第4話

バイトが終わって、凛と裕翔さんの家に向かった


「なんだよ?急におとなしくなって。

調子狂うな」


「そっ...かな?」


「バイト、キツかったし、疲れたか?」


「ううん、ぜーんぜん。大丈夫よ。元気元気。早くいこっ」


いつもクルクル変わる表情から目が離せなくなってた


笑ったり、

怒ったり、

落ち込んだり、

喜んだり...


適当についてきた女と付き合ってた俺は

人を好きになるっていう感情をどこかに置いてきてしまってた

真っ直ぐに見つめる彼女の瞳が眩しかった


そそくさと早足で歩いていく背中が小さくなっていくのが何故か寂しくなって思わず叫んだ


「凛!」


振り返って不思議そうに首を傾げた彼女に何かを言いたかった

けど、その言葉まだ俺の心の中で生まれてはなかった


駆け寄って頬っぺたを指で摘んだ


「いっひゃーい」


「ハハハー、ぶっさいくな顔」


「もうー、慧って私に意地悪ばっかするよねー」


「だって、おもしれぇじゃん」


「私は慧のオモチャじゃないんだからねっ。

ほんっとムカつく」



オモチャなら、ずっと…側に置いとけるのにな

片時も離さずに


俺...何考えてんだろ


「やべぇ、早く行かないと!裕翔さん、先に帰ったんだった、ほら、走んぞ」


俺はあの時のように凛の手を取った

けど、あの時の凛の手の感触とは違った


何がどう違うのか?

その時にはわかってはいなかった


春の夜

まだひんやりとした風にのって

どこからか漂う花の香りが鼻を掠めた


握りしめた凛の小さな掌がじんわりと汗ばんでたこと…しっかりと感じ取ってた

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