第15話

卒業して、3年が経った。

私はそのまま、先生のところに就職し、

今では小さな雑誌のコラムを書くようになってた


慧はあれから、劇団で頑張っているんだろうと思っていたけど、表立って名前を聞くことはまだなかった


連絡しようと思えば出来たし

会いに行こうと思えば行けた


でも、卒業の時

あんな手紙を送った私は自分からピリオドを打った

今更、元気にしてた?なんて、あっけらかんと会えるはずもなかった

過去のこととして、終わらせようと

無理に大人になろうとしてた


年上の編集者の彼

優しくて、包容力があって、

幸せってこういうことを言うんだと思ってた


「凛はいつ頃から小説書いてたの」


「いつ頃からなぁー、しっかり書き始めたのは大学生になってからかな」


「ふーん、誰かに見せたことあった?」


「...あった...かな」


「付き合ってた人?」


「うううん......友達」


「そっか」


どうして、そんなこと聞かれたかわかってる。

私は学生時代、先生に見せたきり、誰にも小説を読んでもらってなかった


積み上げられた古いノート

その1番下にある大切なお守りの1冊が

窮屈そうにしているように見えた


久しぶりに手に取って

最後のページを開いてみると

あの頃の空気が一瞬にして

私を纏ってくれる錯覚に陥った


とても

とても

優しい空気で

懐かしさと愛しさが込み上げた


気付くと

乾いしまった滲んだ文字を再び濡らしていた


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る