438話 死闘2

 先ほどまで見えなかった右目。それが徐々にだが、色付いた世界を映し出す……。


「驚いた……。力動眼と同じじゃないか」


 これが武器精霊の視界。

 失われた右目と共に無くしたスキル、それと同じ……。いや、それよりも鮮明に色濃く映し出している。


「凄いぞシンシ、これなら予定してた以上の結果も出せる!」


 動きを先読み出来れば、身体能力の差を随分と埋められる。対等とは言わないが、いける、いけるぞ!

 

「おいおい余裕だなカナデ、何をぶつぶつ言ってやがる。いい加減、こっちから行かせて……」


「──いや、今回は俺から行かせてもらう!」


 鎮が動き出そうとする前に、俺は動き出した。

 こちらから動くとは予期していなかったのだろう、出端を挫く形で攻め入る事が出来た。


「馬鹿正直に突っ込んで来て、殺されたいのか!?」


 シンシの目を通した鎮の体に、色の変化が起こる。


 右手に力が入ってる? まだ攻撃が届く距離ではない。

 しかし足に大きく色の変化が無いって事は、つまり飛ぶ斬撃!

 

 鎮が腕を振ると同時に、俺は斬撃の射線からずれる。


「避けただと!?」


 この期を逃すつもりはない!

 俺は回避後も、縮地を応用し最短最速で距離を詰めて行く。

 そして、互いの刀の切っ先が届く位置まで近づいた。


「一度避けた程度で──」


 鎮の切り返しが俺に襲い来る。

 心を通わせているから分かる、シンシに妙案があるらしい。ここは彼に任せよう──。


「──今だ、頼む!」


『うん、任せて!!』


 俺の背中からは突如、黒い手が飛び出した。

 そう、シンシが昔に使った黒いマジックバックだ。

 狙いは勿論、鎮の手の中にある無銘。


「くそ、魔法か。猪口才ちょこざいな真似を、消えろ!」


 しかし、流石魔王と呼ばれる存在だ。

 咄嗟に体を引き、自身のスキルを用いて寸前のところで黒いマジックバックを消し去った。


「あぶね……。だが残念だったな、目論見が外れただろ?」


「あぁ、目論見の一つはな。これはさっきの仕返しだ!」


 無刃を抜刀し、鎮の胸元に見える魔石に向け振るおうとした。

 しかし左手で遮られたため、直前で軌道を変え、腹部へと刃無き刃を打ち込んだのだ。


「──っく、この!?」


 無刃を受けた痛みに顔を歪めた鎮は、苦し紛れに左の拳を突き上げてきた。


「何度も同じ手が通用すると思うなよ!?」


 無刃の柄頭で、鎮の左手を叩き落とす。

 見えないと油断していたのだろう、鎮自らの馬鹿力を利用し、左手の指を砕く事になる。


「痛てぇー!!」


 あの鎮が、今は分が悪いと踏んだのだろう。

 俺に向いたまま、距離を取ろうと後方へと下がる。

 しかし、それを許しはしない。

 逃がさない! っと、服を掴み引っ張り上げた。


「鎮、懐に入った以上もう逃がさないぞ!!」


 秘策その一は、手が伸ばす事が出来ないほどの、超、超近距離による攻撃の応酬なのだから──。

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