第4話 合流

 俺は彼らにある事を指示し実行させた。

 彼らは質問することなくすんなり受け入れた。

 ただ、彼らの話しぶりからすると、記憶を消される前の俺がそう指示してくるだろうと予測していた様で――結局のところ俺は、昔の俺の掌で踊らされていることを悟った。

 そしていよいよ彼らとお別れである。手配したタクシーは八坂神社がある祇園町で停車し、俺はそこで降車した。


 「おーいまた奢ってくれや!」


 「ごちになったよ!」


 彼らはわざとらしく手を振りタクシーでその場から離れた。

 残された俺はここにいれば必ず彼女らに会えると考え、抹茶パフェで有名なお茶屋経営の甘味処の前で並んだ。

 案の定――


 「あーっ、龍一朗こんなところにいた!」


――とサクラに声かけられ、予想より早めに合流できた。

 やはり勘のいい女である。見た感じ一人だけの様で周囲には術式者らしき者もいなそうだ。


 「おや、サクラか。意外と京都も狭いものだな」


 「『……だな』じゃないよ。大騒ぎだよ。御曹司がいなくなってって。みんな探しているよ」


 「そいつはどうも――ていうか、お前はパフェ食べに来ただけなんだろ?」


 サクラの表情が一瞬強ばるが、大きくため息をつき頭を振った。


 「ち、違うよ。真面目に探していたんだよ」


 「あっそう――だったら俺はパフェ食べに来たから、みんなに祇園の抹茶パフェのところにいるって伝えといて」


 再びサクラの表情が変わる。今度は慌てている。


 「いや、ちょっと……」


 「ああ、俺の携帯、清水寺の乱闘に巻きこまれて――」


 俺は液晶が壊れて使えなくなった携帯電話を彼女に差し出した。もちろんこれは事前にぶっ壊したものである。


 「だからサクラが無事合流したって神池に連絡しておいてくれないか?」

 「いや――そうなると、急ぐ必要があるわけで……」


 「大丈夫、皆が迎えに来るまでパフェ食って待っているから」


 「あっあのぉ――」


 「どうしたの?」


 俺は意地悪く尋ねてやった。基本的にこの女が学校の都合で動くタイプの人間ではないことは重々承知である。

 サクラは頬を赤らめ恥を忍ぶ様、小声で「ボクも食べたいなって思うんだけど……」と囁いた。


 「素直でよろしい。でも、どうせなら実践部隊に捕獲されちまう前に事前に報告だけしておいた方がいいぞ。サクラも駆り出されているならば、多分ヤツらも血眼になって探しているハズだろうから。神池の放火の件で相当疑心暗鬼になっているだろうから、お前まで疑われるぞ」


 「放火の件は知らないけど……校長や理事長の動きが何か様子おかしいよね」


 「まあね。んじゃ、今から言う電話番号に掛けてくれる080-XXXX-YYYY」


 サクラに電話を掛けさせる。


 「『ツーツーツー……』だってさ」


 「あっ、すまない。間違えた。正しくは090-YYYY-XXXXだった」


 「何だよぉ……どこに電話掛けさせるつもりだよ」


 再びサクラが電話を掛ける。今度こそは電話が掛かる。

 そして出た相手は――



 『はい、神池ですが』



 「げっ、涼見ちゃん――じゃなかった校長先生!」


 『「げっ、涼見ちゃん」は失礼でしょ!それにその声あなたサクラさんね。この電話番号を知っているって言うことは龍一朗と接触したのですね』


 この母親も感がよいようだ。話が早い。

 サクラも察したようで電話を俺に差し出す。


 「しかし大げさだよな。市内観光は良いって言っておいて、いざ俺を見失っただけで大騒ぎしているんだから。」


 『何言っているのあちらからの来訪者と思われる人物が清水寺で大暴れした挙げ句に、あなたを見失い、電話連絡も取れないってどういうことかしら』


 そりゃ大騒ぎになるだろう。あちらさんが俺を拉致ったと思うわな……


 「何言っているんだ。あの乱闘騒ぎで携帯が壊れたんだ。丁度良いところに俺の知り合いの外人がたまたまいたから飯食べてただけだよ」


 『……あら、そんな話初耳ですわね』


 「そうかい? 俺はフレンドリーだから結構声かけて一緒に食べるの好きなんだ。それに今からサクラと甘味所で何か食ってくるから問題ないから」


 『あら、今度はうちの女生徒に声かけナンパですか。ずいぶんいい加減な話ですこと……』


 「はい。うちの親の教育が良いせいで、僕個人的な対人コミュニケーション能力が優秀みたいですから――」


 『……わかりました。好きにしなさい』


 まあ、こういう型に縛られている親であるからこそ裏技が使えるわけである。


 「それじゃあ、お言葉に甘えて――」


 そこで電話を断としてサクラに携帯を返した。


 「あらま、ずいぶん冷めたご家族だこと……」


 「でも、パフェ食える時間は稼げただろ?今から兵隊は血眼になって甘味所を探しているハズだろうから」


 「あぁ、なるほど。だから場所をに伝えなかったんだ」


 「それに一応はサクラのこと信用しているみたいだからな。だからこれであちらさんは慌てる必要はなくなった訳だ」


 「そいつはどうも――」


 そうこうしている間に俺らは店内に案内され抹茶パフェを注文した。


 「ところでさ。さっきの話だけど。ボクの聞いた話だとキミは『青いの』に拉致されたって話だったんだけど、実際にはどうなんだい?」


 サクラはパフェを食べながらボソリと質問した。


 「何だ、その『青いの』って?」


 素朴な疑問である。普通に考えればキユとバーナードのことだろう。

 だが、実際のところキユとバーナードに関しては奴らの記憶はないが、フレンドリーに接しているから悪い関係でもなさそうである。

 だが、今までのケースとしては奴らの事を思い出せないとしても、『青いの』としての知識はどこかしらに記憶されているハズである。

 そんなとき、サクラから助け船を出された。


 「確かブルースターって言っていたかな。悪い言い方すれば『ゴブリン』共とか『ドワーフ』共とか言う奴もいるが、実際には『体が小柄で華奢』もしくは『体が大きく筋肉質』の二極端な人らの集まり。ごく普通の人だよ――って、自慢の知識にはないのかい?」


 「いや。この辺記憶があまりないんだよな」


 一応正直に答える。

 確かに俺の記憶になくとも知識としてはあってもおかしくはない情報だ。

 それがないと言うことはそれ自体が封印を解くヒントなのかもしれない。

 要はその知識があることで目的を遂げられない可能性があるから封じたと考えれば自然だろう。


 「なんならボクが教えてあげようか? キミに付いていたあの男女が『青いの』ってこと」


 サクラがニヤリと笑む。やはりこいつはどこぞで俺と奴らが接触していたのを見ているとみた。


 「やだなぁ。アイツらは普通の留学生だぞ」


 「よく言うよ。あれはボクらの世界の人間だ、そういう臭いがプンプンする」


 「アイツら術式なんて使えないぞ。それくらいなら見ただけで分かるぞ」


 ――とは言ったものの、本当はバリバリ使える。


 「何言っているの。仮にそうだとしてもアイツらは肉弾戦が得意な連中よ。でも一つだけ引っかかるのよね。そんな気が短い連中が狙撃なんてできるのかなぁ。第一、長距離狙撃できる武器がアイツら持っているなんて話聞いたことがない」


 ――とまあ、ありがたくない情報ペラペラ話し頂き、お恨み申す。


 それというのも、その軽口の中に封印解除コードがあったら……内心ヒヤヒヤしながら考えている。

 それは多分、『封印前の俺は奴らとのつながりが近すぎるから』がその理由で、だからこそ余計な情報を消した――と思われる。



 この女の減らず口、何とか閉じなきゃ……



 ――そう思った矢先、予想外のところで心配毎が解決してしまったのである。



 「御曹司、こんなところにいたんですか! 青魔の奴らに拉致されたって大騒ぎになっていますよ」



 その声は見知らぬ中年男であった。

 頭の中の南京錠が音を立てて外れ落ちた。


 ――マジっスか?


 だが、ある意味どうして封印されていたのかわかっただけでも納得した。


 ――なるほど、こういうことだったんだ……そうかそうか。


 それは確かに不要な情報である。

 ただ、それでもまだ封印が完全に解けたわけではない。

 自分は何物であるかということ、それについてはまだ封がされたままである。

 まだ悟られてはならないところなのだろう。


 「すいません。心配をお掛けしました」


 「大人しくして頂かないと私達が困ります」


 「すいません」


 一応平謝りをしてみる。そして、開封コードである言葉について投げかけてみる。


 「それと、青魔ってなんですか?」


 実はこの言葉が問題のキーワードである。

 開封したばかりの俺の記憶によれば、この男が発した『青魔』とはブルースター義勇軍のことであり、サクラの国にしても、詩菜の革命前の国にしても、放っておけば害がない無視しても問題がない国として認識されている。だから『ゴブリン』とか『ドワーフ』といって馬鹿にしているのが多い。

 まあ『青いの』と言っている人は、彼らがブルースターとして活動を認識している位の知識を有している。

 だが、その彼らと戦い、敗走した連中は決まって口元をゆがめこう言った。


 「あいつらはドワーフやゴブリンなんかじゃない――青い悪魔だ」


 まあ、ここまで思い出せれば何とかなりそうなもんだが、残念ながらまだ封印されているようで、頭から出てこない事がある――


 自分は何物なのだろうか


――ということ。ならばそれについては知る必要がないと考えるべきだ。

 さて、問題のキーワード『青魔』について戻す。


「青魔とはあなたの母上が言う魔王軍の事です! そんなことも分からないのですか!」


 声を荒げるこの男性。

 予想以上に酷い目に遭わされたと考えた方が妥当であろう。

 ――なるほど、この男は『こちら側の勢力を使ってでも青魔を倒そうと考えている』のか、それとも『こっちのお偉いさんに忠義を感じている』のか、そんなところだろうか。


 「まあまあ、そう感情的になられても――どこの誰だか分からない人に怒られている理由がわからないとなれば説得力に欠けるというものです。少なくとも名前は名乗り、あなたの知っている情報をこちらに提供してくれませんか?」


 そう切り出したのは――俺ではない。

 サクラである。

 奴は俺の考えている事をすべて見抜いている訳ではないと思うが、あらすじ俺がどういう人間か察して、俺の考えに近いパターンを選択したのだろう。

 だが、第一の封印が外れた俺からすると、余計な弁明を与える機会を与えたくないと考える。


 「いや、サクラそこまで及ばない。この人は母親らに属している人。お前らの世界を知っているのに敢えてこちら側についている人だ。双方が納得するから回答は得られないよ。ここは素直に従って置いた方が話が早い」


 「ふーん……確かにキミの説の方が素直だね」


 すると男は、俺らがただのボンボンではないと悟ったのか急に冷静を取り戻す。


 「すいません、つい取り乱しました……」


 ――だが、これじゃ困るんだよね……もっと慌ててもらわなければ。


 「ねえ、そちらの方。ルシフェルってグループってご存じですか?」


 俺は彼におそらく2もしくは3番目に動揺すると思われるワードを告げた。

 本当は1番が理想なのだが、それは未だにブロックされているからそうなったに過ぎないのだが、俺が想像している奴ならこれだけで十分足りるハズだ。


 「ルシ……フェル……部隊……だと――」


 その男は絶句し、その場に凍り付く。


 ――ビンゴである。


 彼は間違えなく記憶が失う前の俺らの事をよく知っている様だ。

 では俺自身の記憶がある事でデメリットとなるのは何なんだろう。

 そう考えると、記憶のある俺と今の俺は全く別人と考えている可能性がある、もしくはそう思わせる必要があった――と考える方が自然である。


 ――俺は大物なのか?


 まあ、開封された記憶の中では彼らがルシフェル部隊と呼称していたし、俺がそいつらと親しんでいた事を考えると、俺はそれに近い部隊だったのは間違いないだろう。

 ここで付け加えるなら、俺は『ルシフェル部隊』でもなければ、彼らが俗に言う『魔王さま』でもないということ。

 ここで知ったかぶりしていい加減に語るとなるとすべてがハッタリとされてしまう。もう少し言葉を選びながら相手を尋問しよう――そう思ったときサクラが口を割って入ってきた。


