第7話 痛い代償


――再び4月の2年特殊科。



 詩菜が拉致された件について、ありのまま素直に説明したところ「ちょっと待て、それってアタシのせい?」とサクラから抗議を受けた。


 「半分はそうだ。元々詩菜さんを囮にするつもりはなかった。だからアイツらが苦労した。まあ、お前がやたら絡んでくれるから、誰か巻きこまれるんじゃないかと思って不死鳥で保険は掛けておいたわけだ」


 「ふ、ふーん。よく、アタシのやり方うまく活用したよ。大したもんだ」


 そう言いながら汗をダラダラ流しているサクラ。それを詩菜は見逃さなかった。


 「――で、結局、龍一朗君とサクラが煽ったおかげで私が迷惑被った訳か」


 「いや、違う。これは罠だ。この男の周到に練られた罠だ」


 「だから俺が囮だったの。彼女じゃないの! お前が面白がって煽りすぎなんだ」


 「何言っているんだ。キミの回想では詩菜ポンも一緒に捕まるかも――って想定していたじゃんか!」


 「いや、それは……否定できないけど――いや、違う! お前が火に油を注いだからそう想定したわけでだな!」


 サクラと俺とが醜く争っていると、今回の被害者がコホンと咳払いをして間に入ってきた。


 「……はい。巻き込んですいません」


 「……アタシも煽って悪かった」


 当然、加害者2人は平謝りするしかないわな。


 「それで、龍一朗と詩菜ポンはどうして2人無事に帰って来れたわけ?」


 サクラがさらに尋ねてくる。そりゃ、そこ言ってないし、詩菜も俺との約束もあり俺の顔を見て『うぅ~』と唸っている。


 「ああ、奴らはうちの連中に捕まって、俺らは開放された」


 「確かにそう聞いているんだけどさぁ……何かあずきがショックを受けたみたいで何も思い出せないみたいなんだよ」


 そりゃ、そうだ。あずきの記憶は消してある。しかしこんなところを突いてくるなんて、やっぱりこの女はしつこい。きっと詩菜もこの質問をかわすのに苦労したんだろ。詩菜の『うぅ~』がそれを語っている。


 「しつこいと嫌われるぞ。俺がそう言っているんだ。だから納得しろ」


 「何だよぉ」


 さて、実際のところはどうだったのか。サクラたちには内緒で話を進める。



◇◇◇◇



――京都での廃工場に話は戻る。



 「さて、この後どうしたらいいもんか。色々進めたいところであるが――」


 「――正直、あたしらは面倒くさがりなんだよね」


 バーナードとキユが面倒くさそうに悪意を持った笑みを浮かべている。


 「とりあえず。白帝のお嬢さんだけ連れ帰るわ。バル、いままでご苦労様」


 「あとはあの方に判断委ねるしかねえよな。まぁ、バルの封印が解けなければいいんだけどね」


 おや、急にバーナードとキユの態度が冷たいものに変わった。こんなところで俺を捨て駒にして何が意味あるのだろうか?


 「龍一朗君、あなたまた騙されたの?」


 あずきが咄嗟に彼らと俺の間に入り、両手を広げ壁となる。


 「いや。ここまでは予定していたとおり――何だが。理由は分からん」


 「人聞き悪いな。俺らは騙してはいないよ。お前も知っているじゃん。お前を守っている訳じゃないって」


 「一応計画通りことは進めた。あとは『お前を切り捨てれば』終わり。こればかりはあの方の判断だ。あたしらは……気が引けるが」


 何だ? 何が起こっているのか?

 いくら考えても考えるほど分からなくなる。

 正直分からん。まだ封印が完全に解けていない。ここで強制的に破壊して封印を解除するべきなのか。まぁ、彼らが見切りを付けると考えた場合、ここで記憶を取り戻したところで良い記憶があるわけではないだろう。

 そうなると、あと俺ができる事は何かないか考える。

 正直、彼らがこういう行動をとる事ぐらい予測は出来ていたが、いざそういう事をされるとちょっと残念という気持ちがある。

 だが自然と失意や恐怖を感じることはなかった。


 ――あと自分が何を出来るのか?


 それだけしか考えがつかなかった。


 「さて、白帝のお姫様は約束どおり無事に送り届けるとするわ」


キユが行動に移る。キユが俺の壁になっているあずきの肩をつかんで押しのけようとするが、あずきが踏ん張っており彼女を押しのけることが出来ない。


 「あんたらみたいにすぐに裏切るの奴は信用できない。私が詩菜や龍一朗君を連れ帰る」


 どうやら彼女は身を挺して詩菜を俺含めて助けてくれようとしてくれている。

 普通に考えれば『うれしい』ハズなのだが、どうしてか素直に喜べない自分がいた。きっと俺の中の彼女は、俺に辛辣に当たるイメージが強く違和感があるからと思うのだが、その辺りがよく分からない。さらに俺の理解を超えた事ばかりで混乱する。

 いずれにしてもこの中で詩菜を保護するのは彼女が適任である。それだけでも満足だ。

 だが、キユと戦闘実力を比較するとその差は余りある。


 「ああっ、おばさん邪魔!」


 気の荒いキユがキレ、あずきに対して脇腹を蹴り上げるべく左足を半歩前に出し重心を掛けて右足を蹴り込む。

 あずきを咄嗟に左手拳で防御の態勢を取る。

 ――が、それ自体キユの誘いであった。キユは直ぐさま片足状態で前屈みになり重心を前に倒しあずきに頭突きをかます。

 本来ならば安定感のないキユなんて両手で彼女の両肩を掴むか、逆に引き倒してやればそれで防御できるハズなのだが、不意を突かれた彼女には時既に遅し、押し倒され格子戸に体を衝突させてしまった。


 そう、この格子戸には電撃系強化法術が施されている。南無三、電撃術を開放しておくべきであった。

 彼女は悲鳴すら与える間もなくその場に倒れてしまった。


 「ああぁ……」


 彼女は藻掻く様に必死に俺らの方に手を差し伸べようとしているが、それ以上体が動くことは出来なかった。


 「先生!」


 恩師をこのような形で傷つけられ、パニックを起こした教え子が震える手で格子戸に手を触れようとする。


 「待て、詩菜さん! 格子の外側に触れるな。感電するぞ」


 「だって――だって!」


 詩菜は必死に俺の胸ぐらを掴み『何とかしろ』と言わんばかりに恨めしそうに睨んでいるが、今の俺にどうしていいのかわかんない。少なくとも今は下手に動かない方がいいとしか言い様がない。


 「あっ……やり過ぎた……」


 キユがそんなあずきを気まずそうに見ている。そういう表情するキユは完全に情を殺している訳ではない事ぐらいわかる。

 では彼女らは何をしようとしているのか。

 それとも俺が何かするのを待っているのか。


 ――そんな時だった。


 他から法術展開波動を感じた。これは爆裂系の法術で、展開範囲はこの廃工場。中心地は、この鉄格子。

 俺は彼の法術を無効化すべく、法術を展開しようとしたが、何故か法術が展開する事ができなかった。段々、気は焦る。


 ――何かがおかしい。


 「冗談じゃねえ、捕まるぐらいだったら、ここにいる連中皆道連れだ!」


 宍戸がどこぞに隠していた長剣を持ちだし、俺と詩菜の間に突き立てた。

 ただ、他の連中はどさくさ紛れに皆逃げ出したらしく、その場からは消え失せていた。


 「畜生、みんな逃げやがって……」


 宍戸は既に冷静な判断が出来なくなっていた。完全に開き直っている。

 さて、今、この状況下で俺にできる事はないか。静かに考える。


 ――記憶の最終封印は未開封のままで、解けない方が良いという。


 ――彼らが意味不明な見限り方をする。


 ――法術が急に使えなくなる。


 完全に手詰まり。今は為す術が見つからない。考えつく結論――


 チェックメイト


――要は、俺の役割が完全に終わった訳である。

 そう考え至った訳なのだが、何故か腑に落ちない。

 辺りを見回す。身を挺して倒れたあずき。長剣を突きつけられても物怖じすることなく気丈に振る舞う詩菜。

 俺は彼女らをこのままに役目が終わりなのか?

 いや、そんなハズはない。彼女らを救ってこそ本当のお役目御免である。

 では、どうやって彼女らを救うか。何をすべきか?そう考えたとき、ふとキユの『切り捨てれば終わり』が頭によぎった。

 

 ……

 …………!


