夕闇から藍色の闇に辺りは変わっていった。そろそろ帰らないとこのままでは二人とも確実に飢え死にするだろう。何しろ今日も体温に迫るほどの猛暑日だったのだ。


それにしても私は今日、どうしてあの公園にいたのだろう?

そんな事考えても無駄な事だと気付くような悠花ではなかった。多分もうその目的であったであろう事すら悠花の頭の片隅にも残ってはいないのだから。


「子供達も心配してるし、とにかく帰ろう」海斗が悠花の手を掴んでもう何処にも行かないでとばかりに半ば強引に車の助手席に押し込んだ。

子供達。海斗の口をついて出たその言葉が悠花の脳裏を反芻する。


私には子供がいるの?




何をどう聞いたらいいのかを考えてもその術を持たない悠花が、戸惑っているのを光の速さで察した海斗が言葉柔らかく「何か聞きたいかい?」と、口を開いた。

けれどそれに素早く聞きたい事を返せるのなら、迷子になどなったりはしない。

そう、悠花は言い換えれば人生という道端で迷子になっているのだから。


「悠花と俺の間にはふたりの子供がいるよ」そう海斗に告げられてもそれは私の事なのかしら、とまるで映画のストーリーでも聞いているように現実味がない。 本当に私は悠花という名前で、この男の人と夫婦なの? 子供がいるというのも本当なんですか?

覚えていない事、忘れてしまった事の全てを疑惑というオブラートに包み込んでしまう。今の悠花はそんな感じだ。

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