第6話 戦闘訓練(初日)


――その日の夜。


 案の定、料理の調理から配膳、後片付けまで龍一朗達が処理することとなり、挙げ句夜間寝ずに警戒させられ、その間3年生と2年生はテントの中で大爆睡。

 さすがに拓也は疲れてうつむき、キユとバーナードはこの待遇差にご立腹である。

 ただ1人、龍一朗は涼しげに与えられた任務を熟していた。


 一晩明け、テントからダラダラ外に集合する上級生達。

 彼らは身支度を適当に済ませ、森の中へと入っていった。

 龍一朗がたき火の後片付けを始めると、キユとバーナードが近寄る。

 

 「バル、何かが始まった様だぞ。あたしの予想じゃ……」


 キユがそこまで言いかけた時に、最後尾にいた上級生4人のグループが「死ぬ気で掛かってくるんだな」と意味深な言葉を残し森の中へと消えていった。


 「――余計な仕事増やしやがって。バル、いよいよ開始する様だぞ」


 「分かっている――が……」


 龍一朗はすぐ脇でぐったりと座り込む拓也を見て、ちょっとばかり足手まといに感じた。

 バーナードもそう思った様で、拓也に横になり身体を休める様に勧めた。

 そんな中、養生あずきがテントの中から現れ、


 「ちょっとあんた達、疲れているところ申し訳ないんだけど、テントの中に入ってくれない」


と彼らを呼びつけた。


 「何だよ。少し休ませろよな……」


 龍一朗らは渋々中に入ると、あずきの他にはサクラや詩菜、仁美、母親の涼見と1人の男性が彼らを待ち構えていた。

 この男性は学校の特殊科所属の『信士・アウラー』という教師である。

 彼は戦術魔法という戦闘系の魔法を教えている。


 「諸君、これから3日間この森で先輩等と戦って勝ち進んで欲しい」


 第一声がこれである。

 話がぶっ飛びすぎて話が良く理解出来ない。


 「おいおい、意味がわからんよ。何でこんな森で戦闘しなければならないんだ? それに今ここでするメリットが理解出来ないのだが……オマケに」


 ちらりとぐったりとして立っている拓也を見る。とてもだるそうだ。


 「――そもそも、なぜ一般の進学科の生徒が戦闘訓練なんだ?」


 龍一朗は趣旨を尋ねた。

 するとアウラーはゲラゲラ笑いながら話を続ける。


 「何を言っているのだ? 君はこの世界で逃げ出した人間ではないか。君の性根をたたき直してやろうという親切心を理解出来ないのか」

 

 アウラーはあくまでも戦闘訓練を続行させるつもりらしい。

 龍一朗はチラリと涼見を見る。

 涼見は冷たい目で『根性を見せなさい』と言わんばかりの表情を彼に向けている。

 つまり、これは母親も一緒に仕組んだこと――


 (なるほど……)


 「わかった。それでこの戦いについてのルールを教えてくれないか?」


 「OK、君達は4人一組で森に入り、出会う上級生と戦闘訓練を開始してくれ。彼らも4人一組で10グループに分かれて行動している。その全員を相手にして3グループ倒せれば君達の勝ちだ。これはハンデだ。頑張りたまえ」