 そうか!そういう事だったんだ。


 俺は、唯一の仕事果たすため、両手で詩菜の肩を突き放し剣先から遠ざける。そして行動に移した。


 「お前。こんな事しても白帝の『ほうおう』の逆鱗に触れるだけだぞ」


 ――この一言で十分だった。


 俺の利用価値がない事を知っている彼が次にとる行動はわかっている。


 「おい……お前、もう少し頭良いと思っていたが、なんでこんな俺らみたいな雑兵に白帝の法王に逆鱗に触れるんだ?それに法王はうちらの将でもあったんだぜ」


 そう、俺がしたのは話を多く盛って彼の信用度を下げること。

 ちなみに現法王『フェルナンデス=エイルバッハ』であるが、白帝の旧帝国の王族でもあり、旧共和国の将官でもある。彼は微妙な立場であり、こういう紛議の場所には出てくることはない。

 そしてバーナードが俺の意味を察し、トドメの一言を投げた。


 「ほぉ――さすが、カノン。ハッタリも一流だぜ」


 このカノンという言葉は向こうの言葉で『弱虫、泣き虫』という意味である。


 ――この瞬間、俺の唯一すべき事は完了した。


 同時に、今、すべてが理解出来た。

 俺はこうするために派遣されたモノである。

 俺は使われる為にここに来た。だからこれでいい。


 「ふはははは、こいつはいいや。仲間に裏切られた同士仲良くやろうぜ。でもその前にお前は気に入らないからここでサヨナラだ。じゃあなハッタリの達人、弱虫カノン君!」


 宍戸は馬鹿笑いすると、容赦なく長剣を俺の胸目掛けて突き刺した。長剣が胸を貫いたとき、詩菜の悲鳴とあずきの声にならない甲高い声が辺りに響く。

 そして、ざまあ見ろとばかりに――


 「カノン君、すべて君が悪いのだよ。小者のくせにエラくハッタリ効かせてくれたからな!お前はあの世で悔やむといい」


――と愚弄する宍戸。正直、かなりムカツクが、今はこれで要件が済んだ。

 俺の胸元から大量の血が出る――意識がなくなる中で、ふと彼女らとの交流を思い浮かべた。


 ……ああ、面白かったなぁ。




――それから俺の記憶が飛んだ……というより、それは一瞬だった。




 「な……何だここは……」

  

 宍戸が大声を出して騒いでいる。

 そして、詩菜とあずきが「あぁぁ……」と声をあげて驚いている。

 俺は微睡みから気怠く目を開くと、その情景が目映い光の後にゆっくりと見え始めた。

 ここは白き聖城の帝国の元王宮の間。

 辺りにはブルースターの兵士らが中心部を取り囲んでいる。その中心部にいるのは鉄格子と鉄格子に長剣を突き立てている宍戸。腰が抜けてしゃがみ込む詩菜。鉄格子前に横たわるあずき。そしてキユとバーナード。あと逃走したと思われる3人、キユらが事前に捕まえていた2人が既に捕縛され取り押さえられていた。


――俺はその様子を上から眺めている。


 さらに鉄格子の中は面白いことに、詩菜は恐怖の余り失禁したのか彼女の周りが濡れており、宍戸が貫いた――ハズの俺の体はそこにはなく、人型の紙切れ一枚が長剣に貫かれていた。宍戸は辺りを見回し、俺に気がつくと悲鳴を挙げながら長剣をその場に落とし、地面に腰を落とした。

 俺は座り心地の良い椅子から立ち上がると、傾いた宝冠を正しながら自分を覆うマントを後ろに払いのけた。


 ゆっくり彼らがいる場所に降りていく。


 「ようこそ。あの世に入口へ。もっとも先に送られた奴から呼ばれるとは思いもよらなかった様だな」


 「あ、あ、あ……」


 宍戸は俺を指差し震えている。


 「おや、ずいぶん泡を喰っている様だな。驚いているのは余も同じだが、よもや君ごとき雑魚の相手をするハメになろうとは――まずはここに連れて来られて理由はわかるよな。『お前がしてくれた事は由々しき問題だった』ということだ」


 「なななな、なんでお、お前が……そこにいる……さっきまで檻の中で」


 「その回答の前に君に告げたいことがある。君の陳腐な術――あぁ、あれは爆裂系法術のつもりだったのかな?あんな子供だましの術なんて、ここに連行する際に強制解除してやったがな」


 「う、嘘だ。あれは俺が1番の得意な法術だぞ……そ、そんな簡単に解けるもんじゃないハズだ!」


 「でも人型護符ですら、君の法術を強化する事ができた。まぁ所詮はたかが『法術師』ごときと比較するほど余の人型護符は落ちぶれてはいないということだ」


 「ご、護符が法術をだと。そんな法術の使い方はの無茶苦茶だ、ありえない!」


  さて、彼がいう無茶苦茶とは?