 「おや、ルシフェルって伝説の救世主の事だよね」


 「そうなんだって。でもどう見てもアイツらにそんな気品のかけらもない、ただのクソ野郎だよ。でもそのグループに以前いたって話していたっけ……」


 男はその場で尻餅をつき、顔面蒼白になる。


 「やだなぁ、おじさん。顔色青いよ。大丈夫?」


 サクラが苦笑いする。

 まあ、ブルースターは大したことはなくともルシフェル部隊があるあの軍隊は別である。今のところまだ封印が完全に外れた訳ではないが、あの軍隊がサクラのところに攻め入れば、多分数日後には彼女でもそうなるはずだ。

 ならばあまり知らない彼女の口から、ある言葉を引き出させた方が無難である。


 「まあ、たった2人だし俺には全くそう見えませんけどねぇ――でも、もしアイツらが本当の強敵であるとしたならあなた1人で背負い込むのは酷ですね……」


 「そんなに心配だったら一回仕切り直しして一致団結すればなんとかなるんじゃなの?」



 ――はい、ありがとうございます。良い答えです。さらに煽ってみましょう。


  

 「おいおい、それじゃあ、あの2人がまるで一個旅団を殲滅した凄腕みたいじゃないか」


 まあ所詮はアイツら2人ですからね~。どんなに頑張っても一個旅団はちょっと分が悪すぎるかな。あっ、でも、アイツらの軍隊なら一個旅団どころか一個師団を壊滅する程度は可能です――さあ、この男はどう行動するかな?


 「ところで、うちの母親に護衛の人と接触した説明しないといけないんで、あなたの名前を聞いてよろしいですか?」


 「あ……はい。私は宍戸昭人と申します」


 男はそう名乗った。そして、こう付け加えた。


 「――ですが、私には急用ができましたので、代わりの者を手配します」


 なるほど。そうなるとこの男が執る手は2つしかないな。


 「わかりました。多分、今すぐ彼らは俺には危害加えるつもりはないでしょうからその点は心配しないでください。」


  俺がそう言うと宍戸と名乗る男は一礼すると足早にその場から立ち去った。

 再び俺とサクラが喫茶店に残される。なんだかんだ言って2人ともパフェも食べ終え、俺は堪能できた。彼女はどうだろうか?


 「――あれぇ、キミずいぶんあの人追い込んでいなかったか?」


 相変わらずよく観察をしていること。


 「そんなに人の様子窺っていると美味しい物もわからなくならないか?」


 「それはそれ。これはこれ。それなりには堪能できたよ」


 やはり俺と同じ人種かな。


 「さて、こうなるとボクはどう行動した方が良いのかな? ああいう風に人を追い込むと、ろくな事はないぞ」


 説教じみたおちょくり方である。こう説明した方が彼女も素直に理解する。


 「まずは俺から離れることを勧めておこうか。報告も終わり実践部隊も確認終了した。ならば離脱する方がいいだろう」


 「へえ……ずいぶんボクも嫌われたもんだね」


 そういうと彼女はテーブルに手を突いて立ち上がろうとするが、何か引っかかっているのか中腰のまま思い耽っている様だ。


 「どうした? 何か気になるのか」


 「キミ――嫌な性格しているなぁ。人の考え探らないでくれるかい?」


 「別に俺はあんたから探られても構わないがね」


 「うわぁ……完全に見下されてしまったよ」


 そういうと彼女は大きなため息をつき、その場に再び腰を下ろした。


 「どうした? 離れないのか」


 「ふふっ、これだけは確信した。キミ、あいつらわざと挑発しただろ?」


 「――おや、今気づいたって割には、お前も面白がって煽っていたじゃねえか」


 彼女は勉強が出来ない割には頭の回転は良い――だが、少し感覚のズレがある。


 「あぁ。面白いからな」


 ――余裕だな。そうなると彼女は余程対処能力に自信があるのだろう。


 「――というか、キミが挑発するくらいだからな余程自信があるのか……それとも挑発した『結果』になるよう誘導しているのか」


 彼女がニヤリとしたたかに笑む。


 「キミは自信があるから大丈夫だろうけど、ボクの場合はどうなるのだろうか?」


 「さあな。お前さんの国には手を出したくないって考えるのは普通だが――追い込まれると、相手は分からないからな。学校の連中と行動を共にしてもらった方が良いと思うよ。それにほら、お供の人も心配しているぞ」


