第21話:兄、出会う
「…………ん?」
ふと気づいた時、世界は夕暮れ時だった。
茜色に染まった空間。
窓から差し込む眩しい夕日。
それに目が慣れた時、俺は自分が見覚えのある、しかし今生ではありえない場所にいることに気づいた。
「……教室?」
そこは、前世で毎日のように足を運んでいた高校の教室だった。
夕方、つまり放課後の時間に相応しく、人気がない。ただ記憶にある光景とは違い、外から騒がしい声が聞こえてこなかったが。
……いやいや。
なんで俺、教室にいるの?
ついさっきまで妹のベッドでうつ伏せになっていたはずでは。
首を傾げながら、いつの間にか座っていた椅子から立ち上がり、歩き出そうとして。
「ふぎゃっ!」
転んだ。
何に躓いたんだと足元を見れば、ひらひらのスカートが見える。教室にいるのに、恰好はばっちりフレールのものだった。ここは男の姿に戻っているのがお約束では?
「お約束ってなんですか。今の貴方はフレールなんですから、その姿でいるのが自然でしょうに」
不意に、声が聞こえた。
誰だ!今俺の心を読んだのは!
声がした方を勢いよく振り返り、そして思わず目を丸くする。
「…………えっ、俺?」
さっきまで誰もいなかった場所に立っていたのは、俺だった。
正確には、今生の俺。つまり、フレールである。
ただし俺と違い、目の前にいるフレールは黒髪ではなく銀髪だったが。うわあ、黒が銀になるだけでだいぶ印象が違うな。なんだこの美少女。俺だけど。
「ナルシストなんだか私を褒めているんだかよくわからないですね」
「だから俺の心を読まないでくれる?」
「だって貴方、心の声の方が面白いし正直だから」
「面白いって言うな!」
なんなんだこいつ、失礼だな。
いや、本当になんなんだよこいつ。何者だ。
俺は目の前に現れた、銀髪の俺をまじまじと見る。銀髪の俺はそんな俺の視線を受けてにんまりと笑った後、軽い足取りで近くの机に腰かけた。
「私は神様です」
「…………はい?」
「正確には神の一人が、貴方の姿をお借りした形ですね」
「すみませーん!変な人がー!」
「ちょっと、いきなり廊下に向かって叫ばないでくださいよ!」
いやだって!
俺には自称神様をスルーできるほどの豪胆などない。
あと、電波な話は妹のこの世界は乙女ゲーム説でお腹いっぱいなので。
「電波ではありませんよ!私も妹さんも!」
「だから人の心を読んで返事すんな!」
「貴方の心を正確に読んでいるのだから、超常的な存在なのは間違いないでしょう!」
「……そういやそうだな!」
本当に神様かどうかはさておき、マインドラーニングは毎度ツッコミを入れたくなるくらいに完璧で気持ち悪かった。確かに凄い存在ではあるのかもしれない。
「気持ち悪いって失礼な」
だからやめろって言ってんだろ。
憤慨する俺に、銀髪(そろそろ俺がゲシュタルト崩壊を起こしそうだったのでこう呼ぶ)は小さく舌を出した。俺の顔でてへぺろするのは本当にやめてほしい。銀髪効果のおかげで美少女に見えるけど、それ一応俺の顔だから!
「さて、私は神様なんですけど」
「はい」
自称神様の銀髪はもう一度自己紹介をした。
話が進まないので、ひとまずその前提で話を聞くことにする。椅子に腰をかけると目線が変な感じになるから、俺も銀髪と同じように机に腰かけた。
「先ほどもちょろっと言いましたが、妹さんの発言は電波ではありません」
「俺達が生まれ変わったのは本当に乙女ゲーの世界だっていうのか?」
「ええ。正確には、貴方達兄妹が転生したのは、『サンドリヨンに花束を』というゲームの隠しルートで理不尽なデッドエンドを迎えたフレール達の無念によって形成された世界になります」
「ちょっと待って?」
思わずストップをかけた。
さらっと口にされたとんでもない言葉を整理する時間をくれ。
なんだって?
理不尽なデッドエンドを迎えたフレール達の無念?
