第11話

「裕翔さん、話って?」


「話は2つあるんだけど、1つは

慧.....劇団Xに入る気はないか?」


「マジっすか!そんないい話

断る理由はないじゃないですか!

でも、どうして?」


「そうか。良かった

昔一緒に仕事してたやつが今度の舞台に携わることになった。

慧のこと話してある

ただ、オーディション的なことを受けて認めてもらえたらだ。やってみるか?」


「もちろんです。

っで、もう1つは...」


「Xに行くとなると、自分の時間もほとんどなくなる。

凛ちゃんのことはどう思ってるんだ?

もし、好きなら...きちんと、話しておかないと」


「好きです」


「ハハ、即答かよ

じゃあ、どうして素直に」


「俺もちゃんと思いを伝えて

抱きしめたい

でも、

アイツ...真っ直ぐ過ぎるから」


「うん、真っ直ぐだなぁ、凛ちゃんって」


「俺の腕の中に閉じ込めると、アイツはずっと、俺の事だけを見つめる、考える。

何もかも置いといて精いっぱいの思いで答えようとしてくれると思うんです。

凛はいつも何でも一生懸命で

バイトでも汗だくでフラフラになってて、大丈夫か?って聞いても大丈夫って笑うんです

めちゃくちゃ、笑うんですよ」


「慧…お前、相当...」


「アイツ...何かに必死になれば、全身全霊で貫き通す。

その必死になるもんが俺じゃ...ダメなんです。

凛の才能を眠らせてしまう

勿体ないんです」


「それでいいのか?」


「いいんです......

結構...きついっすけどね」


「慧、相変わらず不器用だなぁー、お前は。

自分から遠ざけて、そっと大切な人の歩いていく背中を見守るってことか?

隣りにいちゃ?邪魔になるってことか?」


「そういうことです」


「わかった。

厳しいこと言うようだけどお前も

それぐらいの覚悟がないとXではやっていけない。

いいんだな?この話を進めても」


「はい、お願いします」



ちゃんとした約束もないまま

離れ離れになってしまえば、

会えなくなってしまうかもしれない


でも、俺は

いつか、

何処にいても、

どっからでも見える人間になってやる


もし、その時

凛が俺を見つけてくれたら

その時は

しっかりと抱きしめたい


暑い夏が終わり

街路樹の葉が色づき始めた頃

俺も、また、夢への1歩を踏み出した


そして、

凛と出会ったこの大学に通う日も

数えるほどになっていた


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