第6話 諸悪の根源


――甘味所を後した時の話である。



 黒色セダン車がボクらを背後から追い抜き、数メートル先でハザードランプを点灯させ停車した。


 「これは儂が手配したクルマ」


 ただ、クルマが停車したところが脇道の前であり、ちょっと迷惑な止め方だ。

 ボクは『クルマ脇から突っ込んで来ないよな……』と思いつつ脇の方に視線を移すと、そこには、先ほどの宍戸昭人と目つきの悪い男が隠れる様にコソコソと何かを話しているのが確認できた。

 彼らはボクらに気づいて一応に驚いていたが、彼らが動く前にお爺様がボクを先に後席に追いやるとドアを塞ぐ様に立ち止まり、彼らの方無言でジッと睨み付けていた。

 背後からなのでよく見えないが、お爺様の眼光は鋭いので、彼らにかなりのプレッシャーを与えるのではないか。案の定、宍戸昭人らは苦み潰した表情でその場から立ち去った。


 「フン、あのドブネズミ共、さすがにこれ以上大事にはしたくないようだな」


 お爺様が鼻であしらいながらクルマに乗車すると運転手は無言でクルマを走り出させた。


 「やっぱりそうなるわな。あの小僧、とんでもない食わせ者だな――」


 「まあ、その様ですね。でもその辺に青いのいませんか?」


 ボクは、『あの彼の事だから、知り合いをどこかに待たせているのではないか』と思い込んでいたが、お爺様の話では周りを見回し――


 「青い連中は、この辺にいないようじゃな……」


――と呟き、目を瞑った。


 「えっ、この近くに仲間配置しているんじゃないの?」


 ボクも辺りを見渡してみたものの、うちら世界特有の波動を感知できない。

 あの子、ちょっとやばいんじゃないか?


 「そうなるとだ――あの小僧が言っていた『青いのが自分を守っている訳ではない』という意味はこのことなのか?」


 「えっ、どういうことですか?」


 「いや、青いのが守っているのは奴ではなく、違う人間だったのかも知れん。例えば白帝娘とか――それとも逆にあの娘を囮に使ったのか?」


 「えっ、詩菜ポン? だってパフェ食べる前、八坂神社行ってから清水寺行くって言って別れたけど」


 「その時、何人いた?」


 「1人だよ! せっかくだから観光がてら手分けして龍一朗を探そうって」


 「誰がそんなこといったんじゃ?」


 「……ボクだけど」


 「馬鹿者! お前は、ハメ外し過ぎじゃ。しかもあの小僧と一緒になって白帝の残党を煽って」


 お爺様がポケットから、今時珍しいガラケーを取り出すと、お爺様直属の家来と思われる人物に連絡を取る。白帝の旧王族を直ちに保護下に置く様にと。

 だが、それから間もなく『波動ロスト』の報告を受けた。



◇◇◇◇



――さて、俺が拉致されたその後の話に戻す。



 クルマは右に曲がると一旦停車し助手席の者が降車した。何かの滑車音がゴロゴロと左から右へ鳴り響くとそのクルマはわずかに動き出す。

 そして滑車音が逆方向に鳴りだすとすぐに『ギギギっ』と音を立てて止まった。

 どうやら目的地に着いた様だ。

 クルマはそう長く走っておらず、山道を通っていないから市内のどこかだ。

 目的地にクルマが進入する際、レール様な段差を跨いだ感じがしたが、それ以降は段差を感じる事はなかった。

 宍戸がドアを開け小声で――


 「おいガキ、クルマから降りろ。そっとだぞ。転んでも知らねえからな」


――と言うと俺の左腕を掴み誘導する。誘導されているとはいえ目を塞がれると、さすがに降車するのも一苦労である。

 ゆっくり地面に降りると、ひんやりとした固い床であるのが感じとれた。コンクリートの三和土たたきだな。建物内は暗いのか目隠し越しの光が弱く、ちょっとカビ臭いしほこりっぽい。声の反響もある感じから廃工場だと思われる。


