第6話 疲労

早く戻らなければ手遅れになる。

私はまた岩だらけの河原をもたもたと歩き始めた。


ここまで来るのにかけた苦労をまたして最初の場所まで戻るのかと思うと気が滅入る。


足場の悪い岩だらけの河原は一歩ごとに足を取られる。

慎重に歩かないと安定を欠いた

握りこぶしほどの大きさの石を踏んで何度も転倒しそうになった。


バランスを崩すたびに川へ倒れこまないかと不安になる。

できるだけ川から遠い崖側を歩きたいのだが、

そちらは先の尖った硬い枝を伸ばした木や、妙に足にまとわりついてくる蔓草が繁茂しているか

巨大な岩がある為に歩行さえままならない。

木の枝は常に目や口などの弱いところめがけて跳ね上がってくる。


まるで悪意を持っているかの様。

蔓草にとられた足を引き抜き振り払う為には体力を著しく消耗する。


やけに粘つく汁を出してズボンに吸い付くのだ。

岩は岩でどれもこれも不安定で手を掛ければぐらつき、

足を乗せれば転がろうとするので、信用できないのだ。


ふと見上げると星が見えた。

この川岸に入ってから空を見上げる事をほとんどしていない事に気が付いた。


天頂には大熊座が居座り、その向こうにはオリオンが見えた。

振り返ればカシオペアも見つかるだろう。


しかし今の私に星空を見て楽しむ心の余裕はなかった。

上を見ながら歩くことは容易に転倒を招くだろう。


この河原での転倒は、すなわち川へ入ることにつながる。

倒れこむなら川側になるという確信があった。


身体の軸を崩さぬように慎重に視線を足元に戻すと、またゆっくりと歩きだした。



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