 法術を用いて紙片を人に変化させ遠隔操作すると仮定し同時に法術で術の解除や強化等を行うことは可能か?答えはこの理屈上では不能である。理由は法術同士が干渉してしまい制御不能になるからだ。

 だが、俺は元々呪禁師の家系の子。呪禁師とは安倍晴明などの陰陽師と対等する呪詛系の家柄である。だから法術を使わずとも人型護符を操ること自体朝飯前である。それなら護符に法術を送り込み展開させても問題なく制御することが出来る。


 通常、こんな事を考え付く奴は異常者であり、宍戸みたいに信じられない事を見せつけられパニックを起こし怯えている方が正常である。


 「余がして見せたではないか。それに何を怯えている。余は臆病だから安心したまえ。余はお前が言い放った弱虫君であるぞ? ――そう、最後のカノン君だから気にすることはあるまい」


 宍戸は完全に腰が抜けている様で逃げる事すら出来ない。


 「さて宍戸君、問題の時間だ。余の名前を答えてみよ。おっと、神池龍一朗という名前での答えようものなら君の採点は即終了。その時点でこの世から退場だ――」


 俺は偉そうに咳払いして区切りを付けた後、さらに言葉を続けた。


 「できれば君に正解をさせてやろうと思う……そうだ、宍戸君にヒントを与えよう。ルシフェル部隊というのは、俗に余の親衛隊である。そして最大のヒントだ。君が見てのとおり余はどんな姿をしている? さて、余は誰だ?」


 「そ、その軍服は確かに青魔の将官のもの……そ、その王冠とマントは、白帝の王のもの――あ、ありえない……」


 宍戸はガクガクと震え、宍戸の股から茶色じみたモノがにじみ出てきた。


 「宍戸君、君は犬畜生みたいにどこでも用便をしても良いと考えている様だが……ここはトイレではない。粗相は控えるように。まあ、この粗相は誰かさんらに片付けてもらうとするか」


 俺は下からのぞき込む様に薄情者を演じた彼らに、心ばかりにと思いっきり睨みつけてやると、彼らは――


 「ゲッ!」


 「あぁあ~」


――と嫌そうな表情をしながら慌てて片膝を付き頭を下に垂れた。


 再び宍戸に視線を移す。宍戸は後ろを振り向いて四つん這いで震える体を動かそうとし逃げだそうとしている。逃がすわけがない。俺は宍戸が使っていた長剣を磁石の様に右掌に引き寄せるとそれを宍戸目掛けて放り投げる。剣先は真下を向き、宍戸の鼻先1ミリメートルをかすめ、そのまま地面に突き刺さった。わずかに鼻先から鮮血が垂れる。


 「ひいいい……」


 「――さて宍戸君こちらを向き給え。君は人を刺してもいいと思っている様だが、それは如何なものかな。余は違うぞ。少なくとも話しが聞ける間は寛大だぞ」


 つまり、『用が済むまで』ということだ。


 「た、た……助けてくれ」


 「そんな答えも減点だ。さてそんなお馬鹿な君にさらにヒントを与えよう。余は法王フェルナンデスではない。無論勇者ボアガドでもない。君の大好きな弱虫君、つまり『カノン』なんとかだ……これでわかるかな」


 俺は敢えて彼に恐怖を与える様なやり方で、ジワジワと怯えさせていく。

 そう、『絶対に手を出してはマズイ相手』だったと心から後悔させるために。


 「まさかっ――う、嘘だろ……」


 この時、宍戸は今、絶対的に関わってはいけない人物を、知らぬとは言え殺害を企てた『大犯罪人』として問われていると理解した様だ。


 「余は人型通して君に伝えたはずだ。『法皇の逆鱗に触れる』とな。だから嘘はついていない。さて余の立場が分かったところで、余の名前を言ってみよ。」


 俺が言った『ほうおう』とは法皇のことである。法皇とは法王の上位互換階級で、法王が複数現れた時に法具により選定される。もちろんフェルナンデスも優れた術者であるが、俺の法術が絶対的に上である。

 彼が法皇の存在を知っているのかはどうでも良い話だが、彼が言う法王の上位互換で小物相手に大人げなく処断しようというのだ。


 ――折角だからさらに恐怖を与えておこう。


 「う~ん、君は狡い。残念だ。君は答えを知っているはずなのに答えようとはしない。いっそ不敬罪でお前の得意なこの長剣でケツの穴から口先に掛け貫いてやろうか。それとも真の爆裂法術でこの屋敷ごと粉々に吹き飛ばしてくれようか」


