第17話

「篠崎さん、先生がお呼びになってるから、すぐに行ってください」


「私を?ですか?」


「そうよ」


出社すると上司からいきなり、そう、声を掛けられた


慌てて、先生の元へ行くと...


「突然なんだけど、来週から、半年ほど上海に行ってほしいの」


「上海ですか?」


「そう。今度、私があちらで事業を始めることになって。ほとんど現地のスタッフに任せてあるんだけど、こちらからも行った方が連携が取りやすいし」


「わかりました」


「ごめんなさいね。篠崎さんは確か、書くことをしたくてここに来たのよね。畑違いの仕事を押し付けてしまって」


「いえ、構いません」


そう言ってドアを閉めて深呼吸した

上海か...



その夜、彼に話した


「私、来週から半年、上海に行くことになったの」

「上海?何をしに?」

「んー、まだ詳しいことはわかんないけど、先生が」

「凛はそれでいいの?」


「...いいよ」


「いいんだ......そっか」


「凛がどんな文章を書くのか?俺は知らない。けど、きっと、素敵なものを書くんだろうなって思う。

凛はいつまでたっても俺に何も見せてくれないんだな?」


「ノート...のこと?」


「違うよ。凛はほんとの自分をどっかに隠してる。いつも、綺麗に包まれた凛しか見てない」


「そうだったのかも...しれないね」


「しばらく......会えないんだよな」


「うん」


彼とのちゃんとした会話は

これが最後となった



上海に旅立った私は毎日忙しくやり甲斐があると言えばあるのかもしれない

でも、真っ暗な部屋に帰って、ベッドに入るとふと思う


こんな今の私を見て、

慧はどう言うだろうか


そっと布団の中から右手を出して

天井に向けて伸ばした


この手を包んでくれたあの大きくて

あったかい手が恋しくなった


「おー、明日な」

って言った笑顔が忘れられなかった

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