「いやあ、一部にだけそのゲームの主旨に反したような理不尽展開があると、プレイヤーのみならずキャラクターにも結構な鬱憤がたまってしまうんですよね。おバカゲーやラブコメに見えて実は…みたいなタイプだと大丈夫なんですけど」
「待って、まだ整理しきれてない」
「そういう無念が累積すると、ゲームを模した異世界が作られるんです。このゲームブランドから異世界が生まれたのはこれで六つ目ですね。これ新記録ですよ」
「地雷ゲームブランドすぎるだろ!!」
思考整理を放棄して思わず叫んだ。
一体何人の乙女ゲーム主人公が、制作陣の性癖の犠牲になったんだ。いや答えなくていいです、知りたくないので。というか想像したくない。
ともかくだ。
「鵜呑みにするかはさておき、なんでそんな世界に俺と妹が転生させられたわけ?」
「妹さんがゲームをプレイしていた直後に事故死されたので、魂がリンクしちゃったんですよね。最近よくある事例なんですよねえ、困ったことに」
「一番困るのは転生した本人なんじゃねえかなあ」
「いえ、意外と皆さん適応してらっしゃいますよ!すごいですよね人間の適応力。ゲームの世界が基軸なので主人公補正や悪役補正はどうしてもあるんですが、そういうのを無視してルートが存在しない未来とか作り出しちゃいますし」
「補正」
「ええ」
銀髪はこくりと頷いてみせてから。
「貴方たちがいた世界に比べて、意思想念によって創られた世界というのはとても不安定でして。原型となったものに引っ張られてしまうんですよね。普通に生きる分には不具合はないんですけど、特定の条件下になると無理やりイベントを起こそうとします」
「つまり……?」
「つまり、悪役令嬢に転生している妹さんがやたらと悪い風に捉えられたりとか、本来思慮深いはずの人達が後先考えずに衝動的な行動をとったりとか。
「あー」
変なルビがついている気がしたが、その例えには納得の声が零れた。
一番顕著な例は王子兄弟の件だけど、あれ以外でもちょこちょこそういうことはあった。今ではすっかり「頭を打った影響で心優しくなったスールお嬢様」で通っているが、それが定着する前は何か企んでいるのではって陰で言われたりしていたのだ。
そして、これまた一番顕著な例はいー兄さんの件。
なんかもう色々あったから深く突っ込まずにスルーしていたが、よく考えると王子についた悪い虫だからって、いきなり街中で凶行に走るのは有能な執事長という触れ込みに合っていない。
それが世界による補正とやらだとしたら、納得……は完全にしづらいけど、腑に落ちる感じではある。
……えっ、いやちょっと待てよ?
「路地裏でいー兄さんに絡まれるの、あれゲームイベント!?」
「はい。第一王子ルートの確定イベントです」
ゲームでもあのレベルの酷い言いがかりつけられて殺されるのか!?
ゲームスタッフ、頭おかしいのか!?
いや、いー兄さんの思考回路からそのままあの言いがかりが出力される方がやばいけども!
「ちなみに入力ウインドウが出るので、執事長ルートでのみわかる彼の愛称を制限時間内に入力すればデッドエンドは回避されますよ」
「クソゲー!」
アサシンルート始めたころだととっさに思い出せないだろ、それ!
そりゃあたくさんのフレールだって、無念すぎて異世界の一つや二つ作るわ!