 「そうか――10グループか。40人ね――ずいぶん動員したな。これは人によってはと勘違いされてしまうかもな」


 「賊――ね。ならばこれは賊の討伐か。面白い事をいうではないか。まぁ、君が神池の跡取り息子なら討伐くらい容易いことだろ?」


 アウラーはそう言って龍一朗を挑発する。

 彼は全く知らない。一体誰に喧嘩を売っているのかということを。

 だが龍一朗はそんな安い挑発に乗ることなく淡々と答える。


 「まぁ、賊に見える位だったらまだいいが――逆だった場合はちょっとした惨事になるかもな」


 「何? 君が賊でうちの生徒が官軍にでもなるって言いたいのか。君は面白い。じゃあ、君が賊でいいよ。なんなら全部倒せれば晴れて官軍になるって設定もいいだろう」


 「あ゛ぁん何だ、テメエ喧嘩ふっかけているのか」


 キユがぶち切れた。彼女は昔からその風貌で『女盗賊』とからかうわれることが多い。

 まあ、知っている奴に言われるくらいなら、頭にくることもなく冗談一つ言い返せるのだが――さすがにこのムカツク男に話を合わせるつもりもない。

 キユはアウラーに詰め寄り胸ぐらを掴もうとするが、その手をバーナードが制止した。


 「今はダメだ。こういう奴は勝手に酔わせておけ」


 「おぉ、恐っ。君達はやる気になってくれた様だね。でも君のお友達はどうなのかな――本気でやらないと先輩等に殺されちゃうよ~ぉ」


 アウラーはさらに龍一朗を挑発する様に嘲笑う。

 彼の笑い方は誰が見てもあまりにも不快である。

 龍一朗は掌を向け、それを拒み渋々話しかけた。


 「……別に煽らなくとも、この命欲しければ、潰してくれても構わんよ。それに――うちの母親が『本気でヤレ』と言っているんだろうし」


 「うん、良い回答だ。君のママンもそう言っている。いい子はママンの意見に従うことだ――」


 アウラーは更に龍一朗をからかう。彼はは頬をピクリと動かしたが、あえて知らぬ顔を通した。

 一方で名指しされた涼見も眉毛をピクリ動かしているがその名のとおり涼しげな表情でやり取りを見守っていた。


 「――だが君達が相手する彼らは私が教えた生徒だ。簡単にやられはしない。だから殺す気で挑んでもらって構わんよ。ただし――」


 アウラーは自信満々に話を続けるが、彼らにしてみればその話の続きはわかった。

 

 「『――倒せるものならばな』って言いたい様だな」


 「おいおい、話の腰を折らないでくれ給え。でもよくわかってくれてうれしいよ。もちろんそのとおりだ」


 龍一朗はチラリキユとバーナードに目を向ける。


 「――ってさ、おまえ等はどうする?」


 「いいんじゃないか。こいつ、みたいだし」


 「放っておいてもいいとは思うが――多分、俺らが動かなければならないのは決定事項になるだろうし」


 彼らは『どうせ自分らが動くのは決まってる』と半ば投げやりである。


 「そう面倒がるなって。先生が自分の生徒に自信を持ってそう言ってくれているのだから、そんなに強い先輩なら問題ない本気で行こう。加減してやる必要はない」


 「あたしはおまえならそう言うと思ったよ。それならあたしは構わないよ」


 「――要はうちらで保証しなくていいんだな」


 「大丈夫だ。うちの母親とアウラー先生が責任取ってくれるから。それと――」


 龍一朗は仁美と詩菜、あずきをチラリと見る――共に気まずそうにこちらを窺っている。


 「おまえ等は戦闘に参加しないのか?」


 「うん。私らは国の留学生だから……」


 仁美が手を合わせて謝る。

 

 (それを言ったら、キユ達も一応は留学生なんだけどなぁ……)


 龍一朗はチラリと詩菜を見た。

 詩菜は彼の視線に気付き、彼が何で自分に視線を移したのかすぐに分かった。


 (あぁ、あの件か――大丈夫です言いません)


 彼女は龍一朗の正体を知っている。


 「だ、大丈夫よ……も、もし何かあったら回復法術かけてあげるから!」


 彼女は龍一朗の意図を汲んで何とか話を合わそうとしているが、それがかえってたどたどしい。


 「何だよ――つれないな……」


 龍一朗は彼女が意図を察した様だったので、敢えて余計な点に触れずスルーした。

 そして、あずきを見る。

 あずきは龍一朗の視線に気がついておらず、苦み潰した表情でアウラーを睨み付けている。どうやらあずきは今回の戦闘訓練は反対していたが強引に押し切られた様である。


 一方で――

 さっきから外の様子ばかり気にしているのはサクラ。

 どうやらこっちどころではなさそうである。


 「おい、サクラ。何だ、おまえ。さっきからソワソワしていて……」


 「ん? いや……別に」


 完全に警察に職務質問をされている不審者の対応である


 「そう言えば、ここはおまえの国の領地なんだっけ。何か不安事でもあるのか?」


 「……いや、ちょっと気になることがあってね――とりあえず、君達はアタシのところで何とかするから」


 ――彼女は何か隠している。それでも、その言い方からするとなんとなくだが、害はなさそうだ。

 

 「何だよ。だったらこの不毛な戦闘ごっこ止めるよな……」


 「う……そうしたい……んだけど。ねぇ」


 何か歯切れが悪そうである。彼女の視線の先を追うとそこには涼見がジッとこっちを見ている。


 (あぁ、何か断れない頼み事を受けたのか)


 これ以上は聞いても答えないだろう。

 そう思った矢先、案の定――


 「君は女の子に助けを求めるのかね?」


――と不快な挑発するアウラー。まるでこれ以上追及をやめろと言わんばかりに会話に強引に割り込んできた。

 

 「ずいぶん、喰って掛かるなぁ。このおっさんは」


 「いや、君は先ほどからまわりの女の子に助け船を求めている様にみえるのでね」


 アウラーはニヤニヤしながら龍一朗を見下している。


 「そうかい? 俺は彼女らが何故参加しないのか気になったんでね。まあその方が俺としては助かるんでね」


 「じゃあ、私の提案に乗るでいいんだね?」


 「それで結構――」


 そう言いかけた時、横で「俺は反対だ!」と叫ぶ男がいた。

 彼に目を向けると、拓也だった。


 「俺ら戦闘訓練をまともに受けていない。先輩等は本気で俺らを潰しに掛かるぞ」


 彼は完全に及び腰になっている。


 「君は嫌だと言うのかね?」


 「そ、そうだ……な、なあ。俺はこんなことしたくないんだよ」


 拓也は龍一朗や自分の姉に助けを求めた。

 必死にごねる拓也、こういう戦闘系で何らかのトラウマがあるみたいだ。

 龍一朗は一応キユとバーナードに視線を送る。

 2人とも『こいつは足手まといになる』と首を横に振って彼を連れて行く事に反対した。

 ならば、手を打つ方法は一つである。

 キユがまず行動に出た。


 「先生よぉ、タクは寝ないで夜の警戒をしていたんだ。ちっとは休ませてくれないか?」

 

 「ほう、そうなると君達は3人で回る事になるけど――」


 キユはアウラーの話の続きを聞くことなく、勝手に拓也の額を手で押し当てた。

 拓也はキユの手から発せられた法術でフラフラになりキユに支えられその場に倒れ込んだ。


 「タクお疲れ、ちっとは休んでくれや――あっ、悪い。先生そういう事なんでヨロシク」


 キユは彼を詩菜に引き渡すと、アウラーから龍一朗へ手で差し向けた。


 「――俺らなら3人で構わないよ」


 「ふっ、まさか自分の実力がそこまであると思い上がっているとは――正に滑稽。わかった。どれだけ頑張れるか疑問だが――まあ、『逃げ出さない様に』検討してくれ」


 いつもの龍一朗ならそんな挑発には乗らない……ハズなのだが――

 

 ……ブチ。


 何かがキレる音が聞こえた。

 キユとバーナードが恐る恐るキレた男を覗き込む。

 男は不気味なほど顔を引きつらせ苦笑いをしていた。

 先ほどからずっと挑発に耐え、冷静を装っていた龍一朗であったが遂に堪忍袋の緒が切れてしまった。


 「やべえ……キレた」


 「こりゃ――ダメだ」


 キユとバーナードは一気に血の気が引いて彼からそっと距離をとった。

 その龍一朗は怒りで身体を震わせている。


 「先生よぉ。ついでと言っちゃあなんだけどぉ。終わったら、稽古つけてくれないかぁあ?」


 龍一朗の語尾が怒りで震えている。


 「ほお。構わんよ。本気で掛かってきたまえ――もっとも体力が残っていたのであれば」


 「うれしいねぇ……戦術法術の先生がどれだけ強いのか、楽しみにさせてもらうよ」


 龍一朗は不気味に引きつった笑みを掌で抑えながら隠した。


 「いやぁ……楽しいね――ヒッヒッヒッ……」


 彼はそう呟きながら、その場にしゃがみ、掌を地面に向ける。


 「ん、何をするのかね?」


 「――まさかジャージで姿で森をうろつくなんてするわけないだろ」


 彼の掌の先の地面から法術陣が現れた。

 するとそこから何かを召喚させた。召喚させた物は――リュックサックである。

 外見から何かがパンパンに詰まっている。それを3つ取り出した。

 

