425話 作り混み開始

 皮鉄製作後から三日が経ち、地鉄となる金属が全て揃った。


 刃の部分に当たる刃金はのがねと、中心となる芯金しんがね、そして峰に当たる棟鉄むねがねを沸かし、一つにする。

 その後、皮鉄、先ほど作り出した金属、そして皮鉄を重ね、すべてが一つになったのだ──。


「ふぅ……とうとうここまで来たか」


 長い道のりだった。

 通常工程の二倍、いや三倍は時間がかかっただろう。


 今回の四方詰め、二代目兼元かねもと(孫六)が生み出したと言われる鍛刀法だ。

 この後は普通に刀を打つのと、工程こそ大きく変わらないが、難易度は群を抜いて高い。


 もしバランスよく打てず、四種の部分何処か一ヶ所でも薄くなれば、本来の目的の強度が出ない。

 ただのナマクラに成り下がる。つまり──。

 

「ここからは失敗が許されない、集中していくぞ!」


 芯鉄の部分はシンシが使っていた聖剣を溶かし作り上げたものだ。


 例えば失敗して、四方詰め使われている、他のミスリルと混ざりあい材質が変われば、新たに打ち直しシンシを呼び戻す、芯鉄として利用することは出来なくなるかもしれないのだ。


「今から刀の形を作る。素延べ、次に火造りを始める。ここからはオルデカさん、あんたが一人で叩くんだ!」


「お、俺ですか!?」


 突然の指名に、驚きを隠せない様だ。

 ガイアのおっさんを指さし「で、でも……」と、言葉を詰まらせている。


「あぁオルデカさん、貴方に頼みたい!」


 俺は一礼後、顔を上げオルデカの目をジッと見つめた。

 頼んだのには、もちろん理由がある──。


「強がってはいるが、ガイアのおっさんは連日の疲労が見える。それにオルデカさん、貴方の方が魔力にも余裕があるはずだ」


 鑑定眼や、力動眼が今はあるわけではない。

 しかし不思議と、二人が鋼を打姿を見てそう感じたのだ。


「小僧……中々の慧眼けいがんの持ち主じゃの。悔しいがその通りじゃ、寄る年波には勝てんの」


 ガイアのおっさんは、自分の手のひらを不機嫌そうな表情で見つめる。

 そして握りしめたかと思うと、オルデカを睨み付けた──。


「それでもまだ、若い者には負ける気など無い! だが今回の主役の指示、どうじゃオルデカ、やれるのか!? やらぬのか!?」


 すごい剣幕に、一瞬たじろぐオルデカ。

 しかしそこにいたのは、逃げ出した過去の彼ではなかった。


 世界の命運を分けるかもしれない大仕事に「はい──俺に任せてください!!」っと、名乗り出たのだ。


 オルデカの力強い返事に「そうか、そこまで言うのなら仕方ないの」っと、ガイアのおっさんは背を背けた。

 しかし俺は見逃さなかった──おっさんの口元が、珍しく微笑みを浮かべていた事を。


「──ガイアのおっさんは火炉の面倒を頼む。ここからしばらくは、コイツを沸かし続けた状態に保たねばならない、頼んだぞ!!」


「相分かっておる、言うまでもない!」


 こんな嬉しそうなおっさんは、中々御目にかかれそうにないだろうな。

 まったく、粋な展開じゃないか!!


 二人の準備が出来たのを確認し、俺は地鉄を火炉の中に入れた。そして。


「さぁ、素延べの開始だ!!」っと、気合いを入れ直したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る