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人は、辛い事や悲しい事を忘れることで生きて行く生き物であり、また、楽しかった事や嬉しい事は忘れずに大切に覚えているもので、対称になるのは記憶の大切さではないか。
覚えている事が大切なことは、多分多かれ少なかれ誰もがあるのではないのだろうか。
それがある日を境にだんだんハッキリしなくなる。ご飯をいつ食べたのか思い出せない。
この人誰だったのかが、どうしても思い出せない、そんな事がそのうち日常茶飯事になってしまう。
そうこうしているうちに、今日が何月何日なのかも分からなくなってゆく。何をしようとしていたのかも分からぬまま燃え尽きる。
記憶の欠片はどんどん砕け散って、跡形も残らなくなってしまう。
自分の、今は覚えている事が、次の瞬間には消えてなくなる。そんな事を考えると本当に怖い。帰る家や待ってる家族の事も忘れてしまう、自分という人間を形容していた記憶の全てが水泡に帰す。
その病名は、アルツハイマー症。
若年性アルツハイマー症と、アルツハイマー症とに、症状の区別はなく、単純に65才を基準にそれよりも若い人は若年性となるだけ。
そして、未だにこの病気は詳しくは解明されてはいない、有効な治療法もない未知の病気の類に分類される。
一番顕著な病変は、脳の萎縮。それも記憶を司る海馬と大脳皮質、そして脳幹が萎縮する事で起こる、記憶障害がこの病気の症状の大部分であり、症状によって段階的に分類されている、ややこしい病気なのだ。
そもそも何故、脳が萎縮するのかが分からないが、原因のひとつに睡眠時間が関係している。極端に睡眠不足の人は、この病気になる確率が大きく上がる。 更にこの病気は、染色体異常も原因のひとつになる。それはつまり遺伝子レベルでの発症、血縁者にこの病を患っている人がいたら、気をつけた方がいい。と言ってもそれはちょっと無理だと思うけれど、必ずしも発症するとは限らないので、気に病まない方がいい。
染色体異常というと、ダウン症もこの病気に分類される。
そしてもうひとつ、糖尿病患者の罹患率が高いというのも謎のひとつだろう。
更に付け加えるなら、薬の過剰摂取もこの病気を発症する引き金になる。過去にオーバードーズをやった事がある人は要注意だ。
そう、悠花はしばしば精神安定剤の過剰摂取をしていた経歴があった。
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