440話 絶体絶命

 これが準備した、もうひとつの秘策。


 俺は、抜刀術で本来鞘から抜かれる刃を、あえて鞘の中に残しつつ、柄頭で鎮の手を突いた。

 

「──いてぇぇぇ!!」


 骨が砕けた腕を、思いっきり金属で突いたんだ、痛いのは当然とも言えよう。


 神無月と呼んだ技の正体は、抜かずの抜刀。

 矛盾している様だが、相手の攻撃、その出だしをあらゆる手段で突き、未遂にさせる。

 俺が編み出した最速の防御術。


「無駄だ鎮、あんたの攻撃は絶対に通らない!」


 右手、左手、足から頭突きまで、あらゆる鎮からの攻撃を、繰り出す直前で止める。

 いや、止めでもしなければ勝ち筋が無いのだ。


 剣でも拳でも、力が一番乗るのは伸びきった時。

 体が触れ合うこの距離で、尚且つ攻撃の出始めを叩けば、鎮に力負けをすることもない。


 つまり、俺が全力を出せ、相手が出せないこの距離が唯一の勝機──。


「じゃぁ、コイツならどうだよぉ!?」 


 鎮は早速、対抗手段を取ってくる。


 無銘を持った右手、粉々に骨が砕けている左手をムチのようにしならせて、左右から同時に攻撃が仕掛けられたのだ。


「それも──想定済みだ!」


 左右からの攻撃を無視し、魔石めがけ振り上げの抜刀を行った。


「くっ!?」


 弱点である魔石を狙われてると気付いたのだろう、鎮とっさに無銘を使い両手で俺の攻撃を受け止める。


 くそ、もう一歩だった!

 しかし流れはこちらに向いている、あと何とか隙を見つけ、今度こそあの魔石を砕けば──。


「もうやめろよ、あんたにも昔は守りたいものがあったんだろ? それを奪われる辛さ、あんたは一番知っているじゃないか!?」


 不意に出た言葉だった。


「ガキが──俺に説教するんじゃねぇ!!」


 油断をしていた訳ではない。

 しかし俺は悟らされた、考えが浅はかだったっと……。


「足元が──消え!?」


 グローリア城の瓦礫の上で争っていた俺等だが、鎮の力強い一踏みで足場は吹き飛び、体は地面から離れる。


 一階は崩れ、地下室へと瓦礫と落ちていった。


「くそ、流石にいてぇぜー」


 鎮の声が頭上から聞こえる?

 

『カナデ兄ちゃん起きて、アイツが来るよ!!』


 俺は身体中痛むものの、必死で起き上がった。どれだけ痛かろうと、そうしなければ死が待っている。


「くそ、こんなときに瓦礫が当たったか!」


 頭部がズキズキと痛む。

 焦点が中々定まらず、血が滴っていた。

 そして真っ直ぐ立てず、俺は瓦礫の上に膝をついた。


「──まったく、不便なもんだ。本気を出すと体の方がついてこねぇ」


「鎮……」


 先程、地面を強く踏んだ片足の肉はめくれ上がり、一部骨まで露になっとていた。

 それでも片足で跳ねながら、何食わぬ顔で俺に近付いて来る。


「なんだ、化け物とでも言いたそうな顔だな? 世界を敵に回してる親玉なんだぜ、これぐらい当然だろ」


 鎮の足がどんどんと再生をしていく。


 抵抗するために無刃に触れようと試みるが、手が震え握れそうにない。


「それにお前も、こっちに片足を突っ込んでるんだぜ?」


「何を……言って?」


「気付いてないのか? 俺様の攻撃を先読みして受け止める、普通の人間があんな戦い方出来るわけねぇだろ」


 鎮は、万物を切り裂く最強の矛を構えた──。


「渚さんには悪いが、もう見過ごせねぇ。カナデ、お前には死んでもらう」


 ──そして、動けず居る俺にそれを真っ直ぐと突いて来たのだった。

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