突拍子も無く学園生活が始まるようです。
「と、いうわけで~、今日からクラスの一員になる『星海 とわ』さんですニャ。みんな温かく迎えてあげるのですニャ!」
気付くと、教壇の横に私は立っていた。
「星海ちゃんの席はあそこニャ」
教壇に立つ黒スーツの若い男性が窓際一番後ろの空いてる席を指さす。この状況から考えれば、十中八九、彼がここの担任教師なのだろうが。
(成人男性の教諭が恥ずかしげもなく語尾にニャを付けて話している……)
いや、それ以前に、だ。今このシチュエーションはおかしい事だらけじゃないか?
しかしアニメ主人公の如く、我が身に起きた不条理に「そんな馬鹿な!!」と公衆の面前で絶叫できるほどリアクション力も度胸も無い私は、「はぁ」と気の抜けた返事で曖昧に相槌を打ち、促されるまま指定された席に着くしかできなかった。
机上に積まれていた真新しい教科書を机の中に仕舞いながら、ぼんやりと思考を整理していく。
(なんで学校にいるんだ私は? しかも生徒枠で? 待って、というか直前の謎の落下は? あいつとのデートだか破壊活動だかはどうなった?)
そうだよな、ゲームの中だけの存在だったはずの推しキャラが生身で私に語りかけてきただけでなく、デートという名目で妙な世界に連れ込まれるなんて荒唐無稽な夢もいいところ……。
って、いやいや騙されるな、先の事態に比べればずいぶん現実的とはいえ、転校生シチュエーションも十分に異常事態だ。私は学校なんてとうの昔に卒業したはずだ。そもそも紹介された名前は私のペンネーム、いわば偽名だ。どうして公的にその名前がまかり通っているんだ。
疑問は止めどなく溢れてきたが、結局授業が始まる時刻になっても、それらに何一つ解答は得られなかった。
***
授業内容は数学に国語に……とっくの昔に習った内容そのままで、聞き流していても特に問題は無かった。
そんなわけで、授業中はゆるくサボりを決めこんでぼんやりと外の景色を眺めていたわけだが、やはりその風景に見覚えは無かった。
学校周辺の現代日本のありふれた地方都市の街並みの向こうには、広い森とその中からそびえる石造りの尖塔に澄んだ湖という中世ヨーロッパ風の風情あるテーマパークらしき場所が見える。一方で、その逆の方角にはそれとは真逆の草木一本映えない荒野がひろがり、葉脈のように走るネオンめいた光が明滅する金属質の箱(建物?)が建ち並ぶ。そして上空には飛行機だけでなく、巨大な有翼生物の陰まで飛んでいた。それどころか、どんな物理法則が働いているのか、昼の晴天を切り取るかほつれさせでもしたかのように、夜空の黒が滲む箇所すら見える。
……こんなカオスな光景に見覚えがあってたまるか。
(どこなんだよ……ここは……)
と、急な
慌てて懐をまさぐると、制服スカートのポケットから使い馴染んだスマホが出てきた。設定した覚えは無いがマナーモードで命拾いをした。そうじゃなきゃ、転校初日にクラス中から白い目で見られるところだった。
こそこそとスマホを確認すると、入れた覚えのないメッセージアプリにメッセージが一件入っている。
「レキくん」なるアカウントから一言、『昼休み、校舎裏で』と。
と、ここでようやく気付いたのだが、スマホのメニュー画面にはそのメッセージアプリと、この異常事態の発端となった例のソシャゲのアイコンしか映っていない。それ以外のアプリが軒並み消えている。元の環境に戻った時の再インストールの手間を考えると果てしなく気が重いが、それより今はもっと大事なことがある。
メッセージの送り主であるレキくん……すなわちアル・レキーノ。彼と再会できれば。奴にはまだ聞きたいことが山ほどある。それどころか言いたいことは増えていく一方だ。
なんとしてでも彼に会って少しでも情報を引き出さなければ。そうしないと、私は訳の分からないこの場所で違和感しかない学生ごっこを続けるハメになるかもしれないのだ。
(くそう、待ってろよあのハタ迷惑男……!)
それから私は静かな憤りと決意を燃やしながら、奴にぶつけたい質問を脳内で整理しながら授業を消化していった。
***
そうこうしているうちに、あっという間に中休みの時間となった。私は教科書と共に用意されていた時間割と授業内容についてのプリントを改めて確認する。
(選択科目の時間……こんなにあるんだ)
私の知っている学校とだいぶ勝手が違う。1日の時間割の半分以上が選択科目だ。しかも演劇学校なのだろうか、身体表現、演技なんちゃらといった見慣れぬ科目の数々がリストの中に見てとれた。
……こりゃ別の意味での異世界だわ。
とりあえず、昼休みまでにはいくつか選択科目を選ばなければいけない。とはいえ未知の科目に挑戦する度胸も理由も無し、ついでに言えば座学が良い。
というわけで、私は無難に基本教科を選択することにした。となると、次の授業はこの教室で社会科だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます