412話 聖剣の鍛冶師
現れた人物は、小さな体に不釣り合いな立派な髭をたくわえた、貫禄のあるドワーフ。
そう、言わずと知れた──。
「ガイアのおっさん、いつからここに!?」
そうか、よかった。無事だったんだな。
隣には、マール港に居た奥さんも居る。夫婦喧嘩の方も、一件落着したみたいだ。
「カナデさん、俺も居ますぜ!」
更に彼らの裏からは、得意気な顔で満を持して別の男性ドワーフが顔を出す。
「えーっと……」
見たことはある。
見たことはあるけど、思い出せない……。
っと言うことで、俺は愛想笑いを浮かべた。
しかしそれに気付いたのだろう。
「カナデさん! 俺の鍛冶場を荒らしといて、忘れるなんて酷いですよ! フィーデスの鍛冶屋のオルデカですぜ!!」
っと、男は自己紹介を始めた。
あ、あぁ思い出した。最初に荒らした鍛冶屋の亭主だ。
「三人とも無事でなによりだよ。所でガイアのおっさん、悩むまでも無いって何か心辺りがあるのか?」
おっさんは過去の大戦から行き続けている、長寿のドワーフだ。
もしかしたら、何か知っているのかもしれない。
「何を言っておる。心当たりも何も、わしらは何を生業にしとるか忘れたとは言わんよな? ん?」
生業って……それって──。
「無いなら作ればいいじゃろ。簡単な話じゃ」
「やっぱり……そう言う意味なんですね?」
解決の糸口では無かったか。知らないなら無理もない。
きっとじいちゃんが、聖剣を使い魔石の破壊に失敗した事を知らないから……。
「ガイアのおっさん……言いにくいんだが、その魔石って言うのは以前におっさんが作った聖剣、カラドボルグでも壊せなかったみたいなんだ。それに魔王の手には、じいちゃんが……響が打った聖剣を越える武器が握られている」
「だからどうしたと言うんじゃ、それを上回る物を作れば良いだけじゃろ」
越えるものって……。無銘の切れ味は、聖剣の比じゃないのに。きっと、その事を知らないから──。
「俺は鑑定を使えたから知っているんだ。その武器は、カラドボルグの十倍近くの攻撃力がある。
「小僧、だからなんじゃと聞いておる」
…………へっ?
「前に出会った時の主は、生意気でいけ好かない小僧だと思ったが、
おっさんは俺に近寄り、飛び上がった。そして甚平の襟を掴み、グッと引っ張りっぱる。
そうして無理やりしゃがまさせられると、ガイアのおっさんの顔が俺の目の前にあった。
「気迫と腕は一流じゃったのに。それがなんじゃ! その体たらくは。響の奴が見たら──泣いて悲しむわ!!」
「おっさん……」
感情的になったガイアのおっさんの一言一言が、俺の胸を熱くしていく。
「わしに若かりしころの熱を思い出させたの名匠は、紛うことなくぬしじゃろ! がっかりさせるでない‼」
……笑っちゃうよな? おっさんの言う通り、いつから俺は聞き分けの良いお利口さんになったんだ。
違うだろ? 伝説にもなった勇者を超えようって馬鹿な事を口にしたんだ。
同じ土俵に上がらないでどうするよ?
おっさんの言葉は、着火剤の様に俺の心にまるでメラメラと言わんばかりの火を灯した。
「あぁ……そうだったな」
伝説の勇者を超える前に、手始めに人間国宝が先か。まったく、腕が鳴るぜ‼
襟元からガイアのおっさんの手を取り、強く握り返した。そして──
「じいちゃんを越える良い機会だ。ガイアのおっさん、手が足りない、手伝ってくれ!!」
っと、俺は覚悟を伝えたのだった。
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