 さらに真っ青になる宍戸、完全に生気はなくなっている。


 「お、おまえは……いや、もしかしなくとも、あなた様は……ば……ば……ば、バルバ――」


 彼はそれ以上言葉が出なかった。多分、今までの伝え聞いたものと実際に体験した恐怖を同時に思い出していたのかもしれない。


 「バルバザック――じゃなかったカノン=エルヴァッファ法皇陛下様、もうお戯れはその辺で」


 陛下と様を同時に付ける人なんて俺が知っている限りでは1人しかいない。

 この王宮の間の後ろの方にいたバーナードに似た小柄な女性が俺の前に現れ、立て膝付いて頭を垂れた。

 ちなみにバルバザックというのは地方都市の名前で、俺が使っていた通称ネームである。彼らが『バル』と言っていたのはこれを省したものだ。


 「ナナバか。何だ?」


 「――いや~、いつも以上に厳しいですなぁ」


 彼女は基本的にイエスウーマンであるが、今回は暗に『ねちっこいからやめて』と止めに来たのかもしれない。

 だが、刺された俺の感情は簡単に癒えるものではない。


 「とりあえず宍戸君、余に対して頭を垂れたまえ」


 俺がそういった瞬間、重力系の法術で彼の頭を地面に殴り付ける様に発動させる。彼は自分の粗相の上に額をこすりつけるハメになる。

 俺って結構ねちっこいですよ――と思わせつつも、これ以上自分の品位を落とすのも良くないので、後は専門に任せる方が良いのかもしれない。そろそろナナバに引き渡すか。


 「さて、この者。どう始末してくれようか」


 「法皇陛下様。ここから先はこの司法長官であるナナバにお任せ下さい。この者は法の下で処罰すべきかと。こんなクソまみれのクソ野郎なんて、手打ちにしたらその御手がクソまみれになってしまいます」


 ナナバは頭を垂れ、後を任せるよう進言する。その話を聞いた宍戸は若干安堵した表情だ。

 

 ――あまい、あますぎる。そんな訳ないだろ、バーカ!


 さて、ねちっこい性格の俺がどうしてナナバに引き渡したか?

 品位の他に理由がある。実は俺よりもナナバの方が病んでる――様な性格をしているからである。

 とりあえず、最後の引導として、ナナバの奴を煽っておく。


 「そうだな。ナナバに任せるとするか。なおこの者、余の人型の護符そこの長剣でぶっ刺してくれよった。憑依していたとはいえ痛かったなぁ~。ほうおうの逆鱗に触れるって言ったのに刺されたもんなぁ――」


 ――ピクン。頭を垂れたナナバの眉毛が動く。


 しばらく沈黙が続いた。それは彼女が俺の意図に過剰に反応する化学変化を要する時間である。


 「……あ゛ぁん?」


 ナナバのドスを効かせた声が王宮に響く。煽り成功。ナナバがぶち切れた。

 ナナバが宍戸を睨む付ける。そして小声で「死刑……でいいや」と呟いた。



 「ひいいいいいいいいいい!」



 王宮の間中に宍戸の悲鳴が響く。


 「それではこの者を投獄します。キユ、あんたはそのクソ野郎の捕縛。兄さんは王宮の間の掃除!」


 「えっ!ヤダよ。なんで私がこんなクソ野郎捕縛するのぉ」


 「そうだ。掃除だって他の兵にやらせればいいじゃん!」


 「黙れっ! 法皇陛下様の人型を殺させたのはお前らだろ? お前らもこいつらと一緒に旅立つか?」


 般若の様にイッちゃった目でキユとバーナードを睨み付ける――というより、法の下で処罰する人間が、裁判する前に死刑宣言しちゃっているよ、この人。


 ――やっぱりナナバは面白い子だなぁ。


 「とりあえず、それが終わったら、あんたら2人は私の来て報告書作成しながら口頭で説明しない」


 「そんな、同じ事二度させるなんて無茶苦茶よ!」


 「もう、勘弁してくれよ!」


 「謝る先が違うでしょ!」


 ナナバに一喝されるとキユとバーナードはがっくり頭を垂れて共に俺に深々と一礼する。そして無言でそれぞれ命じられた役目に従事する。

 キユに連れて行かれる宍戸。悲鳴が段々遠くなっていった。


 ざまあみろ。だいぶ気は晴れた。


 さて、問題は彼女らである。

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