 「ん? 何を――あぁ……」


 アウラーは素っ頓狂の声を挙げ召喚させた物を見て驚いた。

 彼は戦術魔法の一人者であるが、その彼が知らない術式なのである。

 それに、そもそもこの世界でも召喚するには詠唱を唱えないと目的の物を呼び出せないし、呼び出すのには時間や場所などきめ細やかな条件を必須とする。

 それなのに彼は無詠唱且つ数秒で品物を3つも取り出した。

 この時点で、訓練なんて彼に必要でない事を意味していた。

 だが、アウラーはあまりに驚き次の言葉が出てこない。


 龍一朗は召喚した物をキユ、バーナードがその品物を確認してそれぞれのリュックサックから中身を取り出す。

 中に入っていたのは真っ黒な厚手の作業着――いや戦闘服である。

 それも最新式の軽量防刃防弾素材の物である。


 「おまえら、ヘルメットはどうする?」


 「今回だけは着用したほうがいい。本気のあたしら見せてやろうじゃないか」


 「ふむ」


 キユの意見に従い、黒いヘルメット3つを取り出す。

 そのうち一つだけはシールド部に武者鎧の面みたいな飾りがされている。

 龍一朗はそのヘルメットを手に取った。

 そこでバーナードから質問を受ける。


 「バル、武器はどうする?」


 「彼らから許可をもらっているので、遠慮なく殺傷能力が高い武器を出す」


 龍一朗は再び地面から何かを召喚する。

 まずはは二振りの小刀とサバイバルナイフ3本

 次にロングライフル。


 「へっ?」


 アウラーの顔色が青ざめていく。

 そもそもこの世界ではこんな武器はない。

 もちろんアウラーはこの世界の住民だろうし、今は何らかの理由があって一条高校の特殊科の先生をしているから、この武器はあっちの世界の兵器であること分かる。

 しかも殺傷能力が高い武器が目の前に並んでいる。

 彼は本気でやるつもりだ――鈍い彼でもなんとなく悟った。

 そして当然、この世界の法術を全く知らない涼見ですら、まさか戦闘と称した訓練が、このバカアウラーの所為で本物の戦闘になるとは思いも寄らなかった。

 

 「ちょ、ちょっと、龍一朗さん――これって……何か違いますよね」


 「違わないよ」


 「私はてっきり魔法の戦い方の訓練かと――」


 「何言っているんだこの平和ボケが! 戦闘とは殺し合いのことだろうが――それをおまえがやらせたのだ。とりあえずこうなってしまった以上、黙ってろ。そして責任の取り方考えろ、ボケ!」


 龍一朗はアウラーと涼見を睨み付けると無言で武器をキユとバーナードに手渡す。

 キユには小刀、バーナードにライフル。そしてそれぞれにサバイバルナイフ。

  

 その異様な光景に外野にいたあずきも仁美も詩菜も驚いてはいたが、敢えて何も言わず様子を窺っている。

 彼女らはきっとここの領主の娘サクラの言葉を待っているのだろう。

 そのサクラは――先ほどから自分の配下に対して色々指示をしている様で、それどころではなさそうである。


 一方で、龍一朗達の部隊はそれぞれ武器を取り出し確認する。

 

 「おっ、これあたしが注文していた最新鋭のバルバニウム合金の日本刀じゃねえか。切れ味最高なんだよ。しかもこいつ軽いぞ。それにこれぐらいの長さであれば森の中では動きやすい」


 「でもなぁ、俺みたいなスナイパーはゲリラ戦だとあまり役に立たねえ。特にロングライフルはあまり意味なさないんだよなぁ」


 「そうか? じゃあ自動小銃にするから」


 そう言って龍一朗はロングライフルを再び法術陣の中に格納し、代わりに自動小銃を取り出す。

 だが、龍一朗は引き金に指を掛けてしまい筒の先付近にいたアウラーや涼見目掛けダラララ……と小銃が踊り出してしまった。

 幸い弾はアウラーと涼見の足下を掠める様に着弾して直撃することはなかったが、さすがの涼見とアウラーはこれは脅しではなく本物であると悟って驚き腰を抜かして座り込んでしまった。

