▼回廊をゆく
壁に片手をつき、一歩一歩探るようにして足を運ぶ。もうどれくらい進んだのか分からないが、今いる場所は完全な暗闇だった。
目がなれてもなお、何も見えない。そのせいか聴覚が過敏になり、時折あがる廊下の軋みが泣きそうになるほど恐ろしい。その度立ち止まり、息を整えた。
ややあって、前方に橙色の光源が浮かび上がったときは心底安心した。
距離で言えば、十歩もない。そこには、ぽつんとカンテラが床に置いてあった。回廊の端、そこだけが柔らかい光に丸く切り取られている。
「……借りてもいいのかな」
手に取ることを躊躇したのは、カンテラの傍らにひっそりと木像があったからだ。一見お地蔵様のように思えるが、顔も身体もほとんど削れたように凹凸がなく、どのような形状をしているのか分かりづらかった。
ただ、口元と思しき部分は、ほんのりと笑っているよう見える。
「ごめんなさい、ちょっとだけ借ります」
一応断りを入れてから、そっとカンテラを持ち上げた。両手が塞がるので、さっきの座敷で拾った人形は袂に入れ直す。そうして、再び回廊を進んだ。
足元やほんの数歩先が見えるだけで、随分と気が楽になった。しかし、そうなると今度は別の懸念が浮かんでくる。
この回廊は、何処まで続くのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます