435話 決戦前

「これはまた、随分と嫌な光景だな?」


 グローリアに近づくたび、動かない魔物達の姿が見えてきた。

 数百どころじゃない、数千は居るだろう……。


 警戒をしながらグローリアの町に入ると、通りにひしめくよう、魔物達が横になっている。どうやら眠っている様だが……。


「やっぱり、俺を見ても襲ってこないって事は、鎮の能力に掛かった魔物達なんだよな?」


 寝てるとは言え、巨大な化け物たちの間を歩くのは気が気じゃない。

 いつ起きて、襲われるやもしれぬのだから……。


「い、今アイツ、動かなかったか!?」


『ただの寝返りだよ、早くミコ姉ちゃんを助けに行こ』


 うっ、この子たくましい……。

 ミコならまだしもシンシの手前、あまり格好の悪いところは見せられないな。


 俺は「あ、あぁ……」っと、気の抜けた返事をすると、また歩き出す事に。

 そしてしばらく歩き、立ち止まると、また周囲を見渡して──。


「──ほら動いた! 本当に襲ってこないよな? なっ?」


『カナデ兄ちゃん……。ビビりすぎだよ、今からこいつらの親玉に合うんでしょ? 大丈夫かなー……』


「んなこと言ったって、これだけ大きなのが何匹もいたらビビるって!」


 この世界の魔物は平均してデカイんだよ! 圧が凄いんだよ!!


 良く良く見ると、ここからグローリア城に向かい真っ直ぐ瓦礫がどかされている。

 人が通れるぐらいの隙間を作って、魔物も配置されてるようだし……。


「真っ直ぐ来いって事か? しかし、わざわざ魔物で通り道を作るとか悪趣味だろ。どんな性格してんだよ、親の顔が見て見たいって、じいちゃんか……」


 自分で突っ込みを入れながらも、素直に目論見にはまる事にする。

 鎮の思惑から外れて警戒させようものなら、今後の展開は都合が悪いものになるかもしれない……。


 俺は脅えながらも、真っ直ぐなるべく静かに早足で、目的地へと向かうことにした。


 グローリア城が在った辺りだ。

 積み上げられた瓦礫の上に玉座が立てられ、鎮はその上に腰を掛け、足を組み俺を見下ろしていた。


「──ようカナデ、随分早かったじゃねぇーか」


「鎮……」


 目の前には、奴が居る。もう、逃げることも叶わない。

 俺は生唾を飲み、ゆっくりと近付いて行く。


「おいおい、実の父親を呼び捨てか? お父様……だろ?」


「…………」


 今さら父親なんて思えない。いや、思っている場合ではない。

 心にほころびが出来れば、勝てる可能性は万が一もない。

 それよりも、なんとかして隙間を作らなければ……。


「ノリがわりぃーな。まぁいい、それで俺の下に来る結論は出たのか?」


 鎮は玉座から立ち上がる。その左手には、無銘が握られている……。


「あぁ、それを伝えに来たんだからな……」


「じゃあ改めて問う。俺の元に来るか? それとも俺に殺されるか? さぁ、選べ」


 負けるなど、さらさら思ってはいないようだ。鎮は太陽を背に、両手を広げ良い放った。


「俺は……」


 玉座の前までたどり着くと、俺はその場に膝を付き、瓦礫の上に無刃を地面に置いたのだった──。

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