第23話

あの時どちらともなく繋いだ手

今夜はしっかりと解けないように握りしめた


「凛、スーツケース持ったまんまって。

ひょっとして、帰国してすぐ?」


「うん、早く慧に会いたかったの。私...聞いたから全部。

ありがとう。私とfairy loverを守ってくれて」


「礼なんて言うなよ。俺のいっちばん好きな小説なんだから、ムカついただけ。

さっ、帰んぞ。凛、今どこに住んでんの?」


照れ臭そうに私の荷物を取り上げて、歩き出した彼の背中から抱きついた



「慧、まだ一緒にいたい

やっと会えたのに...」



「俺んとこ…来るか?」


コクリと頷くとまた私の右手を握って歩き出した




稽古場から歩いてすぐの慧の部屋

学生の時とは違って、置いてあるものも少なく、生活感もあまりなかった


「クスっ、慧、ほんとにここで住んでるの?」


「まぁなぁ、寝るだけの部屋だな。

って言っても、稽古場に泊まることもあるから、なくてもいいかも(笑)」


「そうなの?でも、学生の時のあの汚ったない部屋よりはずっといいかもねー」


「ひっでぇな」


何もないリビングの真ん中にドーンと座った慧が私の手を引っ張って隣に座らせた

ずっと会いたかった人がこんなにも近くにいることが信じられなくて、彼の顔を見つめてた


「そんな見んなよ」


「だって...私ね...卒業式にあんな手紙書いて

ほんとは後悔してたんだよ。

もう、慧は私のことなんて忘れてると思ってた」


「忘れる訳ないだろ。俺は凛にいつか観に来てほしいと思って頑張って来たんだ」


「...慧」


「あー、泣くな、泣くな。

キス出来なくなるじゃん」


一筋の涙がつたった頬を親指でなぞると

潤んだ目で口をきゅっと結んで泣くのを我慢してる


「フッ、何それ」


頬に手を添えてそっと唇を重ねると

嬉しそうにこりとして言った


「慧のキス...変わってない グスッ」


「やっぱ、泣くんじゃん」


「だって...」


「はぁー、やめてよ、俺まで泣いちゃうだろ」


抱きしめて優しく背中をさすりながら、

込み上げてくる涙を隠すように凛の首元に顔を埋めた


「慧?...泣いてるの?」


「泣いてねぇよ。

凛......今日はキスだけじゃ、止まらないけど?.........いい?」


「...うん」


腕を緩めると俺の顔を両手で挟んで

「やっぱり泣いてるー」ってはしゃぐように笑う凛

そんな風に余裕なんかない俺は大人気なく拗ねるように強引彼女の唇を塞いだ


薄く開いた隙間から差し入れた舌を

遠慮がちに受け止められると

どんどん深めていく

後頭部に手を回し、ねっとりと絡めながら何度も角度を変えて繰り返す

時折、漏れる始める凛の息つぎのような声は俺の気持ちを掻き立てる


昔、冗談半分でしたキスなんかとは違う

思いを伝え合うようなキスを

俺達はゆっくり堪能するかのように

求め合った

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