427話 鎬造
抜刀で主に戦う為、この刀は
鎬とは、刀身の側面にあたる背にそって、山なりに高くなっている部分の事だ。
実は刀は、刃や峰だけでなく側面にもこだわりがある。
切れ味を鋭く、そして軽くを追求だけしていくと、どうしても刀の厚みを薄くしなければならない。
すると刀自体の強度は落ち脆くなり、横に折れやすくなってしまうのだ。
先端の方から振るった小槌を当て、全体の形を整えて行く。
そして切っ先、そのすぐ根元の部分だけ鎬を入れ整形を済ませた、後はこれを基準に仕上げて行けば──。
俺が汗を拭い、一息ついたのを見てだろう「小僧、これは何をしておるのじゃ?」っと、ガイアのおっさんが俺に尋ねて来た。
「そうか、二人とも刀に携わった事がないから知らないよな。これも重要な作業でな、全体の形を整えながら、鎬を作っているんだよ」
「鎬……?」
「あぁ、この膨らんでいる部分だ」
説明の為、今しがた打っていた刀の側面、そのうっすらと山になっている所を指さした。
中央より、峰に寄った位置。そこに鎬と呼ばれる厚みをつける事で、強度が増し折れににく、切れ味の邪魔になりにくくなる。
そして最小限に厚みを足すことにより、重量の過度な増加を押さえているのだ。
「こんな薄い刀が折れにくいのは、こう言った工夫のお蔭なんだ。全部に厚みをつけると、どうしても重くなるしな?」
現代の科学でも再現できない日本刀は、何代も受け継がれる刀匠達の技術、工夫によりなされた奇跡ともいえるだろう。
だからこそ刀は美しく、心を引きつけるのかもしれないな。
「これは豆知識なんだが、激しく争う時【鎬を削る】って言うだろ? それは刀同士が組み合う際、側面の一番高くなっている鎬が削れるほど何度も強くこすれ合う様子からつけられた言葉なんだ」
俺は、二人に得意げに刀の知識を披露したのだが……。
「オルデカ、聞いたことあるか?」
「いや、聞いたこと無いですね……」
っと、残念ながら理解は得られなかった様だ。
「そ、そうか、ここは刀が無い世界、鎬なんて言葉が無くて当然だよな? 忘れてくれ」
俺はそそくさと作業へと戻っていく。
刀は鎬って言っても、洋剣じゃ同じとは限らない。鎬と言う言葉が無くても、おかしくはないけど……。
「こんな所でも、恰好が付かないのな……俺」
沸かしては叩き、沸かしては叩く。
切っ先から根元まで、順を追って丁寧に仕上げていった。
「ふぅ、これであらかた完成だ。シンシ、もうじき起こしてやるからな?」
刀身の長さ、幅を決める作業はこれで完了だ。
この先は、刀に命を吹き込む最重要工程になる……。
俺は手に握る命の器を、自分の目の前に縦に構えた。
そして根本から刃先に向けて、異常がないかくまなく確認したのであった。
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