 「ところで……もう目隠しは外してもいいんだろ?」


 俺がそう言うと宍戸がチッと舌打ちし、目隠しを上に引き剥がした。

 おや、隠しで目が慣れたおかげか思ったよりここは明るい。目が慣らすのには丁度良い明るさである。


 「さて、守銭奴様はどこに保護されてるんだろうか」


 「もうじきあえるさ。楽しみにしておくんだな」


 「そうか。そいつは楽しみだ。まあ、俺だったらこんな音の反響があるところには置かず……そうだな――どこか事務所ようなところにお客さんを保護させてもらうがな」


 宍戸が驚いた様な表情で俺を見返すと、俺の表情を見て顔を引きつらせる。

 その時の俺の表情はきっと苦笑いでもしていたのだろう。


 「……チッ、どこまでもお前、ホント嫌なガキだな」


 宍戸がボソリと本音を呟く。すると宍戸の仲間の誰かが彼に疑問を投げかけた。


 「これ――本当に理事長んところのガキかよ。何か聞いていたものと違う……」


 あぁ、たしか俺はサクラのところの国から逃げ帰ってきた腑抜け者っていうことにしていたんだっけか。でも今更すっとぼけても、誰1人信じる事はないだろうな。

 さて、誰がこいつらの交渉役になるのか楽しみである。もう少し待つとしよう。

 そう思っていると建物奥の事務所だったと思われる場所に連れて来られた。

 そこは8畳程度の部屋だった。部屋の中央に机が5つほど向かい合う様に置かれており、埃が砂を塗した様に被っていて、そこが閉鎖されてだいぶ時が経ったと思われる。

 その部屋に彼らの仲間と思われる2人が待機していた。もちろんここには詩菜の姿はない。

 さらにその奥にはかつて休憩室だったと思われる給湯器付の6畳間があり、そこで彼女は佇んでいた。

 彼女は鉄格子の檻の中で、まるで誰かが来るのを待っている様な感じで、目を瞑り格子に寄りかかって立っていた。

 その姿がまるで神々しい。

 思わず『守銭奴様!』と拝みたくなるぐらいである。もちろん、そう呟いたらここでエライ騒ぎ方をするだろう。


 「あっ、遅い。やっときた。待っていたんだからね!」


 詩菜は俺に気づくと目を開き、俺を指差しながらむくれている。


 「――で、トラブル起こした御曹司様自ら交渉役って、どうかしらね……」


 どうやら彼女は、俺が彼らから開放するための交渉役だと思っていた様だ。


 「残念。守銭奴様、俺も捕まったわ」


 俺はそう言うと、檻の格子戸に手を掛ける。

 宍戸らは「おい、そこは法術結界が!」と叫んでいるが、こんなチンケな法術結界では俺には全く効果がないわけであり、何事もなく開放することが出来た。

 そして、俺がその中に入り、再び格子戸を閉めて「よし、ロック確認。」と指さし確認すると、詩菜は――


 「『ロック確認』じゃない! なんであんたまでこの中に入っているのよ!」


――と俺の胸ぐらを締め上げ、がなり散らした。


 「それに何? 『守銭奴様』って! 確かに私も御曹司様って言ったけど、何も対抗して言い返さなくともいいでしょ!」


 「ああ、よかった元気そうで。何もされていないだろ?」

 

