第10話

凛が着てた着ぐるみが舞台裏にぽつんと置かれてた


今にも動き出しそうな気がして、そっと撫でてみるも微動だにしない


「はぁー」


(凛...大丈夫かな...)


「おっ、凛ちゃん恋しくて泣いてんのかぁ?」


「裕翔さん...俺は別に...」


「慧、ちょっと今日これから付き合えよ。

話があるんだ」


「話って?」


「いいから」




宮崎先生の事務所に通い始めて1ヶ月

周りの人達の動きについていくだけで必死


でも、とても、充実した毎日だった


(慧…どうしてるかな)


「凛ちゃん?」


駅前で声をかけられた


「美紀さぁーん」


「久しぶりねー。元気にしてる?」


「はいっ」


「バイト辞めたって、裕翔から聞いたけど、

頑張ってることがあるからって慧くんは教えてくないのよー」


「慧...そんなこと言ってました...か...」


「ねぇ、凛ちゃん、お昼は食べた?」


「まだです」


「じゃあ、一緒にどう?」


「はいっ、是非!」


近くのカフェに入った

美紀さんと裕翔さんの出会った頃の話

慧が初めてバイトに来た時の話

美紀さんは次から次へと私を楽しませてくれる


「...で...凛ちゃんは慧くんのこと好きなんでしょ?」


「な、なんですか、美紀さん、いきなり」


「いきなり聞いちゃったねー。

でも、見てればわかるよ

どうして、2人付き合わないかな?って裕翔と言ってるの」


「.........そうですね

好きです。

けど、慧は私の事きっと、友達と思ってるんじゃ...」


「聞いてみたの?」


「そんな......聞けないです。怖くて」


「凛ちゃん...

まぁ、はっきりしない慧くんも悪いんだけど」


「慧は悪くないんです。

だって、慧ってね

すごくすごく優しいんです。

いつも人の気持ちを先に考えて

たまに憎たらしいこと言うけどそれもほんとは心配してるからで...

あったかくて、カッコよくて

きっと、彼のことわかった人は皆好きになると思うんです。

実際、周りにはいつも女の子いっぱいいるし。私は特別じゃないんです」


「凛ちゃん、ホンットに慧くんのこと好きなんだねー。

きちんと話さないと...って思うけど

2人にしかわからない大切なことがあるのかもしれないね。

だから、私は見守ってるよ、慧くんと凛ちゃん。2人とも大好きだから」


「美紀さん...グスッ」


「え、ちょっと泣かないでよー」


「ごめんな...さい」


「よく、夢と恋とどちらを選ぶか?

仕事と恋人とどちらが大事?とかいうことを聞くけど、私はそんなことは同じ地図にはのってないと思うの。

皆いろんな地図を持ってて道に迷ったらそれを広げてみる。

古い地図にのっていなければ、また、新しい地図を探す。

いつか、同じ地図に2人がのれることがあれば、寄り添えるのかもしれないね」


「美紀さん......ありがとうございます」


「やだ、私、喋り過ぎよね。慧くんと裕翔には内緒よっ」


「はいっ」

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