433話 旅立ち、別れ

 全ての準備が整った俺は、いつものように村人の皆に見送られていた。

 代表して前に出ているのはもちろん、トゥナ、ハーモニー、ティアの三人だ。


「こうしてカナデ様をを見送るのは、何度目になるでしょうか?」


 哀愁漂いながらも、優しく俺に微笑みかけるティア。

 確かに彼女とは、こうした別れを一番多く経験している。

 涙ぐましい別れや。さ、去り際のキスとか色々あったな。


「あぁ本当だな。前までは一緒に冒険してたのに、ここに来てからは置いてきぼりばっかりだ」


 俺は視線を外して頬を指でかいていると「いいえ」っと、彼女から否定の言葉が聞こえた。


「今回は置いてきぼりなんて思ってませんよ。だって、私達の命はカナデ様と共にあるのですから」


 俺は彼女の言葉に驚かされた。

 まったく、随分と逞しくなったものだよ。

 少し寂しい気もするが、後ろ髪を引かれなくてすむ。

 彼女なりの気づかいや、俺への信頼なのだろう。


「まったく、何て顔をしてるんだよ。ティアはこう言ってるけど、トゥナは信用してくれないのか?」


 隣に並ぶトゥナの表情は暗い。

 可愛らしいケモノミミも、ペタンっと垂れ下がっている。


「無理をしないで……。なんていう方が無理よね?」


 彼女だけは、全てを知っている。

 俺と鎮の関係、悲惨な戦場。

 奴の恐ろしさも、身をもって体験してるのだ、楽観的に考えるのは難しいのだろう。


 でも別れ際に見るのがこんな顔は嫌だな。

 だから、精一杯の強がりを見せる事にしよう──。


「あれだけ秘策を準備したんだ、きっと一つぐらいは決まるだろ? まぁなんだ、ミコと一緒に戻ってくるからさ、帰りを待っていてくれよ」


「うん……カナデ君は言った事は必ず成し遂げてきたもんね。信じてるから、私達の元に絶対に帰ってきてくれるって」


 そう言って、ニッコリと笑顔を向けてくれたトゥナ。


 やっと微笑んでくれた。


 そして最後は、更に隣の彼女だ……。


「ハーモニー……」


 彼女だけは、さっきからずっと目を合わそうとはしない。

 下をうつむき、ずっと小刻みに震えていた。


「え~っと。前回啖呵切って出てったのに、あんな感じで……。まだ、怒ってるよな──ぐふっ!」


 ハーモニーは突然、俺に向かい飛び付いてきた。

 彼女の頭部が、みぞおちに直撃する。


「怒ってますよ、怒ってるに決まってるじゃないですか~‼」


 胸元で響く悲痛とも言える叫び声、痛い、心が痛い。

 俺は結局心配ばかりかけ、大切な人を笑顔にすることも出来ないのか……。


「──でも、前と違ってわがままは言いませんよ。ティアさんも言ってましたが、今回は運命共同体です~。私は、カナデさんと死ねるなら……」


「ハーモニー……」


 落ち込んでる場合じゃない。

 もう決めたことだろ? 皆で幸せになるって。


 彼女一人笑顔に出来ない。そんなの──粋じゃない!!


「馬鹿、絶対にお前達を道ずれにしてやるもんか。それにこの先は皆と笑える幸せな未来しかないんだ、死んでも生還してやるよ」


 ハーモニーは「死んだら生還って言いませんよ~」っと、クスクスと声をもらす。


 これで皆笑顔だ、心置きなく出発できる。


「さて、そろそろ行くよ」


 これ以上は未練が残りそうだ、振り替えると、俺は歩き出す。


「「「いってらっしゃい」」」


 去り際をなるべく格好良く、俺は歩きながら手を振った。

 しかしだ、俺はとんでもないことに気づき、一瞬足を止めることに──。


「って、どうやって行くか全然考えてなかった……」


 どうするんだよ、今さら戻るわけにはいかないぞ。

 格好つけた手前、すぐに戻る訳にもいかないし……。


『……はぁ~』

 

 シンシまでため息!? 


 ひとまず俺は、そのまま村の出口に向かい歩き続けた。


「どうしよう、のんびり歩いてたら戦争が始まるぞ? それに鎮の居場所だって……」


 これは背に腹は代えられないな。

 恥を忍んで、皆に知恵を借りるしか……。


『──わが友人は、相当に抜けているようだな。まったく手間のかかる』


「この声は、ククルカン!?」


 体に響くようなこの念話、間違いない!


 空を見上げると、突如雲が割れた。

 そして、とてつもない速度で目の前に何かが降り立ったのだ。


「もしかして、俺のためにわざわざ来てくれたのか?」


 巻き上がる砂埃の中から姿を見せた神は『自惚れるでない』っと、冷たい言葉を掛ける。

 しかしその表情は、不思議と優しいものに見えた。


『あれと対峙して、なお挑もうとするその心行きは称賛に値する。もう一度運ぼう……今度こそは全てを終わらせるが良い』


 そう言って、差し出された彼の掌に俺は乗る。

 

「すまない、恩に着るよ!」


 こうして俺は、龍神様の手によって最終決戦の地へと運ばれる事になったのだった。

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