第14話 賭けの結果
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自分でも相当面持ちが強張っていたと思う。
七月七日。織姫と彦星が年に一度めぐり会うロマンチックな日だが、僕にそんな余裕は無い。
「
とうとうタ行に差し掛かった。もう僕の名前が呼ばれるまで、もう二人しか居ない。
今は帰りのホームルーム。先生が期末テストの全体成績を打ち込んで、算出した表を持ってきたのだ。僕たちはそれらを受け取って、親に確認印を押してもらわなければならない。
首のかゆくも無いところを何故か掻いてしまう。そんなことで勿論気を紛らせることはできない。若干お腹まで痛くなってきた。
「日浅」
「は、はいっ」
席を慌ただしく立って、僕は先生の元に向かった。
「見た瞬間びっくりしたよ。九教科全部が嘘みたいに点数上がってたもんだから。ほら、学年順位もこの通りだ」
先生が人差し指で示す先を僕は凝視する。
これからも頑張れよという先生の言葉は、僕をすり抜けてどこかに消えていった。
夕方家に帰ってきて、すぐに父さんと母さんを呼んだ。父さんも今日は有給を消化するために仕事を休んでいたので、こんな時間でもすぐリビングに集まることが出来た。
「これが、今回の結果」
僕は連絡ファイルの中からピンク色の紙を取り出した。僕の正面に座っていた母さんは、その用紙を取り上げて、じっくりと眺めてから言った。
「――二位ですって。あなた」
「……そうか」
母さんから渡された紙を見て、父さんは頷いて続けた。
「約束は約束だ。お前の深夜抜け出しを認める」
「ありがとう。人に迷惑をかけたりはしないから、それだけは安心して」
「それで安心できる方がおかしいわよ」
母さんは僕に突っ込みを入れたけど、その勢いも普段怒っているときほどじゃなかった。
「この子がここまで頑張るなんて、よっぽど何かがあるのね」
「もう中学も卒業する歳なんだから、一つや二つ何か抱えてても仕方が無い」
父さんは珍しく笑みを浮かべた。普段が真面目なだけに、こういう時に笑顔を見ることが出来ると少し安心する。
「今回は、お前がわがままを通せるだけの力を持っていた。お前が何を目指しているのかは知らんが、その頑張りは誇って良い……和菜、晩飯が出来たらまた呼んでくれ」
父さんは立ち上がって、一人書斎の方に向かっていくのかと思いきや、振り向いて僕を見た。
「……良く頑張ったな、朝日」
「――ありがとう」
ぶっきらぼうな事が多い父さんだけれど、その言葉は素直に受け取っても良かったのだろう。
「それにしても、結局夜中に抜け出してまでやりたいことって何なの?」
「教えないよ」
「朝日もそういう年頃なのね……」
「とりあえず母さんが想像してる類のものではないよ」
そんなやり取りを続けながら、母さんはエプロンを付けつつ台所に向かって行く。叶絵さんとかもそうだけど、どうしてこう母親って子供を手玉に取りたがるのだろうか。
母さんが台所から質問してきた。
「今日の晩御飯、何が良い?」
「え、僕が決めていいの?」
「学年二位なんて順位は祝わなきゃね。必要な材料もどうせ買い物に行くから用意するわ」
「おお……」
すぐに僕は頭の中で色んなメニューを思い浮かべる。選択肢は色々あったのだけど、それらもどんどん消えていって、残ったメニューはたった一つだけだった。
「じゃあ、カレーで」
「あら、そんな簡単なので良いの?」
「昔から僕が好きなの知ってるでしょ?」
「それはそうだけど……まあいいわ。じゃ、買い物に行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
外着に着替えた母さんを、僕は座ったままで見送った。
*
七月七日(月)
僕は昔からカレーが好きで……。なんというか、他の食べ物にないおいしさがあるんだよね。なんだろう。隠し味でも入ってるのかな? それとも具が好みなのかな。すじ肉とかジャガイモとか。とりあえず今日食べたカレーも全部おいしかったです。
ちなみにテストは二位でした!
朝日
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