第5話 作戦会議?
「それでは時間だ! 作戦の説明を始めるぞ!」
本来なら休み明けの次の日はトレーニングの日。任務に備え心身を整えてから次の日に備える。
だが
今、私達がいるここは作戦会議室。所謂ブリーフィングルーム。
この会議の参加者は主任と探索者が全員で班長達職員は参加していない。なので正規探索者の十六名と主任の計十七名。
学生であるワイズ&ロイズの二名は卒業するまでは「仮」扱い。なので作戦もそうだが会議にすら参加しないのでここにはいない。
会議室は円形で古代の学校の教室くらいの広さ。白系統の室内で然程高くない天井。出入り用の扉とその脇に転送装置があるだけで備え付けの設備の類いは一切無い、ガランとした空間。
そこにこのエリアの慣習で中央にサラが陣取り、そのサラを囲む様に探索者が座る椅子が並べられている。
対する
サラの方針として活動開始初期から艦搭乗時以外の服装は不問としていた。その意向を受け探索者の
当然の流れで後輩である自分達も制服を着る訳にもいかずに右へ
言葉を発したサラが普段とは異なる真面目な顔で全員を順に見渡す。
私には普段から会議を始めるこの瞬間が唯一? 凛々しい表情に見えるのだが、今日は何故だか険しい顔をしている様に
探索者達は
サラが口を開くのを待っている。
──今日は機嫌が悪そうだね。
私にはひと目で分かる不機嫌さ。後輩の何名かも微妙な変化を感じ取ったのか目を逸らす者もいた。
私とサラとは付き合いは結構長い。
ここBエリアの運営開始当初からいるのはサラとローナ姉妹、そして私達姉妹。
そして僅かに遅れてルイス兄弟がAエリアからこちらに移籍してきた。
この三組は約七年の付き合いで、その後の三年間はこの三組のみで探索活動をしていたので、今とは比べるまでもなくお互いの距離は近かった。
特にローナ姉妹には探索者の「いろは」を付きっきりで叩き込まれたので、性格は知り尽くしているし付き合い方も心得ている。それこそ気兼ねなど必要無いくらいに。
だがマリ姉妹とシェリー姉妹が入部する際に状況が変った。
ローナ姉妹は後輩の育成の「任」を私達姉妹に丸投げし、私達を含めた若い探索者達とは距離を置くようになった。
ルイス兄弟は元々人付き合いが悪いというか愛想が無く、自ら進んで何かをしようというタイプではなかった。
サラはサラで『ローナがそう決めたならそれに従え』と我関せずの丸投げ状態。
『お前ら給料分の仕事をしやがれ! 二組も同時に面倒見れるか!』とエリーと共にブチ切れ掛けたが、ラーナだけは唯一私達のフォローを続けてくれていたので何とかやって来れた。
そのラーナのアドバイスのお陰……じゃなくて私達の努力の結果、後輩は皆無事に育ったがサラやローナ姉妹、そしてルイス兄弟と後輩達は接点が持てなかったが為に、大先輩に対して
これは私達姉妹の責任でもあるが、行き成り丸投げした奴らの方が悪い。
ただこのまま放置は出来ない。いずれは何とかしないと……とらしくない発想をしていたところに場に沿わない、可愛らしい明るい声が聞こえてきた。
「はいは~い! その前にしっつもんしてもいいかな~?」
片手を大きく振りながら手を挙げて、ニコニコ顔で質問したのはリン。頭の上で纏めた黒髪のお団子を二個のせている。
隣では姉の突拍子もない行動でオロオロしている妹のランが。彼女は黒髪を左右でお下げにしている。
因みに二人とも起伏はあまりない、というか殆ど無い小柄な体型で髪型と性格以外はそっくりな双子の姉妹。
二人共、普段から運動に適した上下に分かれる「チャイナ服」を着ている。
姉が赤系、背中の刺繍はドラゴン。妹は紫系でパンダの刺繍。
オロオロしている妹のランは、普段から無邪気な子供のような天真爛漫な性格の姉とは異なり、丁寧で落ち着きのある、どちらかと言えば控えめで大人しい性格の持ち主。
年齢は十八才。Bエリアの正規探索者の中では一番経験年数が浅いペア。
「はいそこ。発言よろし」
リンを見ずに返事をするサラ。
「今回もきょうそう~なのかな〜?」
報告会のことだろう。
「今回は中止だ」
「えーールーク弄れないデスか〜」
二人の会話に割り込んだのは私の隣に座るエリス。
彼女は普段から妖しい片言の言葉使いで会話をする。
エリスの発言を聞き、一部の者を除いた視線がルークに向けられる、が本人は聞こえないフリをしてやり過ごそうとしている。
「どして~? なして~?」
リンが振っていた手を下ろす、が代わりに上半身を左右にゆっくり振りながら聞き返してきた。。
「今回は上からのオーダーでな。ある領域に行ってもらう」
──上?
