▼佇むモノ 


 リン‥‥‥‥ロ‥‥リン‥‥


 オルゴオルの音だ、とつい足を止めた。ここにいて初めて、自分がたてる以外の物音を聞く。

 カンテラをかざして、無駄と思いつつも辺りをぐるぐると照らした。漆喰の壁、板張りの床、前方では相変わらず暗闇が伸びていくばかり。オルゴオルらしきものはない。

 そもそも、音自体がどこかくぐもって聞こえる。おそらく身近で鳴っているわけではないのだろう。しかしそれでも音が届いているということは、それが置いてある部屋が確実に存在するということだ。勝手に鳴る物でもないのだから、人だっているはず。そう思い、少し元気が出た。


 また何歩か行けば、不思議なことにオルゴオルの音色は徐々に小さくなっていった。


「あれ?」


 少し戻ってみたが、当然部屋などない。来たときと同じ、一本道の回廊があるだけだ。

 仕方なく、前へ進むしかなかった。音がだんだん離れていくのは不安ではあったが、少なくとも誰かいるという証にはなった。そう言い聞かせる。


 不安が膨れ、やっぱり引き返そうかと思い始めた頃、ようやく長い彷徨にも終わりが来た。行き止まりになったのだ。カンテラが照らす先には襖があり、そこに貼られている半紙がぺらりと垂れている。読めば、子供が巫山戯て書いたような稚拙な字で、こうあった。


【灯りは戻して、礼を言うべし】



「灯り……カンテラ?」


 これしかないと思うが、戻すというのは一体何処のことを指しているのか。元々置いてあった場所のことだというなら、半泣きになる自信があった。

 どうしよう、と訳もなくカンテラであちこちを照らしていると、廊下の隅に意外なものを見つけた。


 それは、カンテラを拾った場所でも見かけた木像だった。目鼻立ちの判然としない風貌など全く同じに見えるが、似たものを二つ置いてあるだけなのだろうか。


「カンテラ、ここに返せばいいのかな……」





―――――――――――

🔽

 ❉このまま持っていく

 ❉返してあげる

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