 「おかげさまでね」


 彼女は俺の胸ぐらを開放すると、腕組みしながら俺から顔を背けた。

 茫然とする犯人グループ。


 「あっ、失礼。だって俺、人質だろ? ここに入っていればいいんだよな」


 「あ……ああ」


 犯人の1人が首を傾げながら何か納得できないような表情で、渋々肯定した。

 まぁ、一応言っておくが、彼女に変な事するつもりは毛頭ない。だって――


 「あっ、アンタ『この中じゃあ、私と二人っきり』と一瞬思ったでしょ」


――と馬鹿みたいな理屈をこね、ジト目で睨んでいる女子高生に手を出すほど俺も落ちぶれてはいない。


 「さて、誰が迎えに来てくれるのかな。うちの父親かなぁ……」


 俺は棒読みで彼女を軽く無視した。


 「あっ、逆に何か嫌らしい事考えているでしょ!」


 詩菜が両手で胸を隠す様な仕草をする。何だか詩菜が暴走し始めてきた。

 暴走している人を相手にするのは面倒なので、そのまま無視することにする。


 「また変な事考えているでしょ。子供出来たらどうするのよ!」


 大丈夫だ詩菜さん、隣にいただけで妊娠したって聞いたことがないから。

 それに保健体育で習っているハズなんだが。


 「そうなったら、慰謝料よ。慰謝料100万円頂戴!」


 妊娠確定っていうより金の無心かよ。しかも値段設定が微妙である。


 「――今の台詞そのまんま、一条の連中に伝えるからな」


 俺はテンパっている彼女を軽くあしらったつもりだったが、彼女の顔色が段々青くなる。


 「何よ、私を脅す気? 脅迫よ脅迫! だから慰謝料10万円頂戴」


 100万円が10万円かよ、ずいぶん値下がったな。

 それにしても凄い動揺の仕方だな。きっと普段は優等生もしくは良い生徒で通すため冷静を装っていただけで、今回は混乱するほど動揺していたのかもしれない。


 ――おっとそういえば、今はこんなことしていい状況ではなかった。


 「……おい、お前らいい加減にしろよ……」


 そうだ、他にもテンパっている奴らもいたんだ。

 俺は直ぐさまこう反論した。


 「こんな状況なんだから精神的に不安なんだろ。だから落ち着かせようとしているんじゃないか。それより、交渉役はどうなっている? 連絡がついたのか?」



 「一々、俺に指示するんじゃねえ! ぶっ飛ばされてえのか!」


 宍戸はガマンしきれなくなったのか、格子戸に手を掛けた。きっと俺の胸ぐら掴んでぶん殴るつもりだったのだろう――だが、相手が悪かった。

 宍戸が格子戸に手を掛けた瞬間、高圧電流様な衝撃が彼の腕から全身に渡り駆け巡る。

 そしてその場で崩れ落ちた。


 「――おいおい、逃げない様に法術展開させていたんだろ? だから簡単に逃げられない様に檻外部に電撃系法術を付加させておいた。これで安心だ。心置きなく交渉に臨んでくれ」


 もちろんこれは彼女を守るためのトラップである。

 そうこうしている間にもう一人、この場に連れて来られた。


 ――あ? こいつも捕まったのか。


 俺の目の前にいたのは、あずきであった。

 こいつ、こっち側? それとも向こう人間だったっけ?

 彼女に関してはブルースターに行く前の記憶しかないが、彼女がどちら側の人間だったのか知らない。

 それに俺が自身、向こうの世界があることを知ったのは、送り込まれる数日前のである。

 彼女の立ち位置がわからない以上、彼女が『人質』なのか『敵』なのか、わからない。

 ただ、この場に彼女がいると言うことは交渉人代理と考えた方が素直ではないだろうか。


 「あっ、龍一朗。それに詩菜。二人とも無事なのね」


 彼女は人質である俺らが無事である事を確認する一方、檻の前に転がり失神している宍戸を見て、自体がただならぬ状況にあることを確認したはずだ。

 とりあえず、詩菜が無傷である事を知り安堵している。

 その脇で茫然とする詩菜。あずきを指差し意味が分からず混乱している。

 先ほどの俺もそうだが『なんでこんなところにあずきさん?』と考えるわな。

 その一方であずきの方は俺に対して――


 「龍一朗、ホントあんたは馬鹿でどうしょうもない――実に情けない……」


――と俺が捕まったことに対して、涙を浮かべるほど腹を立てている様だ。

 俺の本音としては、もっともっと見下し突き放した言い方をしてくると想像していただけに、ちょっと意外であった。

 そんなことはどうでもいい。問題は誰が交渉人なのかである。


 「あずきさん。そんな言葉は後で聞くとして、あんた何しに来たの? まさか助けに来たわけじないんでしょ?」


 「そうね。務めを果たさないとね。理事長の代理としてきました」


 なるほど父親か。

 確かに彼は白帝の出である。正確に言うと白帝の皇太子である。

 彼はこの世界に留学中、クーデターによりその地位は剥奪されていた。

 その後、臨時政府に変わったものの、未だ地位回復はされていない。

 いくら元王族といえど地位回復させるのにはなかなか大変なのだ。


 その例外が、現法王『フェルナンデス=エイルバッハ』である。

 白帝の元王族ながらも、共和国軍の将にまで上り詰めた20代後半の男である。

 フェルナンデスの場合は、『法王』の資格を有していたため、共和国でも無下にも出来ずその立場を利用していたと思われるが、臨時政府も同様に処断することは躊躇い、地位復活という名目にプロパガンダとして利用している。

 実際のところは、国策立案など有能であり、人間的に面白い奴なので国民の人気も高い。


 ちなみに『法王』ていうのは法術会の最高資格である。例外を除いては1番敬われる立場にある。

 向こうの世界では法王は『何人も犯すことの出来ない絶対的聖域』ある。もちろん世襲制でもない。法王は基本、その資格を有していれば、王族でなくとも一般市民でも奴隷でもなれるものである。

 ただ奴の場合は、法王だが王位継承位が低いため彼が王を兼ねることはない。


 王位継承権1位はうちの父親である。事実、フェルナンデスよりも国民的人気は高いのだが――ただ、父親の場合は臨時政府とまともに接点がある訳ではなく、せいぜいフェルナンデス位しかいないはずだ。フェルナンデスは元敗軍の将でもあるので、臨時政府に交渉できるほど立場はない。

 

 そうなると――


 「あずきさん、父親経由でブラッケンクラウスと交渉かい?」


 「!……まぁ、そうだけど」


 「確かに、サクラは向こうの良いとこの令嬢だし」


 「そうよ。あなたのお父様とサクラのお父様とは友人どうしだから」


 ――おや、そいつは知らなかった。

 だからサクラがこの世界にくることが出来たわけか。

 

 ……これで内部通報説はなくなった訳だ。

 

 俺はようやくすべての要件を済ませる事ができた。


 「おい、要件は済んだ。もう出てきても良いぞ!」


 俺がそう言うと、後から合流した犯人2人がそれぞれ自分の顔に手を当てると何かを引き剥がした。そう、これは法術を応用した顔の写し、分かり易く『変身マスク』とでも言っておこうか。それを引っ剥がすと見慣れた2人の男女が現れた。


 「いや、まさかこの白帝の姉ちゃんが拉致られるとは思わなかったな」


 「――ていうか、アンタがブッコロ……じゃなかったクロタスだったっけか、あのお前に性格が似ている女、あんなのと一緒に煽っていたから、おかしくなったんでしょうよ」


 登場一言目に、バーナードとキユは俺に文句を言う。余計な仕事を増やしたから相当手間を掛けさせたのだろう。

 さらにキユの奴はいらだっている様で――


 「いつまで、寝てんだよ!」


――と言って気絶している宍戸のケツを蹴り飛ばした。

 それで目を覚ます宍戸、一方で彼のグループは何が起きたのかまだ理解出来ずにいる。あずきも異変に気付き、隠し持っていた剣を身構え間合いを取り、今の状況を把握しようとしている。


 「ねえ、龍一朗君。これどういうこと? 私達誘拐されるわ、あずき先生は出てくるわ、青いのが出てくるわ……」


 青いの……この一言で、宍戸グループが今、何が起こったのか飲み込めた様だ。


 「オメー、俺らをハメたな!」


 「失礼な言い方だな。ハメたわけじゃなく動きを見えていただけだよ」


 俺はそういうとポケットから護符を取り出した。


 「これ、ただの紙だよね――でもね」


 俺はその護符を両手で挟むと、それは真新しいスマホに変わった。


 「これ、話放題プランになっていて……今、この通話、こいつらの携帯と繋がりっぱなしになっているのよ」



◇◇◇◇



――再び、4月の特殊科教室。



 サクラが俺の回顧に一々口を挟んできた。


 「あれ、あの時キミの携帯ぶっ壊れていなかった?」


 「ああ、あれは展示用のモックアップ。京都に行く前、秋葉原で買ってきた。もちろん拉致されるときそのモックアップは捨てられてしまったけどな」


 「じゃあ、本物の携帯電話はみんな護符に化けさせていた訳なんだ」


 「まあな。普通なら怪しまれるんだが、京都の土地故に、金閣寺でもらえる入館券みたいな記念の護符とでも思うだろうね」


 「あっ、んじゃあ……」


 そう言うとサクラは自分の携帯電話を取りだし、電話をかけ出した。すると俺の携帯電話が鳴る。しかも、着信音が『なんとかベーダー卿のテーマ』みたいな着メロだからサクラの額にうっすらと青筋が浮き上がる。


 「あっ、アタシはそういう扱いなんだ――」


 サクラが引きつった笑みを浮かべワナワナと震えている。


 「ああこれか。お前、嫌な性格しているから、どこで俺の電話番号を調べ上げるかも知らないからな。バレる事を想定して先に登録しておいた。それでお前、俺の電話番号どこで知った?」


 「何言ってんだよ。アタシの携帯で自分の電話に掛けさせたんでしょうよ」


 やはり、嫌な女である。俺が母親の電話を掛けさせる際、間違った振りして俺の電話番号を掛けさせたのを知っていたのだ。


 「はぁ、お前電話掛ける相手がいなかったから、いつまでも俺の履歴が残っていたのか? それとも使い方わかんなかったとか……」


 その瞬間、頭がゴンと鈍い音を立てて俺は一瞬お星様が見えた。

 そして同じく頭を抱えて机の上で蹲るサクラ。


 「痛っ――おい、お前の馬鹿が感染ったらどうするんだよ」


 「うるさい! 電話掛ける相手がいない……かもしれないけど、使い方わかんないかも……しんないけどそんな事ハッキリいうんじゃない!」


 この女、多分その両方なのだろう。

 ちなみに彼女に電話させた番号はプライベート用で、職務用のものではない。

 同様にバーナードらも何個か持っており、京都のあの日、彼らには清水寺の一件の後それまで使っていた携帯電話を切断させ、祇園で彼らと離れた後に違う携帯電話に切替させていた。俺もそのタイミングに合わせて電話機を切り替えたのだ。

 この時、既に彼らがブルースターである事は知られていただろうし、万が一、俺の携帯の着信履歴を携帯電話会社をハッキングして調べられてしまったら、彼らの連絡先も知られてしまい、位置探査なんぞされた日には、面倒この上ない。

 まあ、こんなことを考えるのはうちらの世界にそれが得意な人物がいるから。そいつがそういうアドバイスするんだから、そうした方がいい。

 もちろん、そいつの力を使えば違法SIMや違法携帯電話の1個や10個位作ることは朝飯前なのだが、一応臨時政府要員でもある彼女が他世界とは言え違法行為をさせるのは、道理に反する。

 だから、彼ら携帯電話機も俺のも『正規品』である――ただ申し訳ないが、この携帯を買うとき、父親の記憶の一部を干渉させ、彼の頭の中では新規購入ではなく機種変になっているはずだ。


 「それで、詩菜ポンが捕まった理由ってなんなの」


 サクラが頭抱えながら涙目を浮かべて、まだ追及してきた。



◇◇◇◇



――再び、廃工場。



 「そうこと。だからお前らの情報はこいつらに全部筒抜けだったわけだ」


 「ミカの奴がGPS探知機能をOFFさせなければ、すごく探し易くかったんだけさ。幸いどこかの嬢ちゃんが不死鳥使ってくれたおかげで助かったわ。すぐに部下に本国に戻らせて花蜜と不死鳥をとり寄せてきたわよ」


 「そうそう鳥寄せ鍋の日に」


 バーナードとキユがゲラゲラと寒い冗談で勝手にウケている。


 「龍一朗君、まさか鍋の時に……」


 「そうだよ。まさかサクラのピーちゃん使うわけにも行かないし。不死鳥を使うにはまずみんなに花蜜塗っておく必要があったかな。女の子をベタベタ触るのも気が引けたのでこっそり鍋に混ぜさせたけどね」


 そこで詩菜がある疑問を確認する。


 「でも、それだったらピーちゃん、花蜜で騒いでいない?」


 「それだったら、あの嬢ちゃんの鳥返す前にたくさん花蜜食べさせておいたから。まあ、何にせよ良かったよ、新型ライフル銃と法弾実験が成功して」


 「ああ、それはあたしには出来ないからね。あんたが得意な分野だから。その割にはずいぶんビビっていたみたいだったしな」


 「いくら俺でも、通常の銃と弾だったら無理だわ。さすがに機敏に動いている鳥の足についている金属プレート打ち落とせないからな」


 バーナード鼻高々である。もっとも、バーナードの並外れた動体視力だからこそ、鳥の金属プレートを追えるわけで、それプラスして銃と弾に追跡機能が加わることで初めて狙撃実権に成功できたのである。

 ちなみに俺が持っていたオモチャの銃は実は麻酔弾が充填されており、万が一の時は無理してピーちゃんに固執せず、そいつを彼女らに使用する予定であった。


 「うわっ、サクラの戦法を、うちらに利用した訳ね――あんたってストーカー?」


 「失礼な。だから詩菜さん無事だったんでしょ」


 「ところで、なんで私が捕まらなきゃならない訳? アンタ私を囮にした?」


 「まさか。第一、白帝王族がこんなところにいる自体知らなかったぞ。当初の予定は囮は俺だけ。本当に巻きこんで悪かったよ」


 後でネチネチ言われるだろうけど、まずは謝らないといけない。


 「そして、面白がって煽っていたのはサクラだから。あいつも同罪ね」


 そう言って、サクラにも責任があるとチクる俺であった。

 そうじゃないと大団円にはならないからな。


 ――――だが、そううまく行かなかった。

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