 暴発させた本人は悪びれる事なくニタリと笑んでいる――これはどう見ても故意的に指を引き金に掛けたとしか思えない……

 アウラーと涼見は震えだした。


 「キユ、バーナード。立ち向かう敵の殺害を許可する」


 「応」


 「了解した」


 彼らが武装し、テントから出ようとしたその時、ようやくサクラが声を荒げた。


 「ちょっと待ってくれ! ここは我が領土、何でそんな物騒な物を持ち込んだ!」


 サクラは機銃の音でやっと彼らの異変に気付き、彼らのやろうとしていることを理解し、顔を真っ赤にして怒りだした。

 一方で龍一朗は何で彼女が怒っているのか理解出来ず首を傾げた。


 「何を言っているんだおまえ? 俺らを止める前に、この馬鹿らの愚行――つまりおまえの国での戦闘訓練の提案をなぜ断らなかった?」


 「訓練だからだよ!」


 「……はぁ? 何を言っている。バカなのはおまえのテストの点数だけにしろ。これは最早訓練ではない。油断していたらすぐに命を持って行かれるぞ。あのアホらのお守りをさせられて迷惑千万。そこまでそこまで俺は善人ではない」


 「でも、に何でうちでそんな物騒なことするんだよ。マジでやめてよね」


 「何を言っている。こういう事態なのに、ソレなのにおまえが事前に許可したから話がでかくなったんじゃないか。今更、ああでもない、こうでもないって言うんじゃない」


 「問題はあるよ! 何だよその武器。君達の世界の武器じゃないか!」


 「はぁ? あっちの武器はさすがの俺らでも調達できないぞ。安心しろこっちの世界で製作したやつだ。しかも法術で特殊加工している――相手は何を持っているか知らんが。これくらいは所持していて当然だ」


 「でも、これを使えば結果分かっているじゃん! これは虐殺だよね!」


 「いや、そもそも攻撃してこない奴ならそんなことしない。ヤツらは攻撃の意思を示し、その指揮官は殺害の許可を与えている。俺だってまともな奴なら相手にしない。だが、指揮官がそう言う人物なら俺らも命を狙われる羽目になるだろう。ならこれは『正当防衛』だ。おまえの国にもあるだろ?」


 この一言でさすがにサクラは手詰まった。

 それに元々サクラはちょっと困った案件を抱えていた。

 それはこの土地のことである。

 どうしてもこの土地を調査をしなければならないと思っていた矢先、アウラーや涼見から寄りにもよって『この土地で訓練させてくれ』と言われてしまった。

 当初は断っていたのだが、『龍一朗の婚姻の件でお話があります』涼見に半ば脅されてしまい、渋々この場所を提供した訳である。

 一応、最悪の事態に備えてこのエリアに軍を配置し警戒にあたらせていた最中に、馬鹿親とバカ教師、そしてお馬鹿な2,3年生は潰す気満々で龍一朗達を狙い、癇癪を起こした龍一朗達は容赦なく武器を持ち込む始末……

 これでは彼らを守れないし、自分の軍隊にも被害を及ぼす虞がある。

 そこで、サクラはある事を要求した。


 「じゃあ――約束してくれ。うちのに害を与えないということを」


 「兵?」


 龍一朗は一瞬沈黙する。だが、彼女が言った兵の意味をすぐに理解した。


 「なるほど――おまえはアレを警戒していたんだな」


 「ちょ、ちょっと待ってくれなぜアタシが『警戒』しているって何で気付いた?」


 サクラは驚き声をあげたが、龍一朗はその件については何も答えず――

 

 「俺が武器を携行しているっていうことはそういう事だ――とりあえず、おまえの約束は善処してあたる。あとは黙認しろ」



 そう言いかけた時、遠くからドン!と言う何かが弾ける音が響き、うおぉぉぉ……という雄叫びも聞こえてきた。

 これは明らかに戦闘が始まった様子である。

 ――そもそも、龍一朗達がここにいるのにも関わらず……である。



 「ほら……奴さんら始めやがったぞ」


 龍一朗がニヤニヤしていると、テントの入口から黒い西洋鎧姿の男が飛び込んできて、サクラの前で頭を垂れ片膝を付いた。


 「姫様、が戦闘を開始しました」


 「――で、連中等を青い連中が仕掛けたのか?」


 「違います。姫様のご学友です。賊がご学友を我が軍の部隊と誤認して賊が攻撃を開始しました」


 「し……しまった。森の中に潜んでいた兵はどうした?」


 「森にいた我が部隊が彼らを制止したのですが、一部のご学友が指示に従わず森の奥に進み、そこから戦闘が開始したとのこと。現在交戦中!」


 「な――なんてことだ……」


 サクラはその場に座り込み俯いてしまった。


 「ほら、見たことか。このバカ先生らの所為でちょっとした惨事が起きたな」 


 龍一朗はざまあみろとばかりに彼らを嘲割った。

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