▼【左へ曲がる】

 

 ほんのりと灯りが見え、迷わず左へと曲がった。運がいいのか、すぐ側の座敷の障子が中途半端に開きっぱなしになっている。細い隙間に体を滑り込ませ、素早く閉めた。

 そのまま腰が抜けてしまい、その場にへたりこんだ。咄嗟に逃げ込んだものの、入ってこられればどうしようもない。戦慄しながら障子の方を見つめる。


           ギッ

            ギッ

         ギッ

          ギッ

       ギッ

        ギッ

     ギッ

      ギッ

   ギッ

 

 徐々に近づいてくる足音と共に、地面が揺れているのが分かる。

 

 ふっと視界が翳った。


ギッ


 目の前の障子いっぱいに、暗い影が写り込む。



「…………!」


 

   ギッ

  ギッ

     ギッ

    ギッ

       ギッ

      ギッ

         ギッ

        ギッ

          ギッ‥‥‥‥


 

 どれくらい息を詰めていただろう。足音が遠ざかり振動も消えてから、ようやく溜めていた空気を吐き出した。


「何なんだ、あれ」


 逃げ出す間際に見た姿も、先程障子に写った影もとんでもなく大きかった。咄嗟に身を隠してしまったものの、この屋敷の人間だとは到底思えない。できればもう会いたくなかった。



「……そういえば、この部屋は…?」


 

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