437話 死闘

 嘘がばれた以上、このままの流れは不味い。

 なにより秘策を使おうにも、距離が遠すぎるのだ……。


「どうしたカナデ、攻めてこないのか?」


 このまま距離を、ただ縮めるにはリスクが高すぎる。

 隙を探そうと、俺は攻めあぐねていた。


「じゃぁ、またこっちから行くぜ!」


「──なっ!?」


 この距離を一瞬で!?


 鎮は、十メートル程離れているであろう距離を、ものの一瞬で詰められた。

 俺は抜刀で、振り下ろされた無銘を切り払う。

 抜刀状態からの一ノ太刀では、何とか払い除けるに至ったのだが……。


「くっ──切り返しか!!」


 切り返しによる二撃目も、抜刀術による二ノ太刀が十分間に合った。

 しかしそれは、間に合っただけで──。


「くそぉ、重すぎる!!」


 俺を斬ろうと勢い止まらぬ無銘を、無心を盾に体で止める。

 いや、そうでもしないと止まらなかったのだ……。


「良く受け止めた、でもそれだけじゃな?」


『カナデ兄ちゃん、危ない!!』


 シンシの忠告を聞き、俺は慌てて飛び退くのだが──。


「──ゴフッ!?」


 鎮の拳が腹部に突き刺さり、俺は軽く五メートルはぶっ飛んだ。


「カナデ、避けないと死ぬぜ!!」


 それだけでない。着地直前、鎮の声が聞こえ顔を上げた。

 すると目の前には、いくつもの瓦礫を分断しながらまっすぐ進んでくる、一筋の砂塵が直ぐ近くまでやって来ていたのだ──。


「くそぉ!?」


 俺は縮地を使い、飛ぶ斬撃を転がるように回避した。しかし……。


「ほらよ、もう一撃だ!」


 もう一度、腹部に激痛が走る。

 俺は瓦礫を押し退け、地面を転がる事に。

 そして城の壁に当たり、崩れる城壁の生き埋めとなる。


「──カナデよぉ。まさか弱点を着かれて、卑怯とは言わないよな?」


 必死に瓦礫をどけ、俺は立ち上がる。

 悠長にしてたら、次の攻撃が来てもおかしくない。

 鎮に付き合い、時間稼ぎのため少しでも話題を……。


「卑怯とは言わないけど……。そういうのは魔王じゃなく、勇者陣営がする事なんじゃないか?」


 例え、右目が見えない弱点を除いても、今の状態では勝算はない。 


 鎮のやってる事は、帯刀流剣術を見よう見マネで振るっている、お粗末な戦い方だ。

 剣術の洗練さで言えば、俺に分があるだろう。

 しかし、根本の身体能力が違いすぎる……。


「このままじゃダメだ、何とかしないと」


 考えろ、今までに何度も修羅場を越えてきたじゃないか!

 懐に入る事さえ出来れば、その身体能力を 

殺す手段もあるんだから。


『カナデ兄ちゃん、僕がお兄ちゃんの目の変わりになる……』


「目の代わり? そんなことが出来るのか?」


 もしそれが叶うなら、こちらの弱点は無くなり、相手には隙が生まれるかもしれない!


『うん……すごく違和感はあると思うけど、念話で僕が見てる物を全部お兄ちゃんに伝えれば』


 そうか……。確かに精霊達は、持ち主の考えたことをダイレクトに読むことが出来る。その逆をするわけだな?


「わかった、頼んだよシンシ。見えさえすれば、何とかして見せる!」


 弱点だと思い込んでいた部分が、急に弱点じゃなくなれば、鎮も絶対に油断しているはずだ。

 このチャンス、絶対にものにする!!


『じゃぁ行くよ!』


「あぁ、頼んだ!!」


 シンシの思考が、俺に流れてくる。

 まるで頭の中に、勝手な情報を流し込まれているようだ。

 


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