サラが言い終えると同時に全員の目の前に空間立体モニターが現れた。
このモニターは透過率50%。モニターに表示されている情報は基地AIが作成したものだが、各自の艦AIが各自の任務内容に合わせた補足情報を入れた上で表示している。
「三日程前にそこに映っている惑星が突如出現した」
サラも自身の前のモニターを見つめながら目を細める。
──ん? またサラの雰囲気が変わったぞ?
「しかも二箇所同時に」
言葉には憤怒よりも緊張感の方が強く感じる、気がする。
そして言い終えると同時に、モニターには対象惑星の座標が一つだけ表示された。
位置は何故か調査完了区域のかなり内側、現在メインに探索している位置から見ればかなり基地に近い領域。
その座標は我々Bエリア基地があるこの位置から約二万八千光年程の距離。
もう一箇所はDエリアで我々の管轄外。あちらはあちらで対応している筈なのでここには詳細は載っていない。
対象の惑星の映像が出る。……ふむふむ、一応二重惑星だね。
「で、上が
サラが軽く舌打ちをしながらモニターを睨む。
──さっきから「上」って言ってるけど……探索部本部のことだよね?
「ただ単に発見されたと言うだけなら騒ぐ必要もなし、どこかの探索の帰りに寄って見てくる程度でもいいんだがな、面倒なことに惑星の一部の数値が対象に似ていてな」
うん。ここの数値が明らかに少し高いのは一目でわかる。それと 他の値も通常より若干上下してない? それと明らかにデータ量が少ない。
「その数値の部分について「上」は何と?」
普段は相手の目を見て話すローナだが、この時は珍しく? モニターに目を向けたまま質問してきた。
それに対し苦々しい目をローナに向けながら「判断はそちらに任せる……丸投げだな」と吐き捨てるように言った。
成程。機嫌が悪い原因は『上』にあったのか。
だが今回はそれを無視した内容。これじゃ誰から見ても杜撰としか言いようがない。
だが何か腑に落ちない。
本部がわざわざ
サラもその点に気付いているから苛ついているのだろう。
こんな時のサラは平気で主任権限と言うパワハラを使ってくる。
だから皆、サラを見ようとはしない。一斉に顔を背ける姿はある意味面白い。
まあ、私は気にしないけどね。
そして顔を背けない者もいる。サラの怒りの原因が自分では無いと分かっているからだろう。
因みに私とローナ、そしてシェリー&シャーリーの姉妹の四名。
サラはローナには一切文句は言わない。言ったところで正論で返され言い負かされるのが分かっているから。
私はこの手には慣れっこで「暖簾に肘鉄」といった感じで効き目が無いのは経験済み。
シェリー姉妹は普段の行いが良過ぎてそもそも文句を言えない。
これも私が指導したからだよね、うん。
誇らしげに後輩を見ると、二人は優雅に紅茶を飲みながらサラの次の言葉を待っていた。
──えーーとその紅茶、どっから出したの? さっきまで無かったよね?
