426話 素延べ
沸かし終えた、赤白く色づいた地鉄を金床の上に乗せた。
俺は叩いてほしい、すぐ隣の金床を小槌で軽く打ち指示を出すと、オルデカは寸分たがわずその隣を叩いた。
「いいぞ、その調子だ!!」
先程までの力強い打撃ではなく、細かく、リズミカルに俺の小槌と、オルデカの大槌が振られる。
時折水をかけ鋼の温度を調節し、形状変化の調整をしていく。
鋼の表面は大槌で叩かれる度、押し寄せる波の様に七色の波紋を生み出していた。
「オルデカ手を緩めるな! 根性をみせい」
「はいでさぁ、師匠!!」
叩いては、地鉄に溶着されているテコ棒を九十度回す。
更に叩いては九十度回し、バランスを見ながら側面を叩かせ、次は百八十度回して指示をする。
すると次第に地鉄は薄く、長く伸び始めてきた──。
長さ、厚み、重みだけでは無く、完成時の刀の反り具合も計算に入れ、作業に取り組まなければならない。
そして伸ばすだけでなくこの工程、叩きながら行う事によって、鋼の鍛錬も兼ねているのだ。
俺と、オルデカから汗が散る。
今だ寒いこの時期、しかし室内の温度は男達が発する熱と、炉の発する熱もあり、かなり上がっているだろう。
ガイアのおっさん、オルデカ、二人の頑張りに負けてなどいられない──必ず一度で成功させてみせる!!
今まで振るわれた一打一打を思い浮かべ、じっと見つめ金属の断面をイメージした。
集中すればするほど、不思議と内部が透けて見えるようだ……。
「鉄と似てるけど、鉄より硬い。見立ては間違って無かったみたいだ」
槌で叩けば叩くほど、刀の形を帯びてくる。
それでもまだ刀からは程遠い。今はまだ、金属で作られた、ただの細長いほぼ真っ直ぐな棒と言えよう。
作業が一段落すると、冷まし、手に取り覗き込む。
よし、形状はイメージ通りだ!
この先は手元にある、細長く伸びた、黒い鉄塊を本格的に成型していく作業だ。
「ここからは俺の出番だ──任せてくれ!」
今からの作業で全てが決まる!
オルデカの槌を持つ手を止めさせ、俺は呼吸の後、深く……深く集中した。
「ほ、包……下が……」
「……」
誰かが話しかけてきた気がする……。でもそれどころではない。
ここから、鍛え上げられた金属の棒は更に刀に近く。
先端を、本来の刀の切っ先とは逆向きに斜めに切り出し、叩き峰側へと伸ばしていく。
何故逆に切り、正しい方向に叩いて伸ばすかと言うと、普通に切り出すだけでは先端部分の強度だけ落ちてしまうためだ。
俺はただ一心に、この後の工程である火造りに差し掛かったのであった……。
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