他のルートで愛を囁いていた連中がアサシン愛しさで理不尽に殺しにかかってくるとか、下手なホラーよりホラーじゃん。辛すぎる。
可哀想になってきたな……慰めてやりてえ……。
いや、今は俺がフレールなんだけど……。
……しかし、補正かあ。
じゃあ、俺がアサシンを見つけたのもそういうことなんだろうか。
アサシンが俺にキスなんかしやがったのも。
「……」
「話、続けていいですか?」
「あ、どうぞ」
つい難しい顔で黙ってしまった俺に、銀髪が声をかけてくる。
我に返って続きを促せば、こほんと銀髪は小さく咳払いをした。
「まあ困ったことと言いましたが、人間の魂が一つ二つ別の世界に転生しちゃっても神様としては問題ないんですよね。足りなくなければ他から引っ張ってくればいいですし」
「ぶっちゃけが酷い」
「まあまあ」
笑って宥められた。
くそ、自分の顔なのになんか可愛い。これが神様パワーなのか。
「とはいえ特殊な転生ですから、貴方達のように前世の記憶をはっきりと取り戻す方が多いんですよね。それでも、己の立ち位置を嘆きこそすれ適応できない人というのは意外と少ないんですが、中には当然そうじゃない方もいるわけで」
「適応できる奴の方が多いことにびっくりだよ。オタクたくましすぎない?」
「そのたくましさを運用するために変な世界に転生させられる方もいますが、まあそういう方々の話は脇に置いて。さすがに適応できない人をずっと異世界に置いておくのも可哀想なので、こうして時々干渉しにくるんですよね」
「……」
思わず押し黙る。
俺は鈍い方だと妹からよく言われるが(そんなことはないと思っているが)、ここまで言われれば直接的な言い回しをされなくてもさすがに気づく。
「俺が、適応できてないってことか?」
「ええ。前世の記憶ごと自分の意識を引っ込めてしまった貴方は、我々が干渉すべき案件だとして上から派遣の命令が下りました」
「そんなお役所仕事みたいな……」
銀髪の物言いに呆れるが、すぐに苦々しいものが口の中に広がった。
前世の記憶ごと自分の意識を引っ込めたと言われても、そんな器用な真似はできねえよと思う。だが、原因に心当たりは嫌と言うほどあった。
思わず、唇に触れる。
うわあああ。感触ちょっと思い出しちゃったじゃん!
首を激しくぶんぶん振ったら、可哀想なものを見るような目を銀髪に向けられた。そういう顔するのやめろよお前。
睨みつけてから、気を取り直して気になったことを質問した。
「干渉されたらどうなるわけ?」
「貴方の意識と記憶を魂に変換して、元の世界に転生させます」
「妹は?」
「妹さんは……どうでしょうね」
そう言って、銀髪はこてんと首を傾げる。
「貴方が奥に引っ込んだことでひどく憔悴していますが、彼女には第二王子がいますから。兄の貴方がいない傷をやがて癒してくれるかもしれませんし、それで癒えないようなら干渉の対象になりますね」
「自分、今すぐ戻ってもいいすか?」
俺をダシにして義弟の恋路が進むとか、お兄ちゃんちょっと許せねえかな!
何より俺のせいで妹を弱らせてしまうとか、兄の風上にも置けない。
元の世界に転生できるというのは、そりゃあ心が揺れなくもない。
だが、現在進行形で妹をほったらかしにして自分の殻にこもった最低な兄なのだ。これ以上兄として駄目なところを見せるわけにはいかない。妹が異世界に転生したというなら、例え自分が異性に転生していようとも傍にいてやるのが兄ってもんだ。
「うーん、その心意気はかっこいいんですけどね」
「だから心を読むなって」
「戻っても二の舞になりませんか?」
「うっ」
痛いところを突かれて、顔を顰めた。
そうなんだよな。俺の逃避理由が全く解決してない。しばらく妹を慰めるのに奔走してそれどころじゃなくなったとしても、また同じことを繰り返す自信はあった。
「……俺が
思わず、そんなことを呟いた。
主人公補正とやらがなければ、中身が男の女に惚れることなんてなかったろうに。俺だって大概被害者だが、一番の被害者はあいつかもしれない。
「あ、いえ、そんなことはないと思いますよ」
「ん?」
可哀想にと同情していると、銀髪がきっぱりとした口調で言った、
「確かに補正はありますが、基本的には良く思われやすい、悪く思われやすいくらいのものです。前世の記憶という不純物がない素の状態なら補正の割合が高まって呪いレベルになりますが、貴方ならちょっと好感度が上がりやすいくらいかと」
「えっ、そういうもんなの?」
「貴方が
「あー、確かに……」
「だからまあ、あれですよ」
俺の顔を覗き込むように、いつの間にか机から降りていた銀髪が顔を近づけてくる。
近い近い近い!
