434話 決戦の地へ

 ククルカンに運ばれ、早数日がたった。


 昨日、何隻もの軍用艦らしき船を追い越した。

 そして今し方、グローリア大陸の上空に差し掛かった所だが……。


「なんとか開戦には間に合ったようだけど、それも時間の問題だろうな。今回が、本当の意味でラストチャンスか……」

 

 もし俺が負ける事があれば、間違いなく戦争が始まってしまう。

 グローリアの話を聞く限り、鎮は一国を容易に落とす戦力を有している……。

 しかも底が見えないと来たもんだ。

 俺も対策はしたが、正直勝算があるとは言いがたい。


『間も無く到着だ。どうした、緊張しているのか?』


「緊張もするさ。色々背負ってるからな、敗けが許されない」


 もうずっと、手の震えが止まらない。

 それはそうだろ、今からするのは命のやり取り。

 しかも相手は、化け物のような強さを持つ実の父親なんだから……。


『そうか、しかしお主の剣の中にる精霊はずっと、楽しんでいるようだがな?』


「シンシが……楽しそう?」


 念話を使う同士、考えてる事が分かるのか?

 それにしたって、楽しそうなんてことは……。


『カナデ兄ちゃん、こんな時にごめんね? でも凄い早いんだよ、ピューって! 僕こんな沢山の景色、はじめてみたから』


 なるほど、そうだよな。

 シンシは生まれてずっと同じところにいたんだ。

 目覚めてからも、移動したのは村から村の間のみ。

  

「いや、むしろ遠出の行き先がこんなところで悪いな。それにしても流石ミコの弟だよ、そっくりだ」


 少しだけど、緊張が解れた気がする。


 フィーデスを超え、鎮と対峙した大地を超える。

 この方角、どうやらグローリアへと向かっているようだ。


「なぁククルカン。本当に俺、勝てると思うか?」


 こんな時だけ神様に尋ねるなんて、ずるいかも知れない。

 でも不安で、聞かずには居られなかった。


『それは、素直に答えて良いのか?』


「勝てるとは言ってくれないんだな……」


『神だからな、嘘はつけぬ』


 ははっ、聞かなければ良かったかな。

 いいさ、どのみち他に手も無い、当たって砕け……。


『だが──』


 俯きかけている時だ、どうやら話には続きがある様だ。


『だが唯一の友人が居なくなるのは喜ばしくない。勝って欲しい、我もそう願っておる』


「ククルカン……。それじゃ、頑張らないとな!」


 まったく、背負うものが一個増えたよ。

 神様にまでこんな風に言われたら、余計に負けられないじゃないか。


『見えたぞ、厄災はあそこだ』


「あれは……本当にグローリアなのか?」


 当時見た立派なグローリアの町並みは、見る影もない。

 建物は軒並み崩れ、未だに火がくすぶっている。

 グローリア城も、今や半壊状態だ。


『これ以上近付くのは危険だ、すまないがこの先は歩いて行ってもらおう』


「あぁ十分だ。ありがとうククルカン、助かったよ」


 ククルカンは高度を下げ、俺は地面へ降りる。

 グローリアまではそんなに離れていない、ウォーミングアップには丁度いい距離だ──。


「さぁ、行こうか! 決着をつけるために」


 覚悟を決め無刃を握りしめた俺は、一歩一歩、決戦の地に向け歩みを進めたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る