第8話

少しの沈黙が続いた後、慧はテーブルに無造作に置かれた何冊もののノートを手にした


「凛。これ何?」


「あわ、それは...」


「なになに?」


「あーー」


「っんだよ」


「うーん、慧なら、いいよ、読んでも」


「へ?」


「実は私ね...書いてるの......小説っていうか、物語っていうかをね」


「そうなんだ。凛がねー。あっ、でも何となく、らしいよ」


「私...らしい?意外だって言われると思ってた」


「どうして?」


「だって、私って文章を綴るような雰囲気じゃないかな?って。どんくさくて、いつもヘラヘラしてて悩みもなさそうでしょ?笑」


「それは凛の全部じゃないじゃん」


「え?」


「皆に見えてるのは凛のほんの1部だよ」


「慧..」

「書くの...好きなんだ」


「うん!ふとした時にね、うーん、例えば朝、目が覚めた時、風が気持ちいいなって思った時、慧とこうやって話してる時にだって、急に頭の中に言葉が降ってくるんだよ。そしたら、もうねー、止まらないの。

言葉たちが早く外にだしてーって言ってるみたいに踊り出すの」


「ハハハハー、凛すっげぇー楽しそうだな」


「そう?フフフ」


「読んでいい?」


「いいよ。まだ誰にも見せてないんだけど、結構書いてあるんだぁ」


「おし!ぜーんぶ、読んでやる」


「たくさんだから、いいって」


「いいから読む」


それから、慧は黙々と私の小説を読み始めた


静まり返った部屋でソファにもたれたり、

肘をついたり、寝転んだりしながら、

一言も話さず、読み続けた


私はそんな彼を見ながらうつらうつらと眠ってしまってた

目が覚めた頃には外が明るみ始めてた


ふんわりと香る慧の匂い

ずっと読んでたの?

テーブルに突っ伏してスヤスヤと眠る彼の頬が濡れていた


泣いてる?

そぉーっと涙のあとに触れるとゆっくりと瞼が開いた


「慧?」


「んんっ、俺寝てたんだ」


「どうして...涙...」


「凛の小説...めちゃくちゃ泣けたんだよー。

読めば読むほど、もっと読みたいって思うんだ。ここにあるもの次から次へと読みたくなって」


「ほんと?」


「あー、ほんとだよ。

なんて言うかなぁー、話の中に引き込まれるっていうか。とにかく、いいんだよ」


「嬉しいー!ありがとう」



凛は俺の頭を抱え込むように抱きしめた

寝起きのクシャクシャの髪に指を通してギュッと......

コイツ、何も考えてねぇのか?

胸が当たってるんだよな

と思いつつも、無邪気に喜ぶ彼女の背中に優しく手を添えた


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