第20話

その日の夜遅く

久しぶりに裕翔さんから電話があった

近くの店まで出てこいって

おおかた、俺の今日のことが耳に入ったんだろう


「おー、慧、久しぶりだなぁ」


「お久しぶりです」


「どうだ?頑張ってるか?」


「裕翔さん、あれでしょ?聞いたんでしょ?」


「ハハハ、そうだな。聞いたよ。

派手にやったそうだな」


「我慢出来るわけないです。あれは凛の作品です」


「...そっかぁ。そりゃあそうだなぁ」


「俺がいつかセンターに立った時、観に来てほしいって約束したんです。

あいつは俺の舞台を観た時に初めて自分の作品だって気付くことになるんだ

楽しみに観に来てくれた、俺の舞台で。

そんな惨いことあるかよ、

俺はどんな面下げて舞台に立てばいいんですか」



「喉から手が出るほど欲しかった主役の座をやっと掴んだのに自分自身で踏み潰すようなことをしたのか」


「後悔はしてません。

あれは凛の書いたもんなんだ。

俺にとっても大切な作品。

凛を......守りたいんです」


「お前が騒いだところで、先に発表した方が有利になる

ましてや、相手は宮崎 奏だ

あちらが認めなければ」


「認めさせるよ

何がなんでも」


「慧…..凛ちゃんへの思いは変わってないんだな」


「...そう...ですね」



しばらくの間、

稽古は中断された

けど、舞台のあらすじはもうすでに

様々なメディアから流れ、話題となった


宮崎奏の新作舞台化

愛する人を亡くす悲恋のstoryと

大きく報じられた


たった一人の人が訴えたところで

見向きもしてもらえないとわかっていたけど、俺は凛からもらったノートを持って

何度も何度も宮崎奏に会いに行った


いつもろくに話も聞いてもらえなかったがそんなある日

宮崎奏がじっと俺の顔を見つめて、話し始めた


「あなたが言ってた大切な人は篠崎さんなのね?」


「そうです」


「オーディションであなたの目を見た時、

不思議と引き付けられた。

その理由が今、わかった気がする。

誰かを思う力っていうのはとてつもなく強い力になる。

昔...同じような目をしていた人がいたわ。


わかったわ。申し訳なかった。

ちゃんと真実を話します」


そして、

凛が帰国する日

宮崎奏が会見を開くと発表した


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