 俺は冗談交じりに顎をあげた。

 当然、異世界の留学生と言うからには、彼女は名門のお嬢様である。

 実家には執事とかメイドとかがいて、このじゃじゃ馬娘を世話しているハズ。

 きっと彼らは自然と口うるさく指導していると思われる。

 だからこそ、『ほらそこにいるぞ!』と彼女の後ろを指し示すかの様に顎をあげたのだ。

 指し示した方向には、ごっつい体をした白髪オールバックの爺様が抹茶パフェを無表情で食べている。

 あの爺様はいつ頃からいたのか不明であるが悪意はなさそうだ。彼が執事ならば丁度いい人物である。

 ただ、逆にこの爺様はとその場に馴染み過ぎている――冷静に考えると不自然である。

 だってそうだろ、ごっつい爺様が1人で淡々とパフェ食ってるか?

 もしかしたら――


 「何言っているのよ。そんな訳ないじゃん」


 彼女は笑みを浮かべながら後ろを振り返り、直ぐさま真っ青な表情に変わった。そして「ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ……」と腹から絞り出す様な声を漏らした後、絶句した。まるで蛇に睨まれた蛙の様に硬直し脂汗をダラダラと流している。


 「あははっはっ――その様子だと、『ビンゴー!』だな。冗談で言ったつもりだが、執事……というか護衛に近い人物だな。お前、ホント良いとこのお嬢様だったんだな」


 俺がそう言うとその爺様がジロリと俺を睨む。それは獣が狩りをするような気迫に似た物だが、害悪を与える様な感じではない。その人間の凄みである。


 「――小僧、よく儂を見抜いたな」


 「冗談が当たっただけだ。気にするな」


 「だが、冗談が命取りになることもあるのだぞ」


 「忠告痛み入る」


 俺は淡々とその爺様と会話するが、相手もそうだが、俺自身も上から目線で会話している感じがどうも気になってしまう。


 ――こんなしゃべり方していたか?


 素直にペコペコ頭を下げて『すいません、冗談です』でもよかったのだが、この爺様の場合、逆に見透かされる感じがするので、あえて自然体で答えたつもりだったのだが……


 「だが御仁はなすべき事があるのではないか?」


 「よくいう。面倒事に巻きこみよって」


 「御仁やそこのお嬢が興ざめする前に異世界の古都見学にでも配下の者となされては如何かな」


 「要は『助力不要、関わるな』とそいう事なんだな」


 ジロリとその爺様は俺を睨む様に見上げる。


 「青いのがお前を守ってくれるというならそれもよかろう」


 爺様は立ち上がると自分の伝票を取り上げ彼女の右腕をぎゅっと掴んだ。


 「おいサクラ、そういう事だから儂を京都見学に案内せい」


 あれ? この人護衛の人じゃない?


 ちょっと言葉遣いや態度が悪い感じがする。


 「おいサクラ。この御仁、お前の従者ではないのか?」


 俺の言葉で2人は少し驚いた表情でお互いを見合わせた後、サクラは――


 「キミって奴は、お爺様に向かってなんて事言うのよ!」


――と少し怒った表情で俺に抗議した。一方の爺様は「ワハハハハハ!」と豪快に笑い出した。


 「まあ、こんなごつい爺では護衛に間違えられても仕方ないわな」


 彼は自分の胸を誇らしげに叩いた。

 なるほど。一応、誤解は解いておくか。


 「あと、サクラの爺様よ。貴殿も勘違いなされている点がある。俺は協力関係はあるものの青いのに守られている訳でない。あくまでも内輪揉めのこと。今回は平にご容赦願いたい」


 俺がそう爺様に伝え頭を下げると、爺様は少し表情を和らげ


 「必要があれば、助力するぞ。まあ思う様にするといい」


と言いながら俺の伝票も持って行った。

 一方、サクラの方は「えぇっ、ボクどうなるか見てみたいんだけど!!」

と不満げであったが、俺が「あんたの爺さんまで巻きこむ訳にもいかねえだろ?」

と告げると彼女は渋々爺様とその場を後にした。



――そして数分後。俺は甘味所を出た先で黒服を着た男ら数名に取り囲まれた。



 「丁度良いタイミングだな。これからどこに行く? ――無論、実家ではないのだろ?」


 俺は両手を頭に当てそのままいずれかへと誘われる事になる。   

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