視線に気付きシェリーが上品な笑顔で「貴方もいかが?」という感じで手にしたティーカップを優雅に掲げてモーニングティーを勧めてきた。
それに対し慌てながら「いらない」のジェスチャーをして断る。
──それ、君達だから許されるのであって、私がここで茶を啜ったら流石のサラも切れるだろうて。
この二人、作戦開始前と終了後及び普段の訓練時は「体操服」を標準服としている。
この特徴的な体操服を説明すると、胸の辺りに「しぇりー」又は「しゃーりー」と今は使われていない文字で書かれた生地を縫い付けた白の半袖上着に、赤いピッチリとした「ブルマ」というホットパンツを履いている。因みに靴下は「定番」の白のハイソックス。
以前、何故その服を着ているのかと聞いてみたら『信念』との返事が。なんでも幼少時に見た大昔のアニメに感動を覚えて以来の習慣なのだとか。
容姿は姉のシェリーはお嬢様の雰囲気漂う金髪の縦ロール。妹のシャーリーは茶髪の肩までのストレート。
年齢は二十才。二人とも身長は私とほぼ同じ。二人共、身長や体型は私とあまり変わらないが、服で隠されている
「本来であればこの案件は調査部が率先してやるべき。我々が出っ張る条件を満たしてはいない。この程度の数値異常では」
厳しい顔つきでサラが続ける。
皆、無言で続きを待っていると突然……
「……でも……特別ボーナスと〜休暇をくれるって〜言われちゃ〜ね〜? てへ♡」
突然、堰を切ったように表情が崩れニコニコデレ顔へと豹変する。さらに雰囲気に合わせサラの周囲が桃色空間とお花畑に様変わり……基地AIの仕業だねこれは。
それを見て全員軽く椅子からずり落ちる。あのローナさえも。
「いや、ね? 予定外のミッション入れたらね、うちのメンバーが暴れて大変なことに〜、だからね、受けれませ〜んてね。で、言ってみたら臨時ボーナスくれるって! でもね、ボーナスもらっても使う暇ねーって言ったら特別休暇もくれるって!」
顔を赤らめ身振り手振りで一生懸命皆に説明してくれる。これは素の状態のサラ。
だいぶ前に私は偶然目撃したことがあったので、衝撃はその時に済ませておいた。なので皆とは違い、落ち着いて眺めていられる。
蝶が一匹、ヒラヒラ〜と飛んでくる。皆がその蝶を目で追うと程なくサラの頭に止まった。
だかここで何かを口走っているサラの声に混じり「ボーナス」と呟きが聞こえてくる。
見ればニヤケ顔で目を血走らせたルークであった。
「みんなも休暇欲しいでしょ⁇ 私も温泉に行きたい〜♡ そうだドリーにみんなで泊まりに行きましょう!」
腰をクネクネしながら天を見上げている。
いやいやその歳(三十三歳)で腰をくねらせても……ね?
何がトリガーとなったのかは知らないが、こうなったら自力帰還は難しそう。誰か連れ戻してくれんかね?
「……温泉といえば混浴、だぞ」
誰かの呟きが聞こえる。その声にサラが反応する。
「そう、混浴……そうよ! 混浴には出会いが!」
お? 反応したよ。でもまだ足りない、というか話題を変えないと。もう少し時間が掛かりそうだね。
ローナも止めないことだし面白そうだからもうちょい見とくか。
「……のぼせてフラフラしているところにイケメン、が」
さらに煽る奴が出現。
「そう『ちょっとのぼせてしまいましたわ』っと言ってさりげな〜く抱きつくの〜♡」
サラの言動に合わせてラーナの目も輝きだす。
その足元にはサラと同じく花が咲き始め……これはラーナの艦AIの十八番。
それにしても混浴にいるイケメンって……残念な性格の気がして近寄りたくないわ〜
てかコイツら大丈夫かい?
