一番遠くへ飛ばした。



 15:30 ノアの湯。


 カコーン。


 何処からか木の桶が床のタイルにあたる気持ちいい音が鳴り響く。

 四人は横並びでタオルを頭に乗せ、内三人は茹で蛸になりながら瞑想状態。

 背後の壁には手書き風の「赤フジヤマ」が描かれていた。


 ノアの湯は古代の「ニホン」という国に実在した「セントウ」という名の大衆浴場に似せている。

 セントウとは「エドッコ」と言う精神を極限まで鍛え抜かれた強者しか入る事が許されなかったという伝説の湯。

 入口には屈強な守衛が常に目を光らせ、資格無き者が立入ろうとすれば実力で排除していたとのこと。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「「「あつーーーー‼」」」


 身体を真っ赤にさせながらエマ・マキ・ランの三人が湯船から飛び出てきた。


「なななな何でこんなに熱いの!?」

「一体何度や!?」

「熱いというより痛いんですぅ!!」


「……ふっ……45℃」



「何考えとんのや殺す気か?」

「……エドッコはこの温度が当たり前、だぞっと」

「「「はいーーーー⁇」」」

「……で次はここに入るんだ、な」


 真っ赤なノアが頭にタオルを乗せたまま、トテトテと隣の湯船へ移る。

 皆もよろけながらも後に続く。


「「「ひゃーーーー気持ちいい♡」」」


 水風呂だった。


「……の繰り返しっと」

「「「…………」」」


 三人はノアを無視して隣の湯船38℃に向かった……



 18:50 夕食。


「そこ! 肉ばかり食べない!」

「固い事言わんといて〜な」

「このコリコリ感がなんとも……」


 それホルモン。因みにそれも肉。


「……野菜も食べてる、ぞっと」


 もろきゅうじゃなくて葉っぱ食べなさい。


「アンタ達、絶対栄養偏ってるわよ」


 三人にジト目を向ける。

 と言うのもプレートの上は肉君が七で野菜ちゃんが三の状態。

 とても「れでい」の焼肉風景とは思えない。

 肉君はすでに二巡目だというのに野菜ちゃんに手を付けているのは私だけ。なので一向に減らない


「大丈夫やて」


 焼けたそばから上カルビを口に放り込む。


「エマさん、あんまりカリカリしているとお肌によくありませんよ?」


 牛タンを口に運ぶ。


「……便秘、か? 肉ばかり食べないで食物繊維を摂った方がいい、ぞっと」


 ウインナーの見事な三本串刺し食い。


「ちがーーーう‼︎ 君達のー心配をーしーてーるーのー!」


 どの口が言うんだ! 流石にキレたわ。


「まあそう言わずちっとは飲んどこ」


 ワナワナと震える私の手に握られた空のジョッキにビールを注いでくれた。


「はい、どうぞ♡」


 私の受け皿に焼きたてのサザエを置いてくれる。


「…………」


 焼き残り野菜満載の皿を無言で手渡してきた。


 はぁ~~~~。



 20:38 マキの湯。


 エ「流石に暑いわね……」

 マ「風呂上がりのビール、楽しみやわー♪」

 ラ「私はギンギンに冷えたイチゴ牛乳の方が……」

 ノ「…………」


 エ「ねえ? このサウナ少し暑くない?」

 マ「エマは軟弱やの〜」

 ラ「ん〜私も少し暑いかも……」

 ノ「…………」


 エ「ちょっと水風呂に……」

 ラ「私も……」

 マ「しゃーない行こか」

 ノ「…………」


「ノア?」

「どうしたん?」

「ちょ、ちょっとノアが茹って上がってますぅ〜」


 座ったまま、両目をクルクルさせてのぼせているノア。

 結局、トイレ以外は一日行動を共にして過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る