▼回廊をゆく

 

 壁に片手をつき、一歩一歩探るようにして足を運ぶ。もうどれくらい進んだのか分からないが、今いる場所は完全な暗闇だった。

 目がなれてもなお、何も見えない。そのせいか聴覚が過敏になり、時折あがる廊下の軋みが泣きそうになるほど恐ろしい。その度立ち止まり、息を整えた。

 

 ややあって、前方に橙色の光源が浮かび上がったときは心底安心した。


 距離で言えば、十歩もない。そこには、ぽつんとカンテラが床に置いてあった。回廊の端、そこだけが柔らかい光に丸く切り取られている。


「……借りてもいいのかな」


 手に取ることを躊躇したのは、カンテラの傍らにひっそりと木像があったからだ。一見お地蔵様のように思えるが、顔も身体もほとんど削れたように凹凸がなく、どのような形状をしているのか分かりづらかった。

 ただ、口元と思しき部分は、ほんのりと笑っているよう見える。


「ごめんなさい、ちょっとだけ借ります」


 一応断りを入れてから、そっとカンテラを持ち上げた。両手が塞がるので、さっきの座敷で拾った人形は袂に入れ直す。そうして、再び回廊を進んだ。


 足元やほんの数歩先が見えるだけで、随分と気が楽になった。しかし、そうなると今度は別の懸念が浮かんでくる。


 この回廊は、何処まで続くのだろうか。

 

 

 

 



 

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