ま、見てて退屈はしないけど……ね。
「主任♩ サラ主任♩」
ここでやっと「止め」が入る。
ローナの一声でお花畑が一瞬で消え去り現実へと引き戻される。
するとラーナが瞬時に復活。ついでにルークも。ルークはそのまま行っとけ〜。
「……は⁈」
肝心要のサラは目と口を開き一瞬固まっている。口からはびみょーなヨダレが垂らしながら。
だが直ぐに恥ずかしそうに咳払いを一つしてから元に戻った。
「ノアもミアも今は揶揄うのはよしなさい♩」
ローナが無表情で注意する。
流石はローナ。一声で場を正常な状態に戻した。
「「……めんご」」
二人は素直に謝る。
「ん……こほん。それではミーティングを続ける」
身代わりの速さにはいつもながら感心してしまう。
ここでツッコミを入れようものならローナに叱られてしまう。なので皆も合わせる。
「でーどこまで話したかーそうだ、上が言うには対象の惑星がある領域を、たまたま民間の資源採掘船団が通りかかったら、地図データにない星があるって大騒ぎになった。その直後、乗船してきた全ての船が勝手に進路変更し情報部施設に跳躍。全乗員はその場で拘束され船のデータを抜き取ったとのことだ。今お前らが見ているデータはそのデータは船団のものだ」
だから値が変なんだ。経緯が分かり納得する。
でも可哀想にその船団、運がなかったのね。
まあ、でも直ぐに解放されるだろう……たぶん。
……ん? 情報部?
「何故『調査部』が動かないのかしら?」
ローナが真っ当な質問をする。調査部とは探索部に先んじて調査を行う部署。
通常は調査部が怪しい領域を洗い出した後に探索部に依頼が回って来る。
「建前としては、どうせ探査対象に「なりえるかもしれない星」ならそのまま
呆れ顔のサラが『本音は一度調査した領域に対象となり得る惑星が見つかったという事実を、単に認めたくなかっただけだと私は考察しているが』とお手上げのジェスチャーをしながらローナに答える。
「でも〜「見落とし」があったとすれば~
エリーがモニターを見ながら呟く。
「私は「見落とし」では無いと思います」
今まで黙って成り行きを見守っていたアリスが突然発言をしてきた。
「何故〜? そう思うのかしら〜?」
エリーが作り笑顔でアリスに聞き返す。
「それは……」「そこは考えなくていい」
アリスが答えようとしたのをサラが遮る。そして皆を見回しながら力強く言った。
「有るか無いかの議論は我々には必要ない! 必要があれば調べる! それが我々の仕事だ!」
自分に言い聞かせるように力強く言い切る。
うん、そだね。もし見落としが有るとしたら、エリーの言う通りかなり面倒なことになりそうな気がする。我々にしても色々と。
「で、誰が行くの?」
頬杖をつきながら先を促す。
「今回は……エリスとシャーリーに行って貰う」
「へ?」
対象は一か所。通常ならば一組で調査をさせるところ。なのに今回は倍の二組投入。
「お姉様、出番ですわ」
名を呼ばれたシャーリーがシェリーを見ながら両手でガッツポーズを作った。その目には目に炎が宿っている。
ちょっと引き気味にそれを見ながら「残りは? 待機?」と聞いてみた。
「明日予定していた探索を頼む……いや修正する。今回は全組
言い終えると同時に作戦開始時間(カウントダウン)とそれぞれの担当区域とその情報が、各自の空間モニターに表示された。作戦開始まで……あと120分。
──あれ? いつもなら会議終了後の三十分に出発とかなのに、今日は時間に余裕があるね。
「野郎ども、これが終わったらパーティーだ! 急いで帰ってくる必要はないがミスは許さん! では準備に入れ!」
サラは全員を再度見渡し、最後に私で視線を止めたが直ぐに自前にある空間モニターに目を移した。
それぞれが席を立ち上がるなか「……野郎は一組しかいない、かも?」と座ったままのミアがニヤケながらボソリと呟くのがここまで聞こえる。
「……この場合は「アマども」が正解ではないか、と。でもアマより「お嬢」の方がお上品じゃないかい、な?」
ノアが小声で首を傾げながら考えるフリ? をし、何故か照れ笑いをしている。
えーーと何故に照れてるんだい?
「……単にルーク達に言ってるんでない、かい?」
「……かもかも。それが正解だ、ぞっと」
「「いえ〜い」」
嬉しそうに握手している。そんな事で盛り上がれるこの姉妹はとても可愛いらしい。
ただ可愛いらしいやり取りは残念ながらルーク達には聴こえていないようだった。
その後、エリス姉妹とシャーリー姉妹は部屋に残り主任と話を続けるが、マリ姉妹が何故だかその様子を遠巻きに眺めていた。
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