439話 ゼロ距離、近接戦闘
手が、伸ばしきれず曲がる距離。
この距離では、短刀の様な短い武器でもなければ、まともに振り抜く事が出来ない。
ただそれは──抜刀術は例外である。
抜刀術は、いかなる距離でも力強く振る事が出来る、特殊な剣術。
例えそれが、このような接近戦。座った状態から、細い路地だろうと、あらゆる状態、環境でも、全力の一振りを振るう事が出来るのだ。
「鎮、覚悟!」
鎮が下がり、離れようとする間に納刀されている無刃が、再び光を放つ。
「いてぇ!? コイツ、離れやがれ」
無刃の打撃を脇腹に受け、体がくの字に曲がる。
それでも鎮は、腰元から折れた骨が再生している左拳を、振り上げた。
俺はそれを避けたと同時に、ニノ太刀を左手に打ち込む。
「いてぇ!? また避けただと、まぐれじゃねぇ。カナデ、お前右目が見えてるのか!!」
手に持つ無銘を、近すぎて振りきれずいる鎮の選択肢は多くはない。
下がり距離を置くか、空いてる手足、体を使っての体術だろう。
そして左手の攻撃を回避されたのを警戒してか、あの鎮が距離を置くことに専念し始めたのだ。
「答える義理はない! それに、逃がさないと言った筈だ!」
身体能力は鎮の方が間違いなく上。
しかし相手のバック走よりは、流石に俺が前を向いて走る方が早い。
そして今は、この右目がある──距離など取らせない!
「鞘を捨てたのが間違いだったな、無銘を握ったままの右手じゃ、存分には手を出せない!」
後方に下がりながらも、鎮は手が治り次第、抵抗を試みる。
こちらの優勢にも見える展開。しかし俺も、鎮が時折繰り出す攻撃を捌くのに精一杯だった。
「鎮、敗れたとでも言うつもりか? 笑わせんな!!」
鎮は後ろに下がるのでは無く、急に立ち止まる。
互いの体はぶつかり合い、額が擦れた。
「そもそも、何が不服なんだカナデ。お前の大切は守れるんだぞ? 大人しく言うこと聞けば良いだろ!!」
スウェーと共に鎮から左手アッパーが放たれる。
「周りすべてを犠牲にして生かされる人生。それじゃ、誰も笑えないんだよ!」
俺はそれを、抜刀術の一振りで払いのけ、またも鎮の左手の骨を砕く。
「くっ──生きてるだけで丸儲けだろ! わがまま言うんじゃねぇ!!」
等々無銘を握る右手でも、切りつけるのでは無く、握ったまま拳で殴って来たのだ。
「わがままなんかじゃない──これは皆の願いだ!!」
ニノ太刀で鎮の右手を払いのけ、俺は無刃を納刀に持ち込む。
「──その剣技、二連が限界のようだな? このタイミングなら、捌けねえだろ!」
しかしあろうことか、鎮はボキボキに折れた左手で、そのまま殴り掛かって来たのだ。
納刀と同時に攻撃されれば、最速を誇る抜刀術でも刃を抜ききる事はできない。
「帯刀流抜刀術……」
なら、簡単な話だ。抜ききらねば良い、それだけの話だ──。
「──
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