とっさに押しのけようとしたところで、それを止めるように銀髪は口を開いた。
「男っぽいところも含めて第一王子は貴方を好きになったと思うので、どうせ主人公じゃなかったら好きにならなかっただろうとか卑屈に考えなくてもいいんですよ?」
「……………………デリカシー!!」
長い長い沈黙の後、俺は頭を抱えて叫んだ。
ちゃっかり叫ぶ寸前に距離をとっていた銀髪は、おかしそうにくすくすと笑う。
「だって貴方、その辺はさっきまで無自覚だったようなので」
「あーあーあーあーあー!聞こえない聞こえない!」
耳を塞いで、何も聞きたくないとばかりに叫ぶ。
悔しくて恥ずかしいことに、銀髪の言うとおりだった。
男にキスをされた気持ち悪さは確かにある。だが、それ以上に「ちゃんとした女の子じゃない」という引け目が強かったのだ。そして俺はそれを自覚したくなかった。もやもやという曖昧な名前付けだけして、向き合うのから逃げていた。
だってこんなの、俺だってあいつのこと好きみたいじゃん。
俺は男なのに。男なのに!
「うわあああああ」
情けない声を上げながら、机から降りて床に蹲る。
いやもう、ちょっと記憶を消してくれ。こちとら初恋が幼稚園の先生で、それ以降はクラスの可愛い女の子にちょっと恋をするくらいのガチ恋愛童貞なんだぞ。
そんなことを心底願いつつ、なんとか動揺を収めようと試みる。
「つまり、お兄ちゃんさんはクリストフ様のことが好きなんです?」
そこに無情な追い打ちが入った。
「好きじゃねーし!!っていうか誰!?」
がばっと顔を上げて、声がした方を見る。
そして思わず、目を丸くした。
「……えっ、俺?」
銀髪の隣には、俺がいた。
このリアクション、ついさっきやったな。いやそうじゃなく。
なんで分身?
いや、でも髪の色が俺と同じ黒だな。本当に誰だこの子。
「誰とは失礼な。この方は、前世の記憶を取り戻す前の素のフレールさん。いわばナチュラルフレールさんですよ」
「安易にダサいネーミングをつけてさしあげるな」
「略してナチュルさん」
「やめろって!」
「えっと、ナチュルです?」
「この空間にこれ以上ボケを増やすな!」
っていうか話が逸れる!
俺は近くにあった机を叩き、強引に話の流れを切った。
「どうして素フレールがここに?」
「貴方のネーミングも結構酷いですね」
「うるさい話が逸れる!」
余計な口を差し込んでくる銀髪を黙らせ、素フレールの方を見る。
さすがスール(妹IN前)の意地悪を耐えてきただけはあり、ボケ発言はしたものの胆は据わっているらしい。同じ顔をした奴に睨まれようと、このフレールにはなじみがないだろう空間にいようとも動じた様子はなく、はきはきした口調で答えた。
「前世の記憶を取り戻した時と同じことをすればまたお兄ちゃんさんが出てくると思って階段から飛び降りて、気づいたらここに立っていました」
「何してんの!?」
胆が据わっているどころの話ではなかった。
いやほんと、何しているんだよ!自分の体を大事にしろ!
「お兄ちゃんさんと共有している体を危ない目に合わせたのは反省しています。でも、こうしてお兄ちゃんさんに直接お会いできたので間違っていなかったと思います!」
「まっすぐした目で言ってるけど発想自体が間違いしかねえよ!」
本当に俺か!?
