第22話
劇団Xの稽古場
まだ明かりがついていた
慧がいるかどうか、わからない
お互い引っ越してしまった今
ここに来るしか術はなかった
しばらく入口で待ってると数人の人が出てきた
「すいません、石原慧さんはこちらにいますか?」
「ファンの人?」
「あ、はい」
「出待ちは近隣に迷惑がかかるから…」
「ごめんなさい。帰ります」
...あのー」
「まだ何か?」
「慧、いや、石原さんは元気にしてますか?
ご飯はちゃんと食べてますか?
しっかり眠れてますか?」
「はぁー?そんなこと聞かれても。
変な子だね。あ、それ、プレゼントなら、渡しとこうか?」
「これ?あ、そうですよね。は、はい。渡しといてください!失礼します」
恥ずかしくなって、手に持ってた物をどさくさ紛れに押し付けてその場から逃げるように走った
馬鹿みたい
ファンか...
「お疲れー」
「おー、慧、今お前のファンが出待ちしてたぞ。最近ファンも増えてきたなぁ」
「そんなことないでしょ。まだ俺は...」
「変わった子でね、親みたいに元気にしてるか?とかご飯食べてるか?とかやたら必死に聞いてくるんだよ」
「ふっ、何それ?」
「だろ?でも、可愛い子だったなぁ。それとこれ、プレゼント預かったんだけど」
プレゼントとは思えないくしゃくしゃの紙袋の中には小さなパンダのぬいぐるみが
入ってた
「パンダのぬいぐるみ(笑)ますます可笑しな子だね。上野か?それとも中国にでも行ってきたのかぁ?ハハハハー」
「中国...って...」
「なぁ、その子どんな感じの子だった?」
「うーん、体つきは華奢な感じで、そうだなぁー...すごく綺麗な目してなぁ」
「その子どっちに行った?」
「な、なんだよ。慧、知ってるのか?
あっちの方へ、走って行ったよ」
「サンキュ」
凛?凛だよな?
俺は祈るような気持ちで走った
遠くに見えてきた小さな背中
間違いない
「凛!」
「慧?」
「ハァハァ...やっぱり、お前走るの早いなー
...で、このパンダ?なんだよ。
相変わらず、意味不明なことすんなぁ」
みるみるうちに涙でいっぱいになった大きな瞳
「慧…会いたかったの
ずっとずっと......会いたかったの」
涙がこぼれ落ちた瞬間に俺は思いっきり彼女を抱きしめた
話したいこと
伝えたい思い
たくさんあった
でも、今は
ただ、彼女が腕の中にいることが
夢でないことを確かめていたかった
温もりを感じていたかった
背中に回された手がきゅっと俺のシャツを握ってる
胸に埋められて声を上げ泣く凛の柔らかい髪が頬に触れる
懐かしい香りが鼻を掠める
何もかもが愛しくて...たまらない
「俺も
.........逢いたかった」
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