421話 秘策

「──カナデ君、やっぱりここに居た」


「トゥナ? どうしたんだよ、夜遅くにこんな所に来て」


 鍛冶場の入口から、トゥナが顔を覗かせた。

 どうやら先ほどの声の主は、彼女だったらしい。


「カナデ君を追って来たのよ。何となく、元気が無さそうだったから……」


 気遣ってなのだろうか、上目遣いで俺の様子を伺っている様だ。


 本当、皆よく見てるな……。

 そんなに俺、分かりやすいのだろうか?


「あー……心配かけちゃってるよな、すまない。それにしても、ハーモニーとティアが良く許したな?」


「今回は私の番らしいから、それに……」


 それに? それに何だろう。


「薄々気付いてると思うの。二人とも私がカナデ君の事で、皆に隠し事をしている事に」


「隠し事?」


「……うん、魔王の正体。その事だけは、誰にも話してないから」


 そうか、だから誰も触れないで居てくれたのか。

 確かにその事が周りに知れ渡れば、心象を悪くするだろう。

 俺だけなら良い。最悪、周りの人にも飛び火するかもしれないからな……。


「そうか……ありがとう。気を使わせちゃったな」


 俺はトゥナにお礼を述べた。

 しかし、彼女の心配事はそれだけでは無いらしい。 


「それと昼間は声に出して確認出来なかったけど、本当にいいの? 相手はお父さんなんでしょ?」っと、さらに表情を曇らせたのだ。


「あの時も言っただろ? 皆を守るのが俺の仕事だから。それにミコは家族だ。例え父さんだろうと、邪魔をするなら……」


 そう、覚悟はとうの昔に決まっている。

 今までとは違う、一歩も引けないところまで来ているのだから……。つまり、背水の陣って奴だ。


「ねぇ、カナデ君。本当にあの人を倒せるの? 不意打ちが通用する相手だとは思えないのだけど……」


「……武器を片手に向かうんだ、その時点で多分駄目だろうな」


 目的はあくまでも鎮を倒すことだ。流石に丸腰で近づく訳にもいかない。

 腰から刀を下げている以上、相手は警戒するのは目に見えてるな。


「じゃぁ、どうやって……」


「そんなの、真っ向勝負しかないだろ?」


「──真っ向勝負って!? いくらカナデ君でも……」


 彼女の言いたい事は分かる。俺達と鎮とでは、戦闘能力に雲泥の差があるのだから。

 だからと言って、後は無いのだ。引く事は許されない。


「大丈夫。俺も考えなしって訳じゃないよ、秘策はある……」


「秘策?」


 勝てる保証はない。

 ただこれ以外の策は、いくら思考を巡らせても考えはつかなかった。


「じいちゃんがどうして、俺に帯刀流剣術じゃなく抜刀術を教えたか、今回の件が関係している気がするんだ」


 抜刀術の特徴。それを最大限に発揮できれば、確信は無いが格上の相手にも対抗できるはずなのだ。

 最速を誇る抜刀術、ならではの方法で──。


「トゥナ、すまないがこの後少し付き合ってくれないか?」


「付き合う? えっと……何をすればいいのかしら?」


 ただ、ぶっつけ本番って訳にも行かない。

 丁度手持ち無沙汰だったし、相手がトゥナなら特訓相手に申し分ない。


 俺は蝋燭を棚から引っ張り出し、火を移していく。

 そしてランタンに入れ、鍛冶屋の外へと並べた、そして──。


「今からするのは、対魔王戦に向けての特訓だよ。トゥナにしか頼めないんだ、協力してくれ!」っと、俺はトゥナに向かい刀を構えたのだった。

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