いや俺じゃなかったわ。
「セルフツッコミですか?」
「心を読むな!」
余計な茶々を入れてくる銀髪をもう一度黙らせてから、大きく溜息をつく。
色々ツッコミどころをスルーしている気がするが、いちいち掘り返していたら話が進まない。ただでさえ同じ顔が三つという謎空間に妙な疲労感を覚えているのだ。全部にツッコミを入れていたら俺が過労死する。
二度目の溜息をついた後、素フレールに向き直った。
「でも、俺が出てきたらお前引っ込んじゃうんだぞ?それでいいのか?」
こういうと二重人格の話をしているみたいだが、似たようなものだろう。
そして人格の話で言うなら、俺はサブで素フレールがメインだ。正直俺が素フレールの立ち位置なら、サブに主導権を明け渡そうとは思えない。
そこが不思議で質問を投げかけたが、思いのほかしっかりとした動きで首を縦に振られた。
「私が完全に消えてなくなるわけではないことは、この一年と半年でわかっています。確かにお兄ちゃんさんが出ている間、私の意識は曖昧ではありますが、お兄ちゃんさんを通して見る世界の賑やかさは私にとってかけがえのないものですから」
「素フレール……」
「灰にまみれていた私の世界に、彩りという手を差し伸べてくれたのは他ならぬ貴方なのです。どうかこれからも、色とりどりな貴方の世界を後ろから見させてください。この私には、それが一番の幸せです」
「……」
主人公力が強い返答に、うっすらと視界が滲んだ。
良い子すぎる。
本当に俺か?いや、だから俺じゃないって。
「それに……」
「うん」
「私は、クリストフ様
「うん?」
ちょっと待ってくれ。
今感動を台無しにするような言い回しをされた気がする。
「お二人とも普段は勇ましいのに恋路に関してはどちらも二の足を踏み、自分の想いに正直になることに躊躇っていらっしゃる!そんなお二人を後方で見守っているとこのフレール、大変気分が高揚するのです!もっと積極的になればいいのにと焦れったい反面、それが相手や自分を傷つけまいとするいじらしさや臆病さでもありまして、こうっ、こう…っ!お二人を急接近させたいー兄さんには感謝していますが、ですが私、いー兄さん
「待て、待って!ステイ!早口ステイ!」
急に早口で語りだした素フレールにいっそ恐怖すら覚えながら、黙らせるために肩を揺さぶる。
そんな俺達を見て、銀髪が笑った。
「ははは。たまにあるんですよねえ。理不尽な死を迎えすぎたばかりに無念の集合体であるキャラクターの嗜好が変になることって」
「はははじゃねえわ!!」
乙女ゲームの主人公がCP厨オタクになるって大事故だろ!
……あっ!ひょっとして孤児院時代にいー兄さんとモブ顔を見てドキドキしていたのって、そういうことか!?
気づきたくなかった!!
「さて。そろそろこの空間を維持するのも難しくなってきましたし。そろそろお兄ちゃんさんにはお帰りいただくとしますか」
感動が一瞬で消えた悲しさに内心涙していると、心の声は読めるのに空気を読まない自称神様がそんなことを言い出した。
おいこら!
リアクションに困っているから逃げられるのは助かるが、問題は何一つ解決してないぞ!あとお兄ちゃんさんってお前まで言うな!
「大丈夫ですよ。無自覚だった気持ちに気づいて、第一王子がフレールという器ではなくちゃんと貴方自身を好きだと知った今なら、貴方は向き合えるはずですから」
「本当にそう思ってるのか!?」
「ほんとほんと」
いまいち信用に欠ける返事をした後、銀髪は素フレールを手招きした。
早口トークを続けていた素フレールはハッと我に返ると、恥ずかしそうに頬を赤らめながら手招きに従った。俺がステイって言っても聞いてくれなかったのにお前。
「お兄ちゃんさんっ」
「その呼び方定着確定なのは嫌なんだけど……なんだよ」
「クリストフ様のこと、許してあげてくださいね」
「……」
真面目なことを言われたので、とっさに返事に困った。
さっきの今で主人公っぽいムーブするのやめてほしい。温度差で風邪を引くから。……いや、そういうじゃないな。俺も真面目に返事しよう。
「……あいつ次第!」
「ふふっ」
俺の返事に、満足そうに笑う。
同じ平凡顔のはずなのに、中身が純粋な女の子ってだけで可愛く見えるんだから不思議なものだ。女の子はすごい。
そんなことを考えた矢先、急に足元が消えた。
「それではお兄ちゃんさん。また私達が干渉して来ないよう、がんばってくださいね♪」
「もっと穏便に帰らせろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自分の怒鳴り声がドップラー効果を起こしているのを聞きながら、俺の意識は暗転した。
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